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小悪魔系ボクっ娘あらわる。

 ミズキさん―― どういう字を書くんだろう…… 何故か私の頭の中に『瑞貴』 の字が浮かぶ。 まさかね……。 

 私の居た所でも聞かれる耳慣れた響きに、 何だか勝手に好感を持ってしまった。 私も自己紹介をしようと口を開いた時、 ミズキさんの背後からニョロリと出てきた尻尾に驚く―― 緑色―― レインさんと同じ色だ。 もしかして―― まさか―― と思って慌てて尻尾の持ち主を見れば、 薄い緑の髪に金色の目の男性がミズキさんの後ろからひょっこりと顔を出す。


 「ははぁ、 親父の気配がすんな。 ミズキからも話を聞いてマサカとは思ったケド…… 俺が探してたのと同じヤツラか。 よぉ! 俺の呼び名はテオだ。 親父から呼び出されて大体の話は聞いた―― まぁ、 アレだ短気な方の息子って言やぁ分かるか? 」


 短気な方の息子―― 誰の? さも分かるだろう! と言う感じで胸を張って断言されても分からないです。 ごめんなさい。 


 「―― ごめんなさい…… 分からないです」


 「ん、 そーか…… 」


 私がそう言ったら、 シュンとしたように残念そうな顔をするテオさん。 ちょっとだけ申し訳ない気持ちになって、 煌夜の方を見る。 知ってる? と目で聞けば、 チラとテオさんの方を見て溜息を吐いた。


 「イ―ロウの息子だろ? 」


 「おう。 そうだ! そうそう。 俺、 この格好苦手・・でさ―― 流石チビは竜なだけあんなぁ…… チビ―― じゃねぇな…… あんた―― 」


 煌夜の言葉に私は驚いた。 イ―ロウさんの息子さん?

 テオさんが、 煌夜が気付いてくれたのが嬉しいらしく尻尾をバタバタさせながら、 笑顔を浮かべる。

イ―ロウさんは竜だよね? この人は獣人に見える……。 そこでハタと気が付いた。 イ―ロウさんの義娘さんはマナの樹のトレントだった。 じゃあ、 この人も養子なんじゃないかって。

 

 『今思い返せば、 割と間抜けな考えだったと思うよね。 でもこの時は竜と人が結ばれる事があるんだって―― きっと気が付きたく無かったんだよねぇ…… 』

 

 一瞬、 何か考えが浮かんだ気がしたけれど―― それが何だったのかを捉えられないまま、 その思考は霧散して消えてしまった。 私は首を傾げながら、 まぁいいかとそれを放置した。

 煌夜の事をチビチビ言ってたテオさんが、 急に訝しむような顔をして腕を組む。 そのまま煌夜に顔を近づけて不審げな顔をすると「なんでちっちゃいまま―― 」 とか、 何だか失礼な事を言って来た。 そんなテオさんをミズキさんが煌夜から引きはがす。


 「テオ。 お前ぁの説明は分かり難いんじゃ。 ちょお黙っとけ? 」


 「まじか? 」


 笑顔で有無を言わせぬ様子のミズキさんに、 ショックを受けたようにテオさんが仰け反る。 感情表現が素直な人だなぁ……。 何となく、 犬っぽい人だ。


 「まじかって? まじですよ。 さぁ皆さん。 テオさんは置いといて良いですよー。 話を聞くと長くなったり、 面倒になって来ますからね。 初めまして―― ボクの呼び名はミツキです。 ミツキでもミツキちゃんでもお好きにお呼び下さいマセ。 ミズキの相棒パートナーをしてまーす。 以後お見知りおきを…… 」


 ヨロです! そう言って、 ミズキさんの背後から現れたのは小学校5年生位のボーイッシュな女の子。

手足の長い―― しなやかな身体に、 つり目の大きな緑の瞳―― そして艶々のショートの黒髪からはこピョコンとした大きな猫耳、 そしてお約束の猫尻尾がユラリと揺れている。 一番の特徴は額に赤い石が付いてる事かな? 奇麗な涙型の石だけど、 どうやってついてるんだろう……。

