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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
半魔獣研究所編
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第百二十六話 似通った境遇

 彼女を保護したその日、拾ってきたはずの黒猫が人間となり自分の前に現れた。


 『あっ、おはようございますご主人様♪』

 『・・・・は?』


 目の前で挨拶をする奇妙な恰好の少女に困惑する。

 自分が保護した筈の黒猫は消えており、代わりに見知らぬ少女が自分に部屋にいつの間にか居た。


 『・・・おい、お前は誰だ?』

 『あっすいません! この姿はまだ見せてなかったですね』


 そう言うと彼女の体が光り出し、その姿は形を変え、サイズも縮小していき――――


 『にぃー』


 そこには自分の保護した黒猫が居た。

 そして、すぐに再び光り出したと思えば再び猫耳と尻尾の生えた黒髪ツインテールの少女の姿となった。


 『お前・・・』

 『はい、私は貴女が助けてくれた黒猫です』


 ヒビキは頭を押さえる。

 正直、今の展開についていけない部分がある。だが、目の前で見た現実を否定すれば自分の事を疑うのと同義だ。この目で見た真実がある以上、彼女は自分の拾ってきたあの黒猫なのだろう。


 『お前は何だ? 思えばただの猫かとも思ったが魔力も感知できた・・・・別の種族に変身する魔法でも身に着けているのか』

 『いえ、猫の姿に人の姿、どちらも生まれつき変身できる能力です』

 『なら・・・お前は何だ?』


 ヒビキのその問いかけに少女は俯いた。


 『分からないんです』

 『何?』

 『私の中の記憶は混濁していて、覚えているのは目が覚めた時、身に覚えのない場所、つまりこのE地区と呼ばれている場所に居ました』


 目の前の少女は胸の前に手を当てて、自分の中の記憶を語って行く。


 『猫の姿に変身できることを知り、しばらくは普通の猫として生きて来ました。でも、運悪く他の野良猫の縄張りに入ってしまい、脚を負傷して・・・・・』

 『そこを俺が拾ったと・・・』 

 『はい・・・』


 コクンと首を縦に振る少女。

 ヒビキはこの時内心、彼女のことを警察にでも任せようかと考えていた。人の姿になれる以上、人間と意思疎通もできる。ならば届けるべき場所に届けた後はコイツ自身に任せればいいと判断していた。

 なにより、目の前の存在は得体が知れない。人間でもなければ猫というわけでもない。

 だが――――


 『(なんでだ・・・?)』


 どういう訳かヒビキは目の前の少女を放り捨てる事が出来ずにいた。

 自分で言うのも何だが、自分は他者に対して深い関心など基本は示しはしない。にも関わらず、どういう訳か目の前の少女に彼はどこか自分に似た空気を感じていた。


 『あの・・・』

 『何だ?』

 『ほかにもう一つ覚えている事が・・・』

 『何だ、言ってみろ』


 ヒビキが早く話すように促すと、少女は少し悲しそうな表情をしながら言った。


 『誰に言われていたかまでは分からないんですけど・・・私は色々な人からこう呼ばれている記憶があります・・・・〝この化け物〟と・・・』

 『・・・・・』

  





 『アイツ、子供とは思えない強さだよな。人じゃなくて化け物なんじゃないか?』

 

 昔、自分と同じ歳の子供がそう陰で言っていた。


 『あの子は他の者達とはレベルが違う。・・・悪いが、俺の手には負えない』


 昔、どこぞの教師が生徒である自分のことをそう言っていた。


 そして――――


 『アナタ、少しあの子に怯え過ぎじゃないの? 実の息子に対して・・・』

 『そういうお前だって・・・』

 『『・・・・・』』


 黙り込む二人の男女、その二人の会話を扉の陰でこっそりと聞いている一人の少年の姿が確認できた。


 『・・・・・』


 まだ幼さが残る少年、ヒビキが両親の会話をこっそりとその耳で聴いていた。


 『私だってあの子と普通の家族として接してあげたいわよ。でも、あの子の持つ力は大きすぎるわ。まだ小学生なのに・・・』

 『・・・そうだよな』


 そして、彼の母親は言ってはならない一言を口にした。


 

