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第百十四話 爆破使いの再来

 学園の帰り道、タクミとミサキはアナハイムからの話を思い返しながら、自分たちが直面した文房具店前での戦いの事を思い返していた。

 理性を失い、狂気に身を焦がして暴れ続けた男を自分は止めた。しかし、あれと同じ事件が今このE地区内で他でも起きていると思うと、二人の仲の不安は濃くなっていく。特に、実際にその事件をこの目で見た二人は尚更であった。


 ――きゅっ・・・――

 「・・・・・」


 タクミの隣を歩いていたミサキは彼の手を握った。

 タクミはそんな彼女の手を優しく握り返す。


 「大丈夫・・・」

 

 タクミはミサキに落ち着いた声でそう語り掛ける。

 彼女が不安を感じるならば、それを取り払う事が自分の役目だ。


 「この事件は魔法警察も動き始めている。それに、うちの学園の様に他の学園や場所でも注意を促しているらしいし」

 「うん、だから大丈夫だと私も分かっているんだけど・・・」

 「それに、もしもの時は俺がミサキを守るよ」


 ――ぽんぽんっ――


 ミサキの不安を拭ってあげようと、彼女の頭を優しく撫でてあげるタクミ。

 ミサキはタクミのその温かな手を嬉しそうに受け入れた。



 ――「随分べたべたするわね、こんな人目のある場所で」――


 「「!!??」」


 突然背後から自分たちへと投げかけられたその言葉。

 二人はその言葉、いや、その声を聞いてすぐに背後を振り返り、身構えた。


 知っているのだ・・・自分たちはこの声の主を・・・・・。


 「お前は・・・!?」

 「な、何で・・・!?」


 二人の視線の先に映る人物、それは信じられない物を映し出している様にすら感じた。

 タクミとミサキ、二人に声を掛けて来た人物は、この二人にとって因縁深い一人の女性であった。


 「命がけの激闘を超え、そこに強い愛情が芽生え、少年と少女は幸せに暮らしましたと・・・さ・・・」


 女性はそう一人で語りながら、タクミとミサキの元へと数歩近づき、立ち止まる。


 「久しぶりね、黒川ミサキ・・・そして、久藍タクミ」


 二人の前に現れた人物、それは、タクミとミサキそれぞれが死闘を繰り広げた爆破使いの魔法使い・・・・・河川レイヤーであった。






 E地区内ですでに自分のうわさが広がっている暗夜ホセ。

 彼は自分を捜索している警察官の横を通り過ぎて行く。彼の被害にあった者は全てが昏睡状態のため、今ここにいるこの男が一連の事件の首謀者であるということに気付いていないのだ。


 「そろそろ魔力が溜まった。あともう少し・・・もう少しで・・・」


 ホセは一人言を呟きながら、この地区を徘徊していた。






 「ミサキ、下がれ!!」


 タクミはミサキのことをかばう様に彼女を後ろへ下がらせ、彼女の前に立つ。

 全身から魔力を解放してレイヤーを睨み付けるタクミ。ミサキも厳しい目をしながら炎を発生させる。

 予想外の人物の突然の出現に最大限まで警戒をしながら、迎え撃つ準備を整えた二人であったが、それに対してレイヤーはめんどくさそうな顔をしている。


 「あー、はいはい、心配しなくてもアンタたちとやり合う気はないわよ」

 「!・・・どういう事だ?」


 レイヤーの自分たちへと向ける態度に違和感を感じるタクミ。

 目の前の女を信用している訳ではないが、目の前の女からは確かに殺気がまるで感じられなかった。

 そこへ、ミサキが彼女へ質問をする。


 「どうして、あなたが今ここに・・・」

 「別に不思議でもないでしょ? アンタを狙った事件は世間では公表された訳でもないし・・・それに、あの時あんたが止めを刺したわけでもないでしょ」


 確かにミサキは亡き姉、センナと共に戦い彼女に勝利はしたが、自分は止めを刺さなかった。だが、この時ミサキは彼女はセンナに止めを刺されていたと思っていたのだ。現に彼女は金沢を始末している。


