第百五十話 突入!3
モニター越しに差し向けた三体の人形の無残な姿を見ていた創始。
彼は冷静に敵の力量を観察していた。河川レイヤーに関しては襲撃に何度も失敗しているため、特に驚きはしないが、もう一人の存在である銀色の髪をしている少年については少し驚いていた。
「レベル2の兵隊も駄目・・・それに、この餓鬼も中々やるようだな」
もしかすると河川レイヤーが直接乗り込んできた理由はこの少年という協力者を取り付ける事が出来たからかもしれない。現にここまで特に苦も無くこの二人は進んで来ている。
「この分だとレベル3の人形でも駄目だな。だったら・・・4、いや5で行くか」
創始は二人の力をおおよそ把握し、様子見をここでやめ、自分の持つカードの中から強力な一枚を切ることにした。
「さて、次はさすがに無事では済まないだろうよ」
小さく笑いながらモニターに映るタクミとレイヤーを見つめながら、彼は画面に映る二人へと語り掛けていた・・・・・。
襲い掛かる人形達を次々と薙ぎ払うタクミとレイヤー。 現状では二人には取り立てて大きな負傷がある訳でもない。
「(今の所、コイツが俺を頼るほどの強敵は出てきていない・・・)」
タクミは自分の前を歩いているレイヤーのことを見ながらそんな事を考えていると、彼女の足が一度止まり、タクミの足も同じく停止した。
「どうした・・・これは・・・」
これまで出て来た敵の事を考えていて、一瞬判断が遅れるが、彼女が止まった理由はすぐに解った。
「大仰な扉だな・・・」
二人の前には派手に装飾されてる大きな扉が存在していたのだ。
「ゲームではこうゆう扉を開くとボスキャラが待ち構えているもんよね」
「確かにな・・・」
レイヤーの言葉にタクミは小さく頷いた。
彼女の言う通り、この扉の向こう側からは何か嫌な感じが濃厚にするのだ。少なくともこの先に何もないとは思えない。
「開けるわよ」
「ああ・・・てっ、おい!?」
返事をしながらレイヤーのことを見ていたタクミの口から、驚きを表す声が遅れて出て来る。
レイヤーは腕に魔力を溜めて、扉に手をかざしていたのだ。
「何する気だ!」
「何に対して驚いているのよ?」
レイヤーは凶悪な笑みを浮かべながら、扉目掛けて渾身の一撃を解き放つ!
「律儀に扉を開けず、扉ごとぶっ飛ばせばいい事でしょうが!!」
レイヤーの手から爆発の塊による巨大な砲弾が放たれた。その一撃は扉を爆砕し、そのまま扉の向こう側まで貫通して行った。
自分たちの居る扉の前まで爆発の余波による爆風が襲い掛かる。
「・・・ッ」
強烈な爆風に僅かに目をつぶるタクミ。
隣に居るレイヤーは相変わらず凶悪な笑みをその顔に張り付かせている。
「さて・・・」
手荒い、という言葉すら生ぬるい挨拶の後、意気揚々と無残に破壊された扉をくぐって行くレイヤー。タクミも周囲の煙を掻き分けて、後に続いて行く。
「まったく、無茶苦茶するな・・・」
タクミが若干非難めいた目をしながら扉をくぐると、そこは中々と広々とした空間だった。だが、タクミが一番目を付けたのはそこではなく、この部屋の中央を陣取っていた巨大な存在に目がいっていた。
「これは・・・」
「やっぱり、お決まりの展開が待っていたわね」
二人の視線の先には巨大な人形がそびえ立っていた。
全身が鋼の様な鎧で纏われ、右腕には巨大な剣が、左腕には巨大な盾が備えられている。頭部は兜で覆われて表情は分からない。だが、兜の隙間からは赤く怪しげな二つの光が覗いていた。
「扉越しとはいえ、私の攻撃を受けて平然としているとはね・・・」
「どうやら、今までとは一味違うらしいなコイツは」
二人は魔力を最大限にまで高める。
