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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
二学期 クラス対抗戦編
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第百六話 解放

 繰り広げられる激戦、タクミとヒビキは互いに血を流しながらぶつかり合う。

 そして、彼らは互いの拳にそれぞれ意思を込めて殴りあっていた。


 「お前の本心を聞かせて見ろ!!」


 ――バキィッ!――


 タクミの拳がヒビキの顔に刺さる。


 「俺の本心などすでに話し終わっている!」


 ――ゲシィッ!――


 ヒビキの蹴りがタクミの腹へと突き刺さる。


 「ふう・・ふう・・」

 「・・・・・・」


 ヒビキは蹴り飛ばしたタクミの姿を黙って見つめる。その心中は普段の冷静さとはかけ離れていた。


 「(コイツ・・・何故、まだ動ける!)」


 魔力もほとんど絞りつくし、頭部と背中からは大量の出血、全身にもいくつも傷が見られる。対する自分は確かに中々疲弊してはいるが目の前の男ほどではない。だが、眼前の何度も立ち上がるこの男は別だ。まるで疲労も痛覚も存在していないが如くにことごとく自分の前へと立ちはだかる。


 「気に入らない・・・」


 そして、勝負の最中、まるで自分を諭そうとしている言動はヒビキの神経をどこまでも逆なでさせる。

 そして・・・再び銀色の少年は立ち上がる。


 血を流し過ぎた為、意識も薄れていく中、それでも彼は立ち上がった。


 「何がそこまでお前をそうさせる・・・?」

 

 ヒビキは目の前の少年が立ち上がる理由が分からなかった。この大会に対する勝利への渇望だけではない。この男は他にも何かが駆り立てているとしか思えない。


 「何故倒れようとしない。何度も何度も立ち上がり・・・」

 「はあ・・はあ・・」

 「っ・・・何故だ!!」


 ヒビキが苛立ちを含んだ声でタクミへと問いかける。

 それに対し、タクミは息を切らせながら答えた。


 「託されているからだ・・・そして、お前の考えを否定する為だ」

 「何・・・」

 「俺は、お前の言うような他者を切り捨てる様な考えを否定する。だから、ここでお前に負けるわけにはいかないんだよ」


 タクミの答えを聴いたヒビキはより一層怒りを募らせた。


 「くだらないなッ! そんな理由で「そんな理由さ!!!」・・っ!?」


 タクミはヒビキの言葉に割り込んで大声で答える。

 

 「俺が立ち上がり戦う理由はそんなありきたりな物さ! だが、それでいいんだ!! そんな人間臭い理由で今、俺はお前と戦っている!! 俺の過ごしてきたこれまでを否定されたくないから!! そして――――」


 タクミは薄れゆく意識の中、強い火が宿った瞳でヒビキを見る。


 「お前の目を覚まさせてやるためでもある!!」

 「は・・はぁ?」


 ヒビキは理解できないといった顔をしてタクミを見る。

 そんな彼の表情を見て、タクミは一瞬、悲しそうな顔をする。


 「分からないのか?・・・お前は、殻に閉じこもっているという事が・・・冷たい氷の殻に閉じこもり、外との交流を遮断している。その中でお前は眠り続けている・・・目を覚ませよ桜田ヒビキ! お前にだって多くの友や仲間を作ることが出来るんだぞ!!!」


 ――ギリィッ!――


 タクミの言葉にヒビキは歯を食いしばった。


 ――何が分かる――


 俺の過去など何も知らないくせに・・・俺の苦悩など何も知らないくせに・・・言いたいことばかり言いやがって・・・ッ!!!


 ヒビキは両腕をタクミに向かって構え、魔力を溜め始める。

 この耳障りな言葉をこれ以上聴かなくてもいいようにする為に!


 「最大限の魔力砲だッ!! これでその耳障りな言葉も聴かなくて済む!!!」

 ――ブオオオオオオオオッ!!!――


 ヒビキの手の平には凄まじい魔力が溜まっていく。

 それに対抗する為、タクミもまた手の平へと魔力を溜める。


 二人の手の中へと魔力が溜まり切り、両者はそれを同時に解き放った!


 「魔力砲ッ!!!!」

 「≪金色魔力砲≫ッ!!!!」


 両者の放つ砲撃がぶつかり合い、押し合いを始める。


 ――ブアアアアアアアアアアアアアッッ!!――


 両者の砲撃がぶつかり合い、周囲の地面や石の建物には亀裂が入って行き、土煙が巻き起こる。


 「ぐぐぐぐぐぐぐっ!!」

 「どうした! 大層な口を利いていた割には押されているぞ!!」


 ヒビキのその言葉の通り、ぶつかり合う魔力はヒビキが上回っており、タクミの体が押されている。

 ただでさえ満身創痍の状態のタクミ、その上、出血も多く、血を流し過ぎ彼の意識も薄れている。


 「う・・ぐ・・ぐぅッ!」

 「もう・・・終われよ!!!」


 ――ズアアアアアアアアアッ!!――


 ヒビキの魔力砲の威力がさらに上昇し、タクミの体は徐々に押されていく。タクミの砲撃を飲み込み、あと一歩っといったところまでタクミは追い込まれる。 

 そして――――


 「あ・・・・」


 タクミの魔力が、ついに底を尽きた・・・・・。


 「(これで・・・終わり?)」






 保健室、そこでは氷漬けにされていたミサキが治療を受けていた。彼女がここに運ばれてから、ビョウや他の教師達の手によって助け出され、今はベッドの上で安静にしていた。その近くには共に戦ったレン、マサト、メイの三人も傍に付いていた。

