やっぱりレベル上げが必要ですか。
異空間から異世界へ。 やっと出発。 気持ち長めです。
「まずはレベルをあげる」
煌夜の言葉に私はそっと目を逸らした。
それってあれですよねぇ? 噂に聞くモンスターとの戦闘的な? ―― 武器とか持って無いんだけど…… それ以前に産まれてこのかた、 武術には縁が無い私。
いや縁が無い事よりも、 どちらかと言うと運動音痴の方が問題か。 例え武器を所持していても、 敵に攻撃したらきっと自分に当たると思う。
目を逸らしたまま、 もにょもにょしていると、 訳が分からないって顔をした煌夜が小首をかしげる。
「? なんだその変な態度は」
そう聞かれれば、 答えない訳にもいかず、 私は意を決して口を開いた。
「エットですね? 私、 産まれて来てから戦闘とは縁の無い生活をして来ていましてですね……… って言うか多分…… 確実に私、 鈍くさ過ぎて、 武器とか持って戦えないと思いまっす! 」
なんだそんな事かと言われて、 どうにかなる方法でもあるのかしらん、 と期待を込めて煌夜の言葉を待つ。
「安心しろ。 お前にそんな事は求めてないから」
根本的に違いました。 解決策以前にそもそも頭数に入れてないとキッパリ言われて、 それはそれでちょっと切ない気持になった。 心がへにょりと挫けそうになる。
ホント頼りにならなくてゴメンよ……。
そんな私の切ない気持が伝わったみたいで、 煌夜が呆れたような顔をした。
「…… 面倒くさいヤツだな」
返す言葉もありません。 ここは謝っておこう。
「申し訳ないデス」
「物事には適材適所ってもんがあるからな。 戦えないニンゲンをいきなり戦わせたりはしないさ」
煌夜が説明したのはこうだ。 外に出て、 あまりレベルが高くない魔物から倒して行く。
この時、 戦闘を行うのは煌夜。 私は回復バックアップ要因(仮)らしい。
もし、高レベルの魔物に会ったら即、 帰宅。
チマチマしたレベル上げになりそうだけど、 ゲームと違ってココは現実な訳だから加護で死亡回避ができたとしても、 攻撃されれば痛いしねぇ。 危ない橋は渡らないに限るって事になりました。
私と煌夜は繋がっているから、 私が実際に戦闘を行わなくても経験値は入るらしい。 便利だね!
「取りあえず、 スキルの確認するぞ」
ステータス画面の下の方に小さく『☆スキル画面へ移動☆』とある。 なんか☆が多いな。 神様って星が好きなのだろうか。
『☆ましろ’Sスキル☆
ヒール(弱) : かすり傷程度の傷を治すよ!
ライト(弱) : 明りにはなるかな?
アースバインド(弱) : 弱いモンスターなら拘束できるよ。
罠として使えば転ばせられるかも? 』
『☆こうや’Sスキル☆
ブラインド(弱) : 短時間目くらましができるよ。
ブレス(強) : 闇色の炎を吐けるよ。 弱い敵なら丸焦げだ!
ライトニング(中) : 雷で攻撃できるよ。
スタン(弱) : 相手を痺れさせる。でも弱いから強い魔物には効かないかな?
アイシクル(中) : 氷柱を飛ばして攻撃できるよ。
飛ばさずに魔物の足元に発生させれば足止めできるかも?
グラビティ(弱) : 相手に重力をかけられる……。 でも弱いから一瞬かなぁ。』
随分砕けた口調のスキル説明だなオイ。 それにしても…… 煌夜と、 私のスキル差が半端ない。
これって回復要員としても心もとないんじゃ?
「あう…… 」
私の素敵なお荷物感に涙が出そうだよ。
最近流行りのチート転生とか、 チート異世界転移とか何処イッタ。
「まぁ、 こんなものか。 大体見て分かる通り、 スキルのレベルは強中弱だ。 ランクが上がると上に『特』がつく。 特の次は『超』がつくらしいぞ。 他には強力になると名前が変わるし分岐して別のスキルが発現する場合もある」
ねぇねぇ、 突っ込んでいいかな? それって特弱とか超弱ってなるって事だよね……? それって強くなってく気がしないんだけど…… 神様はその辺まったく考えなかったんだろうか。
「いいか? 細かい事は気にスンナ。 アイツの仕様を気にするだけ無駄だ」
「…… 分かった」
そんなに顔に出てたかなぁ。 何で私の言いたい事が分かったんだろう。 煌夜は凄いと思う。
「取りあえず、 実際に試してみるか」
「もしかして…… 外に出るの? 」
「出なけりゃ、 試せないだろーが」
おっしゃる通りで。 でもさぁ……。 魔物と戦うとか女子高生にはキッツイものが。
「ほら心の準備が必要だし、 今日はもうお休みするとか……? 」
「そういう事いうヤツは明日になっても心の準備なんぞ出来ねーよ。 アキラメロ」
うわーい! はっきり正論ですよ。 本当にこのコ、 子供とは思えない。 正直に言おう。 私は明日になっても心の準備は出来てないと思う!
