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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
番外編 エピソード・オブ・ノーネーム
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番外編 エピソード・オブ・ノーネーム

これは、久藍タクミとの激闘で敗れた一人の人間のその後の物語。


 世界とは……無数に存在する。星の数ほどある様々な世界の中には魔法が存在する世界もまた存在するのだ。

 これは、その魔法が存在する数多の世界の一つ、その内の一つの世界で命を落とした一人の人間の生前の会話である。


 ――――『お前は……何故そうなってしまった? 何故、こんな破滅を辿るかもしれない道を選んだ?』


 ――――『言ったはずだ。魔法を…消す為だと……』


 ――――『それだけが本当に理由なのか? 今ならわかる、お前はまだ何か他にも理由があってこの道を選んだことを……』


 魔法が存在するとある世界。その世界では一人の青年は魔法という力を世界から消し去ろうと目論んでいた。

 魔法という力が差別を生み、魔法という力が暴力を生む。魔法が人を苦しめるのならばその根を絶とうと一人の青年は無謀な喧嘩を世界へと売った。

 

 だが、その計画は成就されることはなかった。


 自分よりも年下の、銀色の髪をした一人の少年によりその計画は打ち砕かれた。


 そして、計画の首謀者である青年も自らの持つ強大過ぎる力を使った代償にその命を散らした。


 ――――『……なあ〇〇〇〇、〇〇〇…。俺は……どこで間違えたのかな?』


 魔法という力のせいで苦しめられ、実の親から名前すらもらえなかった哀れな名も無き青年はその言葉を最後にこの世を去った……はずだった………。







 ――――とある一つの別世界。


 「ネエチャンよぉ…人にぶつかっておいてその態度は何だぁ?」

 「う、うるさいわね! だから謝ったじゃない!!」


 人気の少ない路地裏、そこに一人の金髪の綺麗な少女と五人の男が何やら言い争いをしていた。

 だが、どう考えても仲の良い友人同士ではないという事は会話の内容からすぐに解る。現に少女を取り囲んでいる男達に囲まれている少女は涙目になっている。

 この囲まれている少女、数分前に見るからに不良という言葉がよく似合うこの五人組の一人と肩がぶつかってしまったのだ。それに対し少女はすぐに謝ったのだが、ぶつかった男はわざとらしく肩を抑えながら難癖をつけて来たのだ。そしてそのまま人気の少ない路地裏へと引きずり込まれ、現在の状況に至る。


 「口で謝るだけなら子供でもできんだよ。本当に申し訳なく思っているならもっと別の形で謝ってくれよ」


 そう言って男達は舐め回すかのように少女の体を眺め、下衆な笑みを浮かべる。

 男達が何を考えているかすぐに解り、少女の背筋が思わず凍る。


 「そ、そんなの絶対に嫌よ!!」

 

 自らの体を抱きかかえ、震えながらも気丈に振る舞う少女。


 「あーもー、なら手伝ってやるよ」

 

 そう言うと男達は少女の体へと手を伸ばす。


 「ひっ!?」


 短い悲鳴を上げ、目をギュッとつぶる少女。

 

 ――――その瞬間、突如謎の光が路地裏を包んだ。


 「きゃっ!?」

 「うおっ!?」


 突然光に包まれ、その場に居た全員が思わず目をつぶる。

 

 そして、光が収まるとそこには――――


 「ん……ここは………?」


 一人の少年がいつの間にか立っていた。




 突如として現れた少年にこの場に居た全員は思わず注目してしまう。

 しかし、そんな視線など気にならないほど少年は混乱していた。


 「(何があった……何が起きた……?)」


 記憶が確かならば、自分は自らの魔法の代償としてその命を散らしたはず……だった。

 だが、気が付けば見知らぬ場所に立っていた。いや、おかしい部分はそこだけではない。


 「(なんだか体に違和感が……)」


 自分の体になぜか違和感を感じるのだ。

 自分の体を観察してみようとする少年。だが、そこへ今まで少女に絡んでいた男達が少年へと食って掛かって来た。


 「おいおいおい、誰だテメェ」

 「……?」


 少年が顔を向けると、そこには五人の男と一人の少女が居た。

 

 「おい、聞いてんのかよ? お楽しみの最中に邪魔しやがって」


 黙り続ける少年に苛立ったのか、男の一人が少年の胸元を掴みあげる。


 だが次の瞬間、路地裏に男の悲鳴が響き渡る。


 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 「「「「!?」」」」


 仲間が突然悲鳴を上げながら地面を転げまわり、他の四人が何事かと少女から離れて倒れ込む男を覗き込む。

 

