第百五十一話 ついに対面
「まさかレベル5の兵隊をこうもあっさりと打ち破るとは・・・・・」
タクミとレイヤーの二人の力はどうやら自分の想像を超えるほどの物であったようだ。まさかレベル5の兵隊まであそこまで苦も無く倒してのけるとは・・・・・。
「これは少し想像を上回ったな・・・」
このアジトに踏み込んできた二人は、どうやら予想以上の使い手であったようだ。
だが――――――まだ絶望的な状況に自分は立たされている訳ではない。
「じゃあ、お前の力を借りようかな・・・実玖」
創始はそう言って自分の背後で座り込んでいる人形の名前を呼んだ。
「お前に命を芽吹かせるためにも、河川レイヤーから〝不死鳥の炎〟についての情報を聞き出すんだ」
彼がそう言うと、実玖と呼ばれている彼女はゆっくりと瞼を開けた・・・・・。
一方、タクミとレイヤーは、魔力を感じるアジトの最深部を目指して移動を続けていた。道中では、人形が何体も襲い掛かって来たが、二人はそれを撃退して行く。
「しかし、随分な数の人形だな。確かにコレは一人では魔力の消耗も激しくて危なかったかもな・・・・・」
「でしょ、アンタを呼んでよかったわ」
道中で襲い掛かる人形の数の多さにうんざりとした様子でそう返すレイヤー。
だが、それももうすぐ終わる。
「そろそろ魔力の反応が強くなって来たわね。もうすぐ首謀者に会えそうね・・・」
レイヤーがそう呟いた時――――――
「その必要は無いぞ」
タクミとレイヤーの二人の耳に見知らぬ男の声が聴こえて来た。そして、声に遅れて二人の目の前には一人の男が歩み寄って来た。その後ろには一人の少女が立っている。
男の後ろに居る少女は、感情を感じ取ることのできない無表情であった。
「お前か・・・首謀者は」
まるで人形の様な少女に警戒を抱きながらも、タクミは目の前に居る男に、このアジトの首謀者かどうかを問う。
そんなタクミの質問に、男は小さく口元に笑みを作った。だが、タクミは男の浮かべたその笑みだけで十分わかった。目の前の存在が、ミサキを狙う存在であるという事が・・・・・。
「何故ミサ・・・〝不死鳥の炎〟を狙う」
「それは・・・いや、その前にお前は誰かな? お前のお友達か、河川レイヤー」
創始はタクミの隣に居るレイヤーにそう尋ねる。
「別に友達じゃないわよ。というより、私もアンタとは直接顔を合わせるのは初めてなんだから馴れ馴れしい態度は取らないでほしい物ね」
イライラとしながらレイヤーがそう返すと、創始は口元に手を当てて小さく笑った。そんな彼の反応にレイヤーはもちろんの事、タクミも苛立ちを募らせる。
そんな二人を前にしても、創始は至って冷静な態度を取り続ける。
「俺の目的はこの子に命を芽吹かせたくてね。その為には、永遠に魔力を産み出せる〝不死鳥の炎〟が欲しくてね」
創始はそう言いながら、後ろで控えている少女の頭を撫でる。だが、相も変わらず少女は一切の反応を示さない。
「それもアンタの人形かしら?」
レイヤーがそう言いながら、創始に撫でられてる少女を指差しながら尋ねると、彼は首を横に振った。
「この子は唯の人形じゃない。少し事情があってね・・・」
「・・・何にしろ、お前に〝不死鳥の炎〟を渡す訳にはいかない」
そう言うと、タクミは魔力を高めて構えを取る。
「何故お前が〝不死鳥の炎〟について知っているのか知らないが・・・だが、どうやらお前も情報を持っているようだな」
創始がそう言うと、タクミは彼を睨み付けながら両足に魔力を集中していつでも飛び出せる体制を整える。そんなタクミを値踏みするような目で創始は見ると、傍にいる少女の実玖に命じた。