予想が当たってる事が凄いのか、 読まれる私がチョロイのか。
そんな私の葛藤を無視して、 煌夜はベットのある二階のフロアの真下に向かった。
諦めてついて行くと、 壁の樹の一部が左右に分かれて大きな水晶のクラスターみたいな柱が二つ現れた。
一畳分位の間を開けて立つその柱は、 キラキラと光っている。
「ゲート」
煌夜がそう言うと、水晶? が七色の光を放って輝き、 二つの柱の間に淡い光の膜のようなものが張られる。 透明だった石はアクアオーラ見たいに色付いて見る場所によってその色を変えた。
「ついてこい」
煌夜がそのまま光の膜に突っ込んで行った。 壁にぶつかる! と思ったのだけど、 そのまま姿が壁の向こうに消える。
「えぇっ! 」
いなくなっちゃった! これって膜を通ると転移するって事かな? さすがに煌夜のように勢いよく行ける気がしない私は、おそるおそる手を伸ばすとゆっくり膜に右手を入れた。 …… おー、 手首から先が消えてる…… ちょっと楽しくなって手を出したり引っ込めたりヒラヒラさせてたら、 怒った煌夜が「遊んでるんじゃねぇよ」 と言って顔だけ出す。
そして、 そのまま顔が引っ込むと私の右手が力強く引っ張られて……。
―― 私は初めてこの世界の大地を踏んだ。
―― 足の下に草を踏みしめた感覚。
―― 今までとは違う 濃い 空気――
ケキャケキャケキャ クルルルル……
フィーッ フィーッ コココココ……
ものすっごい木と土の匂い……。 鳥? か何かの鳴き声が辺りに響く。
もちろん周りは三百六十度、 背の高い木に囲まれている。 今は昼なのか中天から注ぐ太陽の光が穏やかに私達を照らしていた。 木漏れ日が眩しい。
煌夜が引っ張っていた私の手を離す。 温もりが離れた事に少し寂しさを感じながら思わず溜息を吐いた。
「…… なんだよ」
なんでか少し照れたような顔で煌夜が言った。
「んーん。 何でもない…… 煌夜ったら、 いきなり引っ張るんだもん。 ビックリしたよー」
ごまかすようにして笑えば、 「お前が遊んでるからだろ」 って一蹴されました。
だって、 ちょっと面白かったんだもの。 いーじゃないかちょっと位。
森の中は温かい。 湿度はそんなに多くは無いから、 南国って事はないと思う。
私のいた世界とどれだけ違うか分からないけれど、 周りにある木は広葉樹かなぁ。
葉っぱの色は、 若々しく青々とした緑。 春、 になるのだろうか。 そもそも四季があるのか分からないけれど。
「さて…… 手頃に倒せそうな奴等を探しに行くぞ。 はぐれないように着いて来い」
パタパタと目の前を煌夜が飛んで行く。 私は足元に注意しながら後に続いた。
誰も踏み入った事が無い事を示す様に沢山の下草が空に向かって生えている。 正直、 草の所為で足元が見えづらい。 案の定、 石に躓いて早速転びかけた私を呆れた目で煌夜が見てくる。
「街までの道のりは遠そうだナ」
「うー。 舐めてた…… 私、 森歩きを舐めてたよ…… 」
これから先を考えると気が重くなる。
「私も飛べれば良かったなぁ」
「確かにニンゲンは飛べないから不便だな…… コッチの俺の身体がもっとでかけりゃ運んでやれるんだが」
運んでくれるって? 大きくなったら是非お願いしたい。 煌夜の背中に乗って空を飛べたら気持ち良いだろうなぁ……。
「現状で無理だって分かってるんだから一々想像すんな…… 」
なんだか、 目を逸らして言われましたが。 ちょっと想像する位いいじゃんか。
「ゴメン、 顔に出てた? でも煌夜と空を飛べたら楽しそうだよね? この世界、 他にも竜っていないのかな? もしいたら乗せて貰えれば一緒に空飛べるよ」
「…… 他のヤツに乗せて貰うとか、 喧嘩売ってんのか? 」
ジト目で言われてキョトンとする。 明らかに不機嫌。
「あははは、 ゴメン。 私のパートナーは煌夜だけだよっ」
もしかして嫉妬してくれたのかなぁ。 それって私と仲良くしたいって事だよね?
そうだったら嬉しいなぁ。 そう思ったら手が勝手に動いて煌夜をぎゅっと抱きしめちゃった。
「ばっ!!! お、 マエ何すんだ! オイっ!! 」
何か照れてるっぽい? かわいいーっ!
思わずスリスリ頬ずりしたら、 本気で逃げられた。 ヒドイ。
「お前は、 バカなのか。いや、 言わなくていい。 そうだな知ってた絶っっ対バカだ。 良いか? 女が 簡単に 抱 き つ く な!! 少しは恥じらいとか持てよ! 本気で。 お前絶対そのうち後悔するからな」
「? 煌夜に抱きつくのに恥じらいとかは関係ないと思う」
意外と柔らかかったなぁ煌夜の頬っぺた。 思わず感触を思い出していると、 げんなりした様子の煌夜がブツブツ言っていた。
「ソーデスネ。 どうせ、 そうでしょうヨ。 まぁ、 後悔すんのは俺じゃねーし。 はぁ…… お前、 その言葉覚えておけよ…… 忘れんなよ」
そんなに念押ししなくてもいいのにね? 変な煌夜。
何だろう、 ちょっとの間に煌夜が疲れた顔になってるよ。
「大丈夫? 煌夜。 何か疲れてるみたいだけど…… 今日はもう帰る? 」
「アホか。 何の魔物も倒してねーじゃんか」
立ち直ったらしい煌夜に、 さっさと行くぞと言われて私は歩き始めた。
さっきみたいに先には行かずに、 私の横を飛んでくれる煌夜の姿にちょっとキュンとする。
女の子に歩調を合わせてあげるのは良いオトコの条件だよ煌夜くん。 精進したまえ。
そんな事を考えてクスリと笑った。
煌夜の苦労が偲ばれます。 天然娘は話が進めば後悔に身悶える日が来るでしょう。
次の話では異世界初のお友達ができる予感………。
『廃棄世界に祝福を。』 も次の話を投稿しました。 合わせて宜しくお願いします。