 ボクっ娘で猫耳―― これは萌えるべき案件だろうか? そんな馬鹿な事を一瞬考える位にはその子は可愛らしい子だと思う。

 そんなミツキちゃんの揺れる尻尾と耳を見てポチ君がシビビっと尾っぽを立てた……。 動物の猫とは違うんだから、 まさか縄張り争い的な事にはならないとは思ったんだけど……。 固まったままミツキちゃんを凝視するポチ君の前で、 ミズキさんがヒラヒラと手を振る―― と。


 『はっ! 僕の名前はポチであります。 ミツキ殿は奇麗な毛並みをお持ちですな! 』


 正気に返ったポチ君が、 そう大きな声で自己紹介をした。

そんなポチ君を、 ミツキちゃんが下から睨めるように見上げる。 不審者を見るようにポチ君の周りをグルグルと回るミツキちゃん。 そのままウンウンと頷くと、 何か納得できたのかニッコリと笑った。


 「ポチも猫だね! ボクの仲間だ。 ヨロだよー。 ポチも透けてるけど、 奇麗な毛並みだね! 」


 ミツキちゃんは、 そう言うとポチ君に鼻ちゅーをかます。 猫が良くやる親愛の挨拶だよね…… 確か。 いきなりずぃっと鼻ちゅーされた所為か、 ポチ君がワタワタと慌てて床に落ちた。


 『ヨロ―― ヨロでありますか? ヨ、 ヨロ! 』


 意味分かってるのかなぁ…… 宜しくって意味だよって教えてあげたら『あぁ! 』 だって。 

そんな挙動不審のポチ君にニヨニヨしてしまう。 コレはあれかな。 一目ぼれ―― とか?


 「―― ポチ。 落ち着け―― ミツキはミズキのパートナーだぞ? 」


 タナトスさんが片手を顔に当ててそう言った。 すると、 ポチ君―― ハッとした顔をしてシオシオと項垂れる。 んん? どうしたの?? パートナーだと何か問題があるんだろうか? 例えば、 ミズキさんと戦って勝たなきゃ駄目だ―― みたいな……。


 『申し訳無いであります―― 猫族に連なる同胞に会えた事で、 つい我を忘れたでありますな…… ミズキ殿にもミツキ殿にも失礼したであります』


 「いんや、 俺ぁ別に問題なぁよ? ミツキもそうがや?? 」


 面白そうな顔をして笑うミズキさんは、 きっとポチ君の気持ちに気付いたんだろう。


 「うん。 問題なぁー! だよ。 ふふふ。 楽しいナァ」


 同じようなノリで楽しそうに笑うミツキちゃんに、 タナトスさんが苦い顔をする。


 「ミツキ―― あまりポチをからかうな」


 「なんのコト? ボク、 ワカンナイ」

 

 イヤイヤその反応―― ミツキちゃん、 タナトスさんに言われた事の意味分かって言ってるよね? ボクっ娘はまさかの小悪魔系だったようですよ。


 「そーいえば、 お姉ちゃんとお兄ちゃんはお名前なんて言うの? 」


 まだ、 何か言いたそうなタナトスさんを放っておいて、 ミツキちゃんが私の方を向いて聞いて来た。

そう言えば、 自分の呼び名を告げて無かった事を思い出す。


 「あ、 私の呼び名はナギだよ。 宜しくねミツキちゃん―― ミズキさんとテオさんも」


 そう自己紹介してから考える。 お兄さん―― って誰? タナトスさんの事は知り合いっぽいし、 ポチくんはさっき自己紹介したばかりだ。


 「コーヤだ」


 物凄く、 嫌そうに煌夜が自分の名を告げた。 まるで、 私を何かから守るように、 煌夜が腕にしがみ付く力が強くなる。


 「ナギお姉ちゃんね。 ―― お兄ちゃんはコーヤって言うんだねぇ―― 」


 意味深に笑顔を浮かべるミツキちゃんがそう言ったので、 お兄ちゃんが煌夜の事だったのだと分かった。 ミツキちゃんの方が年上だと思うんだけど―― どうしてお兄ちゃんなんだろう。


 「言いたい事は沢山あるケド、 ボクが言うべきでもないし…… まぁ、 今は黙っておいてあげるよ? 感謝してね」


 煌夜に顔を近づけてミツキちゃんはそんな事を言った。 なんの事だろう……。 神さまのあの箱庭での事だろうか……。 そう言えば、 あの箱庭―― 男のコしか居なかったよね? 今更ながらそんな事が気にかかる。


