第百十一話 広まり出す魔道具
大会終了後の熱も収まった頃、タクミとミサキは二人で並んで歩いていた。
今日一日の学園も終わり、タクミとミサキは二人で仲良く下校していたのだ。恋人同士の二人っきりのこの状況に、二人は嬉しそうな顔をしながら何気ない会話をしている。
「あっ、そうだ。この後ノート切れたから買いに行くけど、ミサキはどうする」
「私も付き合うよ。何か買いたい物あるかもだし・・・一緒に居たいし」
「・・・・・」
ミサキの言葉に嬉しそうな表情のタクミ。
今日もこの二人はラブラブであった。
ちなみにこの二人が付き合っているという事実はクラス内にすでに広まっていた。
『えっ! 久藍君と黒川さん付き合っているの!!』
『そうそう、だからちょっかい出したらダメだよ』
『え~、私、実は久藍君のこと狙っていたのに』
クラス内でレンがタクミとミサキの二人の関係を笑顔で話していた。
タクミへと告白しようとしていた女子がいた為、レンがこの事実を暴露して防いだのだ。
とても清々しい笑顔で・・・・・。
そして、クラス内で二人が真っ赤になったのは言うまでもない。
そして、目的の文房具店へと辿り着いた二人。
タクミたちが店の中へと足を踏み入れると、店内にはちらほらと人が見られる。
「え~と、ノート、ノート・・・っと」
店内を物色するタクミ。ミサキもその後ろについて行く。
その頃、店内の外では――――
「うわあっ! やめろぉッ!!」
「どうしたんだよ!?」
「うがぁッ!!!」
タクミ達が入った文房具店の外では三人の青年が何やら揉めていた。
いや、揉め事というのは少し語弊があるだろう。なにしろ三人の内、暴れているのは一人で、残り二人はそれを諌めようとしているのだから。
「おおおおおッ!?」
――ドゴォンッ!――
青年は地面に拳を思いっきり叩き付ける。
魔力の籠った拳は地面に亀裂を走らせる!
「うおおおッ!?」
「何だこの威力!?」
青年の魔力が自分たちの知っている物とは段違いに上がっている事に驚きを表す二人。
そして、青年は自分を止めようとしていた友人二人を殴り飛ばした。
――バギィッ!!――
――ドゴォッ!!――
殴り飛ばされた友人二人はぴくぴくと仰向けとなり痙攣している。
周囲で様子を窺っていた通行人達も悲鳴を上げながらこの場から逃げて行く。
「ごおおおおおッ!?」
青年は獣の様な咆哮を上げ、魔力を辺りへとまき散らす。
「「!!」」
店内で買い物をしていたタクミとミサキ。
だが、二人の表情は穏やかなものから一変した。
「ミサキ・・・」
「うん、このお店の外から・・・」
タクミとミサキは店の出入り口に目を向ける。
他の客達も異常を感じ取り、二人と同様外へと意識を傾けだした。
その時――――
――ガシャアアアアアアンッ!――
入り口がけたたましい音を立てて崩壊した。
そして、そこに外で暴れまわっていた青年が店の中へと侵入した。
「ふうー、ふうー・・・」
荒々しい息遣いと共に入って来た青年は到底まともとは言い難いものであった。
目は充血し、極度の興奮状態。さらには辺りに威圧を与えるかのような魔力の開放。
「うわわっ!」
「お、おい誰か!」
店内の人々はまともではないその青年を怖れ、店の奥へと逃げて行く。
「おい従業員! なんとかしろよ!!」
「え・・・えっと!?」
従業員に対処を任せようとする客達。
しかし、従業員も青年に怖れを抱き、近づくことが出来ないのだ。
そんな中、銀色の少年が動き出す。
「ミサキ、後ろに居る人達のことを頼む」
タクミは魔力を解放し、理性の飛んでいる青年へと歩みを進める。
「タクミ君、気をつけて」
ミサキの言葉にタクミは軽く手を振って答える。
「うごごごごごッ!?」
「さて、少しおとなしくしてもらうぞ」
「があッ!?」
青年は魔力を込めた右腕をタクミに振るう。
だが・・・・・。
――がしぃっ――
タクミは青年の拳を受け止め、逆に彼を殴り飛ばす。
――バキィッ!――
「おごっ!?」
その強烈な一撃に吹き飛ばされる青年。
そのまま勢いよく青年の体は店の外まで吹き飛んでいく。
タクミは吹き飛ばした青年の後を追って外へと飛び出す。
店の外まで殴り飛ばされた青年は殴られた箇所を擦り、その場で立ち上がる。
彼の目の前には自分を殴り飛ばした銀色の少年がこちらを警戒して見ていた。
「うぐぐ・・・ぎゃあッ!?」
奇声を上げながら右腕に大量の魔力を集約したストレートパンチを放つ青年。
対するタクミは右腕に金色のオーラを纏わせ、それを硬質化する。
「≪黄金籠手≫!」
両者の拳がぶつかり合い、そのまま数秒間押し合う。
だが、優劣はすぐについた。
「ハアアアアッ!!!」
タクミの強化した拳は青年の拳を力づくで押しのけ、そのまま青年の肉体へと叩き込んでやった。
「だりゃッ!」
――ドゴオオオンッ!!――
殴り飛ばされた青年は空中で数回転しながら地面へと激突し、その体が二、三度バウンドしていった。
「・・・・・・」
青年は白目を剥きながらそのまま起き上がって来る気配がない。
どうやら気を失った様だ。
「ふう・・・」
ひとまず決着がついた事でほっと胸を撫で下ろすタクミ。
しかし、一応警戒をしながらタクミは不意を突かれぬよう肉体を魔力で強化した状態のまま、慎重に近づいて行く。
倒れて動こうとしない青年を調べる。この男、どう考えてもまともな状態ではなかった。言葉も獣の様なうめき声だけしか口からは発せず、理性の無い獣の様だった。
「いったい何が・・・ん?」
タクミが青年を調べていると、青年の腕には何やら黒ずんだ痣の様な物が見つかった。
「痣・・・これは関係ないか? でも・・・」
何故だかこの痣が気になったタクミ。痣というよりは黒く変色している様にも見えたからだ。
それから他にも調べていると、青年の胸ポケットに何かが入っていた。それは、黒く染まっている宝石であった。
「・・・・・これは、宝石か?」
タクミはそれを手に持ってまじまじと見る。
しかし、少し不気味ではあるが特別何かを感じるわけでもない。
「取り合えず、まずは警察だな」
少なくともこれは立派な器物破損罪だろう。
それに、戦いが終わって冷静に辺りを見回すと、暴れまわっていた青年と同じくらいの年齢の青年が二人転がっていた。
「これはプラス傷害罪かな・・・?」
タクミは素早く携帯を取り出し警察へと連絡。その後、警察が来る間、倒れている青年二人からまずは事情を聞き出せないかと彼らの安否の確認を行った。
そこへ、店の中に居たミサキも戦闘が終わったことが分かり、小走りでタクミの元まで走って来た。
人の気配がないE地区内の森林の中、宝石に模した怪しげな魔道具を売り歩く男が木々に背を預けて持ち運んでいる宝石の一つを取り出して眺めていた。
男が眺めていた宝石は綺麗な色をしていたが、突然変色し始めた。
その色はどす黒い汚らしい色へと変わった。
「へへへ・・・・」
男はその宝石を眺めながら不気味に笑っていた。