第百十九話 大乱戦2
「弟を返してもらうわよ!!」
双剣を構えてホセの元を目指すナツミ。
しかし、その行く手を人形達が遮って来た。
「邪魔なのよ!!」
人形達に剣を振るうナツミ。
しかし、相手は唯の木偶人形ではない。彼女の攻撃をただ黙って受けてもくれず、障壁を張って振り下ろされる剣劇を防ぐ。
「チィッ!」
彼女は剣に伝達する魔力量を調整し、障壁を力づくで砕く。
「はあッ!!」
――ザンッ!――
手前に居た人形の首を刎ねるナツミ。
相手が人形であるため、彼女も容赦する必要もなく対処出来る為、遠慮なく人間相手では躊躇ってしまう箇所の攻撃も出来る。
首を刎ねられ地面に倒れる人形。更に彼女は次々と人形を切り裂いていく。
しかし、彼女の背後からも人形の魔の手が迫る。
魔力が籠った一撃をナツミに振るおうとする人形達。
「だりゃッ!」
「よいしょぉ!!」
しかし、そうはさせまいとタクミの拳とレンのハンマーがそれらを蹴散らす。
さらに、そこへミサキの炎の弾丸も降り注いでいく。
「あなたたち・・・」
「先輩、まだ全部飲み込めていないけどさ、とりあえずはそこのオッサンをぶっ飛ばしてやれ!!」
人形の一体をピンボールの様に弾き飛ばしながらナツミに叫ぶレン。
「感謝するわ!!」
ナツミはレンに恩を感じながら、双剣を構えてホセへと斬りかかる。
「ハアアアアアアアアアアッ!!」
彼女の刃がホセへと迫る。だが、目の前の男は相も変わらず不敵な笑みを浮かべていた。
そして、彼女の刃はホセには届かなかった。
――ドゴォッ!――
「かは・・・っ!?」
ケシキがホセのことをかばう様に立ちはだかり、ナツミの事を殴り飛ばしたのだ。
強化された魔力の籠った拳は重く、鋭く、彼女の体は吹き飛ばされた。
「なっ先輩!」
レンが飛んできたナツミの体を受け止める。
だが、ケシキは相手が実の姉でも容赦することなく二人に跳躍してきて拳を向けて来た。
「させるか!」
――ガシィッ!――
タクミが二人の壁となりケシキの拳を同じく強化した拳をぶつけ、相殺する。
「(重い!)」
想像以上の威力の拳にタクミも内心で顔をしかめる。
「これがこの魔道具の力ってことか・・・」
そして、タクミ達が戦っている一方で、アヤネ達もまたホセを捉えようと動いていた。
警察達は人形に向かい発砲をして足を止める。しかし、人形達は痛覚など存在しない為、まるでゾンビの様に恐れも無く向かってくる。
「おりゃッ!」
「コイツッ!」
しかし、彼らも魔法に対する心構えはある。
魔力で強化した拳で人形達を薙ぎ払って行く。
「暗夜ホセ、拘束する!」
人形の波を超えた警察の一人がホセへと迫る。
だが――――
――ザグッ・・・――
「お・・・?」
ホセの前まで迫っていた警察の胸から血に染まった光る刃が顔を出していた。
――ズボッ――
顔を覗かせていた刃は引っ込み、そのまま刺された男性は地面に倒れる。
彼の刺された箇所からは赤い血が周囲へと広がって行き、血の海を作り出した。
刺された箇所は心臓部・・・・即死だった。
「なっ・・・そんな」
アヤネは仲間を刺した存在を見て驚愕する。
その人物は先程ナツミが首を刎ね飛ばした人形だったのだ。地に落ちた首は何時の間にか元通りに治っており、まるで何事もなかったかのようだ。
「アヤネさん! こいつ等・・・っ!?」
声に反応して視線を向けると、倒した筈の人形達の損傷は修復されていき、再び立ち上がって来ているのだ。
「こいつ等、不死身なのか!」
「そういう事だ」
ホセは気味の悪い笑みを浮かべながらアヤネ達の反応を見て楽しむ。
「こいつらは魔力で形成された人形。魔力が切れるその時まで延々と戦い続ける」
宝石に注がれている魔力が肉体を作り出している為、首が刎ねられようが、例え五体すべてが吹き飛ぼうが宝石から魔力が放出され再び肉体を再構築する仕組みなのだ。しかし、核となる宝石自体を破壊すれば人形はもう復活しないのだが、それをわざわざ敵に教える筈もない。
ましてや、此処にいる皆は宝石自体が変容したと思っている為、核となる物が存在していること自体に気付いていないのだ。
「くっ! とにかくホセを捕らえろ!」
アヤネの激励に答える様、警察達はホセ目掛けて発砲をする。
しかし、人形が盾の様に展開して銃弾を受け止める。
「くそ、近づけん!」
ホセまでの道筋が中々切り開けない警察達。
だが、別方向からの支援が加わった。
「魔力砲!!」
タクミの放った魔力砲が人形共を飲み込んでいく。
「今だッ!!」
タクミの掛け声にアヤネとナツミの二人がホセへと接近する。
「そいつは恐らく〝転送〟の個性使いです! 気を付けてください!」
タクミの言葉を聴きながら、ナツミは双剣を、そしてアヤネは警棒に魔力を込めて攻めかかる。
だが、ホセは二人の攻撃を紙一重で回避していく。
「チィッ!」
「くそ、ちょこまかと!」
二人の猛攻を避け続けるホセ、その光景を遠巻きに見ていたタクミが遠距離攻撃を仕掛けようとするが、ケシキが妨害して思う様に援護できない。
「ぐっ! お前も目を覚ませ!」
拳と拳でぶつかり合う二人、そんな二人から離れた場所ではミサキとレンは起き上がって来る人形を相手取っている。
「こいつ等、何度も起き上がって来て!」
「くっ・・・」
レンとミサキの二人も恐れも疲弊も知らない人形に骨を折っていた。
「このぉッ!」
「おっと!」
ナツミの斬撃を回避しながら逆に蹴りを入れて吹き飛ばすホセ。
さらにアヤネの警棒を蹴り上げて弾き飛ばす。
「ぐっ!」
アヤネは武器が手元から離れた瞬間、後ろへと跳んで拳銃で応戦しようと銃を抜こうとしたが、その時、ホセはアヤネに向かって行かず、逆に距離を取った。
「!・・・喰らえ!!」
――ドンッドンッドンッ!!――
ホセはアヤネの放った銃弾を全て回避し、そして――――
――ブオォッ!――
「なっ!?」
背後から迫るナツミの斬撃を振り向くことも無く頭を下げて回避する。
気配を殺しての不意打ちであったにも関わらず、この男はアヤネから目を離す事も無く、ナツミを視界に入れずに攻撃を避けたのだ。
まさか振り向かずに避けられるとは思わなかったナツミは一瞬硬直、その隙を突いてホセの蹴りがナツミの側頭部へと叩き込まれる。
「あうッ!?」
地面を滑りながら飛ばされるナツミ。
その光景を見てアヤネは不審に思う。
「(おかしい・・・)」
先程この男は自分が銃を引き抜こうとする初動を見せる前から距離を置いていた。ぎりぎり銃弾に対応できそうな距離まで。それに今の彼女の攻撃、視界へと入れることなく回避していた。
まるで・・・・・攻撃が来ることが分かっていたかのような・・・・・。
それに、感じたのだ。自分から距離を置く直前、目の前の男の魔力の質が個性魔法の使い手の物に変化していた事に。
「(まさか、コイツの個性は・・・・・)」