 「それで、 テオさんだけど『森の賢者』 サマに言われてコーヤ達を探してたみたいだよ。 まさか、 ボク達を探してるノールさんの連れと、 テオさんが探してる人が同一人物だったとはねぇ。 ちょっとビックリ」


 ミツキちゃんに話を向けられてテオさんの尻尾が嬉しそうにビタビタと地面を打った。 


 「まぁ、 あれだ。 親父から俺が、 取り合えず各大陸のマナの大樹を確認してこいって言われた訳だ。 んで、 コーヤの気配を覚えに来たんだ」


 探知能力高いんだ俺―― そう言ってテオさんが嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。

どうやら、 イ―ロウさんに言われてマナの大樹の確認をしに行ってくれるらしい。 正直どこまで確認できるのかは分からないらしいけれどね。 

 それで、 煌夜の気配を覚えておけばマナの樹を確認した後、 報告に来てくれるみたいだね…… 煌夜の気配を探って。


 「そいやぁ、 ナギちゃんのお祖父ちゃん言霊師やて?―― 名ぁは何て言うんがね」


 「え? つなぐ って言います。 ミズキさん―― 言霊師、 知ってるの? 」


普通の会話みたく、 するりと『言霊師』 ってミズキさんの口からそう言われて、 驚きながらも答えてから問い返す。 


 「我ぁの世界にも在りゆうな。 ちなみにお祖母ちゃんの名ぁは? 」


 ふむふむ。 そう頷いた後に、 随分真剣な顔をしてお祖母ちゃんの名前も聞かれた。


 「まもり って言いますが―― もしかして同郷だったりします? お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの事、 知ってたり? 」


 そんな事ってあるのかな? 言霊師の中では、 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんは駆け落ちしたって意味でも有名だったみたいだし……。 


 「さて、 同じ世界とは限らんが。 世界は様々(ようよう)あるけの。 ただ、 近しい場合もあるさね―― 」


 ミズキさんはそう―― どちらとも取れるような言い方で困ったように笑った後、 おもむろに私の肩に触れた―― 瞬間!

 

 「―― 痛っ! 」


 バチッっていったよ……。 肩の所でしっかりと、 音まで聞こえたし。 腕にしがみ付いていた煌夜が呆気に取られた顔をして、 パタパタと肩の辺りに飛んできた。 その後、 無言でミズキさんを睨んでる。


 「スマンスマン。 糸くずがついとーて、 取ろうがと。 静電気じゃろうねぇ」


 そう言ったミズキさんの手を見れば、 取ってくれたらしい糸くずが。 

あぁ、 静電気―― 冬に良くバチバチしてたのを思い出した。 こんなに痛かったのは初めてだけれど。

 まだ、 ミズキさんの事を睨んでる煌夜に静電気だって、 ビックリしたよって笑顔で言えば―― つ、 と目を逸らされてしまう。 煌夜―― 何か怒ってる?


 「あ、 いえ―― 有難うございます。 でもびっくりしました。 静電気ってこんな事―― あるんですね」


 私は、 ツキリと痛む心を誤魔化してミズキさんにそう言って笑みを浮かべた。 


 「―― ッオイ! 」


 いきなり、 煌夜の気配が乱れて驚いて振り返れば、 肩に居たはずの煌夜がいない。 どうやったんだろう…… ミツキちゃんが煌夜を抱えて足元にいた。


 「ナギお姉ちゃん! ちょっとコーヤお兄ちゃん借りてくね? 」


 笑顔でそう言うと、 ミツキちゃんがそう言って私の返事も聞かずに走って行く。 その様子をしょうがないなぁって顔をしながらミズキさんが追いかけて行った。 タナトスさんとポチ君は少し離れた所にいるから、 私の傍に居るのはテオさんだけだ。


 「テオさん! あの―― テオさんのご兄弟や知り合いとかで、 テオさんと同じ感じの尻尾を持った人で、 人に見られるのが嫌いな方―― っています? 」


 私は、 今を逃したら絶対に聞けないと―― 思い切ってレインさんの事を聞いた。

 テオさんみたいなタイプの獣人がどれだけ居るのかは分からない。 だから、 知り合いじゃない可能性だってもちろんあると思う…… ケド、 何の手がかりも無いままだもの―― 藁をも掴むような気持ちで問いかける。


