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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
二学期 クラス対抗戦編
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第百四話 否定する!!!

 氷の竜を強固な拳で粉々に粉砕したタクミ。

 しかしその背後からは、鋭利な刃物の様な形状の氷を腕に纏わせたヒビキが差し迫っており、そして、氷の刃をタクミの無防備な背中に向かい振るい、斬り付けた!


 ――斬ッ!!!――


 ヒビキが腕を振り終えて数瞬後、タクミは背中にスーっとした涼しさを感じ、その後、焼ける様な熱さと痛みを感じて来た。


 ――斬られた――


 背中から感じるその感覚に自分がヒビキに斬られた事を認識するタクミ。

 だが、彼はそのことで大きく慌てようとはしなかった。むしろその逆、この瞬間の状況を利用したのだ。

 

 「(この瞬間、今しかない!!)」


 タクミは斬られた事に動揺や弱みを見せず、確実に背後に居るヒビキに流れる様に振り返りながら、攻撃を繰り出した!


 「≪ゴッドハンドォッ≫!!!」

 ――バキィィィィィィッ!――

 「がぁ!? 何だと!?」


 勝負の最中、確実に相手を仕留めたと思ったその瞬間、自分の勝利が手に入った事により気が抜けてしまう事は決して珍しくは無い。だが、逆に言えば自分がやられる事を覚悟していれば強烈なカウンターによる一撃を与えることが出来る事もある。

 

 そう、今の様に・・・・・。


 「もう一撃ィッ!!」

 ――ドスッ!!――

 「グゥッ!!!」


 鈍い痛みを感じながら、タクミの即時反撃に驚いているヒビキ。

 だが、彼もいつまでも驚いてばかりではない。三発目まで入れられてたまるものかと前方に氷の壁、≪氷壁≫を発生させる。

 

 「ちぃッ!」


 タクミの三発目の拳は氷の壁により阻まれ防がれた。

 そして、拳が空振りしたその後、背中に感じる痛みと熱さに膝を崩した。


 「くぅ・・・はあ・・はあ・・」


 背中から流れる彼の血が、地面に落ちて行き、その個所を赤く染め上げる。

 そして、氷の壁から姿を現したヒビキはタクミのその姿に彼に向かって敗北を宣告する。


 「中々深く切り裂く感触がこの腕から感じた。もう降りた方がいいぞ」

 「誰・・・が・・・!」

 「そうか・・・・」


 ヒビキはそれ以上は何も語らず、周囲に大量の氷の結晶を作り出していく。

 

 「ならば、俺が引導を渡してやる」

 「まだだ・・・ミサキ達が、皆が懸命に戦い、そして散って行ったにも関わらず、この程度で引き下がれるか・・・!」

 

 タクミのその言葉にヒビキは小さくため息を吐いた。


 「お前は俺と同種の化け物と以前言っていたよな。そんな俺とお前の実力が決定的に違う理由が分かるか?」

 「・・・・・」

 「それは・・・他者との馴れ合いだよ」

 「何・・・?」


 ヒビキは周囲に尚も氷の結晶を生産しながらも、話を続けていく。


 「自分以外の誰かに信頼を寄せ、友情を育み、それを財産とするからその力を完全に見出すことが出来なかったんだよ」

 「・・・・・・」

 「全てを捨てきれず、中途半端な生き方をしているから、そこまで腐敗して行くんだ」

 「・・・・か」

 「?」


 ヒビキの言葉にタクミが小さな声で何かを呟いた。

 声が小さかったため、うまく聞き取れなかったヒビキ。そんな彼に対してタクミは先程よりも大きな声でヒビキに問いかけた。


 「本気で言っているのか?」

 「何・・・・?」


 タクミから投げかけられる言葉にヒビキは怪訝な顔をする。

 タクミは地面に小さな血溜りを作りながらも立ち上がり、ヒビキの目を見て語り始める。


 「中途半端・・・その通りだ。俺は寄り道ばかりをして生きている。だがな、それは魔法使い以前に人には大事な物であると俺は信じている。己の進んでいく道には誰も居らず、たった一人で歩き続けていく。そんなの・・・・・寂し過ぎるじゃないか」

