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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
半魔獣研究所編
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第百二十九話 恩返し

 部屋の掃除をしている自分に、にこやかな笑みと共に声を掛けて来た主人であるススム。

 それに綾猫も微笑みを浮かべながら答える。


 「わあ、綺麗になってる。ご苦労様、綾猫」

 ――なでなで――


 ススムは優しい笑みと共に頭を撫でてくる。

 そんな彼の行いに綾猫は嬉しそうな顔をしてその温もりを噛み締める。

 

 「あっ! ご主人様ずるい!」

 「私たちもお掃除頑張りましたよ~!」


 そこへ犬と兎を模した耳と尻尾をしている少女達がススムに駆け寄って来た。

 そんな二人にも優しい言葉と共に温かな手で二人の頭を撫でる。


 「二人もご苦労様。えらいよぉ~」

 「えへへ~♪」

 「ふふ♡」


 その様子を見ていた綾猫がススムに掃除を再開すると言い残し、その場を離れて別の場所の掃除へと赴く。


 「(もう、折角私が褒めてもらっていたのに・・・)」


 内心でそう不満を洩らしながらも、彼の為に働いているのが自分だけではない為、綾猫も口に出して不満は言えなかった。


 「(でも、みんなススム様に、ご主人様に創られた子なんだから仕方がないけど)」


 綾猫たちはススムの手によって生み出された存在。勿論、彼女や他の子達もその事実はちゃんと知っている。そして、彼女達が彼に尽くす理由は彼が自分たちにとっての恩人であったからだ。


 「(あの日、ススム様は私を救ってくれた・・・)」


 彼女の記憶には、自分たちは元々、現在居るこの屋敷ではなく薄暗い研究施設に居た記憶がある。そこで多くの研究者達に人体実験を行われ、不自由な生活を強いられていた。しかし、自分たちの生みの親であるススムは彼女達を救う為、研究施設を壊滅し、そして施設に居る自分たちを連れて逃げ出したのだ。その後はこの屋敷でひっそりと暮らし始めた。

 自分の記憶の中には当初自分たちはススムに対して怒りを覚えていた。彼の都合で自分たちは創られ、そして苦しんできたのだ。そんな想いをして生きて来た彼女達はいっそのこと生まれてこなければよかったとさえ思っていた。

 そんな想いを抱いていながらも彼女達がこの屋敷で暮らしているのは他に行く当てがないからである。戸籍も無く、此処を出ても身分の証明する物がない自分たちが外の世界で生きることがどれほど大変で窮屈な物か、実験動物の様に生きて、否、生かされてきたがゆえに分かっているのだ。

 だから、たとえ憎しみ抱くススムと一緒でもこの屋敷で過ごしていくしかなかったのだ。


 「(でも、それは違った・・・ご主人様は・・・)」


 しかし、この屋敷で過ごししばらく時間がたったある日、綾猫は保管されていた一つの書類を偶然発見した。

 それはある一つの計画が描かれていた書類――――死の淵に立たされ、助かる見込みのない者達を救う為の蘇生方法が記載されていた。


 自分たちはゼロから創られたと思っていたが、書類に記載されている事実により正確には瀕死状態の人物達に改造を施し、命を繋がれたという事を知った。

 彼女達はススムに事情の説明を求めると、彼は観念して全てを話し始めた。




 「どういう事なの、これは・・・?」


 綾猫たちはススムに問いただす。

 この書類に記載されているこの内容は事実なのかと・・・。

 そして、彼は一度顔を伏せた後、自分たちに顔を向け全てを話した。


 「すまない、キミ達は僕が創り出しと言った・・・それは事実だ。だが、ゼロから創り出したわけじゃないんだ。キミ達は全員、瀕死の重傷を負っていた子達だ」


 ススムの話を聞き、皆は驚いた表情をする。

 それは自分たちに自覚が無いからだ。目が覚めた時、自分たちはすでに今の状態であった。それ以前の瀕死の状態であった事実など記憶にはない。しかし、そのことについてススムが説明を入れる。