 そして、彼女たちは保健室から映し出されている魔法陣越しに映る仲間、タクミのことを見守っていた。


 「タクミ君・・・!」


 ヒビキと最後の勝負を行っている彼の姿を、ミサキは両手を握り、祈るように彼を応援していた。他の三人もタクミの奮闘に手を握りしめて、彼に声援を送っていた。


 「タクミ・・・気張れよッ・・・!」

 

 マサトが・・・・・・。


 「タクミ君、ミサキの仇、討ってあげてよ!」


 レンが・・・・・・。


 「頑張ってくださいっ・・・!」


 メイが・・・・・・。


 そして――――


 「タクミ君・・・頑張れッ!!!」


 最愛の人、ミサキが彼の勝利を願う。

 そして、その想いは彼の心へと届いていた・・・・・。






 「!・・・ああ、分かってるよ」


 タクミは小さく笑みを浮かべながら呟いた。

 確かに聴こえた・・・空間の異なる場所に居る彼女たちの声が聞こえる筈もないのに・・・。だが、彼の耳には聞こえずとも、心の中には染み込んできた。温かく、そして安心できる仲間達の声が・・・。


 「大丈夫だ・・・まだやれる」

 「?・・・何をぶつぶつ言っている!?」


 一人でぶつぶつと言っているタクミに怪訝な顔をしながら問いかけるヒビキ。

 その言葉にタクミは笑って答えた。


 「仲間たちが応援してくれたんだよ!!」


 その時、タクミの魔力が凄まじい程に辺り一面へと吹き荒れ、魔力砲も力強いものとなる。


 「!?、何だと!!」


 もう限界ぎりぎりまで迫っていたタクミから放たれる魔力の量に驚愕を示すヒビキ。

 こんな馬鹿な事がある筈がないと内心で叫ぶヒビキ。この男は何故どんなに傷ついても抗ってくるのか・・・。


 「お前は・・・一体?」

 「別にどこの誰という訳でもない・・・友達の居る普通の一般人さ・・・」

 ――バシュウゥゥゥゥゥゥゥッッ!!――

 「ぐううっ!?」


 タクミの魔力砲がヒビキの魔力を押し返し、逆に今度はヒビキが押され始める。


 「何故だっ! どうしてこんな死にぞこないから・・・こんなッ!?」

 「今の全てを否定するお前には分からないだろうな」

 「なに!?」


 タクミはヒビキに目を向ける。 

 その瞳はまるで・・・可哀想な物を見るかのような、沈痛な表情と目をしていた。


 「今、この場には確かに仲間達の皆は存在しない。だが・・・この俺の心にはみんなの存在が強く在る。そして、その事が俺にいくらでも力を分け与えてくれる」

 「・・・!」

 「空になった魔力も体力も、心の奥底に居る皆の声援でいくらでも沸き上がって行くんだ!!」


 タクミの魔力が更に上昇して行く。

 

 「そんな、馬鹿な!!」

 

 目の前で起きている現象にヒビキは唇を震わせた。

 それは・・・一つの想いから出た反応であった。



 ――認めたくない・・・――


 それは・・・ヒビキの心の声であった。

 これこそが・・・彼の本心。


 「(俺だって・・・昔は・・・でも、人は他人を受け入れはしない!!!)」


 ヒビキは魔力砲に限界まで魔力を送り込み、タクミと拮抗する。

 負けるわけにはいかない! この残酷な世界で生きる人間を知っているからこそ、自分は目に前に居るくだらない理想論を語る男には負けるわけにはいかない。


 「人はッ! 他人はッ!! 信じるだけ無駄な存在・・・!?」


 その時、ヒビキは自分の目を疑った。

 彼の視線の先には、自分と戦っているタクミと・・・他のAクラスの四人の姿が見えた様に錯覚したのだ。


 「(ああ・・そうか)」


 ヒビキはこの場に居る筈もないタクミの仲間達の姿を見て、何かを悟ったかの様な顔をした。


 「(久藍タクミだけじゃない・・・コイツの仲間は全員、コイツ同様の馬鹿だったんだな)」


 この場に現れたミサキ、レン、マサト、メイの幻想の姿を見てそれが分かった。・・・分かってしまったのだ・・・・・。


 「もしも・・・かつての俺の傍にもお前の仲間達の様な連中が居れば・・・」 

 「お前の過去は知らない・・・だけど――――」


 タクミはヒビキの目を見て彼に告げた。


 「〝昔〟は違えど、〝今〟のお前には俺の仲間達の様な者達が居るんじゃないのか?」

 「!・・・ふっ」


 タクミの言葉にヒビキは小さく笑った。

 


 そして、ヒビキの姿はタクミの砲撃へと呑まれていった・・・・・・。

 しかし、魔力に包まれる直前、ヒビキの表情はまるで何かから解放されたかのような穏やかな笑みを浮かべていた。



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