第百話 意地
ついに百話まできました!!これからもお付き合いよろしくお願いします!!
Aクラス、マサト対Bクラス、カケル。
カケルは馬鹿正直に突っ込んでくるマサト目掛けて大量の羽根を飛ばす。
マサトは両腕を強化、そして羽根を打ち落としながら前進して行く。
「ぐう・・ぐっ!」
しかし、カケルの羽根は消滅の性質を宿している為、いくら魔力で腕を覆っているとはいえ少しずつだがダメージが手に残っていく。
そんな痛みに僅かに顔が歪むマサトであったが、それを承知の上で前進しているのだ。
ここにくるまでマサトもかなりの消耗をしている。カケルのこの広範囲型の攻撃をただ避け続けるだけでは先にこちらがガス欠となりかねない。
「魔力砲!はああああああッ!!」
魔力砲の砲撃により向かい来る羽根を一掃するマサト。
そのまま脚へと魔力を注ぎ、最大速度でカケル目掛けて走り出す。
「≪デリートランス≫展開」
カケルの周囲に大量の消滅の槍が展開される。
「ん・・・行って」
大量の消滅の槍がマサトへと勢いよく飛んでくる!
「うおおおおおおおおおおおッ!!!」
弾く、弾く!弾く!!
迫り来る無数の槍を弾きながら突き進むマサト。
彼の手は出血し、槍を触れたその手は焼ける様な熱さと痛みが襲ってくる。
「ぐぅうううっ!!」
しかし、彼は速度は落ちても立ち止まらない。
ここで引けばもう勝ち目など絶対に訪れはしない事が分かる以上、脚を止められるはずがない。
「ん・・・これで!!」
しかし、カケルは空中だけでなく、手の中にも一本の槍を作り出す。その槍の形状は通常よりも細長く、そしてカケルは魔力で強化した腕でその槍を勢いよく投擲した。
――ざすッ・・・――
「が!・・・う・・!」
周囲の槍だけで手一杯であったマサトはその一撃を回避できず・・・・・・。
「しま・・・・った」
マサトの右足へとその槍が突き刺さった。
肉を貫き、更には消滅の力が宿っているその槍は刺さっている箇所の肉を消滅の魔力が侵し、マサトの右足に傷だらけの両手とは比較にならない激痛が与えられる。
「がぁッ!ぐ、がああ・・・!?」
マサトはその場で膝を付いてしまう。
彼もこれまで痛みを何度も経験して生きてきたが、今回の痛みはかつてなく強烈なものであった。
「(いってぇ!いてぇ・・・いっってぇなぁ!畜生!!)」
地面に膝を付いたマサトを見ながらカケルは降伏宣言を進めた。
「ん・・・もう降参して治療した方が良い」
「はっ・・・舐めんじゃねぇ!」
そう言うとマサトは脚に突き刺さる槍に手を掛ける。
そして――――
「うぐぐ・・・・!」
その槍を引き抜こうと力を入れる。
槍を持つと消滅の力が掴んでいる手を痛めつけて来るが、そんなものより足に突き刺さっている今の状態の方がよほど痛いのだ。
「ぐ・・・ああッ!」
――ズ・・・グジュッ・・・――
嫌な音を響かせながら足から少しずつ抜けていく槍。
そして、マサトは一度深呼吸をすると、勢いよくそれを引き抜いた。
――ズボォッ!――
引き抜いた槍を放り捨てるマサト。
余りにも痛々しい様子に、攻撃をしたカケル本人も苦い表情をしている。
マサトは大量の汗を掻きながら、貫かれ穴の開いた右足をかばう様に立ち上がる。
「ぜぇぜぇ・・・」
「もういいでしょ」
カケルは満身創痍なマサトにそう言った。
いくらなんでももう勝負が決っしている相手にこれ以上の攻撃をするのは躊躇ってしまう。
もっとも・・・それが許し難い存在ならば、この少年は悪魔の様に振る舞うのだが・・・。
しかし、目の前の相手は唯の学生、そんな相手にこれ以上鞭打つのは気が進まない。
だが、マサトは汗だくになりながらも、不敵な笑みを浮かべながら言った。
「はっ!片足潰したくらいで勝ったつもりかよ!まだまだだぜ!!」
立ち上がるマサトを見てカケルは戸惑う。
通常であれば立つことすらできる筈がない、にも拘らず、目の前の少年は自分の足でたしかに立っている。
「(何で・・・立てるの?)」
カケルが理解できないのは無理もないだろう。
そう、これは唯のやせ我慢。本当は今すぐにでも膝を折ってしまいたい衝動に駆られながらも、意地と根性だけでマサトは立ち上がったのだ。
「(ははっ・・・何をしてるんだ俺は)」
くだらない意地など張らず、素直にリタイアすればこの足も治療されるだろうに・・・・・。
『二人共・・・・頑張って』
思い出すのはメイのその言葉、それに小さくマサトは笑った。
「(惚れた女にそう言われたからだろうなぁ・・・俺も馬鹿だよな)」
マサトは残り全ての魔力を使い、肉体を強化する。
未だに闘志が衰える事のないマサトにカケルは思わず後ずさった。
それは・・・恐怖からくる行動であった。
そんなカケルにマサトは不敵な笑みを浮かべ、大声で言った。
「いくぜ白猫!最後の悪あがきを見せてやらぁッ!!」
片足を封じられ、傷だらけの少年。
だが・・・その目はまるで死んでいなかった。