 「キミ達にはその自覚が無いだろう・・・キミ達に特殊な生命維持のため肉体を強化し、そして命を繋ぎ止める事に成功はしたが、代償として記憶が消えてしまったんだ。すまない・・・・・」

 「・・・私たちをあなたが救った理由は何? いったい何のために・・・・」

 「キミ達には共通点がある。それは身寄りが存在しないとの事だ。僕は当初、かつて居た研究所の上層部の者達に助かる見込みのないキミ達を現在の実験、魔物の力を移植するという人体実験を行うよう命じられていた」

 「あなた・・・ッ!」


 ススムから言われる事実に彼女達はススムに厳しい目を向ける。

 彼はそんな彼女達の怒りを受け止めながら、話を続けていく。


 「そして、僕はそれを行った。だが・・・助かったキミ達がその後どうなるかは見当がついた。だから、キミ達が上層部の行う人体実験を行っている間、キミ達を保護出来る為にこの屋敷を建築してもらい、そして研究所を壊滅したのち、キミ達に関する書類や証拠品をこの屋敷に移しておいたんだ」

 「・・・・・」

 「こんな事で罪滅ぼしになるとは思えない。だが、それでもあの時キミ達を助けたのは・・・たとえキミ達に恨まれようとも、キミ達に生きてほしかったんだ」


 ススムはまっすぐな瞳で綾猫たちを見て言った。


 「目の前で苦しんでいるキミ達を救いたいが故、僕はたとえそれが非人道的な行いだとしても、キミ達の命を繋ぐべくキミ達に魔物の力を注ぎ込んで生かす道を選んだ」

 「「「・・・・・」」」


 ススムから真実を聞いた彼女達はそれ以上は何も言わず、黙り込んでしまう。

 正直、目の前にいるススムに対して何を言えばいいのか分からなかったのだ。

 その場に沈黙が流れ、室内には重たい空気が出来上がっていた。




 「「「・・・・・」」」


 ススムから話を聞いた後、彼女達はこの屋敷にある部屋の一角に集まっていた。


 「・・・・・」


 しかし、誰も口を開こうとはしなかった。

 皆、己の内にある気持ちの整理がついていないのだ。だが、そんな中、一人の少女が呟く。


 「みんな・・・あの人の事・・・どう思う?」

 

 あの人を指しているのはもちろんススムのことだ。


 「正直、真実を知って私はあの人を憎むことが出来なくなっちゃった」

 「・・・私も」

 「うん・・・」


 最初に発言した少女に続き、他の者たちも次々にその意見に賛同した。

 しかし、中には未だに整理がつかない者たちもいる。


 「でも・・・アイツのせいで私たちが産まれて苦しんできた事も事実なんだよ」

 「だけど・・・あの人は私たちを助ける為に動いてくれていたわけでしょ。現にこのお屋敷だって私たちを匿い、暮らしていくために建ててくれたんでしょ」

 「そう、だけど・・・」

 「「「・・・・・」」」


 彼女達は今、己の心の中で葛藤していた。

 彼のことを許すべきか、それとも今までの様に怒りを持ちながら生き続けるべきか・・・・・。


 「あの人、私たちみんなから冷たい目で見られていても・・・いつも気にかけてくれていたよね」

 「そうね・・・私なんて腹いせに何度もひっぱたいたりしたのに、彼は私を気遣ってくれた」

 

 そこから彼女達は、彼の自分たちに対する思いやりの籠っていたふるまいを思い出していた。怒りを抱いていた頃には何も感じはしなかったが、全てを知った今では・・・彼の自分たちに与えていた優しさ、温もりがとても嬉しく思えた。


 やがて、この場に居る皆はある決断をした。

 自分たちを救い、そして今まで温もりを与えようとしてくれていたススムに恩を返す為に・・・・・。

 


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