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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
半魔獣研究所編
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第百三十八話 まだ続く共同生活

今回でこの章は終了です。

 綾猫達を救い、ススムの手から解放したヒビキと猫香。

 綾猫の連絡により駆け付けて来た警察の手によってススムは連行されていった。綾猫も事情を説明してもらう為、警察と共に署まで同行して行った。

 今後、この屋敷は残された半獣人の子達だけとなってしまうが、彼女達ならばたくましく生きていく事が出来るだろう。幸いなことにススムの手によって戸籍を皆が取得していたため、そのことだけは彼女達もススムに感謝した。

 そして、この屋敷に居る半獣人の子達の正式な正体もススムの口によって話された。

 彼女達は元々は人間であり、魔物の力を注ぎ込まれたと説明されていたがそれは違った。ヒビキに拘束された彼は真実を綾猫達へと白状した。彼女達は人間と魔物の二つの命を掛け合わして生み出された新種の生命体だった。つまり、綾猫たちが最初、自分たちはゼロから創りだされたと思っていたその考えが正解に近いものであったという事だ。


 だが、ヒビキは・・・いや、猫香に関しては謎が残ったままであった。




 拘束され床に座り込んでいるススム、綾猫が警察に連絡を入れた事からもうすぐこの男を引き取りに来てくれるだろう。だがその前に聞き出しておく必要がある、猫香のことについて・・・・・。


 『おい、最後に聞かせてもらおうか。此処に居るコイツについて』


 ヒビキは猫香を指さしながらススムから彼女についての情報を聞き出そうとする。


 『コイツはお前が創りだした存在だと思っていたが、あの時お前は言ったよな? それは少し違うと・・・』

 『ああ、確かに言ったね。彼女は僕の手で生み出された子じゃないからね』

 

 ススムは猫香のことを見ながらそう言った。

 ススムに視線を向けられた彼女はその視線に少し怯え、ヒビキの背中に隠れてしまう。


 『お前の手で生み出された訳ではないとは?』

 『ああ、その子は拾ったんだよ』

 『拾った・・・?』

 『ああ、ちなみに今この屋敷に居る半獣人たちの子達は全員、その子を元にして創りだした。いわばその子はオリジナルだ』


 その言葉にこの場に居る全員が驚いた。

 つまり猫香はこの男に創りだされたわけでなく、元々存在していた人物であったという事になる。


 『研究所がまだあった頃、その近くで偶然彼女が倒れていてね、それを僕は保護した。初めて彼女を見た時は驚いたよ、人とも魔物とも違ういわば新種の生き物、胸が弾んだなぁ』


 初めて猫香と出会った時の記憶を思い返し、ススムが小さく笑った。

 その笑みに猫香が嫌そうな表情をする。


 『その子の記憶を薬で少しいじってしばらくは一緒に行動していてね・・・まあ、キミはもう覚えていないだろうけどね』

 『その記憶を消したのもあなたじゃないんですか?』

 『まあ・・・そうなんだけどね』


 猫香がヒビキの背後からススムに厳しい目を向けながらそう聞くと、ススムが小さく笑いながら答える。


 『それで・・・その後はコイツをどうした?』

 『・・・それからこの子を参考にここに居る子達を創りだした。でも、彼女は僕の正体に気付いてね、それで記憶を消し、その後廃棄しようとした』


 ススムの話を聞いていた綾猫がススムの話を聞いて苛立ちを隠す事なく吐き捨てる。


 『腐っているわ・・・!!』

 

 綾猫だけでなく、他の皆も全員が同じ気持ちであった。

 そんな中、ヒビキだけは感情をみだす事なく質問を続けていった。


 『だけど彼女は廃棄直前にこの屋敷から姿を消していた。だが、その理由には一つ推測が立ったよ』

 『それは、なんだ?』


 ヒビキがススムのその推測とやらを聞くと、彼はある一人の女性について話し始めた。

 

