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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
半魔獣研究所編
159/200

第百三十六話 人間じゃない!

 怪しげな液体を自らに打ち込んだススム。

 そして、その瞬間彼の肉体に変化が訪れる!


 「ふう・・・・・フッ!!」

 ――ボシュゥゥゥゥゥゥッ!!――


 ススムから凄まじい量の魔力が吹き荒れる!

 目の前で魔力による軽い突風を拭き荒らすススム、それに対してヒビキは口元に手を当てて吐き捨てるように言う。


 「気持ちが悪い・・・・」


 心の底から吐き出したかのような嫌悪感にまみれたセリフ。

 そんなヒビキの反応にススムは相も変わらず笑みを浮かべながら手の平をかざし、そして――――


 「さよなら」

 ――ブアァァァァァァッ!!!――


 ススムの向けられた手のひらから魔力砲が放たれる。

 いきなりの自分たちを包むほどの極太の砲撃に綾猫が「あっ・・」と小さく声を漏らす。その後、数瞬後に自分たちを襲う衝撃に目をおもいっきり瞑る綾猫。

 だが、ヒビキは冷静に迫り来る砲撃に手をかざし、そして・・・・・。


 「≪氷壁≫」

 ――バシュウゥゥゥゥゥッッ!!――


 ヒビキが作り出した氷の壁が砲撃を遮断する。

 数秒後、砲撃の波も収まり、それと同じくヒビキの展開した壁も崩れていく。


 「なるほどね、ソレがキミの魔法・・・氷の力の個性魔法か・・・・・」


 ススムの言葉に返答することなく、ヒビキは次の攻撃がいつ来ても対応できるよう魔力を集中する。そんな彼の隣では綾猫がヒビキの力を改めて認識する。


 「(アレほどの砲撃を眉一つ動かさずに冷静に対処・・・しかも軽々余裕に防げてしまう・・・やっぱりこの子、強い!!)」

 

 ヒビキの強さを頼もしく感じる綾猫。

 だが、その反対ススムはこの状況をどうするか悩んでいた。


 「(魔力砲を軽々と・・・それにあの様子じゃまだまだ彼の力は底を見せてはいない)」


 すると、ヒビキが一歩前へと出る。


 「さて・・・薬頼りでもこれか・・・すぐ終わりそうだな」






 現在も屋敷の外で、半獣人の子達が探索を続けている。

 しかし―――――


 ――ズドオォォォォォォォォォォォンッッッ!!!!――


 「わっ!?」

 「きゃあっ!?」


 突如屋敷内部から響き渡る轟音。

 屋敷の外に居た半獣人の子達は慌てて屋敷の方へと振り返る。


 「何、今の音は!?」

 「知らないわよ!!」

 「ご主人様の身に何か起きたんじゃ!!」


 一人の子がそう叫ぶと、他の子達もススムの安否が気がかりとなり一目散に全員屋敷の中へと入って行く。


 「みんな行っちゃった・・・それに今の轟音、ご主人様?」


 猫香は屋敷の中へとなだれ込んで行くメイド達の姿をこっそりと眺めながら呟いた。






 猫香の予想は当たっていた。この屋敷に響き渡った音はヒビキの攻撃が原因、彼の放つ魔法が協力するあまり、その音は地下からこの屋敷の外まで駆け抜けていったのだ。

 そして、それを証明するかのようにヒビキとススムが対峙している地下室では――――


 「うぐ・・・はあっ・・はあっ・・・」

 

 ズタボロの状態で地面に膝を付くススムと・・・・・。


 「・・・・・ふん、こんなものか」


 そのススムを冷めた目で見ている無傷のヒビキが立っていた。

 

 「つ、強すぎない?」


 この状況、綾猫の立場としては喜ばしいのだが、ここまでの差を見て思わずそんな言葉が零れる。

 そんな綾猫にヒビキがため息交じりに呟いた。


 「お前の物差しで測るからそう感じるだけだ。少なくとも俺は自分と同年代で対等に俺と渡り合った男を知っている」


 彼が思い出すのは自分に最後まで喰らいついてきた銀色の少年。

 そして、彼との戦いをきっかけに自分は心の中にあった殻を破り、その外へと出ることが出来た。


 「まあ、それはいい。兎に角、もう終わりだろう」


 ヒビキは首を鳴らしながら目の前で地に膝を付いているススムを見る。

 