 「お、おい。オマエその腕!?」


 悲鳴を上げた男の腕は、よく見ると不自然な方向へとへし折れていた。

 少年が胸倉を掴まれた際、男の腕をへし折っておいたのだ。


 「テメェやりやがったな!!」


 仲間がやられた事で他の男達は懐からナイフを瞬時に取り出し、少年へと突き付ける。


 だが、次の瞬間男達は踏み込もうとしていたその足をおもわず止めてしまうほどの不可思議な光景を目撃する事となる。




 男達に絡まれていた少女は戸惑っていた。

 突然謎の光に包まれたかと思うと、今まで自分に絡んでくる五人組しか居なかったこの路地裏に突如として現れた謎の少年。彼の出現により自分は助かったが、今度はあの少年の身に危険が迫っていた。

 

 「(このまま帰る…なんて出来るわけないでしょ!!)」


 一瞬今の内に逃げようかと考えたが、すぐに頭を振ってその考えを追い出し男達を止めようとするが、少女の口から男達を止めようとする制止の言葉は放たれなかった。


 少女は見た。少年の手が光り輝き、そしてその手の中に発光する槍の様な物が現れたのだ。




 「(まったく…面倒くさい…)」


 名も無き少年は内心でため息を吐きながらこの状況を何とか整理しようとしていた。

 

 自分は久藍タクミとの戦いで敗れ、そして自らの魔法の代償で命を散らした筈……だった……。だが、目が覚めたと思えば見知らぬ場所に飛ばされ、しかも突然頭の悪そうな男に絡まれる。

 とりあえず、まずは目先の問題から片付ける事とした。

 触れた物を消滅させる槍、≪デリートランス≫を即座に展開する。


 「……ん?」


 しかし、ここで少年は不自然に思う。

 先程まで威勢よく喚いていた目の前の男達が突然黙り込んでしまっているのだ。

 耳を澄ませると、何やら小声で話しているようだ。


 「お…おい、なんだよアレ?」

 「し、知るかよ…」


 なにやら自分の作りだした消滅の槍を見ながらヒソヒソと話している。


 「………」


 一向に向かってくる事の無い様子にさすがにイライラした少年は手に持つ槍を男達の一歩手前へと投擲する。

 凄まじい速度で投げられ槍は地面を砕き、その破壊力に男達は思わず尻もちを付く。


 「おい…来るなら早く来い…」


 僅かに苛立ちを顔に表しながら、両手に槍を出現させる少年。

 だが――――


 「「「「「うわあああああああああっ!?」」」」

 「は?」


 男達は情けない声を上げながら一目散に逃げて行ったのだ。

 そのままこちらを振り向くことなく全速力でその場から退避する男達を思わず呆然と眺める少年。


 「(なんだ…? アイツらは何をそんなに驚いている?)」


 自分の魔法に格の違いを察し逃走を選んだ…という事なのだろうか? いや、あの怯え方はそれだけではないような気がする……。


 「ね…ねえ……」

 「ん?」


 男達が逃げて行った理由を思案していると、今まで忘れられていた少女が声を掛けて来た。


 「えっと…た、助けてくれてありがとう…」

 「……ああ、もしかしてアイツらに絡まれていたのか」


 どうやら先程の男達はこの少女と何やら揉めていた様だ。

 そこに突然自分が現れたことで、矛先が自分に変わりこの少女は難を逃れたという事なのだろう。


 「ええ…あなたのお蔭で助かったわ。それで…その……さっき見せたあれは何かしら?」

 「アレとは何のことだ?」

 「ほら…なんかキラキラ光っていた槍? みたいなもの……」

 「ああ…俺の魔法で作りだした槍のことか……」


 少年は少女のいうあれとやらが自分の魔法で作りだした槍を指していた事を理解して、とりあえず簡単に説明しようとするが、それよりも早く少女が少年へと食いついてきた。


 「魔法!? ねえ、今魔法って言った!!!」

 「ああ、そうだが……」


 瞳を輝かせながら食いつく少女に少し引き気味で答える少年。そんな彼とは裏腹に少女のテンションはさらに上昇する。


 「ま、魔法って本物なの! で、でもそれ以外にさっき見たあの力を証明することは出来ないかも……という事はもしかして…この状況って……」


 何やら小声でぶつぶつと呟いている少女を訝しみながら観察する少年。

 

 「(こいつは何を驚いているんだ? 魔法なんて珍しくも無い力だろうが……)」


 昔とは違い、今の時代は魔法という力は普通に世界で知られている。今の時代では魔法使いを育成する為の学園すらあるくらいなのだから。

 少女の反応に戸惑いながら、とりあえずは少年も情報を収集しようと少女に質問をしようとする。

 だが、それよりも早く少女は何かを悟った様な顔をすると少年に言った。


 「……もしやとは思ったけど…ねえ、あなた…もしかして……」

 「…何だ?」

 「もしかしてあなた――――異世界転生してこの世界に来たりした?」

 「………はあ?」


 少女からの意味不明な質問に対し、少年はそう返す事しか出来なかった。




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