第八十二話 戦闘開始!!
九月の十七日の月曜日、ついにこの日がやって来た。
――アタラシス学園一年生による〝クラス別魔法戦闘〟の開催日だ。
この日、全校生徒の皆は自分のクラス内で待機していた。クラス内の正面の壁には魔法陣が複数貼ってあり、その一つ一つの魔法陣を通し、さまざまな視点から戦いの行方をそれぞれのクラスの生徒達は観戦できるようになっている。
クラス内の生徒達は大会の開始を今か今かと待ちわびているようだ。
そして、この大会に出場する選手達は――――
アタラシス学園グラウンド、そこに出場する各クラスの生徒達は集まっていた。それぞれのクラスの生徒達は自分のクラスの者達と固まって待機している。
それぞれのクラスの生徒達は緊張した面持ちの者達もいれば、まるで自然体で落ち着いている生徒も居る。
「(あいつらが・・・・この戦いでぶつかる連中か・・・・)」
ぱっと見た限りでも手ごわそうな輩も何人かいそうだ。そして、その中には当然あの男の存在も在った。
一年Cクラス、桜田ヒビキ。この中ではコイツが一番厄介だろう。だが他にも中々手ごわそうな者達も居る。
「(Bクラスには神保、それにあの星野も居る。それにしても・・・・)」
タクミはその中でもう一人気になる存在がいた。それはDクラスの生徒の一人である。
「(あいつ・・・・随分と桜田のことを見て、いや睨んでいるな)」
タクミの視線の先にはDクラス代表の多大センがヒビキを射殺さんばかりに鋭い視線を送っている姿が確認できた。睨まれている当の本人は至って落ち着いた様子だが。
そして、集合からしばらくすると学院長ローム・アナハイム、それとAクラス担任の花木チユリが皆の前にやって来た。
「皆さん揃っていますね、ではこれより出場選手の皆さんにこの大会のルール説明を行います」
学院長の言葉に全員が注目する。いよいよ戦いが始まるのだ・・・・・・。
「これから皆さんを我々教師陣が作り出した特殊な空間内へと転送します。各クラスの皆さんはクラスごとにそれぞれ離れた地点へと転送します。全クラスの転送が完了次第、皆さんに試合開始の合図を私が送ります。ですので、試合前に勝手な行動は慎んでください。万が一開始前に転送された場所から大きく離れて行動した場合はそのクラスは反則失格とします」
アナハイムの言葉に皆は頷いた。
生徒達の反応を確認すると、アナハイムは説明を続けていく。
「制限時間は六十分です。勝利条件はその時間内に他のクラスの生徒全てが脱落した場合、もしくは制限時間が過ぎ、タイムアップとなった際に一番多くの生徒が残っている生徒が所属しているクラスの勝利、そしてタイムアップの際に残っている生徒が同数の場合は代表者一名を選出し一対一の勝負を行ってもらいます」
アナハイムの説明を真剣に聞いていく生徒達。現段階で一番気になるのはタイムアップの際に生徒の数が同数であった場合である。その場合、一対一の代表選手による勝負で決着をつけるというもの。その場合に誰を代表に選ぶかも重要な事となって来る。
アナハイムの説明はまだ終わりではない。
「皆さんの戦いの様子は学園の教師及びクラス内の生徒の皆さんも魔法陣を通して観戦しています。そして観戦している教師の皆さんは戦いに出ている生徒の方がもう戦闘不能と判断した場合、空間内から退避させ、負傷がひどい生徒の方は保健室まで移送されます。大丈夫な方は自身のクラスへと移送されます・・・・・・以上が大まかなルール説明となりますが何か質問はありますか?」
アナハイムがそう聞くが、特にその中で質問をする者達は誰も居らず、アナハイムは傍にいるチユリに生徒達を舞台となる空間への転送を頼んだ。
「では花木先生、皆さんを空間内へと・・・・」
「はい、ではこれより各クラスの生徒ごとに分割して送っていきます。まずはAクラスの皆さんから・・・・」
チユリはタクミ達の前まで移動し、彼らの足元に魔法陣を展開する。
五人の体がチユリの展開した魔法陣の光に包まれ、その場から五人の姿が消えた。
「(皆さん、頑張ってくださいね・・・・)」
他クラスの生徒の前で直接口に出し応援する訳にもいかない為、チユリは心の中で今、舞台へと転送された自分のクラスの生徒たちを応援する。
Aクラスを転送し終わったチユリは次にBクラスの生徒達を転送させようとする・・・・・・。
――パアアアアアアアアアアッ――
「ぅん・・・・ここは」
光が収まり、目を開けるタクミ達。
彼らが現在立っている場所は見渡したところ周囲は石造りの建物が密集し、まるで迷宮の様な古代都市を連想させる様な場所へと降り立っていた。
「うぉーまた凄い所だな」
「こ、これって先生たちが造ったんだよね?・・・・す、すごい・・・・」
驚きの声を出すマサトとメイ。他の三人も言葉を口には出さなかったが同じ思いであった。まさかいくら教師陣全員の魔法とはいえここまで凝った場所を造りだすとは正直思ってもいなかったのだ。
アナハイムには開始前から今居る場から大きく移動する事は禁止されている為、その場で辺りを見回す。
「ここが戦場となる舞台か・・・・」
「他の皆は何処なのかな?」
タクミとミサキが辺りを見回しながら呟く。
他のクラスの者達が一体どのあたりにいるのかを気にするミサキ。しかし、舞台となる場所は相当な広さである。少なくともすぐ近くには他クラスの生徒が居るとは思えない。
すると、ミサキの隣に居るレンが突然上空に向けてピースサインを送る。その謎の行為にミサキは訝しげながらレンに何をしているのかを聞く。
「何してるのレン?」
「ん、いや~、学院長が言っていたじゃん。今ここに居る私たちのこともクラスの人達も見ているって」
「言ってたけど・・・・」
「だからさ、このサインも届いているかなぁ~って」
レンは上空に向けて両手でピースサインを自分たちを見ている同じクラスの生徒達に向ける。そんな彼女の姿をミサキは呆れながら見ていた。
今から他クラスとの戦いが始まるというのになんとも呑気な親友の姿にこの際、頼もしさすら感じてきたほどだ。
「この舞台となる地形も戦いではとても重要になって来るな」
自分たちの戦う舞台の地形も戦闘でどうにか活用できないかと今の内に考えを巡らせるタクミ。この場を大きく離れる事は禁止であるが、頭の中で作戦を練ることは自由である。実はすでに全クラスが転移が完了している状態なのだが、あえてしばらくそれぞれのクラスの生徒達がこの舞台を見る事で何を考えるか、その時間を与える為に開始の合図を遅らせているのだ。
――そして、ついにその時は訪れた――
――「・・・・皆さん」――
「「「「「!?」」」」」
突然どこからともなく聴こえて来るアナハイムの声にタクミ達は全員反応をする。
そして、アナハイムから開始の合図が告げられるのであった。
――「皆さん、これより〝クラス別魔法戦闘〟の開始を宣言します。一年生の皆さん、この戦いで共に競い合い、魔法使いとしての更なる一歩を踏み出して下さい。それでは、健闘を祈ります」――
アナハイムの言葉はそこで終了した。つまり・・・・・・。
「始まったな・・・・」
タクミの言葉に頷く四人。
開始の合図はたった今送られた。これより先は他のクラスがいきなり襲ってくる可能性もある。
アタラシス学園一年生限定行事〝クラス別魔法戦闘〟――――――開始!!




