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解放されると言う事

何とか、 六月中―― (汗)

 私が寝てる(?)間にリッチは倒され煌夜も無事で一安心。 見知らぬ女性に感謝しつつ、 私は安堵の息をついた。

 そうしてる間に、 煌夜と言えば私に抱きつきそうになってたポチ君に笑顔でお説教をかましている……。

コレは止めたほうが良いよねと、 声をかけようとしたらタナトスさんに目線で止められた。


 『ナギは口を出さない方が良い』


 不思議と、 そう言われたと理解出来て口を閉じる。 私が口を挟むと、 煌夜が余計に怒っちゃう―― という事だろうか? 独占欲めいたそれに少し安心してしまう自分はずるいなぁと思うと同時に、 煌夜への依存心が末期かもしれないと言う一抹の不安を抱かせた。 

 

 「いいかげんにしておけ。 ポチとてワザとした訳ではないだろう。 そろそろナギに呆れられるのではないか? 」


 私の代わりにタナトスさんが止めてくれるようだ。 タナトスさんのその言葉に煌夜がバツの悪そうな顔で私を見て来る。 上目使いにオズオズと伺うさまはとても可愛い。 シュンと落ち込むポチ君の事を考えれば、 本来なら注意すべきなんだろうけど…… 私はどういった顔をしていいのか分からずに、 ニヘラっとした変な顔をしてしまった。

 そんな私を見て、 タナトスさんが苦笑してる。 煌夜は微妙な顔をして私の所に飛んで来た。


 「―― 怒られた方がマシかもな…… 」


 複雑そうな顔をした煌夜が、 私の肩の所でブツブツ言っている。


 「怒って欲しかったの? 」


 「―― いや怒られたい訳じゃない―― が」


 そんなやり取りをしていたら、 ポチ君がズザザっと音を立てて私の足元で土下座しだした。

驚いて固まったものの、 半泣きと分かるその声に思わず手を差し伸べようとすれば、 肩の上の煌夜から圧迫感が……。 手だししちゃダメなのね。 分かりました。


 『ごめんなさいであります。 ナギ殿に抱きつこうとするとか二度としないでありますっ! 』


 猫は好きなので、 本当はワサワサ撫でまわしたいんだけど。 少し寂しく感じながらそんな事を考えていたら、 煌夜の方から冷気を纏った視線が……。


 「えっと…… ごめんなさい? 」


 「何で、 謝るんだ? ナギ」


 低い声と笑顔で煌夜にそう言われれば、 ポチ君に対してより今は私に対して怒ってるって事が理解できた。 冷や汗がツッっと背中を伝う。


 アレ? なんでこうなった?? 


 私何か怒られる事したかな……。 土下座するポチ君を起こそうとはしたけど、 ちゃんと煌夜の不穏な気配を感じて止めたよ?


 「なんか、 そうした方がイイヨって本能さんがね? 」


 経験上、 とにかく煌夜がこういった感じで怒ってる時は謝った方がいい『何か』 を私がした時だ。

今回は正直、 はっきりとした理由は思いつかなかったけれど、 本能的な部分が『謝れ~ 良いから謝れ~ 』 と私に囁き続けている。


 「はぁ―― …… ナギが別に悪い訳じゃないから謝らなくていい。 俺の心が狭いだけだから」


 少し後ろめたそうな顔をして煌夜が溜息をつきながら言った。

何が後ろめたいのかな、 とか思ったし良く分からないけれど一応もう怒ってないらしい。 ヨカッタ。 この前みたくならなくて。


 「ポチも土下座とかスンナ。 俺はそう言うの好きじゃない」 


 煌夜のその言葉に、 ポチ君がオズオズと顔を上げる。 ヘニョリとした顔が安堵に緩んだ。


 『ごべんなざいでありますぅ』


 ポチ君や。 鼻水出てるよ君。 レイスの鼻水ってどうなってるんだろう……。

そんな、 ポチ君の顔を見て煌夜は呆れ顔だ。 何でコイツこんなに必死なんだろうって感じ?


