第九十四話 粒ぞろい
一面白一色で覆われ、その世界の中にはタクミも居た。
眩しい光と共に、タクミは自らの肉体の異変をすぐに察知する。
タクミの中の魔力が信じられない速度でどんどん消耗していっているのだ。
いや、消耗とは自らの力を使う事で発生する現象。しかし、タクミは現在多大な魔力を消費する様な事は何も行ってはいない。
そう、これは〝消耗〟ではなく〝消失〟だ。
「(アイツの個性は〝消滅〟だ。つまりこの光は俺の魔力を内側から消滅していっている!!)」
この仮説が正しければ出鱈目な技だ。
この光を浴び続ければやがて全ての魔力が消滅していき、自分はガス欠となりリタイアするだろう。タクミは自分の置かれている状況を瞬時に把握し、現在、自分の持つ中で最強の技を発動した。
――「≪スパークル・ガーディアン・真≫!!発動!!!!」――
タクミの髪が金色へと染まり、腰に届くまでの長髪になるタクミ。
これこそが≪スパークル・ガーディアン≫の真の力、現状、タクミの切り札となる魔法である。
タクミの変化に伴い膨大な量の魔力が周囲へと吹き荒れ、カケルの魔法の力を吹き飛ばす。
「んっ、何!?」
タクミのその変化によって発生した魔力の入り混じっている突風に吹き飛ばされそうになるカケル。彼は翼を羽ばたかせて何とかその場に留まろうとする。しかし、カケルの魔法≪ホワイトライト・angel≫が完全にタクミから吹き荒れる魔力によりかき消され、力づくで魔法が解除されるカケル。
まさか力技で自分の高等魔法が阻止されるとは思っていなかったカケルの表情には珍しく焦りの色がうかがうことが出来た。
「まずっ・・・・」
「≪ゴッドハンド≫!」
タクミは魔法を発動させ、カケルへと急接近する。
カケルが放つ羽根は今の状態のタクミにはほとんど無力であった。タクミから放たれる強大なオーラにより羽根はタクミの体に当たってはいるが、突き刺さる事なく、力なく地面にひらひらと舞って地に落ちていく。
タクミの光り輝く腕が握りこぶしを造り、カケルへと振るわれる。
カケルはなんとかその一撃を回避するが、直接拳が触れてはいないが、腕に纏う魔力がカケルの頬を掠めた。
「はあっ!!」
――バキィッ!!――
「ぐ・・!?」
タクミの二撃目の拳がカケルへと振るわれる。
カケルは翼でガードするが、ガードごと吹き飛ばされるカケル。吹き飛ばされながらも翼を振るい羽根を飛ばすカケルであったが、しかし、やはりタクミには有効打を与えることが出来ない。
タクミは遠隔操作型の魔力弾を複数出現させ、それを飛ばす。それを迎撃する為、≪デリートランス≫で迎撃するカケル。
状況はタクミがどう考えても有利であった。
「・・・・仕方ない」
すると、カケルの様子が変化する。
今までとは明らかに違う怪しげな雰囲気がカケルから放たれる。
タクミはそれを敏感に察知し、その場から様子を窺う。
「この感覚・・・・何だ?」
カケルから感じる魔力が今までとは違い、どんどんどす黒くなっていくのをタクミは肌で感じていた。
そして・・・・彼が禁断の力を発動しようとした時であった。
――ズドドドドドドッ!!――
「「!?」」
二人の周囲に氷柱が降り注いできた。
二人はその場から離れ、その攻撃を回避する。
「魔力を隠していたんだが、よく避けた、まずまずの手並だ」
二人へと投げかけられる賞賛の声。
その声の発声源に顔を向ける二人。
「さて・・・・あのDクラスの女よりは楽しませてもらおうか」
現れたのはCクラスのエースである桜田ヒビキであった。
彼の姿は異質と言える容姿であった。大会開始前と違い、肌はまるで死人の様に白く染まり、髪の色も水色へと変色している。体の所々には氷の破片が張り付いている。
彼がこの場に現れた事で、周囲の温度が低下して行く。
「これは・・・・」
「寒い・・・・」
カケルは腕を擦って摩擦で暖まろうとしている。
タクミとカケルからは白い息が呼吸の度に吐き出される。この辺りの気温が低下している証拠だ。
ヒビキは目の前の二人を見定める。
「(こいつら二人同時は少し骨が折れそうだな・・・・)」
ヒビキはタクミとカケルの立っている位置から中間の位置に氷による巨大な岩壁を出現させる。
ヒビキの造り出した壁により分担された二人。そしてヒビキはタクミの方を先に対処する事にし、タクミとヒビキが向かい合った。
ヒビキの顔には薄く、本当に薄く微かなものであるが小さな笑みが浮かんでいた。それは、目の前の存在に対する興味から胸が僅かに弾んでいたからだ。この男ならば少しは自分に愉悦を感じさせてくれるかもしれないという期待感を目の前の男に対して抱いていた。
学院長室では、ローム・アナハイムが向かい合う二人の生徒、タクミとヒビキのことを興味深そうに観察していた。
「これは興味深い一戦が予測されますね」
恐らく、脱落していった生徒達には申し訳ない考え方ではあるが、この二人の一戦はここまでの戦いがまるで前座の様に扱われる程、凄まじい激戦が繰り広げられる事がアナハイムには予測できた。魔法陣越しからでも感じる強大な二つの魔力、明らかに他の代表生徒とは次元が違う力を秘めている。
「それから彼も・・・・」
アナハイムはタクミたちから視線を外し、その隣の魔法陣に映っているカケルへと視線を傾ける。
先程感じ取ったあのどす黒い魔力、かつてこのE地区で感じたことのある物であった。解き放たれた量はごく僅かな物であったが、それだけでアナハイムが気付くには十分であった。
「やれやれ、今年の一年生は中々粒ぞろいですね・・・・」
アナハイムはそう呟くと、再び魔法陣に映し出される映像すべてに気を配り始めた。