誘拐事件(?)発生
個人的にイロイロと気まずい中、 朝ごはんを食べて―― 朝イチで冒険者組合へ。
チナちゃんと私が従魔契約をしたからね。 追加情報を報告してきましたよ。 時間がかかっちゃうかなぁと思ったんだけど(明日になっちゃうとか) 私の感覚で言う所の14時位には出来るらしい。
私の感覚で言うと―― って言うのも何だか良く分からない感じだけど―― 何でそんな言い方になったかと言うと…… まぁ、 簡単に言うなら、 この世界に於いて『時間』 って感覚が大分アバウトだって事が分かったから。
まず分とか秒とかって概念が無い。 1時間とか体感だから人によって違うし、 朝と昼は太陽で…… 夕方から明け方までは月を基準に大まかな時間を認識している感じ。
曇りとか、 雨の時ってどうしてるんだろうって思ったら、 陽月計 と言う時計代わりの物…… 羅針盤みたいな形の物で、 太陽と月が大体今どの位置にあるかって言う事が分かるのがあるようです。
だけど高価な物だから、 皆が持ってる訳でも無いらしい。 大きめのお店なんかだと、 壁掛けの物が置いてあったりするみたいなんだけどね……。
だから普通の人達の時間の認識は、 お昼だと太陽が中天に―― 真夜中だと月が中天にある頃って認識以外は本当にアバウト。 その辺りを基準にして適当に時間を理解してると言う事らしい。 認識―― 出来てるのかなぁ……。
でも、 薬の調合とかで厳密な時間を計る必要がある時は、 砂時計のようなものを使うのだそう。
台座の上―― 宙に浮かぶ砂時計…… その台座のメモリを弄る事で時間を計ってる。 計ってるって言っても、 メモリを3番目に合わせて―― とか調合書に書かれているから、 使用してる人が時間を意識しているかどうかは大変怪しい。
この街の場合だとマナの樹を基準にして大まかな時間を共通認識してるっぽい。
例えば―― 『マナの樹の五番目の左の枝に太陽が来る頃に待ち合わせをしよう』 とかね。 時間ありきで生活していた私にとっては目から鱗でした――。
というか、 幻の家に居た時はこの世界の環境に慣れて無くて、 時間とか気にしてる暇も無かった癖に、 いざ―― 街中に出て時計やら時間の概念がほぼ無いと知った時の衝撃たるや……。
何と言うか―― 落ち着かない。
煌夜に、 時間とやらに縛られるのって楽しいのか? とか聞かれて初めて、 朝昼晩と時間に拘束される生活をしていたのだなぁと認識してみたり。
いや、 拘束って言うのは変なのかもだけど。 それが当たり前の生活だったし……。
まぁ、 このソワソワした気持ちは置いておいて、 登録証が完成するまでの間に服を買いに行きました。
今は、 制服をアイテムで誤魔化してるだけだしね。 旅をするなら防御力が高い装備をした方が良いんじゃないかと……。
煌夜にも何かあった方が良いんじゃ無いかって言ったら、 竜の鱗程頑丈な素材もそうは無いそうですよ……。 思わず、 煌夜のお腹をプニプニ触ったら、 恥じらいを持てと久しぶりに怒られた。
公衆の面前で何をしてるんだ―― ってさ。 それって、 公衆の面前じゃ無ければ触って良いって事かなぁ…… と思ったのだけれど、 聞いたら余計に怒られそうなので止めておいた。
けど、 本当にさわり心地良いんだよ? 煌夜のお腹……。 こんなに柔らかくてプニプニしてるのに、 刃物も通さないって嘘でしょ?? 成竜になると通さないどころか刃先が折れるって……。
「うん。 良いんじゃないか? 」
煌夜の言葉に私は現実逃避を諦めて、 ダラダラと冷や汗をかいた。
ポイントを貯めて、 防具類を手に入れる事も考えたんだけど、 それだと煌夜が納得する防具類を今すぐ手に入れるって言うのは無理そうなので、 道中倒して来た魔物から剥ぎ取った素材なんかをまず道具屋さんに売りに行った。
しかも、 煌夜はちゃっかりと―― 寝てる私をタナトスさんに預けてポチ君と―― あのリッチの持ち物だった魔道書の類をしっかり頂いて来たらしい。 で、 それが古書店で驚くべき高値が付いた。
それはもう、 古書店のオジサンが現物をみて白目をむいて気絶するレベル。 大変状態の良い希覯書らしいです。 ―― おじさんってば大興奮。
