02話 入学式
【厄災の時】を経て人類は、その苛烈極まりない環境の中進化を遂げた。【スキル】精神エネルギーを力とし、超常現象を可能にする力。人類はその力を【MA】【マインドアームズ】と呼んだ。
新世紀79年4月、大和国にある4つの大都市の1つ首都【富士】。富士山のふもとにある大都市で地上階層南部にある桜並木の先にそびえたつ大きな建物【大和国立MC富士育成高等学校】。この学校は【MC】【マインドチルドレン】の為にMAの使い方、能力の向上を目指す育成機関である。勿論【高等学校】と有るように勉学にも力を入れている。
【MC】MA能力を持つものの正式名称。現在は戦闘能力の無い者も含め、世界総人口の2割から3割に届こうかと言う数にまでなっている。
本日は4日、育成高校の入学式が行われる日である。数多くの生徒や親がその校門を潜り、敷地内へと入って行く。
その中に170cmのすらっとした体格に、少し長めの髪が風に靡き、男子学生服を着ていなければ女性にも見える顔立ちの良い青年・・・大きくなった綺羅 飛鳥の姿があった。5年前のあの後、飛鳥はもろもろの手続きを経て綾女の養子となっていた。
はぁDクラスか・・・これなら普通の高校に通った方が良かったんじゃないのか?
飛鳥がこう思うのには理由があった。この育成高校ではMA戦闘能力の高い者がA、Bクラスに配属され、その他の者がC、Dクラスへと振り分けられるのである。
また1か月後に行われる【ST】【サバイバル・トライアル】富士の樹海にあるトライアルコースを2人以上の人員で回る試験。試験は集団行動が求められ基本4人から6人程度で参加するのが一般的になっている。1年は自由参加だが、2年は必須。ゴールまで行くことで1年は実技単位を全て獲得したことにでき、2年は3年への進級資格を得る。これに向け4月の月末の1週間を持ってランキング戦が行われ、上位10名が特待クラス、Sクラスへとクラス替えが行われる。
飛鳥は気持ちを切り替えるようにクラス分けの掲示板を背に歩き出した。
入学式の行われる講堂へと踏み入った飛鳥の瞳に多くの新入生の生徒が映る。辺りを見渡し空いている席へと座ると自身が着ている青と言うより白に近い青いブレザーを見て
「この制服は結構気に入っているんだけどね・・・」
「おっ! 俺と同じじゃん! そうだよな。この制服だけでもモテそうだよな!」
飛鳥の呟きに答えるように角刈りの見るからに筋肉質の男が声をかけ隣に座る。
「そうですね・・・」
「だろ~!」
飛鳥の返事に機嫌をよくした男が大きな声を上げた。
『そこっ! 黙りなさい! 今私が喋っているのですわ! 静かに聞くのがマナーではなくて?』
マイクから流れる綺麗な声で、いつの間にか始まっていた入学式に苦笑いを浮かべる飛鳥、そして壇上で、マイクを握りしめこちらを指さした起こり顔の腰まで伸びた黒髪のとても綺麗な女性が目に入る。胸は少し小さめと言った感じのネクタイ色から3年であることが分かる。
飛鳥が観察している間も周囲から視線が集まり、耐えかねた隣の男は立ち上がり
「わり~わり~続きをどうぞ先輩さん!」
頭をかきながら頭を下げる。それを見た3年の女性はあきらめにも似た大きなため息をして
『もういいですわ。続けますわ・・・』
・・・
・・・
・・・
『ただ今を持ちまして本校の入学式を終わります。この後新入生の皆様は係員の案内のもと自分のクラスへ行きカリキュラムを受け取ってください』
アナウンスが入学式の終りを告げた。すると目を閉じ寝ていたであろう隣の男が目を開け、周囲を確認し、飛鳥へと顔を固定すると
「俺は真人、鏑木 真人だ! Dクラスよろしくな!」
真人はそう言って握手を求めるように手を差し出す。
「僕は綺羅 飛鳥、同じくDクラスだよ。こちらこそよろしく」
飛鳥が真人の手を握り返す。手を放すと同時に真人は顎で出口を指し
