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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
半魔獣研究所編
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第百三十五話 潜入2

 猫香がススムの屋敷前でここに住んでいる者達の注意を引いている頃、綾猫とヒビキの二人は屋敷内部に潜入していた。


 「さて・・・肝心のこの屋敷の主人は何処にいるんだろうな?」

 「魔力は今、屋敷の入り口前にほぼ集まっているわ。でも、ほかにも屋敷内にいくつか魔力を感知できる・・・とりあえず、この屋敷の構造を理解している私が案内を勤めるわ、付いて来てね。もちろん魔力は抑さえてね・・・」


 当然だろう、と内心で思いながら魔力を抑えるヒビキ。

 

 「とりあえずこの屋敷に感じられる魔力を一つ一つ当たって・・・」

 「そんな無駄な事をする必要はない」

 「え?」


 ヒビキのその言葉に綾猫が怪訝な表情をする。


 「この屋敷の中で一際吐き気のする魔力を感知できる。お前の話と照らし合わせると、大方コイツがそのご主人様とやらなんだろ」


 ヒビキがそう言うと、綾猫が驚きの表情を露わにする。

 それは、彼の異常と言える感知力にあった。魔力を感知する感知力、それは人によってそれぞれ範囲が違うだろう。しかし、彼の場合魔力を感知できるだけではない、その魔力からその人物の中身を判別までできるのだ。いや、魔力の質から善悪を判別する事は他の者にもできるであろう。しかし、平常状態の特別魔力が高まっている訳でもない相手の事を読み取ることは難しいだろう。


 「(この子・・・いったい?)」

 「おい、向こうの方から吐き気を催す魔力を感じる」


 ヒビキが指を指示した方面は、ススムの自室がある方面であった。






 周囲からの視線を上手く逃れながら、ススムの部屋へと辿り着いた二人。

 目的の人物がいるであろう地下室へと続く地下への入り口を綾猫が開き、ヒビキに目配せをする。


 「ここが地下室に続く階段よ・・・あの男の魔力をここから感じるわ」

 「ああ・・・手早く済ませるぞ」


 そう言うとヒビキは魔力を抑え込みながら地下の階段を降りて行く。 

 何の迷いもなく進んでいくヒビキに綾猫が少しは警戒するように促す。


 「ねえ、少しは慎重に行きましょうよ。あなた、見ていたらここまでマイペースというか、緊張感が薄いというか・・・」

 「少しは緊張もしている。それに、魔力を極限まで抑え込んでいるだろう。慎重に行動している証拠だ」


 そう言ってはいるが、そんな彼の表情は平静そのものであった。

 



 そして、ついに地下の最深部まで来た二人。

 そこには綾猫の回想で出て来た巨大な透明なガラスで形成されているドーム状に囲まれた建造物がそびえ立っていた。

 そして、その近くにはあの男、探朽ススムも居た。


 「・・・・・」


 ススムの姿を確認し、綾猫が奥歯を噛み締めて怒りを必死に飲み込んだ。

  

 「(クソッ! 今すぐあの男を八つ裂きにしてやりたい!!)」


 腹の奥底でぐつぐつと煮えたぎる溶岩の様な怒りが込み上げてくるのを必死に抑える綾猫。

 

 「・・・・・」


 そんな彼女の事を横目で見ながらヒビキは冷静に視線の先に映るススムのことを観察する。

 

 見た感じ、そこまでの魔力は感じない。少なくとも自分一人で十分に対処できるレベルだと思うヒビキであったが、それは目の前の男の純粋な戦闘力だけを考慮した場合の憶測である。

 

 「(あいつは見たところ、気持ちの悪い生物を研究している・・・それに、もしかすればドーピングの類の物も持っているとも考えられる・・・・もう少し観察するか?)」


 自分の現状持っている情報だけではさすがに迂闊であると考えるヒビキであった。

 だが、そこに――――


 「さて、そこに居るのは分かっているよ・・・・・綾猫」


 ススムから声を掛けられる綾猫、しかし彼は未だにヒビキの存在には気付いてはいない。

 そして、姿を現した綾猫とヒビキ。綾猫の他にもう一人の人間が居た事にススムは驚いた表情をする。


 「(もう一人いたのか・・・!)」


 二人共魔力を抑えていたのも関わらず、そこに居る事を見抜かれた綾猫。それは彼の魔力を探知する能力が発達しているからと言えるが、それならば何故ススムはヒビキの存在に気付く事が出来なかったのか?


