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第百十話 力を求めて・・・

今回、外伝のストーリーも絡んでいます。

 E地区内にある魔法警察署、そこでは星川アヤネが今、この地区内で発生しているある事件について捜査をしていた。その事件の内容は、魔法使いによる暴走行為であった。ここ最近、この地区内で魔法使いの暴徒が出現しているのだ。しかし、これらはただの暴徒ではなかった。

 この者達にはある共通点が存在した。それは腕にある黒い痣、そして、何やらどす黒い色をした宝石であった。


 「何者かに操られているのか?」


 手元の資料を見ながらアヤネはそう推察する。

 ただの暴徒がこのような共通となる部分が存在するとも思えない。

 現在彼女は別の警察署へと赴いていた。E地区内には複数の魔法警察署が在る為、広い範囲でこの地区内を見守っているのだ。


 「星川さん、少しいいでしょうか」

 「?、はい」

 「以前頼まれていた件、J地区から来た少女についての情報が入りました」

 「! 本当ですか」


 アヤネに話しかけて来たのはこの警察署の署員。実は彼女、今回の一件とは別にある事についての情報を集めていたのだ。それは自分と同じ先輩の刑事、名は睡無マミと呼ばれる女性に一人の少女についての情報を集める事に協力していたのだ。

 つい最近、自分がかつて居たJ地区方面から一人の少女がこのE地区へとやって来た。布きれ一枚だけを身に纏い別地区までやって来たのだ。その少女について関連のあると思しき情報を集めていた。


 「実はJ地区で非人道的実験や研究を行っている魔法研究所が存在し、J地区の魔法警察の手により研究所は壊滅できたのですが、その際に二人の人物がその場所から消えていた様です」

 「その内の一人が調査していた少女だと・・・」

 「はい、少女の名は通称『ツー』・・・彼女はどうにも生物兵器・・・らしいんです」

 「!・・・・詳しく教えてもらえますか?」


 こうしてアヤネはその署員から彼女についての情報を聞き、その情報を同僚の先輩、睡無マミへと送った。


 「もしもし、睡無さん」

 「あら、もしもし、星川さんね」


 電話越しから先輩の落ち着いている雰囲気を感じる声が聴こえてくる。


 「実は例の少女についての情報が入りました」

 「本当?」

 「はい、その少女、恐らく~~~~」


 アヤネはマミにその少女についての情報を報告する。

 それを聞き電話相手のマミから驚きの声が聴こえてくる。


 「そう・・・分かったわ、有難う星川さん!」


 話が終わると彼女からお礼の言葉を述べられ、通話が切れる。

 電話を仕舞うと彼女は再び現在この地区内で多発しているこの暴徒事件について手元の資料を見ながら調べ始める。


 アヤネは知らないだろうがこの時、マミに報告したツーと呼ばれる少女は一人の小さな魔法少女に救われていた・・・たった今話をしていた睡無マミの娘、睡無マナに。

 しかし、それはまた別の話だ・・・・・。






 「魔力の強化を促す魔道具?」

 「はい、こちらの宝石は持ち主の魔力を引き出し、より魔法使いとしての成長を促してくれるのです」


 アタラシス学園の帰り、帰宅最中のケシキは怪しげな男に呼び止められ、彼の紹介する魔道具を見ていた。見た感じではそれは宝石の様にも見える。


 「どうです? よろしければお一つ」

 「いらねえ」


 ケシキはそう言って突っぱねるとそのまま歩き出して行った。

 しかし男はケシキの後ろをついて行き、なおも彼にその魔道具を勧める。


 「まあまあそう邪険にせず・・・」

 「そんな怪しげな物、買う気はないね」

 「心配せずとも値段はたったの五百円です」

 「違う、値段云々以前に怪しさマックスだってんだよ」


 そう言ってケシキは男の方を見ることなく拒否する。

 だが、次の男の一言でケシキの態度が変わった。


 「貴方・・・自分の強さに自信を持てないのではないですか?」

 「あ?」


 ケシキは不機嫌そうな声を上げながら振り向き、男のことを見る。

 その瞳にはわずかな怒りを感じ取れた。


 「この魔道具一つで貴方は今よりも輝くことが出来ます」 

 「・・・・・・」

 「一度試すだけでも価値はあると思いますが・・・・・」


 そう言って男はケシキに魔道具の宝石を差し出した。

 ケシキはそれを手渡され、少し複雑そうな顔をしながらその怪しげな光を放つ宝石を受け取った。

 受け取って・・・しまった。




 風紀委員の一員であるケシキの姉、夏野ナツミ。

 彼女は風紀委員としての一日の仕事を終え、帰宅をしている最中であった。

 すると、進路の前方に見知った人物が佇んでいた。


 「ケシキ・・・何しているのかしら?」


 視線の先に居る人物は弟のケシキであった。

 彼はその場で佇んでいた。そんな弟にナツミが声を掛ける。


 「ケシキじゃない。何をしているの?」

 「! 姉貴・・・」


 背後から声を掛けて来たナツミに一瞬ケシキは驚いた顔をしたが、すぐに普段の表情へと戻る。


 「どうかしたのかしら? こんな場所でぼーっとして」 

 「いや、なんでもねえよ・・・」


 ケシキはそう言って再び足を動かし始めた。

 同じ家に住んでいる兄弟の為、ナツミも彼の隣に並んで歩き出す。


 「・・・・・」


 どうにも隣に居る弟からいつもの覇気を感じられない。

 いがみあってばかりいるとはいえ、血の繋がっている兄弟。ナツミは改めてケシキに何があったのかを確認した。


 「どうしたの本当に・・・あなた、様子が変よ」

 「なんでもねぇってっ!」


 ケシキは強めにそう言うと、速足で家へと帰って行く。

 そんな後ろ姿を見てナツミは不満げな顔をした。


 「なんなのよ・・・」




 「・・・・・」

 

 ケシキは何処か苛立ちながら早歩きで自宅へと向かっていた。

 その際、彼のポケットの中には――――綺麗な宝石が一つ入っていた。






 その頃、学園の放課後、第一訓練場ではマサトが拳を宙へと放っていた。

 その際、マサトから放たれる魔力は・・・個性魔法の使い手が宿す物へと質が変わっていた。


 ――ビキィィッ!!――


 マサトが放った拳は何もない筈の空中へと亀裂を入れていく。

 それを見て、供に訓練をしていたメイが小さく拍手した。


 「凄い、マサト君! もう随分と個性魔法を使いこなせるようになって来たね」

 「ああ、だがまだまだだな。そっちはどうだ?」

 「私も新しい技が完成したよ。まだ完全ではないけど」


 第一訓練場ではマサトとメイが互いの個性を伸ばしていた。

 特にマサトは個性の力に目覚めたばかりの為、それを完全にコントロールを一日でも早く出来るようになるために。

 そして、再びマサトは訓練を再開した。


 自らの力を高める為に訓練をして己を高める二人。

 成長をする為にはこのように汗を流して訓練に勤しむ事が何よりと言えるだろう。しかし、力に対してより強く執着している者の中には、危険な力へと手を出してしまう者もいる。


 特に、すぐにでも強くなることを望んで力を得たいと考えている者は・・・・・。






 ケシキは自宅に帰ってきた後、自分の部屋で購入した魔道具を手に取って眺めていた。


 「・・・・・・」


 綺麗な、しかし怪しげな光を放つ宝石。

 彼はそれを見つめながらしばらくの間、自らの部屋に籠っていた。



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