生半可な力が通る相手ではない。それはレイヤーの不意打ちによる爆撃で一目瞭然だ。
『ハイジョ・・・!』
相手は剣を握りしめ、タクミ目掛けて突撃をして来た。
タクミは両腕を金色のオーラで強化し、腕を頭の上でクロスして振り下ろされる巨大な剣を受け止めようとした。
「≪黄金籠手≫!!」
タクミの両腕が振り下ろされた剣を受け止める。
だが、敵はタクミへと振り下ろした剣をそのまま力を込めて押し続ける。
「ぐっ・・・!」
真上から強力な力で押し込まれ、苦悶の声を漏らすタクミ。
だが、両足に魔力を集中し、地面を力強く踏ん張りなんとか耐える。
「な、め、るなぁッ!!」
タクミはそう叫びながら、両腕で人形の持つ剣を弾き、そのまま勢いよく拳を叩き込む。
≪黄金籠手≫で強化された彼の拳は巨体な体を持つ人形でも勢いよく後方へと吹き飛ばした。だが、人形は地面に着地して踏みとどまる。
「≪金色百裂拳≫!!!」
人形の目の前まで一瞬で移動し、人形目掛けて拳の雨を降らせるタクミ。
だが――――――
『グ・・・ッ!』
「な、なに!?」
人形は高速連打の拳を僅か数発受けただけで、すぐにタクミの両腕を掴み取る。
「グッ・・・!」
掴み取った両腕に凄まじい力を籠める人形。
とてつもない握力で握られたタクミの両腕は、魔力で強化しているにもかかわらず鈍い痛みを与えてきている。
「いっ・・・!」
「ツブス!」
両腕からギリギリと嫌な音が聴こえて来る。
だが、タクミは痛みに耐えながらも小さくほくそ笑んだ。
「俺一人に構っていていいのか?」
タクミがそう言うと、人形の背後から凄まじい熱気が放たれてきた。
「そうね、お蔭で大分魔力を溜める事が出来たわ」
人形の背後では、レイヤーの右腕から凄まじい熱気が放たれており、凄まじい程の魔力がその右腕に蓄積されていた。
「ッ・・・!?」
タクミの腕を掴みながらも、勢いよく後ろを振り返る人形。だが、その視界は振り向きざまと共に光に包まれていった。
すでに兜に包まれた目と鼻の先にはレイヤーの放った爆撃の塊が迫っていた。
「どっかーん♪」
レイヤーのその言葉と共の、激しい爆発が人形の体へと炸裂した――――――。
「まったく・・・危ない所だったぜ」
爆発が収まったその部屋の中心では、人形がその巨体を横たわらせて倒れていた。その人形の上にはレイヤーが腰を下ろして座り込んでいる。
そんな彼女にタクミは非難の目を僅かながら向けていた。なにしろあと一歩退避が遅れていれば、自分も目の前で倒れている人形の様になっていた可能性もあるのだ。
「まっ、あのまま当たってくれても私はべつに良かったけど」
「お前なぁ・・・」
「冗談よ。今ここでアンタが死んだら共闘している意味がないじゃない」
レイヤーの余りの言いぐさに小さく拳を振るわせるタクミだが、彼女はそんな彼の表情を楽し気に眺めている。そんな彼女の態度がタクミの怒りを更に浸透させる。
「ほら、先を急ぎましょうか」
人形の体から腰を浮かし、座り込んでいる自らの体を起き上がらせるレイヤー。そしてそのまま奥へと続く通路を目指して進んでいく。そんな彼女に対して一度小さくため息を吐くと、タクミは腑に落ちなさそうな表情をしながら後について行った。
「そろそろ相手も手頭まりかしら?」
たった今、相手取った巨体の人形を倒したことで相手の手札を全て打ち破った気になるレイヤーだが、タクミはそこまで楽観視は出来なかった。
自分の大切な人を狙う相手が健在である以上、たとえ人形を全て倒していたとしても、首謀者を倒さなければ安心などできる筈も無い。そして、タクミのこの嫌な予感は的中していた。
敵はまだ、全てのカードを見せてはいないのだから・・・・・・。