 それは、ヒビキの魔力を抑える能力・・・いや、はっきりと言うのであればヒビキの魔法に関する能力は全てススムを上回っているだろう。

 綾猫の傍にいる自分の存在を看破出来ない時点でどちらが上であるかは明白であった。


 「・・・キミは誰かな?」

 「少しアンタに聞きたいことがあってな・・・ついでに言えばここに居る女になし崩し的に協力する事となった餓鬼だよ」

 「聞きたい事、何かな?」


 ヒビキは少し冷たい視線を向けながらススムに問う。


 「お前・・・猫香という女を覚えているか?」






 「ご主人様、綾猫さん・・・大丈夫かな?」


 一方でその頃、外で囮役を買って出ていた猫香は不安そうな表情で屋敷を遠目で眺めていた。

 だが、二人の心配ばかりはしていられない。現在自分だって魔力をこの屋敷の敷地内で放出したため、自分と同じ半獣人の子達に捜索をされているのだから。


 「う~ん、いないねぇ~」

 「でも確かに魔力を感じ取ったわ。ここに居る全員が偶然一斉に勘違いしたなんてありえないでしょ」

 「(ま、まずっ!!)」


 すぐ近くに二人分の人間・・・いや、半獣人の声が聴こえてきた。

 猫香は足音を立てず、こっそりとその場から離れて行く。


 「(う~ん、さすがにこれ以上長時間気付かれずにここに留まるのは危険かな?)」


 そう考えられるならばここから立ち去ればいいのであろうが、しかしヒビキと綾猫の二人を残して帰る訳にもいかない。


 「(お二人共、急いでください!!)」


 猫香はぎゅ~っと両手を握りしめながら胸の前に持っていく。






 その頃、ヒビキから猫香の事を聞かれたススム。彼はヒビキから聞かされた意外な名前に少し驚きを表した後、再び仮面の様な笑みを張り付けた。


 「その名前・・・うん、良く知っているよ」

 「そうか、俺が今回ここに来た最大の理由だからな・・・アイツもお前に生み出された半獣人でいいんだよな?」

 「う~ん・・・少し違うかな?」

 「はあっ、違うってどういう事よ?」


 ススムの言葉に疑問を口にしたのはヒビキの隣に居る綾猫。

 だが、そんな彼女のことをヒビキは手をかざして彼女を制止させる。


 「お互い聞きたいことがあるが、それは後でいい・・・・・その前に――――」


 ヒビキはその肉体から僅かに冷気を発しながら、ススムの事を見る。


 「アイツを潰しておいておとなしくさせるぞ」


 氷の様な冷たい瞳、直接その瞳で見られている訳でもないにも関わらず、綾猫の体からは一筋の冷や汗が流れ落ちる。その冷たさは綾猫の中でぐつぐつと煮えたぎる怒りすらも一瞬凍らせてしまう程のものであった。

 目の前のススムも綾猫と同じ心境であった。

 

 「(ははっ・・・まさかここまでの怪物とは・・・仕方ないね)」


 ススムはポケットの中に手を入れてある物を取り出した。

 彼がポケットから取り出した物は・・・一本の注射器であった。しかも、その中には何やら怪しげな液体が入っている。


 そして、彼はそれを自分の首に打ち込み、注射器の中に入っている液体がススムに注がれていく。


 「何・・・薬?」

 

 綾猫がススムのいきなりの行為に驚く半面、隣にいるヒビキは小さく息を吐く。



 ――どうやら・・・簡単には終わらなさそうだ・・・・・――

 


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