ましろ怒る。
やっとこ更新です(汗)
『蓑虫の寝袋』 は温かかったです。
すんごいよコレ。 小さな手のひらサイズだった蓑虫がギュムギュムと2回握るとあっという間に大きいサイズに。 夏は涼しく、 冬は温かい―― オールシーズンオッケーの寝袋らしい。
見た目は蓑虫みたいだけどね。 だからその名前がついたのかなと思ったら、 外で寝る場合、 枝からぶら下がるかららしい―― 寝れるかな…… 私。
寝袋が意外と大きかったので、 煌夜と一緒に寝ました。 朝起きた時、 目が合って期待するような目で見られたけど。 しないよ? キス。 タナトスさんはもう起きてたし。 煌夜はさぁ、 影にポチ君いるよね?
なので笑顔で「おはよう」 とだけ言った。 あっさり諦めたみたいだから、 まぁ、 駄目だろうと思ったけど試しに催促してみたって所だろうと思う。
その後は軽食を取ってから、 休憩所を出発した――。
「地図で見るのと、 実際は―― 違いますね。 やっぱり」
現状、 洞窟街道は半分位。 タナトスさんの地図で見て、 教えて貰った距離より長く感じる。
本来ならもう少し進んでても良いはずなんだけど、 昨日よりもレイスやスケルトンとの遭遇数が多い。 連携してる感じはないから、 『リッチの手下ではないと思いますな』 とはポチ君の弁。 けど、 普段より多いらしい。 私達が久しぶりの客だからか、 別の理由からなのかは分からないけれど、 活性化してるようです(泣)
むしろ、 休んでくれればいいのに。
「まぁ、 地図に障害物は載っていないかなら。 そう言う事もあるだろう」
障害物―― まぁ確かに。 しかも避けられない類の障害物ですね。
さすがに、 これだけ遭遇してれば、 リッチやスケルトンには耐性ができた気がする。 いきなり出て来るのには驚くけど―― レイスが壁から出る瞬間だけは、 まだ慣れない。
「あるかもしれないが、 やっぱり通常と違うのは問題なんじゃないか? 」
煌夜がそう言って首をかしげる。 私にはその状態が正常範囲内なのか、 異常なのかは分からないけど、 これ以上増えられると街につくのが遅くなりそうだ。
閉所恐怖症じゃなくて良かったと本気で思う。 人間おかしなもので、 今の私は太陽が恋しい。 普段は意識なんてしないのにね。 今はちょっと閉塞感がウザったい。
「リッチに指示されてるのでなければ、 何とも言えないな。 幽霊屋敷なんかの廃墟だと、 ままある反応だ。 小心者ばかりの幽霊であれば萎縮するが、 好戦的なレイスなら外からの刺激で反応し活性化する」
どうやら、 この世界にも幽霊はいるようです。 幽霊とリッチはどう違うのかと思ったら、 人に危害を加える者がリッチ、 その辺をフワフワしてるだけなのが幽霊だと思っていれば問題はないらしい。
厳密に言えば、 もっと細かい分類がありそうだけど、 詳しくなりたいとは思えないので納得しておく。
タナトスさんの話からすると、 リッチやスケルトンが活性化してるのは正常のようだ。 なんて有難迷惑。
『そう言われれば、 そう言うものかもしれませんなぁ。 生きてる者が憎いのですし。 テンションがあがって攻撃して来るものが増えるのも道理なのです』
フムフムと納得するポチ君に納得いかない。 君もレイスだよね?
