第九十九話 タクミVSヒビキ
一年Aクラス、その教室内は全員息を吞んで魔法陣に映る光景を眺めている。
彼らの視線に映る二人の選手として戦う生徒、その戦いにこの場、否、この魔法陣の先に映る光景を見ている生徒達の大部分が目を離せないでいた。
「すごい・・・」
誰かがぽつりとそう呟いた。
それはこの光景を目に映している者達、全員の代弁であった。
魔法陣のその先では――――
――ドォンッ!――
二人の少年の蹴りが交差し、放たれる魔力の余波が辺りへと響く。
冷気を宿した少年は腕を氷で覆う。しかも、ただ覆われているだけでなく、まるで鋭利な刃物の様に鋭く尖っており、目の前の金色に輝く少年目掛けて連続で突く。
「≪ゴッドハンド≫」
両腕が金色の輝き、凄まじい魔力を秘めた金色の少年の両腕が氷の手刀を的確に捌き、致命傷を避けていく。そして、金色の少年も光り輝く拳を目の前の相手へと叩き付ける。
「≪氷壁≫」
――ガァァァァンッ!――
分厚い氷の壁により、金色の少年の拳は防がれる。
そして、その壁の後ろで冷気を操る少年は氷の竜を造形する。
「≪アイスドラゴン≫」
氷の竜が上空へと飛び立ち、眼下に居る金色の少年に口から魔力による光線を放つ。
しかし、少年はその攻撃を上空へと一気に跳躍して回避。さらに、一瞬で魔力を手に溜め、特大の砲撃を氷の竜目掛けて放つ。
「≪金色魔力砲≫!!」
――ボシュウウウウウウウウウウゥゥッ!!――
金色の特大砲撃が竜を飲み込んでいき、一瞬で消滅させる。
しかし、金色の少年の上空に冷気を纏う少年が上空から蹴りを叩き入れた。
――ドガァンッ!――
勢いよく地上へと落下して行く金色の少年。
しかし、地上に叩き付けられる直前に空中で一回転して体制を立て直し、足を魔力で強化して地面に着地する。
「!!」
地面着地後、すぐに真横へと跳躍する少年。
そして、その直後に今まで少年が居た場所に魔力による砲撃が通過した。
「流石に避けるか・・・」
冷気を纏う少年の放った魔力砲を間一髪で回避した金色の少年。
彼は背後に居た少年へと向き合うと、一気に跳躍する。余りの速さにその少年の姿が魔法陣越しの生徒達の大半には消えたかの様に見えた。
だが、目の前の冷気を纏う少年は、迫り来る少年に負けず劣らず同等の速度で迎え撃った。
――ぶおおおおおおおおおっ!!――
両者の拳が、蹴りが、魔法が高速で行き来する。
そして――――
「「魔力砲!!!」」
二人が超至近距離で同時に魔力砲を放つ!
――バシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!――
互いの砲撃がぶつかり合い、二人の少年は勢いよく後方へと身を投げ出された。
だが、二人は空中で互いに一回転し、華麗に地上へと着地する。
「「ふう・・・・」」
二人の少年、久藍タクミ、桜田ヒビキは同時に一つ息を吐く。
両者互いに一歩も譲らない互角の勝負。そして・・・この大会中、最も激しい戦いでもあった。
「・・・・やはりだ」
「?」
ここまでほとんど会話がなかった二人であったが、両者動きが止まったこの時、ヒビキが口を開いた。
「お前はやはり俺と同種だったな。まさかこの状態の俺とここまで拮抗するとはな」
「お互い様さ、これまで俺も色々な魔法使いと戦い続けてきたが、間違いなくお前は過去の戦歴を遡っても一番だと言える」
「ふん・・・それはどうも」
ヒビキは小さく鼻を鳴らすと、再び魔力をたぎらせる。
それに反応しタクミも大量の魔力を放出する。
「準備運動はここまででいいだろう」
――ドォンッ!――
一瞬でタクミの眼前に移動し終わるヒビキ。
そして流れるようにタクミの顔面に手をかざす。
「魔力砲」
――ブオオォォォォォォォォッ!――
かざされた片腕から魔力砲を放つヒビキ。