 『もっと普通の子供を産みたかったわ・・・・・』



 そう言った。

 お腹を痛めて産んだ我が子に対し・・・・・。

 彼女は・・・ソレを言った。


 『お前! いくらなんでもそれは・・・』

 『分かってるわよ。でも、もしあの子が普通の子供なら、もっと普通の親子として過ごしていけたんじゃないかって』

 『・・・・・』


 母親の言葉に父親はそれ以上はなにも言わず、黙り込んでしまう。

 母親もそれ以上は何も語りはしなかった。


 そして、そんな二人のことを――――


 『・・・・・』


 どこか冷たい目でヒビキは眺めていた。


 その後、彼はアタラシス学園入学と同時に一人暮らしを始める。

 それは、両親の言葉をきっかけに彼の中に他者と自分は交われない水と油だと判断したからだ。何をしても自分は妬まれ、怯えられ、挙句化け物の様に扱われる。


 ――実の両親ですら・・・――


 ならば、自分も他に意識を向ける必要は無い。

 そう、考えていた。だが・・・・・・。






 『(そうか・・・コイツ、どこか俺と似通っているんだ)』


 普段は他には関心など示さない自分であるが、思えば自分と似たような境遇の者と、化け物と呼ばれている者と出会った経験はなかった。

 

 『あの・・・?』


 不意に黙り込んだ自分の事を見つめる少女。

 ヒビキはなんでもないと答え、これからどうする気なのかを尋ねる。


 『お前はこれからどうする?』

 『えっと・・・・・』


 どうすると聞かれても自分に行く当てなどない。今までだって野良猫のふりをしながら生きて来たのだから。


 『(どうしよう・・・あっ!)』


 すると、少女は何かを閃いたようで、ヒビキのことを見つめ始める。


 『ん?』

 『じ~~~・・・』

 『なんだ?』

 

 少女はしばらくヒビキを見つめた後、ヒビキに頭を下げた。

 そして、彼に懇願をする。


 『あの、もし許されるならばしばらくここに置いてくれないでしょうか?』

 『はぁ?』

 『その・・・行く当てもなく、記憶だってあやふやで・・・今までも不安の中で生きて来て・・・』


 少女は瞳を潤ませながらヒビキに迫る。

 正直、目の前で一人の少女の必死な表情に関しては何も感じはしない。だが、彼にとっては似通った境遇の人物との邂逅はこれが初めてであり、僅かながら興味が惹かれていた。

 だが、だからといってこれから先、一生彼女と居るなんて選択は存在しない。故に、彼はある条件を提示した。


 『お前は今、記憶が不安定な状態だ。そんな奴を追い出せば色々面倒だ。だから・・・・・ここに来た経緯を思い出すまでなら許す』

 『! 本当ですか!!』


 少女は嬉しそうな顔でヒビキの事を見る。

 この時、彼はこれを理由に滞在を許しはしたが、実際は近しい境遇の者との出会いがどこか嬉しかったのだ。もっとも、ヒビキ本人はその事実には気付いてはいなかったが。

 だが、なんにしてもこうして自分の寝床を確保する事が出来た少女はその場で軽く飛び跳ねて喜びを表す。


 『ありがとうございます!・・・えっと、お名前は?』

 『・・・桜田ヒビキ』

 『私は・・・えっと多分ですけど猫香といいます。正直記憶があやふやなのでこれが自分の名前と言う保証はありませんが、唯一覚えていた名前なので』

 『まあ、別になんでもいいが』


 ヒビキはそう言って猫香の事を見る。

 そして、その時彼は一つ疑問に思った事があった。


 『ところでお前、最初に俺をご主人様だの言っていたが・・・アレはなんだ?』

 『あ、それは・・・』


 猫香はヒビキに何故そう言ったのか説明をする。


 『よく分からないですけど・・・なんというかそう言い慣れていたというか、パっと出て来たというか・・・昔、よく言っていたというか・・・』

 『それもお前の過去に繋がる事かもな・・・』


 こうして、ヒビキの住居に一人の謎の少女が住み着く事となった。



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