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第百四十三話 夢の世界

 ある日の夜の赤咲家、そこの住人、赤咲レンは小さな紙切れの束を手に持っていた。

 彼女の持っているこの紙の束、実は普通の紙ではない。


 「これで見たい夢がみれるのかなぁ・・・」


 半分疑念の籠った目で目の前の紙の束を見つめるレン。

 彼女の持っているこれは一種の魔道具であり、見たい夢を見ることができる・・・という物であった。

 何故彼女がこんな物を持っているかと言うと、それはレンがよく顔を出している孤児院の院長から貰ったからである。

 

 院長の話では変な押し売りがやって来て、お試し様にと無料でこの夢を自在に操れる紙を置いて行ったらしく、もし気に入ったのならば連絡が欲しいと名刺とこの紙の束を置いて行った。明らかな押し売りなのだが、折角なので一枚試してみた院長。

 そして、実際に院長が使ったところ、頭が混乱しそうになったとの事だ。廃棄しようか迷っていたところ、話を聞いたレンが興味があるから譲ってほしいと言ったら提供してくれたのだ。

 その際、扱いには気を付けるようにとも警告された。


 「さてと、じゃあ私も試してみますか」


 レンはそう言うと、束の一つを千切り、そこに文字を記入した。

 紙に文字を記入する事で、その記入した内容に沿った夢が展開されるのだ。


 レンが書いたものは『ミステリー』だ。


 「さて、じゃあ寝てみますか」


 レンは見たい夢を記載したその紙を枕の下へと滑り込ませ、そしてその枕に頭を乗せ、瞳を閉じる。

 そしてベッドの上で仰向けとなり数分後――――


 「ん・・・・スー・・・スー・・・」


 規則正しいリズムで寝息を立て始めるレン。

 そして、彼女の意識は闇の中へと一旦、完全に落ちて行った。






 とある部屋の中、そこには血まみれで倒れている一人の男性教師。

 そしてその部屋には数人のアタラシス学園の生徒がいる。そして、その中に一人、明らかにいかにもな恰好の少女が居た。

 その少女はハンティング帽子を頭に被り、コートを着こなし、更に口にはパイプをくわえている。

 

 「ふう~~~」


 口元のパイプから煙を吐き出す少女、その名は――――


 「皆さん、今回のこの事件、その犯人はこの中に居ます」


 名探偵、赤咲レン。




 「被害者は腹部をナイフで一突き、しかしナイフには指紋もない」


 レンは被害者の腹部に刺さっているナイフを見つめながら呟く。

 皆はレンの話を固唾をのんで聞いている。


 「当然ナイフの指紋は丁寧に拭き取られている・・・だが!!」


 レンはバッと勢いよく手を振ってこの場に居る生徒達にこう告げる。


 「犯人を特定する一つの手がかりがあった!」


 そう言うとレンはナイフを指さした。


 「このナイフ、実は〝換装〟で呼び出されたものなんです。犯人は指紋は綺麗に拭き取った。だが、魔法で呼び出したがためにこのナイフに僅かに、極々僅かに残留した魔力はどうしようもなかった」


 レンはこの中に入る一人の生徒の瞳を見つめて告げる。


 「ナイフを調べた結果、あなたと同じ魔力が感知できましたよ・・・・・神保シグレさん」

 「・・・・・」


 レンにそう言われたシグレは顔を伏せた。

 周りに居た生徒達は信じられないといった表情をしている。正義感が強く、真面目な彼女が殺人などとても信じられなかった。

 しかし、シグレは小さく笑うと全てを告白した。


 「ああ、そうだ・・・私がやったんだ」

 「・・・わけを聞いても?」


 レンがシグレに動機を尋ねる。

 すると、彼女はぽつりぽつりと語り始めた。


 「犯行の動機、それはこの男は実は・・・・・」


 訳を語り始めるシグレ、しかしその時――――


 「おいおい、誰を殺したってぇ?」


 部屋の中に響き渡る男性の声、その声にこの場に居る全員が驚愕する。

 何故ならその声の主はこの場で死んでいるはずの男性教師のものであったのだから。

 

 「えっ! な、何で!?」


 レンが地面に横たわっている被害者の亡骸に目を向けると、被害者の体が突然消えた。

 すると、部屋の上空に死んだはずの男性教師が出現し、そしてこの部屋に居る者達を見ながら大きな声で笑い始める。

 

 「ふははははははッ!! 残念だったな神保シグレ! 貴様がこの我の命を狙っていたことなど当の昔から気付いて居ったわ!!」

 「くっ!!」


 悔し気な顔をしながら自分たちを見下ろす教師を睨み付けるシグレ。

 

 「え? なによ、この展開?」

 「名探偵赤咲レン、私はこの男を抹殺しようとした理由、それはこの男が実は輪廻転生を果たした魔王の生まれ変わりであり、そして私もこの男と同じく輪廻転生を果たし生まれ変わった元勇者であったからだ!!」

 「え? いや何言っているか分からないんですけど?」


 突然の超展開、しかしそんなレンの混乱などお構いなしにシグレの姿も光り輝き変化した。

 彼女はいかにも勇者を連想させる様な鎧にその身を包み、その手には巨大な剣が握られていた。


 「貴様! 世界が変わった今でも支配を望むと言うのか!!!」 

 「ふん、当然だろう。世界が変わろうが、容姿が変わろうが、この我が魔を統べる王、魔王である事実は決して揺るぎはしない!」

 「ねえ、何言っているの!? なんなのこの展開!?」


 レンのツッコミがまるで聴こえていないかのように頭の痛くなる会話を続ける二人。


 「貴様がこの平穏な世でもその傲慢な考えを持ち続ける限り、私もこの剣を振り続けるまでだ!!」

 「ならば今回の様な暗殺まがいではなく今、この場で堂々と来て見せろ!! 元勇者よ!!!」

 「おもしろい、行くぞぉッ!!!」

 「来おぉいッ!!!」


 こうして、生まれ変わり世界が変わった場所で再び相対した勇者と魔王、果たしてその激闘の先、この二人にはどのような運命が待ち受けているのだろう・・・・・。






 「てっ! なんでやねん!!??」


 勢いよく布団から起き上がり大声を出してツッコミを入れたレン。

 辺りを見渡すと勇者も魔王もいない。どうやら余りの支離死滅な内容の夢に意識が現実世界へと戻ってきたようだ。

 

 「・・・なに、さっきの夢は?」


 最初は自分の書いていた内容通りにミステリー内容といった物だったはずが、突然お呼びでもないのに現れた魔王設定、そして事件の犯人が勇者の生まれ変わりであったという超展開。

 しかし、同時にレンは理解した。これを譲ってくれた院長の言葉の意味が。


 「なるほど、こりゃ頭が混乱するわぁ・・・」


 院長が言っていたあの言葉はつまりそう言う事だろう。

 突然の予想外過ぎる展開に夢の中でさえついていけなかった。


 「ミステリーはやめよう・・・えっ~と、じゃあ次は・・・」


 レンは枕の下からミステリーと書いた紙を取り出して破棄すると、代わりの紙を枕の下へと潜り込ませた。

 紙には『恋愛』と書いてあり、レンの表情は僅かに期待に膨らんでいた。ミサキやメイの様に恋をしてみたいと秘かに憧れを抱いている為、今から見れる夢に僅かに期待を抱きながら布団の中に潜った。


 しかし、彼女はもう少し深く考えるべきであった。

 先程同様、今回も頭が痛くなるような展開を向かえるかもしれないという事を・・・・・。



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