第九十七話 一矢報いる!
――ガキィィィィィンッ!!――
マサトとミサキがCクラスの二人相手に奮戦している頃、他のAクラス、赤咲レンは別クラス、Bクラスの神保シグレと戦っていた。
「こんのぉッ!!」
――ぶおぉぉんッ!――
レンの振り回すハンマーをシグレは紙一重で回避する。
ハンマーの風圧により顔をしかめるシグレ、攻撃を回避した直後に手に握る刀を振るう彼女。
「あぶなっ!?」
「逃がさん!!」
シグレはその場で腰を落とし、刀を構えると連続で振るう。
すると、シグレの振るわれた刀からは魔力による斬撃がレン目掛けて飛んでくる。
「なぁ!斬撃を飛ばしてきた!?」
「魔力弾の応用だ。腕ではなく刀に魔力を宿し、その塊を――――」
シグレは大きく刀を振りかぶり、それを勢いよく振り下ろす!
すると、巨大な帯状の斬撃がレンへと迫る。
「くっ!こんのぉぉぉぉぉッッ!!」
――ガシィィィィィィィィィィィンッ!!――
自前のハンマーを振りかぶり、それを勢いよく飛んできた斬撃へと叩き付ける。
「うぐぐぐぐぐぐっ!だあッ!!」
――バシィィィィィィンッ!――
何とかハンマーに魔力を込め、それにより発生する衝撃を利用し斬撃を弾き飛ばす事が出来たレン。
だが、斬撃を目隠しにし、レンのその背後にシグレがいつの間にか回り込んでいた。
「ハアッ!」
――ザシィンッ!――
「あぐぅ!?」
シグレの飛ぶ斬撃がレンの体に直撃する。
帯状の魔力が肉体へとぶつかり、レンは一瞬呼吸が出来なくなる。
そして、そんなレンにシグレは立続けに遠距離から魔力による斬撃を飛ばし続けた。
「く、そ・・・こんのぉ!」
レンはハンマーを回転させ斬撃を防ぐが、徐々に押されていく。
しかも、レンの体には直撃は背後からの一撃だけしか受けていないが、飛ばされ続ける斬撃が体を掠め、徐々に体力も奪われ、肉体にもダメージが蓄積されていく。
「(これ、やばいなぁ・・・)」
内心でそう呟くレン。
マサトたちとは違い、こちらの戦況ではレンが押されていた。
「このままじゃじり貧だな、よしッ!!」
レンは腹をくくる。
このまま耐え続けていても負けは決まる。
「だったらぁ!!」
レンはハンマーを回転させながら、シグレへとまっすぐ前進して行った。
「無理は承知で突き進め!!」
「!・・・なるほどな!」
レンは所々に受ける斬撃によるダメージを歯を食いしばって耐えながら、先に自分が力尽きる前に勝負を決めようと突き進む。
レンの玉砕覚悟とも言えるような特攻にシグレは一瞬驚きもしたが、すぐに冷静さを取り戻し対処にあたる。
「はあああああああッ!!」
シグレは刀を振るう腕に魔力を集め、刀を振るう速度を高める。
それにより、レン目掛けて飛んで来る斬撃の量が倍増した。
「(何て手数!でもここで引いたらただダメージを増やしただけ!!)」
レンは斬撃による痛みに耐えながら、進む速度を一切落とす事なくシグレへと向かって行く。
さすがにその鬼気迫る様子にシグレも僅かに気圧されてしまう。
そして・・・ついに彼女のすぐ目前まで迫るレン。シグレは刀を振ることを止め、刀に魔力を溜め始める。
「(奴の攻撃を紙一重で回避、そして鋭い一撃により切り捨てる!!)」
シグレの刀を握る手には僅かに汗がにじむ。
そして、ハンマーを振りかぶるレン。
「(こい!)」
シグレは目を見開き、ぎりぎりまで攻撃を引き付けようとした。
だが、ここでレンは予想外の手を打ってきた。
レンは――――ハンマーをシグレの目の前に放り捨てたのだ。
「なっ!?」
まさかの行動に呆気にとられるシグレ。
しかし、これこそがレンの狙いであった。
「〝インパクトハンマー〟自壊せよ!!!」
レンがそう言うと、空中に投げ出されたハンマーが突如ひび割れる。
そして――――
――カッ!!!――
ひび割れたハンマーの内側から光が漏れ始める。
「なっ!これは!?」
「一緒に吹っ飛べ!!」
――ドカアアアアアアアアアアアンッッッ!!!!――
レンのハンマーから凄まじい量の魔力が解き放たれ、強大な爆発を引き起こした。
爆発による煙が晴れ、そこには一人の少女が立っていた。
「う・・・がはっ・・・」
傷だらけの姿、着ている制服もぼろぼろとなり、立っているだけでもう限界なのか、膝を付く少女、シグレ。その隣ではレンも同じくずたぼろの姿で転がっていた。
「へへ・・・どう・・予想外・・・でしょ」
「き、貴様、正気か?」
シグレは信じられないモノを見るかのような目をしながらレンのことを見る。
レンの持つインパクトハンマーは内部に膨大な量の魔力を秘めており、その魔力と自らの魔力を合わせる事で凄まじい衝撃を発生させる事が出来るのだ。そして、そのハンマーを自壊させることで、その内部に留めてある全ての魔力を外部へと解き放ち、圧縮された魔力が一気に解き放たれ、強大な爆破現象を引き起こす事が出来るのだ。
そして彼女は自らが巻き込まれることを承知の上で爆破をした。
「正直・・・怖かったけど・・はあっはあっ・・・せめて一矢は報いたかったからね」
「・・・・・大した覚悟だ」
「はは・・・そりゃ・・・どー・・も・・」
その言葉と共にレンは瞼を下ろし、瞳を閉ざす。
「(タクミ君、ミサキ、マサト君・・・後は頼むよ)」
そして意識が闇に沈んで行き、気を失ったレン。
そんな気を失った彼女のことを横目で見るシグレ。
「やられたよ・・・さすがに、魔力で全身を覆ったとはいえ、ダメージが甚大すぎる」
シグレが自らの痛む体を押さえながらそう呟くと、隣に居るレンの体が光り、この場から退避させられる。
――Aクラス生徒一名脱落しました、残り人数七名です――
アナハイムの報告を聴きながら、その場で倒れ込むシグレ。
正直な話、彼女も限界に近かった。無理もないだろう、なにしろ至近距離で膨大な魔力の爆発を受けているのだから。
「はあ・・・はあ・・・」
豊満な胸を上下させ、呼吸をするシグレ。
その表情はとても苦しげなものであった。
すると――――
「いた・・・・」
「!・・・なんだお前か」
疲弊しているところに新たに現れた存在に一瞬身構えそうになったが、やって来た人物を見て警戒を解いたシグレ。その人物は同じく現在まで生き残った同じクラスの生徒、カケルであった。
カケルはぼろぼろなシグレの姿を確認すると、小走りで彼女の元へと走って行った。
その頃、また別の場所では二人の少年が向かい合っていた。
Aクラス、久藍タクミ。
Cクラス、桜田ヒビキ。
二人から放たれる膨大な魔力、それにより地面に亀裂が走る。
黄金の光を纏う少年と、凍てつく冷気を纏う少年。
今、この大会最大の勝負が開幕しようとしていた。
そして、二人の少年が合図はなくとも、二人は全く同じタイミングで目の前の相手へと跳躍した。
――ドオォォォォォォォォォォォンッ!!――
少年の拳のぶつかり合う音が、辺りへと響き渡った・・・・・。