表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空のブレイザー(旧版)  作者: チャーシュー肉マン丼(体型)
第一章・アークランド
2/2

プロローグ



「あなた、行ってらっしゃい」


 ──ほら、お父さんに挨拶して。


 妻の腕に抱かれ、その声に促された幼い息子は、彼に向かって小さな手を握っては開いて見せた。


「おう、行って来るぞ。期待して、待って居てくれ」


 見送りに出て来た妻子に振り返って応えた“竜人(リザードマン)族” の男性は、愛用の手槍を持って、意気揚々とした足取りで歩き出した。


 彼は、所属しているリザードマンの一族が暮らす村から少し離れたこの場所に、自身と妻子の暮らす為の家を建てたばかりだった。

 彼とは種族の違う妻子に対して、村の者たちが思わず向けてしまう視線から、妻と息子を守る為だった。

 人族たちとの交流が、ここ数年の間に活発化した大陸の東側では、異種族間での婚姻も増えていると言う話を聞いたことは、彼にもあった。

 しかし、彼の村では、そのような行為はまだ異端として見られていた。

 妻と話し合い、彼は村から出て、べつの場所に家を建てることに決めたのだった。


 その日の昼下がり。

 前日に設置していた罠の見廻りを終え、掛かっていた獲物を回収した彼は、川原で妻の持たせてくれた弁当を広げていた。

 “人族”の妻が作る料理は、リザードマンである彼の目からすれば非常に物珍しい物ばかりだった。

 糖蜜を使い甘味を付けた豆料理に、塩漬けにして発酵させた葉物野菜。

 ハーブや貴重な香辛料を使って下味を付けた後、日干しにして仕上げたジャーキーと、スモーキーな風味が香ばしい魚の燻製。

 ドライフルーツとナッツを使用した干菓子まで用意されていた。


 小麦粉を練って、発酵させた生地で作ったパン一塊を主食にして、弁当をあっという間に片付けてしまった彼は、空を見上げながら満足気に腹を擦った。

 罠猟で得た獲物以外にも、愛用の手槍で仕留めた若い“ボア“が、彼の傍らに置かれていた。


 ──これなら、アイツ(家族)らを満足させられそうだ。


 彼は思った。

 今日の猟果である穴ウサギ三匹とボア一頭分の肉を含めれば、このアークランドの厳しい冬を越せるだけの食料が、充分に集まったことになる。

 まだ、数日は狩に出ることが出来る晴天が続く筈だったので、備蓄を更に増やすことも可能だった。

 彼は気分良くその場に寝転がり、改めて空を見上げた。


 しかし、そこには、不吉な影が射していた。


 低空に降りてきて、彼の居る森林の上空を旋回しているその影を見た瞬間。

 彼は弾かれたかのように、勢いよく起き上がった。

 はぐれの一頭や、番が飛んでいるだけだったら、彼も気にはしなかった。

 しかし、頭上を飛ぶ飛竜(ワイバーン)の数は、次々と増えて行く。


 彼の胸が、ざわめいた。

 その胸騒ぎに煽られ、彼は全力で家へと向かって駆け出した。




 家に近付けば近付くほど、上空の飛竜たちの数は増えてきた。


「リール、アルっ!」


 妻と息子の名前を叫びながら、家の前までたどり着いた彼が見た光景は、強大な力に拠って打ち砕かれた我が家と。

 飛竜の一頭に咥えられて、空へと連れ去られて行く息子の姿だった。


 それから暫くの間の記憶を、彼はよく覚えていなかった。

 息子を咥えた飛竜が飛び立って行った後、家の中に(たか)り続けていた他の飛竜を追い払い、妻の死体を見つけたことだけは、あやふやながらも覚えていた。

 家の中に残っていたのは、彼女が着ていた服の切れ端と、その頭部だけだった。

 救援を求めるため、彼は家から走り去り、村を目指した。


 そして、村に着いた時。

 彼の両膝から力が抜け、その場に崩れ落ちた。


 焼け落ちる村の中では、口周りをリザードマンの青い血で染め上げた何十頭もの飛竜が、狂宴を繰り広げていた。


「……父さん……それに、兄さんたちも」


 呆然とした呟きが、彼の口から漏れた。

 襲いかかる飛竜の牙から必死に逃げ惑うリザードマンの姿が、幾つか見える。

 村の長老の一人である父親と、それぞれ族長と戦士長を務めている二人の兄。

 三人の姿は、見えなかった。


「──ヴォォァー!」


 言葉にはならない咆哮が、彼の口から迸った。

 目からは涙が溢れだす。

 昔、彼が初めて猟にむかう際に次兄が作ってくれた手槍を構え、村の入り口に向かって走り出した。

 涙を流し、怒りの叫びを上げ、彼は村の中へと飛び込んで行った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