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新作アイテムのモニター要請されました。

 テオさんの飛んで逃げて行く背中を見送れば、 早い事―― あっと言う間にその姿は豆粒に。

テオさんみたいな獣人はやっぱり珍しいのか、 扉越しに見える通りを行く人達が、 指差しながら驚いた顔をしているのが見えた。


 「凄い早いね…… 飛ぶの」


 『そうでありますなぁ…… もう見えないであります』


 あんなに早く移動できるなんて、 正直ちょっと羨ましい。 多分スタートダッシュなんじゃないかと思うけど。 だってあのスピードで全部移動できるんなら一日でチナちゃんのお父さん―― シロガネさんとか確認して帰って来れるんじゃないかな。


 「さて、 当初の予定が大方済んでしまった訳だが……。 今日は後どうする? 」


 タナトスさんにそう言われて、 私は少し考えた後に返事をした。


 「あ、 そうですね…… お父さんにそっくりな人を探すのも、 ノールさんのお友達と連絡がつくのを待つのも―― 結局皆解決した訳だし…… 私は出来れば一度、 イ―ロウさんの所に戻ってチナちゃんに会いたいですけど」


 そうそう。 当初の予定では、 お父さんに後ろ姿が良く似た人を探す予定だったんだよね。 それで、 タナトスさんの友達からの連絡を待つと言う―― 何の事は無い、 両方ともミズキさんだった訳だけど。


 「チナちゃんって誰ぁれ? 」


 ミツキちゃんが興味津々って感じで、 私の事を覗き込む。


 「あぁ、 マナの樹のトレントの女の子だよ。 私が名付けをした関係で、 本当はまだ一緒に居る方が良いみたいなんだけど…… 移動するときとか、 戦闘があったりするとさ…… あちこちブツかっちゃいそうだったから、 イ―ロウさんって人に預かってもらってるんだ」


 簡単にチナちゃんの状況を説明すると、 ふむふむと頷くミツキちゃん。 ポチ君も興味深げに聞いていた。 そう言えば、 ポチ君はイ―ロウさんとチナちゃんの事を知らないものね。


 「ははぁ。 森の賢者サンの所にいるんだ? トレントねぇ。 ナギお姉さんの所には珍しい種族が集まりやすいのかな? 」


 ニヤリと笑って言うミツキちゃんの目が怖い。 何だかロックオンされた気がするのは気のせい?

なんとなーく『うふふー、 何だか楽しそーう』 という幻聴が聞こえた気がするんだけど…… ねぇ、 気のせい―― だよね。 


 「トレントってそんなに珍しいの? 」


 珍しいと言われれば、 過るのはポチ君の存在。 昨日の人みたいな嫌ぁな感じの人に目を付けられて、 チナちゃんが攫われたらどうしようって気持になったからだ。

 ポチ君は、 影渡りとかで逃げられそうだけど―― チナちゃんは現状で対抗手段とか無いものね。


 「いんや。 ただ、 マナのトレントであれば珍しかろうなぁ」


 ミズキさん曰く、 トレントは普通に存在するそう。 年を経れば人と同じ位のサイズになれるし、 分霊ぶんれいという方法で自身の一部を友達や契約者に持っていて貰う事で、 その友達と一緒に旅するような事も出来るらしい。 

 イメージ的には、 本体は基本的に樹の所に居るんだけど、 持ち歩かれてる身体の一部が窓口。 窓口を経由すれば好きな時に顕現が出来ると言う仕様らしい。 


 「―― 確かに。 チナも一度ギルドに連れてきた方が良いだろうな。 従魔契約をしろとは言わないが、 仮でもコーヤかナギと契約させた方が良いだろう。 二度手間になってしまうが…… ポチの事もある」


 タナトスさんが、 そう言って溜息を吐いた。 そうだよねぇ。 ポチ君の事もあったし、 安全策があるのなら、 契約でも何でもした方が良さそうだ。 どんな契約があるのかは、 後でイ―ロウさんに聞けばいいかな? チナちゃんが納得できる契約があれば良いのだけど……。 