憎しみとかとは無縁そうなポチ君と、 テンション上げて襲って来るレイスとかを一緒にしてはいけないんだろうなぁと思いなおしたけどね……。
そう言えば襲って来るレイスって…… 元の形を忘れてるらしくて、 半透明の足の無い骸骨なんだよねぇ。 髪が長いとか、 骨が太いとか色々あるけど、 ポチ君みたいに生前が分かるような形をそもそもしていない。 見た目的にも、 ポチ君の存在は希少らしい。
「むしろテンション下げて欲しい…… 」
「確かに、 こう立て続けだとなぁ」
私がしみじみと呟けば、 煌夜も同意だと頷く。 襲撃とかしないで大人しくしていて貰えるのが理想です。 誰かを憎むより、 成仏しちゃったほうが幸せなんじゃなかろうか。
そうは思えど、 ポチ君みたいに話を聞いてくれそうなレイスいないし…… スケルトンも聞こえてるのかどうかも分かんないからなぁ。 説得は無理なんだろうと理解している。
「―― 言ってる間に次が来たようだぞ」
タナトスさんの冷静な声に、 前方を見れば、 ガシャガシャと音を立てるガイコツと、 壁からユルリと現われるレイスが―― え……? 何か、 多いんですけど。 こんなにまとまって来るのは初めてだ。
骨が10体にレイスが5体―― 一糸乱れぬ感じでやってくる―― あれ? さっきまでの骨とかはこんな統率されてなかったような――。
『これは―― 隷従しているでありますか―― リッチの手の者ですな』
緊張をはらんだポチ君の声に、 煌夜が舌打ちした。 タナトスさんが、 難しそうな顔をして嘆息する。
剣を持ってやって来るスケルトンが、 友好的な使者なハズも無い。 私からすれば、 殺るきマンマンに見える――。 リッチは、 私達が気に入らなくて排除したいのかもしれない。
「どうやら、 見ぬふりをして通してはくれぬようだな」
タナトスさんが刃を振るう。 呪紋をなぞれば、 あら不思議―― 手甲から剣がニョッキリ生える。 暗器って種類になるらしいけど…… この前の戦闘で使ってたのは、 九節鞭って言う武器だった。
あっちは祝福されてる武器じゃないからレイスを倒すのには向かないんだって。 スケルトンをバラバラにするのに使ってたけどね。 その時のトドメは煌夜のブレスだった。 針とかも使うし、 タナトスさんの身体にはどれだけの武器が収納されてるのか気になる。
「くそ! 連携とってきやがる」
レイスが生命力吸収をかけてくる。 イーロウさんの鱗の効果でほぼほぼ相殺されてるらしいんだけど、 身体に微妙な倦怠感がはしる。 煌夜も同じようで、 さっきよりも疲労が濃い。
何だかんだで、 ブレスとか戦闘で使ってるからね……。 私が、 よろけた所をスケルトンの剣がふり降ろされた。
『ひえぇ』
剣は、 辛うじて避けた私達を通り過ぎ、 ポチ君の身体をすり抜けた。 ポチ君が悲鳴を上げる。 ただの剣だから、 大丈夫だとは思うけど…… 身体を剣が通り抜ける感覚はやっぱり慣れないようだ。
向かって行くタナトスさんを無視して、 スケルトンが私達の方にやって来る。 慌てたタナトスさんが、 九節鞭を取り出して3体程バラバラにした。
煌夜がブレスを放つ。 レイスが1体、 スケルトンが2体灰に還った。
「くそ! あの盾―― 炎を弾きやがった」
良く見れば、 盾持ちのスケルトンが3体。 どうやらそいつらの持つ盾には炎耐性なのか何かのスキルがかかってるらしい。 煌夜のブレスが、 盾にあたって消えた。
タナトスさんの九節鞭で崩れたはずのスケルトンが、 カタカタと音を立てて元の形に戻る――。
私の後ろから、 にゅっと現われたレイスが煌夜を掴もうとした。 ポチ君が体当たりしてくれたおかげでレイスの腕は宙を掻いた。 カタカタと顎を振るわせるスケルトンが、 ズイッと煌夜に近寄ろうとする。
「嘘! 何―― コーヤを狙ってるの? 」
「そのようだな―― くそっ! 盾にスキルを重ね掛けしているようだ」
戻ってきたタナトスさんが、 私達を庇いながらそう呟いた。
タナトスさんの攻撃も、 盾持ちのスケルトンに阻止された。 剣を振るうタナトスさんの隙間から無数の白い骨が煌夜を求めて伸びて来る――。
「くそっ、 おいポチ! 俺の影に1泊させてやったんだ。 死んでもナギを守れ」
舌打ちした煌夜が、 私の肩から飛んだ。 無数の手に怯えた私を守るために、 私から離れようとする。
「コーヤ?! 」
悲鳴のように名を呼べば、 大丈夫だからと煌夜が笑う。
「俺が傍にいたら、 お前が巻き込まれるだろ―― 」
巻き込まれるかなんてどうでもいい。 この状況で煌夜と離れる事がとても恐ろしく感じられて手を伸ばす。 その時だった。 煌夜の後ろから伸びる半透明の手が――
『ツカマエタ』
「っ!! だめぇっ!! 」
レイスが―― ケタケタ笑って、 煌夜を掴もうとするのを私は見た。 怖いとか、 そんなのが一瞬にしてどこかに飛んで行く。 私はただ、 無我夢中で煌夜を弾き飛ばした。 自分でも、 こんな事ができるなんて驚きだ。
ひやりとした感覚が私を包む。 それがレイスの体温なのだと気付いた時、 煌夜の叫び声が聞こえた。
「―― っ ましろっ! 」
目が合う―― 伸ばされた手に―― 無意識に私の手が伸びた。 けれど、 手が触れるかと思った瞬間…… トプリと床に沈む―― 私の身体は闇の中に放り出された……。
ガチャガチャと音がする――。
それに混じって誰かの声が聞こえた。 とても不機嫌そうだ。 そして、 何かを叩きつける音。
私は、 重たい瞼をそっと開いた。 薄暗い場所だ。 休憩所よりも広く、 天井が高い。
壁や、 天井が淡く光っているお陰で真っ暗じゃなくて助かった。 この光がなければ、 きっと自分の手も見えないだろう。
―― ここは?