「今から、 お金作って来るから! 待ってて!! 本当、 すぐだから! 待ってて! すぐだから――っ!! 」 と、 私達をお店に置いてきぼりにして走り去って行ったっけ……。
で、 エライ大金を持って帰って来た。 流石に、 手には持たずにアイテムに収納して持って来たのだけど。 血走った目と―― ゼハゼハと荒い息に、 思わず体調を心配しちゃったよ。
煌夜は、 それらをリッチからの迷惑料がわりにポチ君に全部あげようとしたんだけど、 レイスにとってはお金とか必要無いですし、 とポチ君が辞退。 タナトスさんもお金には困って無いからって私と煌夜にポンとそのお金をくれた。
とは言え、 私はそんな大金を「ありがとう! 」 って貰えるほど図太くも無く、 かなり動揺しながら抗議(?) したり……。
とにかく、 ポチ君にはレイスにも装備できるアイテムがあるらしいので、 それを勧めてみたりとか?
けれど、 現状では必要ないってさ……。 そこで、 欲しいものが出来た時に煌夜がお金を出すって事に落ち着いた。
タナトスさんは―― 本気で必要無いそうです。 詳しく説明してくれた訳じゃあ無いけれど、 冒険者としての稼ぎとか、 まぁ何か色々あってお金にはまったく困ってないから―― と。
「そもそもあのリッチは、 ナギが倒したようなものだろう? 貰っておけ。 無一文ではこの先困るだろうしな」 だそうです。
私は記憶も無いし、 倒したようなものだって言われてもね……。 でも、 受け取って貰えないのだけは理解できたので、 私の分も煌夜に預けましたよ…… 貧乏性なもんで、 持ってるの怖い。
後で、 銀行の役割も果たしている冒険者組合御用達の両替商の所で、 口座を作る事にしたけどね。
一般の両替商でも口座は作れるのだけれど、 御用達の両替商で口座を作って入金しておくと、 冒険者証でお買い物が出来るようになるらしい。
所謂電子マネーのイメージが近いのかな? 冒険者証にチャージして、 後日引き落とし―― みたいな。 大金を持ち歩く必要もなくなるし、 冒険者証は本人にしか使えない偽造不可の技術が使われているらしいので、 色々安心だそうです。
「あぁ、 サイズも良さそうだな…… 」
タナトスさんが頷いて煌夜と何やら話してその声で、 私は再び現実に戻ってきた。 いっそのこと、 物思いに耽ったままで居たかった……。
『ナギ、 とても似合うのよ! 』 『そうでありますなぁ!! 』 チナちゃんとポチ君の呑気な声が響く店内―― まるで貸切状態になっているココは武器と防具を扱うお店の2階―― 馴染みのお客さんしか入れない、 高価な品物を販売しているフロアだ。
何で、 そんな馴染みのお客さんしか入れない様な所に居るかと言えば、 何の事は無い…… タナトスさんがお馴染みさんだったりする。
「いやぁ、 流石はお客様! お目が高い! こちらは―― 」
ホクホク顔の店長さんが両手を重ねてモミモミしながら、 煌夜とタナトスさんに話しかける。 目尻がこれでもかって位に下がっている所を見ると『上客来たコレ! 』 って気分なのがありありと分かった。
私が今身につけて居るのは、 白銀色の胸当てだ。 金属の筈なのに驚くほど軽いソレは、 身につけてる実感があまり湧かない。
しかも、 シンプルなデザインなのに金具の意匠が凝ってたり、 繊細な蔦模様があしらわれた様子を見れば、 私が予想するよりも遥かに高いんだろうなと言う事が察せられた。
更に胸当ての下に着ているのは、 白いひざ丈ほどのスカートワンピ。 動きやすいように両足の太ももの所に深くスリットが入ってるもので、 肩は膨らんだランタン・スリーブ。 袖は七分の長さのもの。
スリットが深いので、 モスグリーン色のホットパンツを履いている。 更に履いてるのは黒タイツ。 そして膝までガードしてくれる白銀色の金属に覆われたレザーブーツ……。
あぁ、 店長さんが今勧めているのは若草色のマントだねぇ……。 ちなみに白銀色の金属は『ミスリル』 だそうです。
そして、 今身につけてる服―― それに煌夜が今見せて貰ってるマントも―― ミスリル鋼をナンタラカンタラな技術でアレしてコレして線維化させた物で作った生地を使用しているそうデスヨ?