 「うん? それだと引きこもってる下の弟―― かな」


 ちょっと、 考える様子を見せるとテオさんはそう言って首を傾げた。


 「本当に!! あの―― 私、 多分その人に助けて貰って―― ちゃんとお礼をしたいんですけど…… 」


 藁! まさか掴めた? 嬉しくなって上げた声に、 タナトスさんがチラとこちらを見た気がする。 私は慌てて声のトーンを落とすと、 お礼をしたいんだけど―― と話を続けた。 


 「あいつが……? まさか」


 「でも、 緑の尻尾と羽の人に助けてもらったんです」


 あり得ないって言いきるテオさんに、 私はそう言い募る。


 「うーん。 それなら完全にウチの一族の誰かだなぁ…… それで人嫌いって言うなら、 下の弟しかいないけど」


 テオさんはそう言ったものの、 下の弟さんが私を助けたって言うのは信じられないみたい……。 けど、 テオさんの一族しか居ないのなら―― レインさんがテオさんの弟だって可能性は高いんじゃないかな。 どちらにしても、 会えれば分かるよね……?


 「あの、 どうにかして会えませんか? 」


 「うーん、 ちょっと無理―― かなぁ。 あいつ気難しいし。 今は時期的にちょっと落ち込んでるから、 俺が会いに行っても駄目だと思う」


 そう、 言いきられて少し落ち込む。 私ったら必死過ぎて、 相手の事情とか考慮してなかったし……。 何で―― レインさんの事になると、 こんな訳のわからない行動しちゃうんだろう。 


 「そう…… ですか」


 「…… まぁ、 あれだ。 もう少ししたらマシになると思うから、 そしたら聞いてやるよ」


 私が、 あまりに落ち込んで見えたせいか、 テオさんが慌ててそう言ってくれる。 聞いて貰えて―― 会っても良いって言ってくれれば―― もう一度、 レインさんに会えるかも!


 「!! ありがとうございます」


 嬉しくて笑顔でそう言えば、 テオさんは少し困った顔をしていた。


 「―― けど、 あんまり感心は出来ないぞ? 他の雄に会いたいって言うのはその―― 」


 「? 何がですか?? 」


 苦虫を噛み潰したような、 歯切れの悪い口調で言うテオさんに首を傾げる。 人嫌いの人に会いたいって言ったからかな?


 「何―― の話だ? 」


 耳元で囁くように言われて飛びあがる。 煌夜だ。 いつの間に戻って来たんだろう。


 「コーヤ! あ、 何でもないよ? ちょっとテオさんみたいな獣人の人って多いのかな――って」


 とっさにそう言ってしまったのは、 レインさんの事を知られたく無いって事が、 頭の片隅にあったからかもしれない。 ドキドキしながら、 煌夜の反応を待つ―― 良かった…… 静かで心もとないけれど、 あの黒くて怖い気配の煌夜がご降臨―― はしなさそうだ。 その事にそっと安堵の息を出す。


 「獣人? ―― 俺は―― いや、 いやいや―― なんでもない。 俺は何も言って無いぞ? 言ってないからなぁ――?! 」


 急に、 テオさんがそんな事を叫んで後ずさりしはじめた。 一体どうしたって言うんだろう。

不思議に思って周りを見回したけれど、 別にテオさんを怒ってる人なんていないしね。 それなのにテオさんは「じゃ、 俺そろそろ行くわ! 」 そう言うと、 あっと言う間に飛んで行ってしまった。


 「逃げた」 「逃げたなぁ」


 後ろの方でポソリと、 ミツキちゃんとミズキさんの声が聞こえる。 そうか―― 逃げたんだ? 何からだろう―― その思いはぎゅうっと腕に抱きついてくる煌夜によって、 掻き消された。

 と、 言う訳で新しいキャラが更に追加されました。

テオさんはもう逃げちゃったので、 暫く出てきませんが、 ミズキさんとミツキちゃんはどうでしょう?

 次回はチナちゃんを迎えに行こうと思ってます。 その次が煌夜sideとなるので少し短くなるかもしれません。

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