 『僕が研究所を壊滅させる前、一人の女性研究者を取り逃がしていてね、彼女は姿をくらませた。今にして思えばこの屋敷にはキミ達よりも前に一度侵入者が現れてね、その侵入者と共に廃棄しようとしていた猫香も消えた。そのことからその侵入者、彼女が逃がしたんだろうと予測が立ったよ』

 『何故その時の侵入者がその取り逃がした研究者だと?』

 『その時感じた魔力の質だよ』


 ススムがその研究者を見抜いた理由を説明する。

 彼曰く、その人物の魔力は少々特殊であり、魔力の質だけで見分けることが研究所時代から分かったらしい。

 『それは・・・その人は・・・』

 『ん・・・?』

 

 猫香はヒビキの背中から姿を出してススムにその人物について聞く。

 自分と関わりとある人物ならば、その正体を知っておきたい。


 『その研究者の名前は羽車ツナギ、詳しくは知らないけどキミとよく話をしていた現場を見かけていたよ。何を話していたかまでは知らないけど』

 『羽車ツナギ・・・』


 猫香はその名前を小さく繰り返して呟いた。

 しかし、その人物に関しての記憶はやはり蘇らない。


 『それで、その女の現在の情報は?』


 余り期待を持たずにヒビキがススムに聞くが、返って来た答えはやはり予想通りの物であった。


 『さあね・・・研究所から消えた後の事は何も。今、生きているかどうかもね』






 「・・・・・結局、私の事は全てが分かりませんでしたね」

 

 事件が終結してから後日のある日、猫香がしょんぼりしたような顔でそうぼやいていた・・・・・ヒビキの部屋で。


 「お前、まだここで居候しているつもりか?」


 ヒビキはいつも通り本を読みながら言った。


 「だって、結局私の記憶や謎が全て解明したわけじゃないですから」

 「そうじゃない、綾猫たちと一緒に暮らしていく道もあったという事だ」


 ヒビキがわざわざ自分と居る理由がなかっただろうと告げると、猫香が少し照れくさそうに言った。

 

 「それに・・・その、ご主人様と離れるのも寂しかったですし・・・」


 頬を赤らめながら上目使いでヒビキのことを見つめる猫香。

 溜息をつくヒビキ、すると部屋のインターホンが鳴り響いた。


 「あっ、来たみたいですね♪」


 猫香が玄関まで小走りで走って行き、扉を開いた。

 すると、そこには綾猫の姿が在った。


 「久しぶりね猫香」 

 「はい、綾猫さん♪」


 部屋の中へと綾猫の事を招き入れる猫香。

 部屋に入った綾猫はヒビキの姿を確認すると挨拶を交わした。


 「あなたとも久しぶりね、ヒビキ」

 「ふん・・・」


 ヒビキは手元の本から一瞬だけ視線を綾猫へと向けたが、すぐに視線を手元の本へと戻す。

 そんな彼の対応に綾猫は囁くように猫香へと話す。


 「相変わらず不愛想ね・・・」

 「はい、でもなんだかそういうところもカワイイんですよ♪」

 「おい」


 ヒビキが何やら失礼な事を言っているような事を察し、二人の事を睨み付ける。

 そんな彼の機嫌を直そうと綾猫は一緒に持って来たケーキの差し入れを二人へと差し出す。


 「そうむくれないでよ、はいお土産のケーキ」

 「わあ、ありがとうございます♪」


 子供の様に喜びを表す猫香、そんな姿を見てヒビキがため息を吐く。


 「(どうやら・・・この騒がしい猫との共同生活はまだ終わりそうにも無いな・・・)」


 内心ではそう愚痴っているヒビキであったが――――


 「・・・・・ふっ」


 その口元には微かな笑みが浮かんでいた。

 

 これは、世間では大きく取り上げられなかった少年の活躍、しかし、彼の行動によって大勢の少女が救われたのであった。



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