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魔法ができてしまったこの世界で  作者: 銀色の侍
二学期 クラス対抗戦編
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第百一話 個性の兆し

 片足を貫かれ、そして体には多くの傷、両の手はぼろぼろとまさに満身創痍のマサト。しかし、その闘志は未だ衰えず、穴の開いた足でしっかりと立っている。


 「なんで・・・」


 そんな彼を見て目の前の少年、カケルは疑問の言葉を口にする。

 もう立っているだけで限界の筈、どう考えてもこれ以上の戦いは不毛なものとしか思えない。しかし、彼はまだまだ戦う気でいる。

 

 「なんで立つの・・・もう・・限界でしょ?」

 「ああ、脚は痛むわ、魔力もそろそろ底をつくわ、体力も限界に近いは・・・ははっ、まさに満身創痍ってやつだわ」

 「なら・・・」

 「でもよぉ」


 カケルの言葉を遮りマサトは彼を見据えて自分が立ち続ける理由を答える。


 「託されてるんだよ・・・」

 「!・・・そっか」


 たった一言、だが、カケルはその一言だけで理解できた。


 ――ああ、そうか。彼は自分と同じなんだ――


 今、自分がここに立っている理由もそうだ。彼女から、シグレから託されていたからここに立っているのではないか。


 『なあ、カケル・・・託してしまってもいいのか?』


 彼女のそんな願いに自分は頷いて答えた。

 だからこそ、自分は今、ここで目の前の少年と戦っている。そして、それは彼も同じだ。


 「ん・・・じゃあ無理やり退場させる!」


 カケルの周囲に凄まじい魔力が吹き荒れ、マサトから冷や汗が流れる。

 今の状況、正直言って勝ち目がまるで見えてこない。瀕死の自分に対し、相手の白猫はほとんどダメージもなく、魔力にもまだ余裕を感じられる。

 しかも、仮に万全な状態でも自分には決定的な有効打を与える魔法が存在しない。自分が使える魔法は基本的なものばかりだ。


 「(くそ・・・俺にも個性魔法があれば・・・!!)」


 相手の使用しているものと同じ個性の力。

 もし、自分にもそんな特殊なものがあればこの戦況も一変できるかもしれないのに・・・。

 しかし、無い物ねだりをしても仕方がない。マサトは拳を握り、構えを取った。


 「≪デリートランス≫・・・」

 「なっ!?」


 カケルの作り出した槍を見てマサトの表情が引きつる。

 それは槍の大きさであった。今までの物の三倍・・・もしかしたらそれ以上の大きさの槍が彼の頭上へと形成されているのだ。


 「これでっ!」


 空中の槍はカケルの力により勢いよくマサトへと向かって行く。

 マサトは拳を握り、迫り来る槍に拳を突き立てた!!


 「オオオオオオオオッ!!!」


 たとえ無駄だと分かっていても、マサトは最後のその時まで抗う事をやめず、眼前に迫る脅威へと向かって行く。


 その時、マサトの魔力に変化が表れる。


 ――ガシャァァァァァァァンッッ!!――


 「え・・・?」


 カケルから気の抜けた様な声が漏れた。

 渾身の魔力を注いだ消滅の槍、例え目の前の少年が万全の状態であったとしても防げるとも思えない。しかし、その一撃を彼は〝砕いた〟のだ。拳を叩き付けられた槍はまるでガラス細工のように粉々となり辺りへと散らばる。

 

 そして何より気になるのは、彼から感じる魔力の質が変化していた事だ。


 「この魔力・・・まさか」

 「ぐ・・・何が・・・・」


 マサト本人は自分が何をしたのか分かっておらず、今の一撃で全ての魔力を使い果たし倒れ込む。

 そして、マサトの体がこの空間から消えて行った。


 ――Aクラス生徒一名脱落しました、残り人数四名です――


 消えて行ったマサトの居た場所を見つめながらカケルは小さな声で呟いた。


 「今の彼から感じた魔力の質は・・・個性魔法の・・・・」






 魔力が枯渇し、意識を失ったマサト。それに加え彼の肉体のダメージは凄まじいものであり、保健室へと運び込まれたマサトは今も目覚めてはいなかった。

 そんな彼の傍にはメイが心配そうな顔をしながら付いていた。マサトがこの保健室へ運び込まれてきたことが分かると、教室からここまですぐに駆けつけて来たのだ。魔法陣からの映像からでも彼のダメージが深刻なものであることがよく分かったのだ。