 だが、あの時センナは彼女に止めを刺さなかったのだ。


 「ところでエクス・・・いや、センナは今どうなった?」 

 「!・・・・・お姉ちゃんは」

 「死んだみたいね。生きているならそんな言いよどむわけないし」

 「!・・・っ」


 レイヤーの言葉にミサキが唇を噛んだ。

 そんな彼女の姿を見て、タクミがレイヤーを睨み付ける。


 「お前・・・一体何をしに現れた?」

 「今話題にしたセンナが生きているならどうしているのか聞きたかったのよ。そこの妹ちゃんに」

 

 レイヤーはミサキのことを見ながらそう言った。

 

 「そして、さっきも言ったけどアンタたちとやり合う気はないわ。もちろん、そこの黒川ミサキのことももうどうでもいいわ」

 「・・・その理由は」

 「アンタたちなら情報いっているんでしょ? 私たちの最大の目的が魔法そのものの消失であったことは。でも、その魔法が使えるリーダーもアンタが生きている以上死んだんでしょ。 報道がない以上捕まった訳ではなさそうだし・・・・・」

 「ああ・・・死んだというよりは自らの魔法の反動で消えた、が正しいが」

 「・・・そう」


 レイヤーはタクミの言葉に一瞬だけどこか寂しげな瞳をしたが、すぐに元に戻る。

 

 「まあそういう事よ、魔法を消すことが出来る人物が消えた今、もう私が彼女を狙う理由も無いって事よ。アンタたちの前に現れたのは本当にセンナの情報を持っているかどうか知りたかっただけだから」

 

 そう言うと、レイヤーは二人に背を向けた。

 余りにも不用心すぎるその姿にタクミは思わず彼女に声を掛けて呼び止めてしまった。


 「無防備すぎやしないか? そんな風に後ろを見せて、俺が不意を突いて来たらどうする気だ?」

 「アンタがそんな卑劣なこと出来るのかしら? ましてやそこにいる自分の女の前で・・・」

 「・・・・・・」


 タクミは自分にその気が無い事を看破され、少しばつの悪そうな表情をする。

 そんなタクミの姿に、レイヤーはけらけらと笑った。


 「まあ精々お幸せに、お二人さん」


 そう言ってレイヤーはその場から立ち去らうとするが、そこへ今度はミサキが彼女を呼び止めた。


 「あ、あの・・・」

 「も~、今度は何よ?」


 レイヤーは煩わしく思いながらも律儀にミサキへと振り返ってくれた。


 「あなたは・・・その、魔法を消す為に、動いていたんだよね? どうして・・・そうしようとしたの?」

 「・・・・・・」


 レイヤーはミサキにそう問われ、数瞬の間黙り込み、口を開いた。


 「色々あったのよ・・・これまでの私の人生の中でね・・・・・」


 そう言ってレイヤーはミサキに背を向けて歩き出す。

 二人は彼女のことを止めるべきだと分かっていながらも、どこか寂し気な背中をしている彼女のことをこれ以上引き留めることが出来なかった。

 



 レイヤーが立ち去った後、タクミはミサキの身を心配した。


 「大丈夫だったか、ミサキ?」

 「大丈夫だよ・・・少し、いやかなり驚いたけど」


 無理もないだろう。過去に自分の命を狙っていた人物が目の前に現れたのだ。

 

 「あの人も、お姉ちゃんの様に魔法で辛い思いをしたのかな」

 「え?」

 「私を狙っていた理由はあくまで魔法を消す魔法を発動させる為、私が憎かったわけではないから。あの人も・・・魔法で苦しんできた道を歩んだのかなって」

 「・・・・・」


 ミサキのその疑問はレイヤー本人しか解らないことだろう。

 だが、ミサキに質問をされ、立ち去って行った彼女の後姿は確かにどこか寂しげに見えていた。



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