「実玖、あの男を痛めつけて情報を聞き出すんだ」
創始がそう言うと、実玖と呼ばれた少女はコクリと一度頷くとタクミへと勢いよく跳躍して迫って来た。
「ぐっ!」
実玖がタクミに勢いよく迫りながら、拳を振りかぶりタクミへと叩き付けて来た。そんな彼女の拳をタクミは腕で防御するが、見かけによらず強烈な一撃にタクミの体が僅かだが後退する。
そこにレイヤーがタクミに加勢しようとするが、そうはさせまいと創始はレイヤー目掛けて魔力弾を放ってきた。
「ちっ」
自分目掛けて撃ち込まれた弾丸を身をよじって回避する。だが、レイヤー自身に迫って来た攻撃は回避することは出来たが、その隙に実玖はタクミにもう一撃拳を叩き込んだ。
「ぐふッ!!」
先程以上に強烈であり、尚且つ速度の乗った打撃がタクミの腹部に叩き込まれる。そのまま勢いよく後方へと吹き飛ばされるタクミ。そのまま追撃を加えんと実玖は吹き飛ばされたタクミのことを追いかけて行く。
「ちっ、油断し過ぎよ!」
レイヤーが二人の後を追おうとするが、そんな彼女の前に創始が回り込んで来た。
「こっちはこっちで楽しもうか」
「ちぃ・・・」
創始はそう言いながら、自分のポケットの中に手を入れて小さなリモコンを取り出し、それを操作した。
すると、通路の天井からシャッターが下りて行き、後方に居るタクミと実玖の二人の姿がシャッターにより遮断された。
「これで一対一だ。互いにね」
「・・・・・」
レイヤーは創始目掛けて爆発の玉を放つ。
だが、彼女の狙いは彼ではなくその背後のシャッター。
レイヤーの攻撃が壁となっているシャッターを直撃した。
だが――――――
「ちっ、頑丈ね」
爆音が晴れたシャッターは堂々とそこに塞がったままだ。
「貧相な見かけの割には中々強固な壁だろ。だから言ったんだ、一対一だと」
レイヤーの攻撃が通らなかった様子を見て創始は薄い笑みを浮かべた。
対魔法使い対策に作られたこのシャッターは並の攻撃力ではビクともしない。少なくとも今程度の攻撃などはものともしない。
レイヤーも攻撃が無駄だと分かると、シャッターに向けていた意識を一度切り創始に意識を集中した。
「まっ、アイツなら恐らく大丈夫だろうし・・・私も目の前のアンタを消す事に集中するとするか・・・」
「ほぅ・・・随分と信頼しているんだな」
「信頼? まあそうね。腕前に関しては信用しているわよ。殺し合って痛い目を見た経験もある訳だし」
レイヤーがそう言ったその直後、彼女と創始の攻撃が両者同時に放たれた。
そして、分断されたもう一組のタクミと実玖は向かい合って対峙していた。
目の前の相手を最大限にまで警戒して構えを取るタクミ。そんな彼とは対照的に実玖は特に構えもとらず、無感情な表情、そして光の籠っていない瞳をタクミに向け続けている。
「(人形・・・か? だが、見た感じでは人間の様にも見えるが・・・)」
目の前の少女は今まで倒していた人形とは違い、パッと見は人間とよく酷似した姿をしている。だが、そんな彼女のことをタクミは素直に普通の人間だとは思う事が出来なかった。というのも、目の前の少女からは感情がまるで感じ取ることが出来ないのだ。目の前の少女はまるで肉体から魂だけが抜け落ち、抜け殻となっている器の様にすら感じる。
「・・・・・」
タクミがそう思ったその時、実玖の瞳から怪しげな光が灯った。
「こいよ・・・」
タクミが短くそう言うと、実玖はタクミ目掛けて駆けだして行った・・・・・。