 「何かあったがか? 」


 「まぁな。 タチの悪そうな商人に目を付けられた。 個人的に珍種の魔物か何かを収集しているらしい」


 ミズキさんの問いかけに、 タナトスさんがそう答えて苦笑した。 それから、 更に私が追いかけられた事とかを話すタナトスさん。 その話に、 ミツキちゃんが嫌そうな顔をして宙を睨んだ。


 「面倒そうな事にならなけりゃあ良いけどね。 そう言うのってしつこそう」


 ミツキちゃんの言葉に私も同意して頷く。 もっとちゃんと牽制とかできれば良いんだけど、 取り合えず、 ギルドからやって貰える事は警告だし……。 いまいち不安が残るんだよねぇ。

 だって、 煌夜に睨まれて怯えて逃げたのに、 そのすぐ後に一人になった私を拉致しようとか考える人だ…… それって喉元を過ぎれば忘れる人って事だよね?


 「―― まぁ、 ギルドには言ったんじゃろ? なら、 今できる事はもう無かろ。 そんチナっちゅー子ぉの事だがね、 箱入りで自分で動けんのやったら、 コレがいいかもしらんわ」


 まるで、 印籠を見せるかのようなポーズでミズキさんが何かを取り出した。 テレッテレーとか効果音が付きそうな雰囲気で、 ミズキさんは満面の笑みを浮かべてる。

 横では、 ミツキちゃんがどこから出したのかミズキさん―― というか、 ミズキさんの持っている物にスポットライトのようなものを当てていたりする。  ミツキちゃんの方を見れば、 ニヤリと笑ってウィンクされた。 私もつられて笑っちゃった。


 「何ですか? これ」


 クスクスと笑いながら、 皮で出来た太めのベルトを見る。 そのベルトには、 やっぱり皮で出来たマチのあるポシェットというか―― あまり大きくは無いウエストポーチが通されているって感じ。 

 焦げ茶のベルトに、 キャメルのポーチ―― そのポーチの開口部は焦げ茶の細いベルトにアタッチメント金具が2ケ所付いていてカチャリと止められるもの。

 ミズキさんが、 中を開けて見せてくれた。 ポーチの横に付いている金具を外せば、 マチの部分以外の前の部分がペロリと開く仕様のよう。

 中は仕切れるようになっていて、 仕切りを入れるための溝が3か所―― 仕切りは内ポケットに入ってた黒いプラスチック? みたいなやつ。 左のほうは試験官が入りそうなサイズの革製の筒が5本―― 右の方はゴムバンドが上下に付いていて、 何か挟めるようになってるみたい。

 中にはびっしりと呪紋が朱色のインクで書かれてる。 


 「最近開発された採集用のホルダーじゃ。 採集物にはどうしても細心の注意を払わんと、 薬効がのうなったり、 爆発しゆうもんもあるが。 それを解消するんがコレでなぁ。 あら不思議―― こん中に物を入れれば、 外がどんだけ動こうと中には一切の影響がなか! という優れもん」

 

 「え! すごい」


 まるで通販番組のようなやり取りになっちゃった。

けど、 本当凄いアイテムだと思う。 

 ポシェットの全面には覗き窓のような物があって、 ちょうどチナちゃんにも外が見えるような構造だし。 

 まぁ本来は中から外を見るんじゃなくて、 外から中の状態を確認するためのものらしいけどね。 そこにも透明なプラパンみたいなものが嵌まっているので、 覗き窓から物が零れおちるような事もなさそうだ。


 「じゃろ? ちゅーても、 今は最終チェックの最中じゃ。 もし、 モニターになってくれんのじゃったら、 無料で進呈するが。 どやね?」


 ニッカリとミズキさんにそう笑って言われて驚く。 コレってミズキさんが作ってるの?

改めて、 マジマジとポシェットを見れば、 縫い目も細やかで結構繊細に作ってある。 凄いなぁ…… 私には出来ないや。 小学校の頃、 家庭科の授業で作ったエプロンを思い出してそっと溜息をつく。 縫い目…… 何度もやり直して頑張ったんだけど―― ガタガタだったんだよねぇ……。


 「――? ミズキさんって、 開発者の人なんですか? 」


 「おしいねぇ、 ナギお姉さん。 ミズキはガイアカンパニーって会社の社長さんだよぉ」


 感心しながら聞いた言葉に、 答えてくれたのはミツキちゃん。 まさかの社長さんでしたか。 ミズキさん凄い! 異世界に来て会社を作っちゃうなんて。 私なんて日々の生活に必死だよ。

