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第百二十話 姉の声

 「コイツッ!!」


 目の前の憎きホセに双剣を振るうナツミ。

 だが、どういう訳か彼女の斬撃は当たる素振りが見られない。


 「(どういう事なの!)」


 ナツミは目の前の男の身のこなしに疑問を抱いていた。

 単純に動きが速いという訳ではない。目の前の男はどこか自分の攻撃を完全に見切っている様にすら感じる。そして、もう一つ・・・・・。


 「(コイツから放たれる魔力のこの質、明らかに個性使いの物!)」


 つまり、相手は現在も個性魔法を使用しているという事になるのだが・・・・・。


 「(まさか、コイツの個性は!)」


 ナツミは攻撃を仕掛けながらも一つの予測が立った。

 コイツの個性魔法の正体、それは――――


 「おお、気が付いたか」

 「!?、やっぱりそういう事!!」


 双剣を構えながらナツミはホセから距離を取った。


 「あなた・・・私の心を」

 「そう・・・それが俺の個性」


 ホセは自分の耳を指さしナツミに自分の個性魔法の正体を告げる。


 「俺の個性は〝読心〟、相手の心の内を聴く能力だ」

 「やっぱりね・・・」


 二人の会話を聞いていたアヤネが納得の表情をする。


 「(どうりでこちらの動きが先読みできたわけだ!、そして、今この考えも・・・)」

 「もちろん聴こえているぞ」


 ホセがアヤネの方に顔を向けて歪な笑みを浮かべる。

 しかし、それを聞いていたタクミは疑問を覚える。


 「(心を読む類の力だと・・・じゃあ俺達をここまで移動させた力は一体?)」


 自分たちをここまで運んで来た力は心を読める力では実現不可能の筈だ。ならば第三者が存在するのだろうか?しかし、タクミには別の可能性が浮かんだ。


 「(そうか、俺やミサキがかつて持っていた様な個性の力の一部を宿した魔道具を・・・)」

 「(大正解)」


 タクミの心の声を聴いていたホセが内心で正解だと告げる。

 かつて、ミサキやタクミが花木チユリから渡されていた〝転送の指輪〟と同じように、ホセは個性の力の一部を宿している魔道具、瞬時に自分や対象者の周囲の空間ごと移動することが出来る〝空間切断〟と呼ばれる魔道具をポケットに忍ばせていた。

 自分自身や、対象に選んだ存在の周囲の空間を切り取り、別の場所へと張り付けて移動する力を持つ。

 ケシキ達を呼んだのもこの魔道具の力である。自分の操り人形であるケシキを対象に、その周辺の空間を切り取ってこちら側の空間へと張り付けてワープさせたのだ。

 ただ、これは対象の人物だけでなく、その近くの周辺の空間すら切り取る為、そばにいたナツミ達もこちらへ移動したという事だ。

 そこに関してはホセにとっても誤算だったと言えるだろう。


 「(できれば人形共が足止めをしている今の内に別の場所まで飛んでここを離脱したいが・・・)」


 〝空間切断〟は周囲の空間を巻き込んでの移動術、故に今ここで使用してもこの場に居る大半の者達も一緒に連れて行ってしまう。それでは何の意味も無い。


 「(〝あの魔法〟を使用しようとするには発動時間がかかるというリスクもある。まったく、今日の夜にでも万全な状態で発動させようかと考えていた矢先にこの状況、ついていない)」

 「何をボーっとしているの!!」

 「おっと!」


 ホセが考え事をしている最中、ナツミが一切の加減を加えていない斬撃で襲い掛かる。

 それを直撃スレスレで回避するホセ。

 

 「このォッ!!」


 ナツミが双剣を利用した斬撃を連続で放つ。

 しかし、そこにタクミから彼女に警告が走る!


 「先輩! そっちに弟さんが行ったぞ!!」

 「!?」


 タクミが押さえていたケシキがナツミに迫っていた。

 タクミの元には人形達が道を遮り、行く手を阻んで妨害をしている。


 「くぅッ!!」

 

 弟から放たれる攻撃を回避するナツミ。

 しかし、戦況は完全な防戦一方。相手が実の弟という事もあって思う様に反撃が出来ないのだ。


 「ケシキ、目を覚ましなさい!」


 ナツミが必死の呼びかけをするが、ケシキは相も変わらず感情の無い人形の様に襲ってくる。

 そして、ついにケシキの一撃がナツミの腹部に深く突き刺さった。


 ――ドムゥゥッ!!――

 「あ・・・う・・・!」


 ナツミは殴られた腹部を押さえながら後ろへと下がる。

 それを追尾するようにケシキも向かってくる。


 「ケシキ・・・!」

 ――ガシィッ!――

 「きゃっ!?」

 

 ケシキはナツミの髪を掴んで動きを止める。

 



 「くっ! まずい!!」


 アヤネ達は絶体絶命のナツミの元に救助に行こうとするが、何度も再生する人形達に苦戦をしいられている。同じく、タクミ達も人形に足止めを喰らっており、思うように動くことが出来ずにいた。


 「・・・・・」


 ケシキは髪を掴んでいる方とは反対の空いている腕に魔力を集約する。


 「ケシキ・・・!」


 ナツミは髪を掴まれているこの状況でもケシキに呼びかけを続けた。

 いつもは意見が対立すると戦闘にすら発展する程の喧嘩をする中だが、今の操られ、利用されている弟に手を下す事は彼女にはできなかった。


 そして、ケシキの強化された拳がナツミ目掛けて振るわれた!






 辺り一面が黒く染まっている闇の中、ケシキは目を覚ました。


 「・・・・はっ!」


 寝ている状態の体を起き上がらせて周りを見渡すケシキ。


 「どこだ・・・ここ?」


 光も無く、音も無く、何も無い世界でケシキは辺りを歩き始める。

 しかし、出口も見当たらず途方に暮れる。


 「どこなんだよ、一体ここは?」

 

 突然の状況に戸惑いながら、なおも探索を続けるケシキだが、やはりあるのは闇だけであった。


 だが、そこに一人の女性の声が響き渡る。


 ――「ケシキ・・・!」――


 「姉貴・・・?」


 聴こえて来たのは自分が何度も耳にしている声、実の姉、夏野ナツミの声であった。



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