どこにいるのだろうと周囲を見回せば、 背の低いローブを着た何者かの後ろ姿―― その人が、 短いロツドを手にしてスケルトンとレイスを叩いている。 突っ立って抵抗もしないのに、 一方的に叩く様子は見ていて気持ちの良いものではない。
周りにあるのは、 机や本棚―― 魔女が使いそうな大きな鍋にグツグツと何かか煮立っている。
散乱した紙切れに、 良く分からない図形が描かれていた。 雰囲気からして嫌な予感がする――。
『使えぬ! コレではないわ! 阿呆共』
甲高いしゃがれ声―― 正直性別は分からないがロッドを振るう。 物凄い音がして、 スケルトンが床に叩きつけられた。 ガシャリと崩れた骨が、 ズズっと動き、 元の形に戻る。
冷静に、 考える―― リッチに隷従したレイスとスケルトンがやって来て、 煌夜を捕まえようとしてたんだよね? で、 捕まりそうな煌夜を助けようとして私が捕まったんだ…… じゃあ―― この人はリッチ……。
―― ヤバイ。 どうしよう。
どう考えても、 味方はいない。 私は起きた事を悟られないように周囲を見渡す―― 出口は2つ。
けれど、 どっちに行けば煌夜達に辿り着けるかが分からない。 駄目もとで逃げても、 私の弱いライトじゃ攻撃にもなんないよね? こんな事なら疲れたからってスキルの練習を後回しにするんじゃなかった! 私の馬鹿っ(泣)
一か八か逃げようか…… それとも、 寝たふりを続ける……? 逡巡して身じろぎした時だった―― 動いた事で何かに触れたらしい。 カチャリと音がしてリッチが振り返った。
恐るおそるリッチを見る私と虚ろな目が合う――。
『小娘――。 思いの他、 目覚めるのが早いな。 やはり竜のツガイとみえる。 ヒトでなくなっていればまだ使い道もあったと言うに―― じゃが、 考え方を変えれば…… 質として使えるか? 』
「ポチ君…… 」
ブツブツと話続けるリッチの姿に思わず呟く。 半透明な姿しか見た事がなかったけど、 姿だけ見ればポチ君だ。 ふっさふさのグレーのメインクーンが私が知ってる猫で一番近い姿と言える。
けど、 明らかにポチ君とは違う所があった。 怖ろしい程に邪悪さをにじませた真っ黒の目だ。 白眼すらない黒目は正直言って不気味。
中身が違うだけで、 こんなにも印象が変わるのかと驚いた。
『あぁ―― この矮小な身体の元の持ち主、 お前達と共に居たようだったな。 まったく、 この身体に入るしかなかったとは言え、 難儀な事だ。 じゃが我の苦労も報われる時が来たのだ! ククク。 まさかこんな所に竜の幼体がやって来るとはな! 』
身体を乗っ取っておいて、 酷い言い草だ。 文句を言うくらいなら、 その身体に入らなければ良かったのに! 勝手な言い草に腹が立つ。 しかも、 このリッチは煌夜を欲しがってる――。 逃げられないのなら、 怖いけど―― 情報を収集した方が良いかもしれない。
煌夜はきっと私を探してくれようとするだろう。 なら、 時間稼ぎにもなるし…… 何より、 コイツが何で煌夜を欲しがるのか理由を確認するべきだと考えた。
「コーヤをどうするつもりなの…… 」
ニヤニヤと嗤うリッチに不気味だとか、 怖いと言う事よりも怒りが勝った。 こんな自分勝手なヤツのために、 ポチ君はこんな所に一人で置き去りにされたのか。 しかも今、 煌夜にまで何かをしようとしている。