 

 「おん。 まぁ、 そういう肩書になっとうな。 会社っちゅーてもミツキと二人じゃしね…… こう言った便利アイテムを開発しとるん」


 少しだけ照れたようにそう言って、 ミツキさんはポリポリと頬を掻いている。

 デザインはミズキさんとミツキちゃんで、 呪紋の書き込みはミズキさん。 縫製とかは職人さんに外注してるみたい。 とは言え、 サンプルに関してはミズキさんが縫製しているみたいだけど。

 後、 ミツキちゃんはミズキさんの通訳役もしているらしい。 私はお祖父ちゃんで慣れてるけれど、 やっぱりこの口調だと細かい指示が通じない事があるんだって。


 「でも凄いです! 見ず知らずの異世界で会社を興しちゃうなんて…… 私なんか、 コーヤがいてくれなかったら今ここに居られなかったかもしれない位で…… 」


 恥ずかしながら煌夜には助けられてばっかりだ。 それに、 ひとりっきりでこんな所に飛ばされていたらと思うとゾっとしちゃうかも。 1日でも無事でいられる気がしない。 きっとあっと言う間にあの世に…… うぅ。 本当に煌夜と一緒で良かった。


 「…… まぁ、 パートナーっちゅうもんは、 助けおうよぉに出来とるが。 お前ぁさんがコーヤを助けてやった事もあると思うがね」


 「―― うーん。 怒られる事の方が多いし、 私がコーヤを助けられた事ってナイカモ」


 ミズキさんは、 私が煌夜を助けた事もあるんじゃないかって言ってくれたけど…… 無いよねぇ。

リッチの件は私がやった事ではないからカウント外だしね。

 申し訳ない気持ちで腕にしがみ付く煌夜を見れば、 うーん。 やっぱり反応が無い。 どうしたんだろう……。 怒ってる? うーん違う。 嫌われた? それなら腕にしがみ付いて無いよねぇ……。


 「ならサ。 いつかコーヤお兄ちゃんが困った時に、 助けてあげればいーんじゃない? ナギお姉ちゃん」


 考え込んだ私を、 現実に戻したのはそんなミツキちゃんの一言で。 

 今や、 家族みたいな感覚で大切な煌夜が、 もし困っている時があったのなら―― きっと助けようと心に決めた。 とは言ってもそんな事が起こる前に私が煌夜に助けて貰う事の方が、 多そうな気がするけれど。


 「そっか。 そうだねぇ」


 そうしみじみとミツキちゃんに頷いて言ったら、 横からミズキさんにポーチを差し出された。

 

 「まぁ、 試しに使ってみんさい」


 試作じゃし、 使い心地を教えてぇな―― と笑顔のミズキさんに言われて頷く。

 正直に言って助かった。 チナちゃんとなるべく一緒に居た方が良いって言われても、 マナの樹はそんなにポンポン生えてるものでも無いし、 旅の途中でいつもマナの樹がある場所に泊まれるとも限らないもの。 野宿とか普通にありそうだしねぇ。


 「ありがとうございます」


 私は、 使用感とかを教えるって約束をしてミズキさんからそれを受け取った。 皮製品ってもっとズッシリくるかと思ったんだけど、 予想よりも軽い。 けど、 ただ軽いだけじゃなくて、 重心はあるって言うか…… さっそく、 腰に付けてみた。

 ポーチ部分が邪魔にならない位置を探す。 最初はお尻の方に回してみたんだけど、 チナちゃんがここに入るとして、 万が一尻もちとかついたら―― と考えて、 結局は腰の左側に。

 

 「俺は少しミズキと話すとして、 コーヤとナギはチナを迎えに行ってくるか? あぁ、 ポチも行って来い。 チナとはこれから共に旅をする事になりそうだしな。 それにイ―ロウ殿とも面識があった方が良かろう」


 タナトスさんにそう言われて、 ポチ君と一緒に頷く。 煌夜は…… 一応頷いてはいたけどほぼ無表情。 うーん…… そっとしておいた方が良いんじゃないかって思ったんだけど、 もっと積極的に話しかけた方がいいのかなぁ……?