えぇ、 ミスリル。 私ですら知っている、 レアな金属ですよ。 それともあれだろうか、 この世界ではミスリルは量産出来るほど採れるのか?? もしくは私の知るミスリルとは違うのかもしれない。
「えぇ! えぇ―― そうですとも。 可愛らしいお嬢さんをお守りするには、 うってつけの品物だと自信を持ってお勧め致します!! 銅のように薄く延ばせ、 軽量で―― 銀のように美しく黒ずむ事も無い―― 美術的価値もさることながら、 鋼よりも強度が高い! 刻んだ呪紋で防御力も更に上げております。 即死や呪い等の効果をリフレクトし、 魔力と体力の回復効果もアップ!! えぇ、 えぇ!! 魔力と相性が良いミスリルだからこそ出来る事です!! 」
店長さんが…… 希少価値ガー、 ミスリルガー!! と熱意ある営業をしている所を見ると、 私が考えているミスリルで合ってる気がした。 あ、 駄目だ。 きっとサッキマデ予想してたよりも高いに違いない……。
しかも、 この高い買い物を止めようとする人がこの場に居ないのだ。 煌夜はさも当然って感じだし、 タナトスさんも安めの防具でも買おうとしているかのように普通だ。 チナちゃんはそもそも貨幣の認識が無さそうで、 ポチ君はきっと何も考えて無い気がする……。
「あ―― あの、 ね? コーヤ…… 」
「どうした? ナギ」
おずおずと呼びかける私の声に、 コーヤが顔を上げて私の方を見てくれた。
高い装備、 高い装備と思っている所為でどうしても動きがギクシャクとしてしまう。 だって、 下手に動いてキズとかついたらどうしようって思う訳ですヨ。 まぁ、 ミスリルだっていうのなら私が引っかいた所でキズ一つ着けられないだろうケド。
「えぇっと、 ちょっとこんなに奇麗な防具とか? 私には分不相応じゃ―― ないかなぁ?! 」
最後の方、 声が大きくなってしまったのは、 店長さんの「余計な事は言わないで頂きたいですな、 お客様!! 」 と言う無言の圧力が怖かったからだ。
怖いよ―― 目力。 でも負けない…… だってこんな高いもの、 普段使いになんて出来ないもの!
