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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
半魔獣研究所編
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第百三十七話 さようなら

 凄まじい魔力を放ちながらにじり寄って来る改造魔物。

 綾猫は恐ろしさからか後ずさるが、ただで食われてなるものかと自分の全ての魔力を解き放ち構えを取った。

 そんな彼女の姿を見てススムは小さな笑みを浮かべながら言った。


 「ごめんね、でもこのまま生かしておくわけにはいかないだろう?」


 今から死にゆく二人に対し心にもない言葉をまるで息でもするかのように吐くススムであったが、此処にいる彼、もっと言うならばススムに対抗しようとしている綾猫もそうだが・・・・・二人はまだ見誤っていた。


 桜田ヒビキという少年の力を・・・・・。


 「ふう・・・・・」


 小さく一つ息を吐くヒビキ。

 彼は全身から魔力を放出する。


 ヒビキは口から白い息を吐きながら、自らの中に眠る真の力を解放した。

 全てを凍てつかせ、そして破壊するその力を・・・・・。


「≪アイスフォーム・デストロイヤー≫発動・・・」


 その言葉と共にヒビキの髪が水色へと変色していき、その肌の色もまるで雪の様に白くなっていく。そして、体の所々に氷の破片が纏わりついた。

 ヒビキが変身すると、この部屋の温度が一気に低下して行く。


 「う・・・寒・・!」


 綾猫は突然一気に温度が低下したことで僅かに体を震わせる。

 しかし、魔物はそんな変化に気にせずにヒビキへと大口を開けて迫り来る。

 

 「凍てつけ・・・≪絶対零度≫」


 魔物の突進を紙一重で回避し、そのまま流れるように魔物の体の一部に手を置くヒビキ。

 そして――――


 ――ガキィィィィィンッッ!!!――


 魔物の全身が一瞬で凍り付けとなった。

 

 彼の≪絶対零度≫は相手の肉体の芯まで冷凍してしまう大技だ。

 一瞬で氷像と化した魔物。魔物は肉体はもちろん、体内で音を立てていた心臓の鼓動の音までも停止していた。


 「ふん・・・」


 ヒビキはぱっぱっと空中に手を軽く振ると、今度は視線を魔物からススムへと向ける。


 「はは・・・いくらなんでも規格外すぎるよ」


 ススムは観念したかのように力なく笑みを浮かべた。

 しかし、彼は内心ではまだ諦めてはおらず、再びポケットに手を伸ばそうとしたが――――


 ――ガシィッ!――

 「なっ!?」

 

 一瞬で距離を詰められ右腕を掴まれたススム。

 そして、そのまま掴まれた箇所から一瞬で凍り付き右腕が完全に冷凍された。

 

 「ぐああぁぁ!? 何をする!!!」


 自らの肉体の一部が被害にあい、ここに来て初めてススムが部屋全体に響くほどの大声を上げる。

 だが、ヒビキはそんなススムに対して容赦なく腹部に蹴りを入れ込んだ。


 ――ズモォッ!――

 「ほぶっ!?」


 腹部を蹴り込まれ、息が詰まるススム。

 そんな彼の首から下を一瞬で氷の結晶で拘束する。


 「ぐ・・・」


 首から下を完全に凍らされ、身動きを封じられるススム。

 そんな彼の顔の前まで腕を移動して、ヒビキが彼の唯一無事な顔面に手をかざして脅し文句を言う。


 「さて、洗いざらいこの屋敷に居る連中に全てを告白してもらおうか」

 「ぐぅ・・・!」

 

 完全な手詰まりのこの状態、ススムはもはや唯一動かせる首を縦に振ることしかできなかった。






 ススムは取り押さえられた後、拘束された状態で屋敷の広い一室へと移動させられていた。そこにはススムを運んできたヒビキに綾猫、そして屋敷の外で囮として動いていた猫香、この屋敷に住んでいる大勢の半獣人の子達が集まっていた。

 そして、ススムはこの場に集まった半獣人のメイド達に全てを話した。


 「そんな・・・・・」

 「信じられない・・・!」

 「・・・・・」


 ススムから聞かされた真相はたとえ本人の口から語られた事でも素直に信じる事は出来なかった半獣人の子達。だが、綾猫が見た現実、そしてススムの自室に存在する地下空間、それらの存在が彼の言葉が真実である事を証明していた。


 真実を知った者達は様々な反応を示していた。

 ある者は怒り、ある者は悲しみ、涙を流す者や怒りから拳を握り血を床下へと落とす者。そんな彼女達の姿を見てススムは力なく笑いながらヒビキへと自分の処分について聞く。


 「それで、僕は一体どうなるのかな?」

 「それは俺が決める事ではない、此処に住んでいる連中から聞け」


 ヒビキは周りに居るメイド達を見ながら言った。

 すると、その中の一人の子がススムに言った。


 「もうアンタは何一つとして信用できないわ! さようなら!」

 「事情を説明して警察に突き出して終わりよ・・・!」

 「さようなら、ご主人様・・・」


 彼女達は次々にそう言って、ススムにそれぞれ拒絶の言葉を告げていく。そして、綾猫が最後にススムに言った。


 「これから私たちは自分の意思で生きていくわ。もう、貴方の操り人形としての生活はこれで終わりよ・・・・・さようなら、ご主人様」


 綾猫は最後にそう言うとススムに背を向けた。

 ススムは力なく笑い、天を仰いだ。


 「はは・・・これで僕も牢獄暮らしかぁ・・・」

 

 こうして、人を人形や実験体として扱い続けていた男の物語は最後は冷たい牢獄の中で終結した。



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