05話 マインドアームズ
下から上へと切り上げられた刀に大きな閃光は切り裂かれるように2つに分かれ霧散する。
「ばがな? おでのざいだいのごうげぎが・・・」
自身の最大攻撃を無効化され熊型の獣人は驚愕のあまり固まる。僅か2秒程度であろうか、その間に飛鳥は熊型の獣人へと迫り一閃。
「んぎゃぁぁ!!!」
振るわれた刀の一撃をとっさに右腕を上げ防ごうとするも、まるで紙切れを切るかの如くスパッと腕を切り裂き、その勢いのまま熊型の獣人の胸を切り裂く。
熊型の獣人は痛みを堪えながら後ずさり、更に追撃を加えようとやって来る飛鳥に向け左腕を振り下ろした。
飛鳥はその攻撃を受けるではなく、受け流しその場でクルリと回り一閃。
更に傷を負った熊型の獣人は慌てて周囲を確認する。そして紫苑たちを見つけニヤリと口端を釣り上げた。
「僕がそれを許すと思う?」
その瞬間、熊型の獣人は自身がミスを犯したことに気が付くと、刀の背を左手で支えながら上へと切り上げる飛鳥の姿がその瞳に映った。
そこで熊型の獣人の視界がぐるりと宙を回す。そう今の一撃により首と胴が離れ、頭が宙を舞ったのである。
飛鳥は血を拭う様に刀を振り鞘へと納めると今までそこにあったはずの刀はその姿を消した。
「飛鳥君!」
飛鳥が振り返った瞬間、紫苑が飛鳥目掛け飛び込み抱き着いたのである。
「大丈夫?」
「ああ、この通り」
紫苑の問いに腕を広げ飛鳥が身体全体を見えるようにする。
「すごいな、熊型の魔物だろう?・・・なんじゃこれわ!」
魔物だと思い近づきその全容が確認できるとまるでそれは人のようであり獣のようであったため教官は驚きの声を上げた。
「魔物の上位存在とでも言いますか、MAにも似たスキルを使って見せてましたよ?」
驚く教官に飛鳥が告げた言葉に、飛鳥以外の者が驚きの声を上げた。
「なっ! そんなことが有り得るのか?」
「可能性としては有り得るでしょうね」
飛鳥の言葉に皆の視線が集まる。すると飛鳥が口を開き説明を始めた。
「人間だけが能力に目覚めたと? 普通の動物が魔物へと変わるんですよ? 人間と同じようにスキルに目覚めても何ら不思議ではないのでは?」
「それは・・・そうなんだが・・・」
「まぁ、今回は【マインド・ドラッグ】が関係しているみたいですよ? そこの熊型の魔物・・・いやここは区別するためにも獣人とでも呼びましょうか。彼がそう喋っていましたから」
紫苑はそれを聞き口を手で押さえる。
「もしかして、誰かが処分に困りこのSTを利用して不法投棄を行ったのか?」
教官の言葉に飛鳥は頷いた。それでも信じられないと言った表情の教官にMMライセンスカードを見せるとそのランクに驚き納得する。
このアクシデントもあり早々にSTの中止が言い渡され、軍部や政府は対応に追われることになる。
・・・・・・・・・・・・・・・
まずは軍部やライセンス持ち達に強制依頼を出し富士周辺で同じような存在が無いのかが調べられ、それと同時に警察が不法投棄の犯人の洗い出しに乗り出す。
「たっ隊長! このままでは自分達は・・・」
「ええ~い、ほとぼりが冷めるまで他の都市へと行くぞ」
男たちが逃げるように闇に紛れ輸送ヘリの下へと向かうとドサリと隊長の後を追う部下が崩れ倒れた。
「何をしている。早く立ち上がれ! 見つかって・・・」
次の瞬間、もう1人の部下が倒れると隊長は自身のアームを取り出す。
「反応が遅いですね」
隊長の背後から黒いナイフがのど元に回され、隊長が反応する前に横に引かれ首が地面へと転げ落ちる。
「下手を撃ってくれましたね。でも魔物を進化させるですか・・・それだけは収穫でしたね。我々黒曜に利益をもたらしたと褒めて差し上げますよ」
建物の陰にスッと消えていく。声や背格好からして男であろうことはわかったのだがそれを確認できたものは誰も居なかった。
彼ら3人が死体で発見されたことは翌日のニュースで流れ、彼らが所属していた帝家へと疑惑が上るが、すぐに彼らがSTの事前調査を怠ったことを理由にST前日に解雇されたことが発表され、マスコミは帝家を追求したいのだがその権力により追及の手を緩めざる負えなかった。だが政治的な意味合いではその発言力を皇家と共に失いつつあることが誰の目からも明らかになる。
「で俺らはどういう扱いになってんだ今?」
真人は愚か飛鳥達パーティーメンバーは全員理事長室のソファーに座らされていた。
「いや~悪いね」
廊下とは別にある奥の扉から入って来たのは眼鏡を掛けた見た目は若い男性が歩いてくる。
「職員会議が長引いてしまってね」
彼の名は如月 祭、雅や紫苑の父親でこの育成高校の理事長を務めている。祭が飛鳥達と対面する形でソファーに着くと紫苑が口を開く。
「お父様・・・いえ、如月理事長、私達を呼んだ理由を教えて頂きたいのですが?」
「嫌なに先に結果だけでもと思ってな。簡単に言えばSTは折り返し中継地点へたどり着いた者たちはSTをクリアしたこととする旨が決定されたよ。たどり着けなかった者たちは後日軍施設を借りて行う試験をクリア出来れば進級と単位が授与されるがな」
「それだけの理由で僕たちをここに呼んだわけではないですよね?」
飛鳥の言葉に祭は頷き
「ああ、そうだ。ランキング戦、STこれらを踏まえ君たちには我校の交流戦の代表候補になってもらうことになった。前例が無かった為に会議が長引いたのだが、轟君の後押しで何とか通すことが出来た」
「候補ってことは、まだ代表じゃないってことだろ?」
真人の言葉にも祭はにこやかに頷き
「そうです。貴方方はSクラスとして基礎授業には出てもらいますが、実技授業に関しては候補生として別カリキュラムが言い渡されるでしょう。その心構えと準備がいるであろうと思いここに呼びました」
「それは辞退できるのでしょうか?」
自身がなさそうに馨が質問する。
「それは出来ますが、普通に実技の授業を受けるよりかは実力が付くと思いますよ?」
「なら俺は断る理由は無いな」
「馬鹿! 師匠たちの訓練もあるのよ? それで身体が持つと思っているのアンタは?」
馨の言葉を聞きどういうことか聞く祭に飛鳥がKALで指導を受けていることを伝える。
「なるほどKALでライセンス持ち直々に指導を受けているですか・・・それが君たちの強さの秘密ですか・・・轟君とも相談はしてみますが、調整はしてくれるでしょう」
「それなら私も了承します」
馨も了承すると紫苑は飛鳥へと視線を送る。すると飛鳥が頷いたので
「理事長、私も承諾します」
祭の視線が飛鳥へと向くとニヤリと口端を釣り上げ
「飛鳥君は候補生ではなく代表にすでに内定しているからそのつもりで」
「まぁ妥当だよな」
「そうですわね」
真人と馨の言葉に続き紫苑も頷いていた。
飛鳥はそんなみんなの言葉に呆れつつも窓の外へと視線を向けた。
ヤレヤレ、これからまた忙しくなりそうですね。それにまだ・・・
飛鳥はSTの事件がまだ始まりではないかと考え、それでもここに居る紫苑を初めとした知り合った皆を守ろうと誓うのであった。