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番外編 第五話 久藍タクミちゃん5

ひとまず今回でタクミちゃんの出番は終わりです。またどこかで出すかもしれませんが(笑)

 

 ミサキの不意に一言で重くなる室内の空気。

 その中で、ミサキはぽつりぽつりと語り出す。


 「私はいつもタクミ君に救われてきました。でも、その逆に私は彼に何一つ返したものなどありません。いつも私は貰って……与えれているだけです」


 ミサキの言葉にタクミは僅かな険しさを顔に宿らせた。

 そんなタクミの変化に気付かずミサキは話を続けていく。

 

 「そんな自分は何も彼に返してあげられていません」

 「……」

 「私と違いタクミ君はとても眩しい存在なんです。それに引き換え、私は日陰の様な存在」

 「……」

 「だから…時々不安になっちゃうんです」

 「……じゃ…ないのか」

 「え?」


 ミサキの話を聞いたタクミは小さな声で何かを呟いた。

 しかし、声の音量が小さすぎた為、うまく聞き取る事が出来なかった。改めて何を言ったか聞き返そうとしたミサキだが、その前にタクミはミサキの両肩を掴み、改めて大きな声で同じ言葉を彼女にぶつけた。


 「バカじゃないのか!!」

 「…へ?」

 「どうしてそんな的外れな考えが出て来るんだよ! ミサキが日陰? 俺が光? 大馬鹿か!! 俺にとってミサキの存在は温かく強い光だ!!!」

 

 タクミはめいいっぱいミサキの事を叱りつける様に彼女の考えを否定する。

 

 「与えた事がない? そんな事はない! 俺はお前に多くの物を貰っている!!」 

 「……」

 「だから…だからそんな悲しい考えは捨ててくれ。俺は……ミサキの事をそんな風に思ったことは一度たりともないよ」

 「!!」

 

 タクミは伝えるべき事を全て伝えると、ミサキの頭を優しく撫でる。

 ミサキはその時、目の前の少女が一人の人物と重なった。自分が愛している恋人と目の前の少女がだぶり、思わず彼の名を告げていた。


 「タクミ君…なの?」

 「えっ…あ……」


 ミサキの言葉に今の自分が女である事を思い出すが、タクミはため息を吐き、全てを告白することにした。なにより、ミサキには今の言葉が全て自分の言った物だと分かってもらうために。

 タクミは頭を掻きながら、困り顔をしてミサキに向き合う。


 「ああ……俺だよミサキ。久藍タクミだ」

 「…ええっ! ホントにタクミ君!?」


 衝撃の事実を告げられたミサキは一瞬呆けてしまったが、すぐさま驚愕を露わにする。

 無理もないだろう、自分の恋人がいつの間にか性転換していれば誰でも驚く。そんな彼女にタクミは自分の身に起こった出来事を話し始めた。




 「じゃあその薬のせいで……」

 「ああ、それで今日一日は女として過ごす羽目になったてわけだ」

 「どうして黙っていたの?」


 ミサキの疑問にタクミは少し言いづらそうな顔をしてミサキに言った。


 「だって…いきなり性別が逆転したなんて恥ずかしいというか気まずいというか。それに、本当は今日は一日家で過ごすつもりだったしな。でも……」


 タクミはジト目でミサキのことを見ながら言った。


 「今は女で良かったと思うよ。そのおかげでミサキの本音が聞けたしな」

 「うぅ…」


 タクミの言葉にミサキは申し訳なさそうな表情をした。

 まさか悩みを相談しようとしていた相手がその張本人だとは思いもしなかったのだ。少なくともタクミ本人の前ではこのような話はするつもりはなかった。優しい彼にはこんな悩みを聞かせたくなかったから。

 タクミは委縮しているミサキの頬を両手で優しく掴み、互いの目と目を合わせる。


 「ふぎゅ…」


 タクミに頬を圧迫され、ミサキの口から情けない声が漏れる。

 タクミは少し鋭くなった目をしてミサキに改めて自分の思っている事を告げる。


 「俺はお前に不満なんて感じたことはない。だから、もうそんな悲しい事は考えないでくれ……でないと――――」

 ――むにぃぃぃ―――

 「ひゃう~~!」


 タクミはしかめ面でミサキの頬を優しく、それでも折檻の意味も込めて少し強めに左右へと引っ張った。

 ミサキの頬がむに~と伸び、彼女の顔を変形させる。タクミに頬を引っ張られ、ミサキはタクミに謝罪する。


 「ひゃくみふん、ほめんなはい~!(タクミ君、ごめんなさい)」

 「もうあんな悲しいことは言わないと誓うか~?」

 ――むにむにむにぃ~――

 「ひはいまふ~!(誓います)」

 「よろしい」


 ようやくミサキの頬から手を離したタクミ。

 ミサキは引っ張られた頬を撫でながら涙目になっていた。

 タクミはそんな彼女を今度は抱きしめた。優しく、愛おしく……。


 「あ…タクミ君」

 「ミサキ…どうかこれからも俺と共に歩んでくれ。ミサキ以外に一生をともに歩いてほしい人なんて俺にはいないから」

 「ごめんなさい…」


 ミサキはおもわず後悔の念からタクミに謝っていた。

 ああ・・自分は何て愚かなのだろうか。タクミ君が自分のことをちゃんと見てくれていて、自分が悩んでいたあんな事なんて考えているはずもないのに……。

 

 そして、二人は互いの体温を感じながらその後しばらくの間、抱きしめ合っていた。


 こうして、性別の転換をしてしまったタクミであったが、そのおかげで彼女の悩みを聞くことが出来、今にして思えば悪い一日ではなかったと思うタクミであった。







 「タクミ君…ところで……」

 「うん?」

 「その、相手がタクミ君なら少し遠慮せずに言っちゃうけど…今度はこの服を着てくれないかな?」

 「てっ、おいおい!?」


 ちなみにこの後、ミサキの頼みで再び着せ替え人形となるタクミ。

 やはり今日は厄日であった……。




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