「いや? 良く似合ってるし、 問題ないだろ? 」
煌夜クン―― どうにも私の危惧を理解してはいないらしい。 私は煌夜を引っ張って傍に連れて来ると、 店長さんの視線から逃れるように後ろを向き小さな声で訴えた。
「こんな高い防具、 ポンポン買おうとしちゃ駄目だってば! しかも、 普段使いなんて無理だよ。 無理無理」
「ナギ…… 防具を普段使いしなくてどーすんだ? 飾るのか?? それこそ無駄だろ。 確かに、 ミスリルは下に置いてある防具よりも高いが、 全財産をつぎ込む程高い訳でも無い。 というより、 あのリッチの持ち物が、 予想以上に高く売れたんだ。 これ位買った所で懐は痛くも痒くもないぞ? 」
オゥ…… 知りたくもない真実。 懐がまったく痛まないって、 今の全財産幾らあるんだろう。 怖ろしすぎる。
ボソボソと呟いていると、 タナトスさんが傍に来た。
「大方、 高級過ぎて使えないとか、 そんな所か? 安心しろナギ。 ミスリルとは言っても、 近年大きな鉱脈が見つかって流通量が増えてるからな。 30年前よりずっと安いぞ? 」
「何で分かるんですか―― 安いって言っても高いでしょうに…… それに、 私みたいな弱そうなのがそんなに高い装備とかしてたら『お金持ってます。 襲って下さい』 って言ってるようなものでしょ? 」
そう。 高いと言う事もさることながら、 一番の心配は強盗とか、 夜盗とか盗賊とか! そう言う人達に目を着けられるような格好はしたくは無いという事だったりする。
そんな私の心配を余所に、 煌夜とタナトスさんが顔を見合わせて苦笑した。
「『変幻の腕輪』 があるだろ? 」
煌夜の言葉に、 私はあっ! と声を上げた。 どうやら私の心配事の一つは、 まったくのは無意味だったらしい。
高位ランクの冒険者でも無い限り、 と言うか、 高位ランクの冒険者でも『ミスリルデス』 って状態で出歩く事はまず無いそう。 目立ちたがりだとか、 喧嘩好きで自分の腕に自信があるのなら話は別だけれどね?
タナトスさんの服とかも、 ミスリル生地から出来ているらしい。 独特な光沢があるから、 何もしなければ目立つ服だ。 けど、 何の違和感も持たずに今まで一緒にいたのだから、 タナトスさんは最初から服に認識を誤認させるアイテムを使用していたのだと分かった。
「まぁ、 確かに小さな家位は買える値段だがな。 装備一つで命を左右する事もあり得る。 持ち合わせが無いのに借金をして買えと言っている訳でも無し、 買える時に買っておく方が良いと思うがな」
私はうぅーっと唸りながら煌夜を見た。 モチロン煌夜は買う気満々だ。
『まぁ、 良く分からないでありますが、 こういう装備も出会いのようなもの―― それはナギ殿に良く似合っておりますし、 何よりも、 ミスリルなら安心感が違うでありますから、 買えるのなら良いのではないかと』
『ナギ! あのマントも一緒に買うのよ!! その格好にとっても似合うの! 』
ポチ君に、チナちゃんまで―― 味方は誰もいなかった。 更に店長さんが追い打ちをかける…… 「今なら、 服がホツレたり、 防具の金具が壊れた場合は永久的に修理する保障がつきます! しかも、 系列店なら何処でも受け付けますよ! 」 「よし、 買った! 」 煌夜の言葉を受けて私は思わず脱力してしまった。 煌夜クン、 君―― 良いカモなんじゃないかね? 言い値で買うって大丈夫なのか??
私の心配を察してくれたのか、 タナトスさんが値段交渉してくれたケドね。
結局、 値段をもう少し勉強して貰って、 更にマントの留め具とかをオマケして貰う事で決着が付いた。
今まで着用していた制服は、 煌夜の首飾りの中にしまって貰って新しい装備に。 それを、 『変化の首飾り』 で見た目の形と色はそのまま―― 材質だけ安いものに見えるように変えた。 これで、 いかにも使いこんでマスって言う見た目に変更できたと思う。
店長さんには他にも剣とか勧められたんだけど、 自分の手も斬りかねない程残念な運動神経の話をしたら、 残念そうに諦めてくれた。
そうすると、 武器はやっぱり鉄扇みたいなモノが良さそうだったのだけど、 残念ながら今の流行りでは無いらしく特注しないと無いそう。 しょうがないので、 そちらは保留する事になった。 イ―ロウさんの奥さんの鉄扇は、 もうしばらく貸して貰う事になりそうだね。
「お買い上げ、 ありがとうございました! これからも、 どうぞ御贔屓に!! 」
