05話 関係
意味が分からず戸惑う馨へ【アイスボール】が3つ押し寄せる。数が多いことに気が付いた馨は
「あっ!」
と声を上げた。【ウォーターシールド】は1つの【アイスボール】を防ぐと、凍り付き床へと落ちる。その光景から恐怖で動けなくなる馨の前に真人が割って入ると構えを取り【アイスボール】に向かい動き出す。
「はぁぁぁっ! せあっ! せいっ!」
真人は瞬く間に1つを腕で弾き、勢いよくその場で回り、残りも蹴りぬき【アイスボール】を打ち砕く
「あっありがと・・・」
馨が真人へとお礼を口にする間に、真人は振り返り
「良いから動け! あ~もうしゃあねえ!」
真人は馨を横に抱え込み駆けだす。抱えられた馨は顔を赤く染め何か言おうとして口にできず、パクパクと口を開けたり閉じたりする。そんな中、鈴の声が響き渡る。
「1年生がスキルを使っていい時間ではないと! 鈴は言いましたからね!」
鈴が手を懐へ入れ何かの種を取り出し床へと蒔く。すると足元から植物のツタがうねりを上げ飛び出し
「悪い子にはお仕置きですぅぅぅ!!! 【リーフバインド】」
足元から出たツタがさらに伸び冬夜の身体へと絡みつき拘束する。冬夜が拘束されてもなお【アイスボール】は飛鳥達を襲う。
「何をやっているっ!」
突如として開け放たれていた扉から現れた花蓮により冬夜の暴走は幕を閉じた。一瞬で拘束されている冬夜の懐へと迫った花蓮の蹴りが冬夜の鳩尾を捕らえ、クの字に折れ曲がり、冬夜の意識を刈り取り、その場で蹲る。
「花蓮ちゃ~ん!」
花蓮へと泣きながら飛びつこうとする鈴へ花蓮の拳が飛来し
ゴ~ン!
響き渡る鐘の音・・・
「いたぁ~! 相変わらずの石頭だな」
手をプラプラと振り痛がる花蓮に鈴は体をくねらせ笑顔で頭をかき
「えへへへ♪ 褒められちゃった♪」
「褒めてないから・・・」
すかさず花蓮はツッコミを入れ、深いため息をもらす。嬉しそうな鈴をよそに花蓮は事のあらましを近くに居た飛鳥に状況を確認し、頭を押さえ首を振ると今度は口端をニヤリと釣り上げ
「それにしても飛鳥君。君はいつまでそうしているつもりだい?」
花蓮の言葉に飛鳥は自らの身体へと視線を落とすと、腕の中で顔を耳まで赤く染め上げた紫苑が意識を失っていた。
「あっ、えっと・・・どうしよう花蓮さん。じゃなかった轟先生」
慌てる飛鳥を見るのが面白いのか花蓮は肩を震わせ
「クックックッ、救護室が隣にある。そこへ運んでやれ。そっちもな」
花蓮が向けた視線の先には真人のわきに抱えられ紫苑と同じように気絶する馨の姿があった。
・・・・・・・・・・・・・・・
いくつも並ぶカーテンで仕切られたベッドの上に飛鳥は紫苑をそっと寝かせると周囲を見渡す。カーテンの先には薬品の棚などが置かれ、更に入ってきた扉とは反対の扉の上には処置室と書かれていた。学校案内の通りであれば外傷を治療するための危機が有る施設である。そんな救護室に2人の女生徒を寝かしつけ、飛鳥と真人はカーテンを閉め備え付けの札を裏返し使用中にする。
真人は救護室の治術士が座るであろう近くにあった椅子を引き寄せ座り込み
「先生居ないみたいだな」
飛鳥は頷きながら歩き、入り口横の壁に背をもたれ掛ける。
「それにしても、真人と水樹さんはどういう関係何だい? ただの知り合いってわけじゃないんだろ?」
飛鳥の問いの言葉に恥ずかしさのあまり真人は顔を背けぶっきらぼうに口を開く。
「そっそんなんじゃね~よ。ただ・・・」
「ただ?」
真人は声に詰まりながら言葉を探し
「そうっ! 腐れ縁てやつだ! そう、腐れ縁だ」
何故か自分へと言い聞かせるように言い放つ真人に飛鳥は口端を釣り上げからかいの言葉を発しようとすると、急に馨が寝かされていたカーテンが開き馨が飛び出し
「腐ってなんて、ないわよ!」
言葉なく飛鳥と真人の視線が馨へと注がれる。すると馨が頬を赤く染め