「じゃあ行こうぜ~」
飛鳥は頷き行動を後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・
Dクラスへと飛鳥達はやって来た。教室内は段差のようになっていて前に座った生徒が正面のボードを遮り見えないことが無いよう配置されていた。その正面のボードに貼られた座席表を元に、飛鳥は指定された席へと座ると、飛鳥の席の前に真人が座り後ろを振り返り向き
「おっまた席が近いな!」
すると前方で固まっていた女性の集団からポニーテールの胸の大きな女性が力強い足運びで真人の前へと来ると
「ちょっと! 真人! 入学式でも騒いでいたけど! 声が大きいよ!」
真人は何食わぬ顔で一瞥して、親指でその女性を指しながら
「知り合いか? この煩いの?」
「いや、僕は初対面だけど?」
飛鳥が知らないと答えると真人は笑みを浮かべながら
「だよな~」
明らかに知り合いであろう真人に無視された女性は腰に両手を乗せ顔を前に突き出し
「私は水樹 馨、真人! 貴方のせいで雅様に目をつけられたらどうしてくれるのよ!」
先ほどまで馨の後ろでオロオロしていた女生徒たちも一斉に頷く。飛鳥も真人も何のことか分からずに首を傾げ
「「だれ? その雅様って?」」
馨は体制を戻し、手を額に当て首を振るとため息をつき
「これだから男は嫌なのよね・・・」
馨は額に当てた手を真人へ向け振り下ろし、真人を指で指し
「いい! あの方はこの高校の生徒会長、如月 雅様よ!」
再び雅の言葉に後ろの女生徒たちが頷くのみではなく、周りで聞き耳を立てていた男子生徒も頷いた。
「ん? 如月?・・・そうか! 如月理事長の孫か!」
真人は大声で叫び、口を開け目を見開き驚くと、馨は腰に手を当て胸を張り
「そう、その方が! 雅様よ!」
雅がしたり顔で見つめるとガラガラと音を立て教室の扉が開き、紺のスーツ姿の胸の無いショートヘアの年上の女性が淀みなく入って来ると教卓につく。
「はいっ! 席に着く! っと丁度いいや、お前とお前!」
丁度立っていた馨と真人をタクトのようなもので指し
「こいつをみんなに配ってくれ」
馨は素直に受け取り女生徒に配り始める
「ほれ、お前も配れ」
そう言って真人の頭をカリキュラムと書かれた冊子で小突いた
「って~な、分かったよ。配りゃ~いいんだろ。配りゃぁ~よ」
引っ手繰るように乱暴に奪い取り、真人は奪い取った小冊子を配り始める
全ての生徒にいきわたったのを確認した女性はボードに名前を書き振り返ると
「私がこのDクラス・・・つまり貴様らの担任の轟 花蓮だ」
すると男子生徒の1人が手を上げ
「彼氏は居るんですか~! 後、歳はお幾つですか?」
花蓮は目を細めその生徒を一瞥して正面を向き
「言う必要はないな・・・」
「ひっ!」
花蓮の言葉になぜか男子生徒は震えあがり悲鳴を上げた。他の生徒も何が起きた分からないと言った表情の中、飛鳥は1人
あれは【ME】【マインドエナジー】でプレッシャーをかけたのかな?
花蓮は周囲を見渡し、飛鳥をその視界にとらえニヤリと口端を上げると
「・・・無いようだな? じゃあそういうことで、後はそれ読んどけよ~」
手を振りながらそう言うと花蓮は教室を後にした。
「おお~怖っ・・・やっぱ胸が無いと気も強いのかな・・・」
真人がそう呟くと馨は不機嫌になり
「嫌らしい! これだから男はっ!」
そう叫ぶとカバンを持ち馨は教室を出ていく。そして扉が大きな音を立て閉まる。
「・・・そうでもなさそうだな・・・っともうこんな時間か、バイトに遅れちまう。飛鳥じゃあな!」
真人は急いで冊子をカバンに放り入れ、肩にカバンを回すとドアを開け放ち駆けだした。1人残された飛鳥も冊子をカバンに入れると教室を後にした。
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