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夢と現実の狭間に。1.5夜

ましろは夢の中で再びあの場所に――?

 私はそこで目を覚ました―― 星も無い真っ黒な漆黒の闇の中…… その中で白く浮き上がる回廊に私はいた。 見覚えがある場所だ。 痛いほどの沈黙―― 音のない世界。


 「ここって…… 」


 この前きた夢の中の場所?

まさか夢じゃなかったり…… そんな考えを首を振って否定する。

ただし、 この前の夢とは違う事が1つ―― 壁画があるのが左側だと言う事だ。 つまり、 前回と反対方向に回廊が進んでる……。 後ろは崩壊していて進めないので、 壁画を見ながら歩みを進めた。


 カツン、 コツン――


 私の足音だけが響く。 壁画に描かれてるのは、 あの少女と竜の物語――。 絵だけなのに、 やっぱり内容が理解できる。 

 怒りに我を忘れ、 都市を破壊していく破滅の竜。 手の中に愛しい妻を掻き抱いて、 慟哭のままに虚無を撒き散らす。 業火に焼かれる人々の足元には、 石になった卵…… 少女が殺された時に死んでしまった赤ちゃんだ――。

 生き残った人々が、 祈りを捧げる。 どうか許して欲しいと泣き叫ぶ。 けれど竜は許さない。


 ”一瞬鮮明な映像が流れる、 黒い角に灰色の髪の男性―― 見る間に髪の色が漆黒に染まる。

足元には割れた卵と黒髪の女性―― まるでフラッシュを焚くように次々と場面が変わる。

 巨大化する竜。 怯える人々…… 涙を流し懇願する。 祈る。 

竜の手の中でぐったりとする女性―― 竜の赤い目から零れる涙が―― 黒い炎となって街を焼く 

 許しをこう人々の声に―― 答える声は一言だけ。”


 『全て滅びよ』 ―― それが、 それだけが竜の願い。


 次の場面は、 少女の姿―― 魂だけになった彼女が泣いている。 愛する夫の名を呼んで…… 私の貴方、 愛しい貴方――  

怖ろしい事は止めてくれと涙を零す。 けれど声は竜には届かない。 肉の器を持たぬ彼女の声は―― 虚無の中では響かない。 自分の夫の引き起こす惨劇をただひたすらに見続ける。


 ”まただ…… フラッシュが焚かれながら場面が変わる。

竜の掌の中―― 亡骸から、 魂が離れる。 竜に縋りつき泣く女性。

 髪を振り乱し、 必死に凶行を止めようと声を上げる。 

 ―― 止めてやめてヤメテ。 貴方はそんな事をしては駄目なの―― お願いよ愛してるの。 そんな貴方を見たくない―― 

 竜の中から零れる炎はただひたすらに広がった。 焼け跡には何もない。 あるのは漆黒の虚無だけだ。”


 次の場面は赤ちゃん竜が描かれていた。 ただ、 その姿は掠れていて色も良く分からない…… それでも何故かそれが2人の赤ちゃんだと断言できた。 

 死んだ母の身体から零れ落ち、 奇跡的に卵から孵った双子の片割れ―― 未熟なままに誕生し本能のままに親を呼ぶ。 けれど誰もそれに気付く事は無い。 父は怒りに我を忘れ、 母は哀しみの中に沈んでいるから―― 幼子は死を待つしかなく、 ただ泣くばかり。


 ”哀しい―― あぁ…… 何故? ココだけは鮮明に見えない。 の姿はまるでノイズが走るようにぶれてしまって良く分からない。 けれど、 その子の慟哭が胸を突いた。 気付かれる事なく、 父と母を呼ぶその声に手を伸ばす。 無理だと、 意味の無い事だと分かるのに―― 私はその映像に手を伸ばし続けた。

 まるで、 私が呼ばれていると言うかのように――。 あぁ―― 誰かこの子を助けて――”


