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第百四十四話 夢の世界2

 アタラシス学園、一年Aクラスの教室、放課後の夕焼けに照らされて一人の少女が自分の席で頬杖を付いている。

 このクラスの生徒である赤咲レン、そんな夕暮れに照らされているところに一人の男子生徒から声が掛けられる。


 「レン、まだ教室にいたのか?」

 「あ、〇〇君・・・」


 声を掛けて来た人物は同じクラスの男子であり、そして――――


 「ごめんごめん、じゃあ帰ろっか♪」


 レンはやって来た少年の腕に自分の腕を絡ませて嬉しそうな顔をする。

 そしてそんなレンに少年も笑顔を浮かべる。

 こうして、学園の外へと仲良く出るカップルであったが、学園の外に出ると一人の女子生徒が駆け足でやって来た。


 「ちょっと〇〇君!!」

 「げっ!」 

 「え?」


 二人に駆け寄って来た女子生徒は、レンのことを睨み付けながら男に文句を言う。

 

 「何よその女は! 私と言う女がいながら!!」

 「いや、その・・・」


 あたふたと慌てる男。

 そこに、さらに複数の女子生徒が集まって来た。


 「酷いわ! 〇〇君!」

 「今日は用事があるってデートを断っておいて・・・!」

 「浮気者!!」


 男は青ざめた表情で周囲に居る女性達に必死に見苦しい言い訳をしている。


 「何股かけていたわけ・・・?」


 レンは拳をわなわなと振るわせながら怒りを表す。

 この男に対してもそうだが、それ以上にいいように騙された自分に対して怒りが込み上げてくる。


 「〇〇君!!!」


 レンは大声で自分を騙していた男に対して怒鳴り声を上げるが――――




 「・・・・・あれ」


 そこでレンの目は覚めた。

 彼女は寝そべっている状態を起こし、頭をガシガシと掻いてため息を吐く。


 「また想像していた物とは違う夢・・・なんであんな修羅場に巻き込まれなきゃいけないのよ・・・」


 ぶつぶつと文句を言いながら枕の下から紙を取り出して破棄し、その後も様々な夢の内容を書いた紙を枕の下に入れては、途中で起こされ破棄していくレン。結局、一度たりとも彼女が理想としている内容の夢は見ることが出来ず、そのまま朝を迎えるレン。






 「ふぁぁぁぁ・・・」


 翌朝、欠伸をしながら学園へと足を運ぶレン。

 途中で何度も目覚め、安眠できなかった彼女の目の下には小さな隈が出来ていた。


 「なるほどね・・・こりゃ欠陥品だわ」


 目をこすりながら、不満を口にするレン。


 「これ、クレームつけてもいいんじゃないの?」


 そう思うレンであったが、しかし今回の品はあくまでお試し用の無料品。代金を請求されたわけでもない。しかし、こんな迷惑な物を進めて来た事に対しての怒りは湧いて来る。もっとも、直接渡されたのは彼女の知り合いである孤児院の院長であり、レンは興味本位から忠告を受けていたにもかかわらず、院長から譲り受けて使用していたのだが・・・・・。


 「今日の放課後、孤児院に行ってみますか・・・」


 そう言ってもう一度、大きな欠伸をしたレン。

 






 そして学園終わり、孤児院へと足を運ぶレン。

 孤児院につくと、入り口前には院長となにやらスーツ姿の男が話し込んでいた。


 「いかがでしたか? 我々の魔道具は?」

 「そ、そうですねぇ・・・」


 院長は困り顔で小さく笑いながら男と話し込んでいる。


 「(あれってもしかして・・・あの欠陥品を置いて行った・・・)」


 そう、この男こそが以前、この孤児院にあの欠陥魔道具を置いて行った押し売りであった。


 「それでですね、今日は以前よりもバージョンアップした商品を持ってきて・・・」

 「不必要ですよ」


 そこに、レンが押し売りの男に後ろから声を掛けて来た。

 

 「おや、あなたは・・・?」

 「お宅の商品、色々と欠陥があったのよ。一度ちゃんと調べてみたら?」


 レンがそう言うと、男は笑って答える。


 「そうでしたか、ですがそれは恐らくお試し用の旧式では? 今回のこれは以前の欠点を改善した物です。何の心配もありません」


 男がそう言うと、レンは呆れた表情をする。

 だが、ここで一つ彼女は良い事を思いついた。


 「あっ、そう? じゃあアンタが使ってみたら?」

 「・・・・・え?」




 孤児院で横になる男。

 その枕の下にレンは『ファンタジー』と書かれた紙を入れておく。


 「じゃあ試してみてくださいね。これでうなされない様なら私が購入しますよ、この魔道具」

 「今の言葉、覚えておいてくださいね。では・・・」


 そう言って男は目を閉じる。

 しかし、レンは男が目を閉じ、寝息を立て始めると枕の下の紙を抜き取った。


 「え、レンちゃん?」

 「しーーーっ」


 レンは人差し指を口元に持っていき、そして抜き取った紙の代わりに、別の夢を記入した紙を院長に見せる。


 「えぇッ! レ、レンちゃん!?」

 「いいからいいから♪」


 そう言ってレンは新たな夢の内容を書きこんだ紙を男の眠っている枕の下に潜り込ませた。


 『おホモだち』・・・と書かれた紙を・・・・・。


 そしてその数分後、孤児院に悪夢にうなされた押し売り男の悲鳴が響き渡った。


 この日以降、この押し売りはこの孤児院には訪れる事はなかった・・・・・。




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