 『了解であります』


 「…… じゃあちょっと行って来ますね」


 「ポチは一度コーヤの影に入った方が良いだろう。 念のため、 建物の中から移動すると良い。 移動用のアイテムはギルドの者であれば大抵持ってはいるが、 まぁ…… お前たちは色々と目立つしな。 外側で移動するよりかは目立たず行けるだろう」


 タナトスさんが、 そう言って私達を連れて行ったのは地下室の小部屋だ。 奥には他にも部屋があるみたい。 タナトスさんが模擬戦とかができる広場があるって教えてくれた。

 『幻の家』 もランク的にはレアなアイテムだそうで…… ぱっと見、 他のアイテムの移動用ゲートと大差無いそうなんだけど、 見る人が見れば分かるそう。 タナトスさんとしても、 これ以上トラブルの元を増やしたくは無いんだろうなぁ。 私としても、 その方が有難いけどね。

 部屋の中にはソファーとテーブル。 そして剥き出しのマナの樹の肌がある。 一向に、 煌夜が言葉を発する気配がないので、 私はマナの樹に触れてから「ゲート」 と唱えて転移ゲートを起動する。 何だかこれを見るのも久しぶり……。 

 煌夜の影に入ったポチ君も連れて片足をゲートに入れた。


 「一応、 あんまり遅くならないようにしますね。 待ち合わせとかどうしましょう? 宿に戻ればいいですか? 」


 「―― いや、 戻るまでここにいるから大丈夫だ」


 「分かりました。 行って来ます」


 ひらひらと手を振るミツキちゃんに手を振り返しながら、 私はゲートの中へと足を踏み入れた。

目の前に見えるのは『幻の家』 の室内。 ちょっと離れてただけなのに、 『帰って来た』 と安心している自分に気が付いて微笑んだ。 


 「ふふ。 ただいま『幻の家』 」


 まるで、 私の言葉に喜んでくれたみたいに、 梢が囁くようなシャラシャラとした音が聞こえる。 

『幻の家』 にお帰りって言って貰えたような気がして、 私は嬉しくなった。 そんな気持ちを共有したくて、 私は煌夜の方を見て話かけた。


 「やっぱり我が家は落ち着くねぇ、 コーヤ」


 「…… 」


 煌夜―― 無言。 チラと目が合ったのにソッと逸らされましたよ…… 泣きたい。


 『ここが『幻の家』 でありますな? 素敵な家ですなぁ』


 無言のままの煌夜に、 気を使ってくれたんだろう―― にゅるんと煌夜の影から半身を出したポチ君が、 慌てた様子でそう言った。 うぅ。 ごめんね、 ポチ君…… それにしても、 煌夜は何があったのか、 とっても重傷な気がする。

 久しぶりの我が家なのに、 気づまりのような―― 妙な空気になって来たので、 私はさっさとイ―ロウさんとチナちゃんの所へ行くことにした。

 こんな状態の煌夜にどう接して良いのか分からない。 

正直言って、 煌夜に元気を出して貰おうとする事が無理ゲのようだ。 ごめんね煌夜…… 私が色々察しがよくて、 煌夜が何に落ち込んでるか(そもそも落ち込んでるのかが、 分からないんだけど) 分かれば良いのに……。 


 「よし。 イ―ロウさんの所に行こう」


 そう言って、 再びゲートを起動する。

『幻の家』 にそっと手を振って行って来ます―― と伝えてゲートを通り抜けた……。

 一陣の風が吹き抜ける―― そこは見慣れた場所。 イ―ロウさんが、 眩しそうに目を眇めてこちらを見ていた。 チナちゃんが、 『時の小箱』 の中でピョンピョンと飛び跳ねている。 『ナギなの! 』そんな元気な声が聞こえて来た。 


 長くなりそうだったので、 煌夜sideの前の話を2話に分割しました。 切り貼りした後半はただ今、 執筆中です。 チナちゃん同行の為に新作アイテム導入。 アイテム名は開発中につきという状態です。 単に私が思いつかなかっただけですが…… その内考えついたら書きたいと思います。

煌夜の様子が変なままに今回が終わってしまいましたが、 理由は煌夜sideの方で解説予定。

 次回はチナちゃんとイ―ロウさん満載(?)でお送りしたいと思います。

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