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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
半魔獣研究所編
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第百三十一話 実験動物

 綾猫はススムの元まで足を運んでいた。

 自分の記憶にはないはずの空き部屋、しかし他の子達にも聞いてみたがあの部屋は元々空き部屋だったと口を揃えて言うのだ。


 「おかしい、私の記憶とどうしてこんなにも食い違うの?」


 その謎を解くため彼女はススムにあの部屋について聞き出そうと彼の部屋へと赴く。

 

 ススムの部屋の前まで来た綾猫。

 彼女は彼の部屋の扉をノックする。


 ――コンコンッ――

 「ご主人様、少しよろしいでしょうか?」


 ススムの部屋の扉を叩き、部屋に入室する許可を求める綾猫であったが、部屋の中からは何も聞こえてはこない。


 「あら、いないのかしら」


 他の子から聞いた話ではご主人様は現在自室に居るとの事だったのだが・・・。


 「ご主人様・・・?」


 綾猫は彼の部屋の扉をゆっくりと開いていく。

 普段ならば彼女は許可なしにススムの部屋に無断で入りはしないのだが、しかし今は自分の記憶と食い違っている現状が気になったため、一刻でも早くあの空き部屋について聞いておきたかったのだ。

 部屋の中へと入って行く綾猫、しかしやはりススムの姿はなかった。


 「・・・ご主人様が来るまでここで待っていようかしら」


 壁際に寄りかかり背を預ける綾猫。

 そこへ――――


 ――・・・ッ・・・ま・・・!――

 「えっ!」


 自分がいま居る部屋のどこかから誰かの声が聞こえて来た。その声は部屋の外側というよりも室内から聞こえて来た様に感じたのだ。

 もっと正確に言うなら床下の方から・・・・・。


 「空耳・・・?」


 しかし、そう思った矢先から再び微かだが声が聞こえて来た。

 耳を澄ませる綾猫、彼女達は動物の声ならば多少離れた距離からでも聞き取ることが出来るのだ。


 「・・・・・」


 意識を聴力に集中する綾猫。

 すると、まだ小さくではあるが先程よりも鮮明にその声が聞こえてくる。


 ――・・・ご主人様、やめて!――

 「え・・・ご主人様?」


 床下から聞こえてくる声、その中にはご主人様というワードが耳に入って来た。

 床下にしゃがみ込み、床を調べる綾猫。すると・・・・・。


 「!・・・ここ、外れるわ」

 ――ガコンッ――


 床の一面が外れる事に気付き、綾猫がその部分に手を掛け、その部分を外す。

 すると、そこには地下へと続く階段が存在した。


 「何これ・・・地下室」


 彼女は下へと続く階段を覗き込みながら呟く。

 すると、先程まで聞こえて来た声がより一層大きく聞こえて来た。


 ――こんな!・・・私たちを騙していたの!?――


 「何なのよ・・・」


 綾猫は唾を飲み込みながらゆっくりと階段を降りていく。

 緊張の余り、彼女の喉はカラカラになり、額からは汗が一筋流れ、そして落ちる。


 そして、彼女は見てしまった。


 探朽ススムという人物の正体を・・・・・。




 地下の階段を降りて行った先には、とてつもなく広々とした空間が広がっていた。そしてそこには一つの巨大な透明なガラスで形成されているドーム状に囲まれた建造物が存在していた。そしてそのドームの中には中には狐の耳と尻尾を生やしている少女、自分の仲間の一人が化け物と戦っていた。

 

 「な、なによ・・・あの化け物は」


 ソレは魔物にも似ている何か。しかし、ソレは魔物以上に醜い容姿をしている。

 体がまるでドロドロと溶けだしているかのように、全身緑色の体からは同じく緑の体液が床へと滴っている。ぶよぶよと肥え太っているかのように巨大な図体、そして団子の様に丸い肉体からは数本の触手の様な物が生えている。


