第百四十七話 かつての敵との共闘
暗闇に閉ざされていた漆黒の景色が元の風景へと戻る。
「(黒マント達が消えた?)」
世界が戻ると同時に辺りに散らばっていた機械じみた人形達は消えていた。その事に対して疑問を当然感じるタクミなのだが、レイヤーは取り合おうとせず、先程の連中について話を始めた。
「今、私たちが片付けた連中はある一人の男によって作りだされた機械人形よ。そんで、こいつらを差し向けた理由は私からある情報を聞き出すためよ」
「ある情報・・・それって・・・」
「そう、黒川ミサキの持つ〝不死鳥の炎〟について・・・」
思った通り、あの人形達はミサキのことを突け狙っていた様だ。だが、だとすれば何故レイヤーを標的に動いていたのだろうか?
そんなタクミの疑問に答えるかのように、レイヤーは自分が狙われている理由を語り始める。
「元々、私たちは黒川ミサキの持つ〝不死鳥の炎〟に先に目を付けていた。だけど結局私たちの目論見はアンタに阻止されたわけだけど、どうやら私たち以外にもあの子を・・・いや、〝不死鳥の炎〟を狙っている輩はいたようで、どこで情報を嗅ぎつけたのか、私たちが〝不死鳥の炎〟の持ち主が誰か特定している事を掴んだみたいでね」
レイヤーは顔を上げて澄み渡った青空を眺める。
「あの黒マント達は私から〝不死鳥の炎〟の所持者、つまり黒川ミサキと言う人物を突き止める為に私に襲撃を掛けていたという訳」
そう、黒マント達はレイヤー自身ではなく、彼女の持つ自分たちの目当ての人物の情報を欲していた。
「かつて、黒川ミサキを利用しようとしていた私たちのメンバーは、リーダーとエクスと金沢は死に、影夜は魔法刑務所にぶち込まれて残っているのは私だけ。連中は残った私から是が非でもお目当ての力を誰が所持しているかを知りたいのよ」
「(影夜・・・?)」
レイヤーの話した人物の中で唯一自分の知らない存在、レイヤーの仲間の一人であった影夜ヌマという人物に疑問を抱くが、今はそれよりもミサキを狙う連中についてが優先だ。
「だが・・・アイツらは何でミサキ・・・いや、〝不死鳥の炎〟についてお前がその情報を持っていると・・・」
「さあ? それはこの人形達をけしかける首謀者本人に聞かないと分からないわ」
レイヤーが肩を竦めながら言った。
ようやくミサキの身に平穏が訪れたと思ったのに・・・・・。
「くそ・・・」
レイヤーにも聞き取れないほどの声でタクミはそっと吐き捨てる様に言葉を吐いた。
「・・・・・」
悔しげな表情をしているタクミを横目に見ているレイヤー。だが、彼女はそんな彼に対して現状の問題を打開できるある情報を提示した。
「久藍タクミ、黒川ミサキを守りたいかしら?」
「なにを当たり前な事を・・・守りたいに決まっているだろう」
タクミがそう言うと、レイヤーは微かに口元で弧を描いて言った。
「そう・・・それなら、乗り込む? こいつ等の主様の元へ・・・・・」
「なっ! こいつ等を作った奴の居場所が分かっているのか!!」
レイヤーの言葉にタクミは驚きを露わにしながら食いついた。
襲撃者に関する手掛かりが一切とないと思っていたところにレイヤーからの思わぬ言葉にタクミの目が微かに輝く。
「私が襲撃を受けたのは今回が初めてじゃないわ、これでもう五度目・・・さすがにウザくなってねぇ・・・」
レイヤーは指をコキコキと動かしながらそう言うと、タクミの目を見て続ける。
「私も独自でこいつ等を操っている首謀者の居るアジトを探索してね・・・それでようやく居場所を特定はできたけど・・・・・」
そこでレイヤーは一度言葉を切ると、小さく息を吐いた。
「私一人じゃ手こずりそうでね・・・今まで乗り込む事を渋っていたんだけど、アンタが加勢してくれるなら・・・・・」
レイヤーはニヤニヤと笑いながらタクミの顔を見る。
タクミは彼女が何を言いたいかはもう分かっている。力を貸せと言っているようなものだ、これは。
「・・・・・レイヤー」
タクミは彼女と向き合い、言葉を並べて行った。
「俺は・・・お前が信用できない」
「・・・・・」
「俺はお前に殺されかけている。ミサキだってな・・・」
胸の内に溜まっている想いを言葉にして眼の前にいる女性へとぶつける。偽りの無い、純粋な彼女に対する怒りを吐き出し伝える。
タクミは二度にわたり彼女と互いの命を削る、命がけの戦いを繰り広げている。そんな相手を好意的な目で見る方が無理な事と言えるだろう。
だが、それでも――――――
「だが・・・ミサキに迫る新たな火種を見過ごす事も出来ない。だから――――――」
タクミはそこまで言うと、レイヤーに小さく頭を下げて頼み込む。
「教えてくれ・・・今、ミサキを狙っている存在の居る場所を」
タクミがレイヤーに頭を下げて頼み込む。その光景を見ていたレイヤーは少し呆気にとられたような表情をしていたが、すぐに呆れた物へと変化する。
「なんでアンタが逆に頭を下げているんだか・・・」
レイヤーは小さく息を吐くと、首を軽く鳴らした。
「まあ、手伝ってくれるんなら別にいいけど」
そう言うと、彼女はタクミに敵に関する情報を伝え始める。
「黒川ミサキを狙っている人物は一人・・・だけど問題なのは今戦った人形共の手数の多さ」
相手の持つ手駒の人形はとても多く、レイヤーが今まで乗り込む事を渋っていた理由はそこにあった。主犯の存在一人を締め上げるだけならともかく、そこに辿り着くまでの人形達を全て殲滅した後、そいつらを製造した首謀者を討てるかどうか不安があったのだ。
だからこそ、ここでタクミと出会えた事はレイヤーにとって幸運といえるだろう。
目の前の男が黒川ミサキに対して強い執着心がある事は、命がけの激闘を繰り広げたレイヤーには嫌というほどに理解できていた。なにしろ、この男は黒川ミサキの為に自らを削り、死にかけているのだから。
「アンタがいれば、人形の手を分散できる。そうなれば勝率も遥かに上がるしね・・・」
レイヤーがそう言うと、タクミはその首謀者の居所がどこなのかを聞く。
「それで、ミサキを狙っているその人形共の製作者は何処に・・・」
「少し離れた所よ。敵の居所はこのE地区から離れたF地区に居るわ」
「F地区・・・このE地区内には居ないのか」
「移動に少し時間がかかるけど、まあそこは勘弁ね。で・・・どうする? 今すぐ乗り込むのかしら?」
レイヤーがそう聞くと、タクミは頷いて答える。
「ああ、一刻も早くソイツを締め上げないとミサキが狙われる危険があるからな。案内してくれ」
「了解っと。ただ、少し時間がかかるわよ。なにしろ違う地区内だからね」
そう言うとレイヤーはついて来なさいと言って手招きをする。
そんな彼女のの後にタクミはついて行った・・・・・。
「しかし、頭を下げてなんだが、まさかお前と一緒に戦うなんてな。それもミサキを守る為に・・・」
「お互い様ね。私もアンタと一時的とはいえ共闘するとは、ここで偶然出会わなければ想像もしなかったわ」
二人は歩幅を合わせて並んで移動しながらそんな会話をする。
かつてはミサキを狙っていた者、そしてミサキを守った者。まったく正反対の目的を持って戦った二人であった。ここに奇妙なタッグが結成したのであった・・・・・。