番外編 第十話 祝勝会で見ちゃった2
「ありがとう、こんな僕にそんな嬉しい事を言ってくれて」
ネネから告白を受けた男子は少し照れくさそうに笑って答える。
「キミからまさか告白を受けるなんて・・・・・」
男子はそう言うと、ネネに向かって笑顔でこう答えた。
「でも、ごめんね――――僕、成熟した女性に興味はないんだ」
――ぴき・・・――
「え・・・」
その男のふざけた発言には告白をしたネネだけではなく、こっそりと話を盗み聞きしていた周囲の客達、そしてシグレとクルミもおもわず固まってしまった。中には手に持っていたコップや皿を落としてしまう者もいた。
唯一カケルだけは真顔であったが・・・・・。
その後、名前も知らない男子は気まずさから先に帰って行き、その場にネネだけが残っていた。
彼女は光の消えた瞳で目の前で焼かれている肉を眺めている。焼かれ続けている肉はもはや墨の様に黒焦げとなっていた。
「・・・・・」
「ん・・ごほっ・・・」
彼女の近くに居る席のお客達は目を逸らしながら気まずさから一言たりとも言葉を発していなかった。というよりも、口が開けないのだ・・・あまりの空気の重さゆえに。
出来る事ならば席を変えてほしいくらいなのだ。そんな状況の中、和気あいあいと食事ができるであろうか?
しかも、フラれた理由が男性の方がいわゆるロリコンであったなどという驚愕の理由であれば尚更だろう。
そして、遠巻きにネネの様子を観察していたシグレとクルミもどうすればいいのか分からず、席で顔を俯むかせていた。
「ねえ・・・どうすればいいの?」
「わ、私に聞くな・・・」
「あんな光景見た後だから、その、なんか黙って帰りづらいんだけど」
「し、しかし声を掛けるなどできる筈も無いぞ」
こんな事ならば早く店を出るべきだったと後悔するクルミ。
その時、クルミがある事に気付く。
この席に居た人数が一人・・・足りなくなっている。
「え・・・カケルは?」
「なに、いったい何処にィィィィィィッ!!??」
「ちょっ、急にどうしたぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
突然大きな声を出したシグレに驚くクルミであったが、すぐに彼女もシグレと同じ反応を示した。
二人が視線を向けるその先には――――
「ん、ネネ先輩元気出して」
俯いているネネの頭を撫でながら、いつの間にか彼女の傍にいたカケルが慰めていた。
「「(何をしているんだぁぁぁ!!(のよぉぉぉ!!))」」
カケルに予想外過ぎる行動にシグレとクルミが内心、大声でツッコミを入れた。
「それでね・・・それでね・・・」
「うんうん」
その後、ネネはカケルに愚痴をこぼしており、カケルはそれを聞いていた。
カケルが声を掛けて来た時、ネネは何故ここに、と一瞬思いはしたがそれ以上は考えなかった。今の打ちのめされた精神状態の自分にはそのような事を深く考える余裕がなかったのだ。それよりも、今のたまった黒い感情を吐き出したく、カケルに話を聞いてもらっていた。
「カケルめ、普通に話しているな」
「先輩もフラれたばかりだから深いこと考えないようにしているんじゃないの?」
まさにその通りであった。
今の状況で出ていく事もできず、遠巻きに二人はカケルとネネの様子を観察する。
「私って昔からそうなのよ、男運がなくてね・・・今回でもう三人目よ、予想外の理由で失恋したのは」
「ん、意外、先輩とても美人なのに」
カケルの言う通り、ネネは中々に美しい容姿をしている。そんな人間が三度もフラれるというのは意外だ。まあ、今回は男の方が少し異常であったと思うが・・・・・。
「ふふ・・・言ったでしょ、予想外の理由でフラれたって・・・」
「?」
コクンと首を傾げるカケル。
「一人目は・・・私が一年生の頃、三年生の先輩だったわ。でも・・・」
ネネは両手で顔を覆って小さな声で呟いた。
「ホモだったのよ・・・」
「ん、凄い予想外」
予想外と言っているカケルではあるが、彼の表情は相も変わらずほとんど変化がない。
「二人目は二年生の時、これも先輩だったわ。でも・・・現実ではなく二次元の女の子が好き、というか二次元世界に婚約者がいると言われてフラれたわ」
「ん、その人キモイ」
「ええ、そうね・・・」
力なく賛同の声を出すネネ。そんな彼女は相も変わらず死んだ様な目をしている。
それにしてもここまで男運がない女性も珍しい、そして、ネネも少し節操がないような、風紀委員なのに・・・・・。
「はぁ、どうしていつもこんな結果になるのかしら・・・」
落ち込むネネ、そんな彼女にカケルが彼なりのアドバイスをする。
「大丈夫、男なんて星の数いる、新しい素敵な人がきっと見つかる」
「・・・星野君」
「だから、ネネ先輩みたいに売れ残り恋愛を送って来た人でもいつかは恋が出来る」
この瞬間、ネネの表情が固まった。
「何、売れ残りって・・・?」
「え? だって理由はどうあれ三回もフラれているから」
――ビキィッ――
シグレからそんな音が聞こえてくる。
すると、彼女が不気味な笑みを放ちながら立ち上がる。
「ねえ、知っている? 私、こう見えても三年生の中では五本の指には入ると言われているの」
「・・・・・?」
「少しデリカシーの無いあなたにおしおきが必要かしら?」
ネネからどす黒い魔力が漏れ始める。
そんな彼女を見てカケルはそっと呟く。
「ん、そんなに怒るとシワがすぐできて買い手が少なくなる」
「ふふふふふ・・・」
次の瞬間、この店全体にどす黒い魔力が行き渡って行った。
その後、暴走したネネを止める為、カケル、そして止めに入ったシグレとクルミの三人による大会での激闘に負けず劣らずの激戦が繰り広げられたのだが、それはまた別の話だ。