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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
半魔獣研究所編
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第百三十三話 追手

 夜の暗闇に染まる一面黒の世界。

 その世界の一部を照らすマンションの光、そこを目指して一人の男が歩き続ける。


 「モウ・・・スグ・・・」




 そしてその男の目的地に身を置いているヒビキは窓の外を眺めながら確実にこちらに近づいてきている脅威にため息を吐く。


 「なにやら面倒な事が起きそうだ・・・」

 

 ヒビキがそう呟くと、他の二人も気付いた様でそれぞれの猫耳がピコピコと反応していた。

 綾猫は未だに痛む体に鞭を打ち立ち上がると、玄関の方まで歩いて行く。


 「なっ! ちょ、ちょっと!!」


 そんな彼女のことを慌てて止めようとする猫香。

 

 「駄目ですよ! そんな体で何をするつもりですか!?」

 「でも・・・今ここに嫌な魔力が迫っているわ・・・あなたも気付いているでしょ」

 「それはそうですけど・・・でも・・・」

 「私を追って来た追手ならばここに居るわけにはいかないわ。あなたたちに迷惑を掛けてしまうわ」


 猫香の手を振りほどき、玄関の外に出ようとする綾猫。

 だが、彼女ら二人の横をヒビキが通り過ぎ、外に出ようとする。


 「なっ、あなた何をする気?」

 「大事にしたくはない」


 ヒビキは魔力を解放して綾猫に言った。


 「すぐに片付ける」




 マンションの外へと出て行ったヒビキ。

 自分の意思など聞かずに対処に外へと出て行ったヒビキ。そんな彼のことを止めようとする綾猫であったが、それを猫香が押さえる。


 「綾猫さん、ここはご主人様・・・ヒビキさんに任せましょう」

 「でも、あの男が寄越した存在・・・まともとは思えないわ。やっぱり彼が危険よ」

 「大丈夫です! ご主人様は強いですから!!」


 猫香は綾猫を安心させようと笑顔で言った。

 しかし、その言葉だけでやはり彼に対処させるなどできるわけもなく、綾猫はマンションの外へと出て行き、それに猫香も同行する。




 マンションの外では二人の人間が向かい合って立っていた。

 そのうち一人はヒビキ、そしてもう一人は見た感じ自分よりも年上に見える男性であった。


 「ウウ・・ぐ・・」

 「・・・・・」


 ヒビキが観察して分かることは目の前の男はどうにもまともな精神状態ではないという事であった。


 「うグ・・・綾・ね・コ・・・・」

 「・・・やはり追手の類か」


 彼女の名前が出て来た事でヒビキはため息を吐きながらそう呟く。

 そこに、綾猫と猫香の二人もやって来た。


 「!、こいつは!?」


 やって来た綾猫は目の前の男の姿を見て驚きを露わにする。

 

 「気を付けて!! そいつは人ではないわ!!」

 「え?」


 綾猫の発言に怪訝そうな顔をする猫香。


 そして、その言葉を証明するが如く目の前の男の体に変化が生じ始める。


 ――ぼこっ、ぼこぉ・・・――


 目の前の男の体が突如、不快な音と共に盛り上がり、そして肉体の表面上は緑色に変色していく。

 その変化に猫香は震えながら数歩後ずさる。


 「な、何ですか? あ、あれは・・・!?」

 「・・・あの男の作り出した実験体よ」


 そして、男の変化がようやく終了した。

 それは、ススムの屋敷の地下室で仲間を捕食した綾猫の回想に出て来た化け物であった。

 その姿に猫香が綾猫の肩を掴んで目の前の化け物について尋ねる。


 「あ、綾猫さん! あ、アレアレアレぇ!?」

 「・・・あれが本当の姿よ。どうにもアレは人に化けることが出来るみたいでね」

 「・・・ふん」


 薄気味の悪い化け物を目の当たりにして微かに震える猫香、だが、それに対してヒビキは冷めた態度を取っていた。

 そして、なんと彼は無造作に目の前の化け物に歩み寄り始めた。


 「なっ、ちょっと!?」


 まるで散歩でもするかのように無造作に近づいて行くその様に綾猫が慌てたように声を掛ける。

 しかし、そんな声に反応することなく化け物へと近づくヒビキ。そんな彼に対して化け物は体から大量の触手を展開し、ソレをヒビキに振るう。

 だが――――


 「ふん」

 ――ピキィィィィィィンッ!!――


 全ての触手はヒビキの手から放たれた冷気によって氷漬けとなった。

 そして、ヒビキは一瞬で化け物の懐に入り込み、その体に腕を突き入れる。


 ――ズモォッッッ!!――


 なんだか柔らかな感触に表情を歪めるヒビキ。

 その不快感を吐き出すかのように肉体に突き刺した腕から一気に冷気を放つ!


 そして、一瞬にして化け物の全身が凍りつき、その場に歪な氷のオブジェが出来上がった。


 「す、すごい・・・」


 一瞬で化け物を仕留めてしまったその手際に綾猫の口からポロリとそんな言葉が零れる。

 ヒビキは化け物から手を離し、そして綾猫に言った。


 「おい・・・綾猫、だったな」

 「え、ええ・・・」

 「これは人ではなく創られた化け物、実験動物だと考えていいのか?」

 「ええ、そうだけど?」


 ヒビキの質問の意図がよく分からず首を傾げる綾猫、そんな彼女にヒビキが拳に魔力を込めながら言った。


 「それなら砕いても構わないだろ?」

 ――ガッシャアァァァァァンッッ!!――

 

 ヒビキの振るった拳が、氷漬けとなった化け物の肉体を粉々に打ち砕いた。

 粉々の氷の破片が辺りへと散らばる。


 「(この子・・・こんなに強かったの?)」


 綾猫がヒビキの強さに驚いていると、彼は綾猫に近づいて行く。


 「おい、案内してもらえるか?」

 「え・・・?」

 「蛆虫の発声源を叩かないといつまでもこんなのが湧いてやって来るだろうからな」


 ヒビキは魔力の籠った冷気を身に纏いながら、綾猫に場所案内をするように促す。


 「お前らのご主人様とやらの屋敷まで案内しろ、今夜中に全て終わらせる」



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