 「(しょうがないな・・・もう、アイツに託すしか・・・)」


 ススムは脚に魔力を集中し、ヒビキから距離を取る。

 未だなお抵抗の意思を見せるススムに対し僅かに警戒態勢を取るヒビキ。

 ススムは壁の真後ろまで後退すると、その近くに設置されているボタンを勢い良く押した。


 ――バアァンッ!――


 勢いよく叩き押されたボタンは潰れ、そしてそれに連動して壁が天井へと昇って収納されていく。

 開かれた壁の向こう、そこに居たのは・・・・・一体の魔物であった。


 「!・・・魔物!!」


 壁の向こうに隔離されていた魔物の存在に綾猫が驚きを露わにして数歩後ろへと後退する。

 ヒビキは己の魔力を高め、目の前の魔物を観察する。見た所大きさは通常の魔物と大差なく、大型の獣のタイプであり、放たれる魔力量は凄まじい。だが・・・・・。


 「・・・・・この魔物から感じる魔力、どうにも人間の物と同質の様に感じるが?」

 「おや、そんなところまで気付くとは、つくづく規格外だね」

 「えっ、どういう事?」


 綾猫がヒビキにどういう事かを聞くと、ヒビキは己の中の憶測をその場で告げた。


 それは・・・とても信じがたい憶測であった。


 「人間と魔物の魔力は質が違う。だが、この魔物から放たれる魔力の質は明らかに人間の物に近い・・・・・コイツはお前達の様な半獣人や、魔力増強のドーピングの類まで持っている男だ。ならば・・・・・・」


 ヒビキは目の前に居る魔物を僅かに厳しさの籠った目で見ながら言った。


 「人間を魔物に作り替えていてもおかしくはないだろう」

 「!?」


 ヒビキから告げられたその憶測に綾猫の顔は青く染まる。

 人を魔物に作り替え、改造をする。まるで人間を玩具の様に扱っているその所業が事実ならばもはや綾猫は目の前の男を人間として見る事は出来ない。

 人の姿をした化け物である。人間と言う皮を纏った狂気の化け物・・・・・。


 「ふふ・・・本当にキミは凄いな」

 

 ススムはヒビキの考えに賞賛の言葉を送る。

 それはつまり・・・ヒビキの推測が的中していると吐露しているも同義であった。

 

 「あんたは・・・」

 「ん?」

 

 綾猫は顔を伏せて絞り出すかのように声を出す。

 それだけの非人道的な事を働いていながら、この男は微塵の後悔、反省、苦悩などの類の感情が存在しないのだ。

 もし、人として持ち得るそれらの感情が心の中にあるのならば、今、こんな当たり前の様にヒビキを褒めることなどできる筈も無い。


 「あんたは・・・何なの?」

 「それは・・・どういう意味かな?」

 「あんたは人間なんかじゃない、私たち半獣人以上の化け物よ・・・」

 

 綾猫は目の前の男に心底恐怖した。

 この屋敷に居る子達も命を救う為に半獣人化させたなどとのたまっているが、ここまできて綾猫もそんな言葉を微塵たりとも信じていない。


 「(私たちも結局コイツの探求心を満たす為の人形・・・そんな男を今まで主人として敬っていたなんて!!)」


 もし、過去の自分が目の前に居るならばおもいっきり引っ叩きたいとすら感じている。

 それほどまで、目の前の男を信じていた自分が情けなく感じてしまうのだ。

 

 「ふふ・・・僕も嫌われたね。でも、仕方がないかな」


 ススムは薄い笑みを浮かべながら、魔物に指示を出す。

 自分にとって邪魔である二人、ヒビキと綾猫を殺す為に・・・・・。


 「さて、掃除を始めよう。さあ、あそこにいる二人を喰い殺してくれるかな?」


 ススムが魔物にそう指示を下すと、魔物はゆっくりとヒビキたちに迫って行った・・・・・。



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