店長さんに、 ものすっごい笑顔でお見送りされましたよ……。 私的には少し胃が痛い状況だけどね。
どうしよう…… 煌夜が浪費癖とかつけちゃったら……。 タナトスさんも、 必要なら良いものをってタイプみたいだし、 私がシッカリしないといけない気がする。
冒険者組合に行くにはまだ早かったので、 露店を巡ったりする事になった。 危惧していたように、 煌夜がアレもコレも買おうとか言い出さなかったのでそこは安心できた訳なんだけれど……。
露店で売られているのは、 食べ歩き出来るお菓子だったり、 家具やアクセサリーだったり…… 色も形も独特で、 興味を惹かれた私はついキョロキョロと見まわしてしまった。 きっと旅行者丸出しだったと思う。
陽が昇るにつれて人通りも多くなり、 タナトスさんとはぐれない様にするのに精一杯。
煌夜には私の肩の上に乗って貰い、 ポチ君は煌夜の影に入って貰っていた。 何故って、 人出が多くなった事で、 人と人との距離が近くなった所為でポチ君が真横にいると皆がギョっとするみたいだったから……。 まぁ、 まだ従魔ですって証になる首輪も無いしねぇ。 レイスが真横に居るってビックリするのも無理は無い。
今は、 タナトスさんが広場の端にある小さなお店に行ってるので、 その間―― 噴水の所で煌夜とチナちゃんとポチ君でお留守番をしていたりする。
正直、 歩いた距離も時間も大したこと無いハズなのに、 人込みを縫って歩いた所為かやけに疲れた。
噴水の縁に座って、 煌夜と露店で買ったチュロスみたいな揚げ菓子を分けて食べた。
そのチュロスみたいなお菓子は、 外はカリッと中はモッチリとで粉砂糖がまぶされててとっても美味しかったですよ。
「はぁ―― 何だか、 凄い人出なんだけど…… いつもこんな感じなのかな? 」
「いや? 今日は月に一度の市が立つ日らしいぞ? 普段は露店が出て無いらしいからな」
私の溜息交じりの呟きに、 煌夜がそう教えてくれた。
成程―― 月イチで一番混んでる日だったみたい。 色々なお店があるのは楽しいけれど、 正直この混み具合はかなり疲れる。 そんな風に行きかう人を見ていた時だった。
「すっげ! 竜だ!! 」
いきなりの掛け声に驚けば、 小さな影に突進されて噴水の縁から押し除けられた。 振りかえって見てみれば、 後ろから近づいたらしい幼い子供が5人。
「な! 何?? 」
ゲンナリした顔で飛び立った煌夜が、 ピョンピョン飛ぶ子供達の手が届かない位置で溜息を吐いた。 どうやら、 煌夜の事を掴もうとしたらしい。 保護者はいないのかと周りを見たけれど、 皆、 我関せずと言った感じで保護者らしき人も居なかった。
子供達を良く見れば、 汚れた服と泥だらけの格好―― お風呂にもろくに入って無いようで、 垢まみれの状態…… 申し訳無いけれど、 鼻にツンとくる異臭がしている。
孤児―― なのだろうか……。 近くに座っていた幾人かが、 眉を顰めるとそそくさと立ち去って行った。
「いい加減にしろ! 俺は玩具じゃ無い!! 」
「やべぇ! しゃべった!! 」 「すげぇ! 」 興奮しながら話す子供達は、 煌夜が怒っている事すら楽しいらしくケタケタと笑っている。
私は、 押しのけられた時に地面に打った手の砂を払いながら立ち上がると、 噴水から離れながら飛んでる煌夜を肩に乗せた。
「ずりぃ! それくれよ!! ねーちゃん」 「ずっりぃ! ずっりぃ!! 」 私の周りに子供達が纏わりつく。 子供達は私の腰よりも低い身長だから、 煌夜に手が届く事も無いけれど、 纏わりつかれれば危ないし正直困る。
そして何よりも、 煌夜の事を物か何かのように扱おうとする子達に腹が立った。
「危ないからやめて! コーヤは物じゃ無いんだよ!! 」
「ナギ―― 手―― 」 煌夜を手で庇った瞬間、 ガッシリとソレを掴まれて―― 地を這うような煌夜の声が耳元に響いた。
あ―― これ、 危険なヤツだ。
どうやら私の手の平に、 さっき子供達に突き飛ばされた時に出来た擦り傷がある事に気が付いちゃったらしい。
「コーヤ! 大丈夫だよ…… 大した怪我でも無いし」
事実、 ちょっと擦り傷から血が滲んでるかな? って位のものだからそんな冷気を出さないで頂きたいんデスケド。
元々、 無礼千万な子供達に腹を立ててた所為か、 煌夜はヒヤリとする満面の笑みを浮かべると、 囁くようにソレを唱えた。
「ライトニング」
ッタ――――――ンッ!!