 「ポチ君はコーヤの事、 大好きなんだねぇ」


 「は? 」


 私の言葉に、 煌夜が訝しげな声を出す。 私が「コーヤに嫌われたくないんだよね? 」 とそう問えば、 ポチ君がコクコクと頷く。

 そんなポチ君を見て、 煌夜が「何言って―― 」 とか「馬鹿じゃないのか」 と真っ赤になりながらブツブツ言い始めた。 

 ポチ君にキツイ対応をしてたから、 まさか自分がそう言う感じに好かれてるとは思って無かったらしい―― 照れてる。 可愛い―― 煌夜のそう言う所好きだなぁ。

 タナトスさんと目が合って思わず二人で微笑ましく思って笑ってたら、 煌夜にいい加減にしろって怒られた。

 からかった訳じゃないんだけどね。 煌夜的には、 からかわれたようなものだったらしい。 少しふくれっ面になっててそれも可愛い。


 「―― 悪かった。 からかった訳ではないぞ? 」


 笑いを噛み殺してタナトスさんがそう言えば、 煌夜は苦い顔をしてソッポを向いた。

まるで年が離れたお兄さんと弟のやり取りみたい。 けど、 そんな事を言ったらきっと煌夜は余計に嫌だろうなと思ったので口にしないでおく。 


 「分かってるよ! んな事―― あぁもう。 取りあえず、 リッチの問題は解決したんだし先に進むぞ」


 分かってると言い放った後、 煌夜はそう言って話を変えた。

この話題は終わり―― もう何も言うなって言ってるようなものだよね? これ。

 まぁ確かに、 こんな所で時間を潰してる訳にもいかないんだけど。 それに照れくさいと感じてる事を、 いつまでも弄られるのは私も好きじゃないし。 


 『それなのでありますが―― コーヤ殿と契約したので、 この街道内に限り自由に移動が可能になったのであります! 』


 褒めて褒めてと―― わんこがハスハスしてる幻影を背負って、 さっきの落ち込みようから復活したポチ君が、 キラキラした目で煌夜を見上げる。

 …… ポチ君、 何でこんなに煌夜の事好きなんだろう……。

 いや、 良い事なんだよ? 煌夜の事を好きだと思って貰えるのは正直嬉しいし。 けど、 正直に言えば煌夜はポチ君に対して塩対応だし―― 正直ここまで盲目的に好いてる理由がよく分からない。 私だけ離れてる間に何かあったのかなぁ。 


 「鼻息を荒くしながら詰め寄るな! 」


 あぁ、 ほら煌夜の尻尾ではたかれてるし…… 私はペシペシと動く尻尾を捕まえて、 無言で煌夜を見つめてみる。 流石に気まずくなったみたいで、 尻尾はゆるりと動きを止めた。

 言葉で言うより目で訴える事の方が効果的な事もあると思った瞬間ですよ。 煌夜的にもやり過ぎたって自覚はあるっぽい。 けど、 ポチ君相手だとどうも手―― というか尻尾というかそういうのが先に出ちゃうんだね。 

 ペシペシされてシュンとしたポチ君に、 渋々と言う様子で「悪かった」 とだけ呟いて煌夜は私の手の中から尻尾を引き抜いた。 謝られた事で、 シュンとしてたポチ君がデレデレしてる――。 

 ポチ君はもう少し怒ったりしても良いと思うんだけどなぁ。 

なんだかんだ言って最終的には幸せそう―― というか嬉しそうに見えるので、 ポチ君としては塩対応でも問題ないのかもしれないけどね。 とはいえ煌夜のポチ君への塩対応っぷりは見ててハラハラするから、 もう少しどうにかして欲しいなぁ。


 「あれ? ポチ君―― 自由に移動出来るって言った? 」


 煌夜とポチ君のやり取りに集中してたから、 肝心の事が抜けてたよ!

煌夜が怒る前に言ってたポチ君の言葉が、 今頃私の頭に届いたらしい。


 『そうであります! 影渡りですな♪ ただし、 この中だけですが』


 よくよく聞けば、 影渡りの条件は良く知っている場所である事が一番の条件らしい。 次に必要な条件は場所の属性。 煌夜と契約を結んだ事と、 ポチ君自身がレイスである事から、 闇属性の場所であるとか四六時中暗がりとかでないと相性が悪く渡り切れずに弾かれちゃうらしい。

 そして、 最後の条件が距離。 今の影渡りの能力のレベルだと、 外の街に居た場合ここに影渡りして来れないらしいです。 って―― 外の街?


 「―― ちょっと待って―― ポチ君―― ここから出られるの? 」


 『はいであります。 コーヤ殿と契約したので―― 』


 ウニョウニョと身体を揺らしながら、 嬉しそうポチ君がそう言った。

慌てて煌夜を見れば、 少し照れたような不機嫌そうな顔をしながら頷いてくれる。


 「そっかぁ―― そっかぁ…… 」


 ここに、 ポチ君を置いて行くしかない私達―― ずっとここに縛られるしかないポチ君…… 私達が去った後、 暗闇の中で他のレイスに怯えながら1人で居るのは、 どれだけ怖くて寂しいのだろう―― そう思ってたんだけど…… 良かったぁ…… 本当に良かったよ…… ずっと気になってたんだ。 

 考えるのが怖くてあんまり考えないようにしてたんだけど―― 今―― 私達がポチ君と居る事はとても残酷な事じゃないのかなって―― 本当は心の片隅でそう思ってた。


 幼い時、 夕方―― 幼稚園で友達と遊んでた。


 普通は園バスで帰るんだけど、 お母さんがお仕事をしていて帰りのバスの時間に家に誰も居ない子達は、 直接園に保護者が迎えに来る事になってた。

 夕方になって、 1人また1人とお母さん達が友達を迎えに来て最後に私だけが残った事があった。 

園庭にポツンと1人―― 夕闇の中、 さっきまで楽しかったはずなのに寂しくて怖くて泣きだした事がある。 もちろん、 そこは幼稚園だったので先生が飛んで来て慰めてくれたのだけど。