本来魔力砲は複数人で放つ技。単独で放つだけでも中々に難易度が高いにもかかわらず、彼はそれを片手で無造作に撃ってきた。
しかし、タクミは身をかがめてその攻撃を回避していた。
「ちぃッ!」
タクミは魔力で強化した拳を連続でヒビキに放つ
「≪金色百裂拳≫!!」
凄まじい速度で振るわれる一撃一撃が必殺の拳。
しかし、ヒビキはそれを全て見切り、逆にカウンターをタクミの頬に決める。
「ぐっ!」
僅かに吹き飛ばされ、すぐに前を向くタクミだが――――
「!、ぐううううッ!?」
眼前には大口を開けた氷の竜、≪アイスドラゴン≫がタクミに牙を向けていた。
――がちぃぃぃぃんッ!――
開いていた口をタクミに噛みつこうと勢いよく閉じた竜。
しかし、タクミは脚に魔力を集中し、その場から一気に跳躍して離れる。
「こっちだ」
「!、だりゃッ!!」
タクミに平行するようにヒビキはすぐ横で移動していた。
タクミは魔力弾を放つが、それを片手で弾くヒビキ。逆に魔力砲を片手でタクミに放つ。
「ハアッ!!」
タクミは跳躍により空中にいる状態で、思いっきり片足で大地を蹴り、方向転換する。その結果、ヒビキの放った魔力砲は明後日の方向へと向かって行った。
「ふう・・・・」
何とか回避できたことで一息つくタクミ。
ヒビキはその場で立ち止まり、再びタクミと向かい合う。
「(強い!・・・最初の戦いはアイツにとっては本当に準備運動だったようだな)」
僅かに傾き始める戦況。
しかし、この時タクミはそんな危機的状況に焦りや不安だけでなく――――
「燃えて来た・・・!」
この戦いをどこか楽しんでいた。
その頃、ミサキとマサトの二人は移動をしていた。
二人が目指している場所は強力な魔力がぶつかり合っている場所、つまりタクミとヒビキが現在戦っている所であった。
タクミが戦っている相手は離れている自分たちでも分かる程、とてつもなく大きなものだ。いくらタクミとはいえ必ず勝てるとは言えない。そもそも勝負に絶対などは有り得ない。不条理な事の連続、思い通りにいかないことがセオリーとも言える。
「!、おい、ミサキ!」
「うん、分かっている!」
二人は揃って足を止める。
二人が立ち止まり、彼らの前方方面から一匹の白猫が現れる。
そう、戦いは不自由の連続、だからこそ、速く仲間の元へと急ぎたい二人の前に別の存在が介入だってしてくる。
「ん・・・見つけた」
「あいつ・・・Bクラスの・・・」
特徴的な猫を模した格好のため、マサトはカケルの事を印象深く覚えている。
そして、学院長の報告では残っているクラスは三クラス。総勢五人のはずだ。
つまり、彼はBクラス最後の砦。
「ミサキ、お前は行け。アイツとは俺がやるからよ」
「マサト君」
「アイツのクラスで残っているのはアイツだけだ。だからだろうな・・・どことなくアイツの目が覚悟が決まっている様に見えるのはよ・・・ああいう奴は手ごわいもんだ」
目の前の少年から感じる見た目とは正反対の大きな威圧感。
ミサキと二人がかりでも正直勝てるかは分からない。ならば、ここは自分が食い止め、ミサキをタクミの元へと向かわせる。タクミが現在戦っている者も相当な強さだ。ここで二人倒れる位ならミサキをタクミと合流させた方が良いと判断したのだ。
「それに・・・お前だってアイツの助けに行きたいはずだ」
「・・・・・」
「行けよ」
マサトの言葉にミサキは小さく頷くと、タクミの元へと走る。
カケルはそんな彼女に手は出さず、マサトに意識を集中していた。
「何だ、アイツは見逃してくれるのか?」
「違う・・・油断していたらキミに勝てないかもしれないから後に回す」
「そうかいッ!!」
その言葉と共に、マサトはカケルへと走って行った。
それに対し、カケルの背から白く美しい翼が生えた。