雲ひとつない青空の下、 雷鳴が響いた。 落ちたのは、 子供達の足元―― 地面のその一点だけが黒く焦げてブスブスと煙を出している。
子供達ももちろん、 周囲に居た人々の動きが止まった。
「ガキ共―― 次は当てるぞ? 黒焦げになりたいか?? 」
底冷えするような口調で言う煌夜と、 ガタガタと震えながら、 振り子の人形か何かのように首を振る子供達―― 煌夜―― 流石に脅かしすぎでしょ……。
かなり困った子供達だとは思っていたけれど、 流石に可哀想になって来た。 と言うか、 私達の周りの人が潮が引くように遠巻きに……。
「コーヤ! 何事だ? 」
人垣を掻き分けるようにしてタナトスさんが声を掛けてくれた瞬間、 子供達が脱兎の如く逃げて行った―― あっと言う間に人の中に紛れ、 見えなくなってしまう。
子供達が走り去った後を、 あっけに取られて見ていると…… 何故か後ろの方からチナちゃんの声。
『ギ―― ナギ―― っ!! 助けて―― なの――っ 』
しかも、 徐々に遠ざかってるんだけど―― はて? 私は、 チナちゃんがいる筈の腰のポーチを見てみた。
「うえっ? は?? 」
私が変な声を出してしまったのは許して欲しい。 だってそこに居るはずのチナちゃんが、 その辺に落ちてそうな石ころになってたんだよ!!
さっきまで、 冷気を出していた煌夜ですらポカンとした顔でポーチの中の石を見る。
「―― やられたな」
苦虫を噛み潰した顔をしてそう言ったのは、 ようやく私達の傍に来れたタナトスさん。
「ど、 どどどど?」
動揺し過ぎて、 どういう事ですか? と聞けない私にタナトスさんが「掏られたんだろう」 と一言。 スラレタとは何でしょう。 その意味が、 私の脳内に届くまで数秒間―― 私は無言でポーチの中の石を見続けた。 掏られた? 何を??
何をって? チナちゃんを?!
脳内に意味が届いた瞬間―― 私はとっさに、 チナちゃんの声がした方に走り出そうとしたのだけれど、 煌夜とタナトスさんに止められる。
それから怒った顔をした煌夜が、 唸るように自分の影に声をかけた。
「ポチ―― 」
『了解であります! 』
煌夜の影から飛び出したポチ君が、 チナちゃんの声が聞こえた方へと飛んで行った――。
「どどどどど、 どーしよ―― チナちゃんが攫われちゃった? 」
半泣きで混乱する私を見て、 煌夜が「ポチが見つける。 大丈夫だ」 と慰めてくれるようにそう言ってくれる。
ポチ君を信用してない訳じゃないけれど、 さっきのチナちゃんの声が耳から離れないし―― 何で攫われたのかとか私の頭はゴチャゴチャで……。
そんな状態の私の横で、 煌夜が地を這うような声で「ガキ共―― 後悔させてやる…… 」 と。
煌夜さん? ―― さっきの子達が逃げたのは、 チナちゃんを攫ってった(であろう)人とは逆の方向だよ?? あの子達がいったい何の関係があるって言うんだろう……。
私には分からなかったけれど、 煌夜とタナトスさんの厳しい顔があの子供達が消えた方を睨みつけていた。
何やらお金持ちになったと思ったら、 チナちゃんが誘拐(?)されました。 最初はポチ君が攫われる予定だったんですが……。
チナちゃん―― 主従揃って攫われ癖がつかない事を祈ります。
絡んできた子供達が、 この件にどう関係していたのかは、 次回に。 暫くはチナちゃん救出のお話になるかと思います。