『うん? 聞きたいのか脆弱な娘よ。 間に合わせの身体を手に入れたは良いが、 我の身体では無いからな―― 完全なリッチとはなれなかった。 しかも、 この場の効果か閉じ込められている状況でなぁ。 此処から出るには力が足りぬ。 何とか、 力を底上げしようとしたのだが、 この身体ろくな才能を持っておらん。 そこに来たのがお前達よ―― 』
「どういう…… 事? 」
滔々と、 自己陶酔するかのように告げるリッチに、 ザワザワとした気持ち悪さが這い寄って来る。
ニヤニヤと笑いながら私の周りを歩いて反応を伺ってくるのが余計に頭に来た。
コイツは私の不安感や恐怖を煽りたいのだ。 後ろの方でカタカタと賛同するようにスケルトンが笑う。
『竜とは力そのもの。 血の一滴、 髪の毛一筋でさえ霊薬となりうる至高の素材だ』
「何を―― 言ってるの……? 」
ニヤリと嗤って、 リッチは重大な秘密を打ち明けるかのように私に囁いた。
素材と言ったのか? コイツハ――。 煌夜の身体を―― 物扱いしている…… そう気がついた時、 喉がカラカラになった。 青褪めた私の顔を見て、 リッチが舌舐めずりをする。 厭な、 厭な顔だ――。
『良い顔だ。 小娘―― その怯える心が我の糧になる。 クク。 何、 簡単な事だ。 竜の身体であれば、 高位のリッチに相応しかろ? ―― 実物は初めて見たが、 伝承によれば竜はツガイを自分の命以上に大切にすると言う。 お前が我が手中にあるのなら―― その身体、 投げ出すほどに』
目の前が真っ赤になった。 何が起こったのか分からずに混乱する。 一瞬遅れて、 自分がとてつもなく怒っているのだと自覚した。 コイツは笑顔で言ったのだ。 私を人質に、 煌夜に言う事を聞かせるのだと。
身体を投げ出す? 流石にそれは無い気もしたけど、 私に甘い煌夜の事だ―― どうなるかは分からない。
私が煌夜の足枷だと言う現状を突き付けられて唇を噛んだ。 息が上手く出来ない。
怒りが―― フツフツと後から後から湧きあがる――。 怒りが増すにつれ、 私の思考はカラカラと音を立てて纏まらなくなった。
―― コイッハ ナニヲスルッテ イッタ?
コウヤノカラダヲノットルト―― ソウイッタ。 ソレハ、 コウヤヲ コロス トイウコトダ。
―― マシロ、 貴女はそれを許すの?
私の横から誰かの声がした。 実際には誰もいないのに『居る』 と感じる。 リッチには感じられないようだ―― 怒り過ぎていよいよ頭がおかしなことになったのかもしれない。
―― ジョウダンデショウ。 ユルセルハズナイ。
―― なら、 貴女の身体を貸して―― この間、 迷惑をかけた罪滅ぼしに―― コウヤを守ってあげるから。
考えるまでも無く問いかけに答える。 リッチを許せないという気持ちが膨らんだ。
見えない誰かに、 身体を貸すのは嫌かしら? そう問われて首を振る。 私には、 コイツを倒す力は無いけど―― 身体を貸す事で煌夜を守れるなら―― 好きなだけ借りればいい。
―― カセバイイノネ。 ナラ、 コウヤヲタスケテ。
―― 了解したわ。 マシロ。
誰かが、 私を抱きしめた。 抱きしめて優しく頭を撫でる。 魂―― 心が裏返るような感覚がした―― 身体が、 別の誰かに明け渡される。 その瞬間ジャラリと鎖が鳴る音を聞いて、 私の意識は落ちた――。
―― お願い。 煌夜を守って――
私が願うのはそれだけで…… ―― 任せなさい、 と嬉しそうなコエが聞こえた。
恐怖以上にましろがお怒りです。
ましろの身体を借りたのは誰でしょう。 次回は煌夜sideとなります。 目の前で、 ましろを攫われた煌夜…… ブチ切れてマスヨネ…… 多分。