 「マサト君・・・」


 ベッドの上で眠っているマサトの手をきゅっと握るメイ。

 そこへまだ保健室へととどまっていたレンが声を掛ける。


 「大丈夫だよメイさん。外傷はほとんど治療済み、あとは魔力さえ回復すれば目を覚ますよ」

 「うん・・・」

 

 レンの言葉を聞きつつも、彼の手を握る続けるメイ。

 そんな彼女を見ていてレンは小さく笑みを浮かべた。


 「(タクミ君とミサキの時も思ったけど、やっぱりいいな、こういう関係って・・・)」


 年頃の少年と少女が深い絆で結ばれる。レンにもやはりこういうことに関する興味心はある。故に、普段はからかっているが、それと同時に憧れているのだ。もし、いつか自分にもミサキやメイの様な理想の人物が現れてくれたら・・・などと考えながら、マサトの手を優しく、そして決して離さぬように握り続けるメイの後ろ姿を眺めていた。


 「ふふ・・・ラブラブね、貴方たち♪」 


 マサトとメイを見ながらビョウが笑って言った。

 そんな彼女にレンも乗って、いつもの様な反応を取り出した。


 「そうなんですよ~、なにせ幼馴染カップルですからね、この二人♪」

 「あらあら」

 「レ、レンさん! そ、そうゆう事はあまり公には・・・!」


 自分の事をからかってくる二人に顔を紅くして戸惑うメイ。

 そんな初々しい反応にレンはますます調子に乗ってからかって来た。


 「(でもやっぱり、こうしてちょっかい掛けるのはやめられないなぁ~♪)」


 レンは内心そんな事を思いながら、目の前であたふたする友人の反応を楽しみ、堪能していたのだった。

 そしてまた、そんな二人のやり取りをビョウはニコニコと笑いながら見ていた。






 「マサト君・・・」

 

 その頃、タクミが居るであろう場所に向かっていたミサキは足を止めた。

 自分をタクミの元まで送り出してくれた友人の脱落にミサキは一瞬悲痛そうな顔をするが、すぐに頭を振って、タクミの元へと再び走り始めた。マサトはわざわざ自分のことをタクミの元まで送り出してくれたのだ。にも拘らず、悲しみにとらわれ立ち止まってはマサトに顔向けできないではないか。


 「タクミ君・・・!」


 ミサキは脚に魔力を込め、走り続ける。

 そして、強大な魔力がぶつかり合う場所に徐々に近づいてきたミサキ。

 そこへ――――


 「ぐわあッ!!」


 ――ズザアァァァァァァッ――


 ミサキのすぐ近くにタクミが吹き飛んできた。


 「タクミ君!?」

 「いつ・・・ミサキ!」

 

 吹き飛ばされた着地地点にミサキが居たことに驚くタクミ。

 ミサキの前に居るタクミは見慣れている銀髪ではなく、金色のそれも長髪となった姿をしていた。


 「タクミ君、その姿は・・・」

 「ああ、訓練の時に見せていた俺の奥の手だ。だが・・・」


 タクミは視線を目の前へと固定しながらミサキに話す。

 そして、タクミの飛んできた方向から一直線に強大な魔力が近づいて来ている。


 「ミサキ、少し離れていろ」


 ミサキにこの場から離れるように促すタクミだが、彼女は首を横に振った。


 「もう、タクミ君。私だって代表の一人だよ。そんなに心配ばかりしていないで少しは頼って」

 「ミサキ・・・そうだよな」


 その通りだ、彼女だって代表の一人としてここに居るのだ。

 ならば、ここはこう言うべきだろう。


 「ミサキ・・・力を貸してくれ」

 「うん・・・・・」


 二人はともに肩を並べ、迫り来る魔力の持ち主、氷の魔法使いを待ち受けた。


 

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