第百九話 怪しげな魔道具
〝クラス別魔法戦闘〟が終わって翌日の学園、タクミは万全な体調となったその体で学園を目指して歩いていた。その途中、ミサキやレンとも合流していつもの様に三人仲良く登校し、自分たちのクラスへと入るが・・・・・。
「おはよ・・って、うわ!」
教室に入ると同時に大勢の生徒がタクミたちへと詰め寄って来たのだ。
一緒に居るミサキとレンも同様に驚いている。
一体何事だろうと思っていると、一番前へと出ているクラスメイトの一人がタクミの肩を軽く叩いた。
「お前凄かったぜ昨日は! 負けはしたがちょっと感動したぜ!!」
「えっ、お、おお・・・」
タクミに賞賛の言葉を送るクラスメイト。
そして、彼を皮ぎりに他のクラスメイト達も次々に三人へと話し掛けていく。
「黒川さんも凄かったよ!」
「赤咲さん、自爆なんてよくするね・・・でも、体張っていて感動した!」
次々と雪崩れてくクラスメイトたちにタクミは苦笑しながら答えていく。
ミサキは賞賛の言葉に少し照れており、対するレンは自慢げな顔をしていた。
「何だ何だ?」
「す、すごい人だかり・・・」
そして、残りの選手であった二人、マサトとメイもやって来た。
二人に登場で、タクミたちへと集まっていた皆は彼らの方へと身を寄せて来た。
「おお、津田! お前昨日はよくあそこまで踏ん張っていたな!」
「八神さんも凄く頑張っていたよ!」
集結して来たクラスメイト達に戸惑う二人。
こうして、クラスの興奮は担任のチユリが来るまで沈まなかった・・・・・。
そして、一年Cクラス・・・・・。
こちらでも昨日の大会の熱に当てられたクラスメイト達が選手として戦っていたハクたちとの会話に盛り上がっていた。しかし、その場に居た選手の内、ヒビキだけはまだ登校していなかった。
そして――――
「あ・・・・」
クラスメイトの一人が小さな声を漏らす。
教室の扉が開き、選手の最後、桜田ヒビキがやって来たのだ。
彼がやって来たことで、騒がしかったクラスの雰囲気は静まり、彼はそのまま自分の席へと着く。
「・・・・・」
ヒビキは鞄を置き、そこから本を取り出す。
そこへ、共に選手として戦ったハクが近づき、挨拶をする。
「さ、桜田君、おはよう」
ヒビキに挨拶するハクの姿に皆は無駄な事をと思う。
どうせ邪険に扱われてしまうのに・・・・・。
「・・・・・」
「え・・えっと・・・」
ヒビキは手元の本から視線をハクへと移し――――。
「・・・・おはよう」
そう一言、彼女へと挨拶を返してくれた。
「え・・・?」
ヒビキが挨拶を返してくれた事にハクは思わず固まってしまった。
それは遠巻きで様子を窺っていたクラスの皆も同じであった。
「「「「(あの桜田(君)が素直に挨拶をした!?)」」」」
今までクラスの皆を邪険にしていた男が素直に挨拶を返してきたという事実にクラス内は静かに驚愕をする。
一瞬硬直してしまったハクであったが、すぐにその表情は明るくなった。ようやく彼とまともなやり取りを出来たのだ。そしてそれにアクアも便乗しようと声を掛けた。
「なによ・・・アンタが挨拶を返すなんて・・・」
「ふん・・・」
ヒビキは小さく鼻を鳴らすと手元の本に視線を戻した。
そして、それに続き他のクラスメイトも何人かヒビキへと声を掛けた。
「さ、桜田君・・・その、昨日の大会、す、凄かったね」
「ああ・・・その、お前が強いとは分かっていたけど、想像以上だったぜ」
ヒビキは一瞬視線を彼らへと向け、再び本へと視線を戻す。
だが、その際――――
「・・・・・別に、騒ぐほどでもない」
不器用な言葉ながらも、再び言葉を返してくれた。
その際、褒められて照れているのだろうか、彼の頬は少し赤く染まっていた。
「「「(おお・・・)」」」
微かに頬を染めたヒビキのその姿に女子連中は僅かに色めきだつ。
今まで冷淡な態度ばかり取っていたため、皆、彼に対して苦手意識が強かったのだが、元は女性受けのよさそうな美少年。更に、普段とは違う一面に強いギャップを感じ、それがまたヒビキに対して新鮮さを感じさせた。
「・・・アンタ、本当に桜田?」
「・・・うるさい」
アクアの言葉に短くそう返すヒビキ。
彼は赤くなっている顔を隠す為、本を閉じてそっぽを向いた。
そして、Cクラス教室の前ではムラクモが扉の陰で様子を窺っていた。
その顔はとても冷めた物であり、彼女はヒビキのことをつまらなそうに眺めていた。
「ふ~ん、意外だな~」
教室でアクアの言葉に対して頬を染めているヒビキは以前からは明らかに想像が出来ないものだ。
「僕と同類と思ったけど・・・勘違いだったかな」
ムラクモは自分の髪の毛の毛先をいじくりながら呟く。
その顔には一切の表情がなかった。
「・・・・・まあ、いいや。少し残念だけど――――」
――強い人間には変わらないから・・・その強みを利用すればいいや――
E地区の街中、そこではこの地区を守っている魔法警察の数人が一人の男を取り押さえていた。
つい先程まで、この場所ではこの男と魔法警察の数人による戦闘が行われていた。その内、一人の警察が犠牲となり、犯行を行った犯人は今は取り押さえられていた。
「コイツのこの腕の痣・・・これは」
「ああ、こいつもだ・・・」
取り押さえられ、気を失っている犯人の男の腕には何やら奇妙な黒い痣が出来ていた。
「これで三件目、コイツも〝アレ〟に手を出したんだ」
その頃、一人の男がE地区の別の場所で一人の青年と話をしていた。
見たところ、青年は十九、二十歳といったところだろう。対して、彼に話しかけている男は三十台後半といった容姿をしている。
その男は青年に話をしながら何かを手渡していた。
それは・・・見た感じでは綺麗な宝石の様に見えた。
「おお・・・これが魔力強化の魔道具か。確かに凄い魔力を感じる。本当にこれ、たったの五百円でいいの?」
「ええ、構いません。数回しか使えない使い捨てタイプですからね」
「ウン千ウン万円するならともかく、五百円なら安いもんだ」
青年が購入したこれは魔力を強化する魔道具。
ここ最近、青年の知り合いもこれを購入して自らの魔法を伸ばしていた。彼はその友人を経由してこの男からこの品物を予約していたのだ。
少しうさん臭くもあるが、友人が強くなった事と、そして良心的な値段にためらいなく購入する青年。
ポケットの中に購入した品物をしまい込む青年。
そのまま彼はこの場を離れて行った。
「へへ・・・毎度」
離れて行く青年のことを怪しげな笑みで見送る男。
彼は再び場所を移す。新たな購入者を探す為に・・・・・。
そして、その男はしばらく歩くと、一人の少年に目を付けた。
「みっけ、彼も力を欲しているようだな」
男の視線の先に居たのは、アタラシス学園の生徒である夏野ケシキであった。
「ちょっといいですか?」
「あっ・・・何だ?」
突然話し掛けて来た怪しげな男に不審そうな顔をするケシキ。
男はいやらしい笑みと共に、懐から取り出した魔道具を彼に勧め始めた・・・・・。