「腐れ縁でもないし、幼馴染でもないわよ! 知人! そうただの知人よ!」
顔を真っ赤にし勢いよく叫ばれる馨の言葉に、真人が落ち込んだように俯き
「そっそうか・・・」
馨はそんな真人を見て自分が言い過ぎたと思いフォローしようと口を開けた。そんな時、突然救護室のドアが開かれた。飛鳥はもたれたまま顔を扉へと向ける。すると開いた扉から入学式で挨拶していた生徒会長の如月雅が駆け込んでくると周囲を見渡しながら
「紫苑ちゃん無事!」
その叫び声に馨はびくりと体を震わせ、真人は馨の隣のベッドを指さす。すると更にその後から花蓮がゆっくりと入って来て
「どうだ? って美里さんいないのか?」
花蓮は周囲を確認しながら言葉を発し、その瞳が雅を見つけ
「で、何で生徒会長が居るんだ?」
すると雅はその場でクルリと振り返り
「鈴先生が教えてくれましたわ」
花蓮は手で額を押えため息をつくと
「あの幼女は何やってんだ・・・」
と呟く。
「それで紫苑ちゃんは大丈夫ですの?」
雅が花蓮に紫苑の状態を訊ねると花蓮は知っていそうな飛鳥へと顔を向け
「どうなんだ?」
飛鳥は自分が説明するのかと思いため息をついて
「どうなんだって・・・気を失っているだけ、何処も怪我とかしてないから大丈夫」
飛鳥の答えに雅はまじまじと顔を見て小首を傾げ
「貴方は・・・何処かでお会いしましたか?」
すると雅のその言葉が面白かったのか花蓮は声を押し殺すようにお腹を抱え
「クックックッ、何こんな所でナンパしてんだ。そいつは綺羅、綺羅飛鳥。襲われていた如月姫を助けたナイトってとこだな」
「まぁ紫苑ちゃんを助けてくださったのですね。え~と綺羅君? で良いのかしら、紫苑ちゃんを助けてくださって有難うございますぅ?」
笑いをこらえる花蓮を無視するかのように雅は飛鳥へとお礼の言葉を口にするのだが、やはり違和感を覚えた雅は語尾が疑問形になっていた。
ん~どこかで見た覚えが・・・でもあの子は別に存在しますし・・・ええ~いままよ
「飛鳥君、やっぱり私と合ったことありますわよね」
「ん~どうでしょうか? 綺羅飛鳥として(・・・)は初対面だと思いますが・・・」
として(・・・)ですか・・・なるほどこちらが本物ですわね
「まぁ良いですわ。あの時の約束覚えていて?」
あっ気が付いているみたいですね
飛鳥は雅の言葉の意味を察し頷く。すると雅は微笑み。
「宜しい。綺羅を名乗っているってことは綾女様の関係者との認識で宜しいかしら?」
「綾女は僕の母に当たりますね」
「ふ~ん、そう息子さんですの・・・息子?」
雅が大きな声を上げるとカーテンの向こう側で紫苑が意識を戻すような気配を感じ、花蓮は紫苑が寝ている場所のカーテンを開ける。
「紫苑ちゃん!」
目をうっすらと開けた紫苑へ雅が勢いよく飛び込む。驚きつつも紫苑は雅を受け止め
「姉さんどうし・・・心配させてしまったようですね」
混乱する中、紫苑は自分がなぜここに居るのかを思い出し心配させたと口にした。
紫苑は姉である雅を抱きしめながら部屋の中を見渡し、飛鳥を見つけ顔を赤らめ目を反らした。雅はそんな紫苑と飛鳥を交互に見つめ口端を釣り上げ、
「ふ~ん満更でもないんだ。飛鳥君! 紫苑ちゃんを幸せにしてね♡」
ボフッと効果音が鳴り響くように紫苑は一気に顔を赤らめ昔を懐かしむ。
そう言えば前にもこんなことがあったわね・・・!?
紫苑は飛鳥を見つめ瞳を見開いた。
「あ~くん?」
紫苑が恐る恐る紡いだその言葉に、今度は飛鳥が頬を赤く染め
「この歳になって【あ~くん】は無いと思いますけどね」
飛鳥は肯定ともとれる言葉を口にしたことで、紫苑の頬を止めどと無く涙が流れ
「お帰りなさい。あ~く・・・飛鳥君」
「ただいま紫苑、それにみや姉」
「ふ~ん、紫苑ちゃんの言葉には素直に認めるんだ・・・まぁ良いけどね」
お読みいただきありがとうございます。
明日もUP予定ですのでもしよろしければお読みください。