 

 タクミはヒビキの考えを否定しながら、己の思うべき人としての生き方を語る。


 「それに・・・俺はミサキと、レンと、マサトと、メイと、・・・もっと多くの者達と触れ合ってきたからこそ成長できた。皆との出会いが無ければ、今の俺は存在しない」

 「・・・・・」

 「だから、声を大に言わせてもらう!」


 タクミはヒビキに指を突き付けながら、彼の考えを全力で否定する!


 「お前の考えは、生き方は俺は正しいとは思わない!!誰の手も借りず、己だけしか信じられない人間が俺の生き方を否定するなッ!!!」


 銀色の少年は叫んだ。

 お前の生き方は正しくはないと、間違っていると・・・。


 「・・・・・何が分かる」

 「え・・・?」

 「お前は人の心でも読めるのか? そうじゃないんだろ・・・だったら、何故他人を信頼できる・・・?」




 『この化け物!!』

 『才能に恵まれているあなたに何が分かるのよ!?』

 『ひぃっ、許してください!!』




 罵倒され、妬まれ、恐れられ、自分を同じ人間ではなく化け物の様に見てくる。

 幼き頃、周囲の向けてくる視線はそんな類の物ばかりであった。誰も・・・自分のことを〝人間〟として見てくれない。


 実の・・・両親ですら・・・・・。


 「お前は上辺だけの言葉に惑わされているだけだ!!」


 ヒビキは周囲に展開させている結晶をタクミに向かい放っていく!

 タクミは大量の出血で意識が薄れながらも、それをその場で弾きながら言葉を続けていく。


 「上辺だけ!? お前は周りを見ようとしないからそう思いがちなだけだ!! お前だって心を許せる相手が一人も居ない訳じゃないんだろ!!!」


 所々に結晶により傷が付けられていきながらも彼は目の前の少年の心へ訴えかける。

 だが、彼の言葉はより一層ヒビキを苛立たせた。


 「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


 ヒビキは両腕に魔力を纏い、タクミへと跳躍して行った。

 タクミは薄れている意識の中、迫り来るヒビキに対して構える。


 「お前のその考えを否定してやるよ! 今、この場ですり潰してなぁぁッ!!」

 「だったらこの勝負、尚更負けるわけにはいかないな! お前に俺の生き方を間違いだなんて言わせるか!!」

 ――ガシィィィィィンッ!!――


 タクミとヒビキの拳がぶつかり合い、周囲に衝撃が走る。

 

 仲間と供に歩み、強くなっていった少年。

 他者を否定して、強くなっていった少年。


 対極とも言える様な生き方を貫いてきた二人の少年。自分の進んできた道を貫き、相手の生き方が誤っている事を証明するべく、残りの全てを絞り出す。魔力も、体力も、気力も・・・・・。


 激しくぶつかり合う二人の少年たちから聞こえてくる打撃音と叫び声。

 

 「お前の様な甘い理想論主義者にぃぃぃぃッ!!!」

 「お前の全てを否定する生き方、それそのものを俺は否定する!!!」 


 ――ばぎぃぃぃぃぃぃッ!!!――


 互いの頬に拳を突き立てながら、少年たち吠える!






 アタラシス学園、一年生行事〝クラス別魔法戦闘〟。 

 二十五名居た選手は残りたったの三人までとなっていた。六十分有った制限時間もついに二ケタの十分を切っており、各クラス、特に生き残っているA、B、Cの三クラスの生徒達は手に汗握りながら、この大会の結末を見守っていた。




 「≪ゴッドハンドッ≫!!!」

 「舐めるなぁッ! ≪氷壁≫!!!」


 ぶつかり合うAクラスとCクラス。




 「ん・・・あそこから魔力を感じる」


 そこから離れた場所から二人の少年の衝突を感じ取るBクラス。


 いよいよ、大会も終了間近・・・・・・。



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