第百四十話 縮んだ少年達2
「今日一日はこのまま!? 冗談じゃない!!」
ヒビキはビョウにそう言ってすぐに戻すように訴える。
「解毒薬の類は無いんですか?」
タクミがそう聞くと、ビョウは困った様に答える。
「作ろうと思えば作れるけど、でも結局は一日近くはかかるから結局同じ時間その姿のままよ」
「ちっ!」
ヒビキが苛立ちを隠そうともせず、盛大に舌打ちをする。
すると、カケルが一つ疑問に思った事をビョウに質問する。
「先生はどうして無事なの? 薬品の煙を浴びたのに」
「それもこの薬品の失敗の一つなのよ。男性と女性は魔力の質はほとんど変わりはないけど、この薬品は男性のみに反応するみたいでね。まあ、結果的に私は助かったんだけど」
するとその時、学校のチャイムが鳴り響く。
どうやら学園の昼休憩の時間が終了した様だ。
「あら、もうお昼休憩の時間が終わったわね・・・」
「なっ! どうするんスっか!」
気付けばすでに昼休憩の時間が過ぎ、午後からの授業が始まろうとしていた。
さすがに何も言わずに教室に戻らなければ皆が何かあったと不安に思ってしまうだろう。すると、ビョウが四人にとんでもない提案をする。
「取り合えず中身は元のままだし、皆の担任教師には私が説明するから授業に出たらどうかしら」
「なっ! 今のこんな状態で授業に出ろと!?」
ヒビキがビョウの提案に冗談ではないと思うが、しかし、そこでカケルが余計な一言を呟く。
「ん、でもこのままじゃ授業をさぼる事になる。 シグレに怒られる・・・」
「確かに、このまま授業をふけるってのもなぁ」
マサトもカケルの言葉に小さく頷いた。
不幸中の幸い、精神年齢に関しては影響がないため授業を受けることは出来る。
「仕方ない、取りあえず今日はこのまま・・・・・」
「本気で言っているのか、お前達は・・・?」
ヒビキは他の三人を信じられない物でも見るかのような目で見る。
今のこの状態で人前に出るなど少なくとも自分では考えられない選択だ。こんな姿をクラスの者達に見せればいい笑いものにされるのだから。
「冗談じゃない、俺は今日はもうクラスに顔を出す気はない」
ヒビキは背を向け、そっぽを向く。
そんな彼に何か言おうとするタクミであったが、そこである事に気付く。
「あれ、一人足りなくないか?」
「え?」
タクミの言葉にマサトが室内を見渡すとあの白猫が見当たらなかった。
いつの間にか姿を消していたカケル、彼の姿が消えた事を認識した直後――――
――「キャアアァァァァァァ♡」――
廊下の方から何やら女性の黄色い声が響き渡って来た。
保健室からタクミが顔を覗かせると、そこには消えたカケルの姿が在った。
悲鳴の発生した中心地では二人の女子生徒とカケルの三人が顔を見合わせて居た。
一人はカケルと同じクラスのシグレ、もう一人はタクミには面識のない女子生徒、おそらく同じクラスの女子生徒であるだろう。悲鳴を上げたのはタクミとは面識のない女子生徒の方であるだろう。
「ほ、星野君どうしたの!?」
幼くなったカケルの事をキラキラと光る瞳で見つめる女子生徒。その隣ではシグレが僅かに頬を染めて軽く混乱したようにカケルに今の状態について問いただす。
「カ、カケルどうした!? 保健室から戻らないから心配して来てみればその姿はいったい!?」
「ん・・・縮んじゃった」
コクンと首を傾げてそう言うカケル。
そんなカケルの反応に目の前の女子生徒二人の胸が激しくときめく!
「可愛いぃぃぃぃ♡」
クラスメイトの女子が目をハートマークにしながらカケルの事を見つめる。
「お、おおお落ち着け・・・! と、兎に角落ち着け・・・!!」
隣に居るクラスメイトを諌めようとするシグレ。しかし、そんな彼女もかなり混乱しているようでその目はグルグルと回転している。
その光景にタクミは盛大にため息を吐いた。
「はあ・・・これはもう隠し通せないな・・・」
こうしてカケルの存在が公となった事で他の三人の現状も話ざる負えなくなってしまった。しかもカケルがペラペラと話してしまったため・・・。
その後、結局ビョウがそれぞれのクラスの担当教師に事情を説明し、そして四人はこの後の授業を受ける事となった。
幼い容姿のまま・・・・・。
一年Aクラスでは幼くなったタクミとマサトに大勢の生徒が集まっていた。
「うわぁぁ・・・!」
「随分と可愛らしくなったな・・・」
口々にそう言うクラスメイト達。
そんな皆を抑えようと奮闘する彼らの恋人であるミサキとメイ。
ちなみに余談だがタクミとミサキに続き、マサトとメイの関係についてもすでにクラス内に知られ渡っている。
「皆さん! とにかく今は授業を始めますよ!!」
タクミとマサトの今の姿に興奮する生徒の皆を落ち着かせ授業を始めようとするチユリ。
そして、他の二クラスでも現在大きな騒ぎが起こっていた・・・・・。