 そして、ドームの外ではススムがその様子を観察していた。

 その顔には笑みが浮かんでいる。


 「ご主人様! お願いです、今すぐここから・・・ッ!!」


 彼女はススムに必死に呼びかけながら化け物の触手による攻撃を回避する。

 触手はまるで鞭の様にうねりながら狐の少女へと容赦なく振り下ろされる。


 「ぐぅッ! ハアアァァァァッ!!」

 ――ドドドドドドドッ!!――


 狐の少女は魔力弾を連続で化け物に撃ち続ける。

 しかし、その魔力弾は全て化け物の体に命中するが、そのまま体内へと吸収されてまるでダメージが与えられていなかった。

 

 「ふぅん・・・この程度の攻撃ならば吸収できるようだな」


 そして、ガラス越しに戦闘の様子を観察しているススムは冷静な顔をしながらメモを取っている。

 そんな彼の表情には微塵たりとも狐の少女に対しての心配などまるで感じられなかった。


 「ご主人様! お願いだからここから出して!! この化け物を止めてぇッ!!!」


 狐の少女は恐れから涙を流しながらススムに助けを懇願する。

 しかしススムはにこやかな笑みと共にそれを拒否する。


 「ごめんね、そうもいかないんだ。これはその化け物がどこまで実践で使えるか確かめる為のテストでね、キミはそのために贄なんだから」

 「酷い! どうして・・・あなたのことを信じて、いたのに・・・!?」


 そして、とうとう触手が彼女のことを捕らえてしまった。

 足に触手を絡まれ、自由に身動きが取れなくなる狐の少女。


 「どうして・・・こんな」

 「どうして?」


 ススムはにっこりと笑って答える。


 「キミ達は僕に創られた〝実験動物〟なんだから、どう使用しようと製作者の僕に自由にする権限があるからだよ」

 「ぅぐ・・・じゃあどうして私たちを助けたのよぉ」

 「他の研究者達はキミ達を有効に扱えれない馬鹿ばかりだったからだよ。成功の見込みも無い実験や、やるだけ無駄な研究、頭の悪いあんな連中にせっかく創りだした〝サンプル〟を無為に消費して欲しくなかったんだよ」

 「そんな・・・・・」


 狐の少女はその場で項垂れて涙を流す。

 信じていた、目の前の彼のことを・・・だが、それは全て虚像、自分たちは彼のいいように騙され、手の平で転がされ続けていた。


 「お話はここまで、キミが死んだ後も僕には仕事があるんだよ。君に関する記憶を他の子達から消しておく必要があるからね」

 



 物陰から様子を窺っていた綾猫、彼女はススムの言葉に零れそうになった言葉を無理やりねじ込んで内心で驚愕する。


 「(記憶を消す! まさか・・・!?)」


 今のこの状況、そしてススムの発言、綾猫は一瞬で全てを悟った。

 

 あの空き部屋には仲間の誰かが居たのだ。だが、その子はこの男に殺され、そして自分たちからその人物に関する記憶だけを消し去ったのだろう。しかし、自分の記憶には僅かな違和感がこべりついたおり、故にあの空き部屋に対して疑問を抱いたのだろう。


 「(くっ! そんな事より、あの子を何とか助けないと、でも・・・どうやって?)」


 今はそれよりもまず、目の前で捕らわれている仲間を救出するのが先決だ。

 だが、彼女のその考えは無残にも散った・・・・・。


 「じゃあ、もう食べていいよ」


 ススムが軽い口調で化け物に向かって言った。

 すると化け物は彼女を捕らえている触手を勢いよく自分に引いた。


 「ひっ!?」


 狐の少女は抗う事もできず、触手ごと引き寄せられる。


 「ッ!? やめて!!!」

 「!?」


 それに耐えらず綾猫の口からはおもわず大声が上げられる。

 その声にススムは振り返る。


 そして、それと同時に――――


 ――どぷぅんっ・・・――


 狐の少女は化け物の体内に飲み込まれていった・・・・・。


 「あ、ああ・・・そんな!!」


 綾猫は震えながら仲間を飲み込んだ化け物を呆然としながら見た。

 そして、そんな彼女のことを笑顔で目の前の狂人は見つめる。


 「やあ綾猫、なんでここに居るんだい?」


 たった今、仲間を奪ったススム。

 その笑みからは――――異常すぎる狂気を感じた。



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