 誰かと一緒にいて楽しかったからこそ、 1人になった時により寂しさや恐怖を感じる事があるんじゃないかな――。 ましてや、 ポチ君はここに縛られていたんだから闇の中を独りで彷徨ってた訳だし。


 だから――


 「―― 良かったぁ」


 思わずしゃがみ込んだのは、 零れそうになった安堵の涙を見られたくなかったからだ。

だって、 辛い目にあってたのはポチ君で私じゃない。 だから、 泣いていいのはポチ君で私じゃないもの。 

 私はサッと目元を拭うと、 顔を上げて笑顔でポチ君に「良かったねぇ」 とそう言った。

ポチ君はニコニコと笑っていて、 とても嬉しそうだ。 

 もしかしたら、 鼻の頭が赤くなってたかもしれないけれど、 煌夜もタナトスさんも何も言わなかった。


 「じゃあ、 ポチ君も一緒に行けるんだよね」


 『主のそばに侍るのが従魔の務めですからな』

 

 私の言葉に、 ポチ君がそう胸を張って言いきった―― その後ハッとして、 オズオズと煌夜の方を見る。 言いきったものの、 煌夜の反応が気になるみたい。


 「―― さっさと行くぞポチ。 …… 今なら夕日位は拝めるかもしれないからな」


 『夕日―― でありますか? 』


 煌夜の言葉にポチ君がポツリと言葉を零す。 一瞬、 無表情になったポチ君の身体がフルフルと震えだした。 

 唐突に私達の影が、 ゆらりと広がり、 溶けるように繋がると下から延びた影に包み込まれる。

 私は驚いて上げそうになる声を堪えて、 その温かな闇の中を見回した。

影の道の中、 ポチ君が無言で歩みを進める。 360°見渡す闇の中なのに不思議と不安は感じなかった。

 薄く光を放つポチ君の足跡が、 一直線の細い道を描き出す。 その後をやっぱり淡く光るタナトスさんが―― そして煌夜を肩に乗っけた私が続く。 私と煌夜の身体もまるでオーラを放つみたいにユラユラとした光に包まれていた。

 暗闇の中、 小さく光る私達―― まるで、 夜空の星にでもなった気分だ。


 歩く、 歩く、 歩く


 誰一人、 一言も話さずに。

そして、 ポチ君が立ち止った。 怯えるように、 期待するように揺らめく目を上の方に向けて――。

 引き上げられるような浮遊感を感じた後、 私達の身体は洞窟の中に現れる。 もちろんさっきと同じ場所なんかじゃ無い。

 一本道のその先には、 光が見えた。

 ポチ君がその光に向かって歩き出す。 次第に速足になり―― それから駆け足に――。

飛べば早いんじゃないかなとも思ったけれど、 きっとポチ君は自分の足で出たいのだと気がついた。


 『…… っ ―― 』


 洞窟街道を出て、 細い岩棚を抜けて森にでた瞬間、 声なき声を上げてポチ君は夕焼け空を見上げて立ちつくした。 木々の間に流れる川のその先に赤く滲む太陽が柔らかな光を放ちポチ君を照らす。

 心地いい風が駆け抜けて、 木の葉を揺らした。 サヤサヤとさざめくその音を切り裂くように、 ポチ君が低い悲鳴を上げながら身体を抱えるようにして蹲る。


 『ひっ―― ぐぅぅぅっ―――― うわぁああああああっ!!! 』


 私には「分かる」 と言えない長い間―― この場所に縛りつけられていたポチ君。 風もない日の光も無いあの場所から解放されて―― やっと出られた「外」 はポチ君にとってどういう風に見えたのだろう。

 私は、 そっとポチ君の傍に寄ると、 ポチ君が泣き疲れて動かなくなるまで背中を撫でていた。

いつもは怒りだす煌夜も、 無言のままで私を止めたりしなかった。

 ただ、 苦悩の滲む顔で心配そうにしていただけだ。

辺りはすっかり夜になり、 空にはキラキラとした星が煌めいている。 今日は洞窟街道の入り口でお泊りする事になった。 入り口の辺りに魔物避けの呪紋があったからだ。

 ポチ君は何故だか煌夜の尻尾を掴んで放そうとしない。 煌夜は迷惑そうにしてるけど、 それでも怒ったり、 ポチ君を引きはがそうとしたりはしなかった。


 まるで―― ポチ君の気持ちが理解できるみたいに――。


 何とか、 月が変わる前に投稿できました。

ポチ君、 洞窟街道から解放されました。 実は最初は浄化されてお別れ予定だったポチ君。 つい愛着が湧き従魔登録されました。 

 中々進まない現状で申し訳無いですが、 次辺りで街に辿り着ければと思っております(汗)

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