 最後と思われる場所には絵が書いて無かった。 今までとは違い、 文字だけがある。


 破滅の竜の名を『洸夜こうや』 少女の名を『真秀まほろ』 と言う。

幼子の名は無い。 ただ、 世界から消え去り二度と帰る事はなかった――。


 「っ」


 これは何の冗談だろう――。 私はへなへなとそこにしゃがみ込んだ。

洸夜。 漢字は違う。 漢字は違うけど―― 煌夜と読み方は同じだ。 真秀と真白―― その類似に気付かない程馬鹿じゃ無い。 輪廻転生? 違う。 


まほろは私じゃない・・・・・・・・・


 洸夜はどうか――。 映像を思い出す―― 灰色の髪に赤い瞳の男性―― 人と竜じゃ判断しようが無いけど雰囲気は確かに似てる気がした。 


 けれど彼は煌夜じゃない・・・・・・


 「だけど…… 同じだ。 違うけど一緒…… 」


 寒気が全身を駆けあがった。 私は、 吐きそうな気持を堪えて這うように先に進んだ。

円形の少し広くなっている部屋―― その真ん中に今度は黒い水晶があった――。 


 答えを知りたい―― ううん、 答えを知りたくない。 あの壁画は私にも起こりうる未来なのか? それとも、 似ているだけで関係の無い過去なのか。

 水晶の中には少女が一人――。 顔は見えない。 顔は見えないけど―― 彼女が、 マホロであると確信があった。

 

 「あなたは、 今どこにいるの? 」


 壁画の絵の中には、 魂だけの彼女が描かれていた。 けれど、 これは壊れた器だ。 彼女の亡骸をおそらくはコウヤが閉じ込めた。 永遠にその姿を朽ち果てさせない為に。

 そっと、 水晶に手を触れる。 彼女はいない。 マホロの魂はいないのだ。

こうしてみれば、 分かる――。 私達は一卵性の双子のようなものだ。 別々で…… でも同じ。

 ならきっと煌夜もそうなのだろう……。 

馬鹿みたいに涙が出た。 


 「どうしよう…… どうしたらいい? 煌夜も同じになっちゃうのかな。 なら私は絶対に煌夜を好きにならないようにしないと駄目だよね」


 おかしな話だ。 煌夜は人の姿をしてないのに。 まだ幼い竜の姿なのに。 

それなのに瞼の裏に浮かぶのだ。 顔は良く分からないのに、 アッシュグレイの髪に褐色の肌の男の人が―― 目の色は濃いアメジスト。 初めて見たあの時に心奪われた光。

 

 違う駄目だ考えちゃいけない。

 

 けど、 理性とは別の部分で理解していた。 ううん。 きっと知っていたんだ―― 煌夜――。 コレハ…… コウヤ…… ダ。


 「怖いよ―― 」


 この壁画みたく煌夜ももっと大きくなったら、 人の姿になるのかな? そうしたら私は確実に煌夜を好きになるだろう。

マホロみたく愛するのだろうか? そしたら私は殺されて、 そうして煌夜は――。

 嫌だそんなの。 煌夜が一人ぼっちになっちゃう未来なんて欲しくない。 赤ちゃんが消えちゃう未来なんて許せない。

 寂しいあの子、 一匹ひとりで泣いていた…… 誰にも気付かれる事なく―― どこに行ってしまったの?


 ―― 私のあのこ。 


 気付いてあげられなかった。 泣き続けて今はもう。 あの人の姿も見えない。

 

 ―― 暗いクライ冷たいツメタイ


 こんな所で一人きり――。 私のあのこ。 愛しい貴方。 ――ドコ?


 「わけ分かんないよぉ…… 煌夜ぁ」


 ぐるぐると私の思考は迷路の中。 

彷徨い焦がれる誰かの声に引きずられて、 心が引きちぎられそうだ。


 これは、 マホロとコウヤの物語だ―― そして私と煌夜の物語だ――。


 あぁ。 なんて事。 感情が浸食される――。 哀しいの。 かなしいの。 私が死ななければあの人は虚無に囚われずに済んだのに。 私さえあの人を選ばなければ――。


 『あぁ…… 変化…… があった んだね…… だか ら 彼女と…… 同 調 し た』


 唐突に聞こえた声に我に返った。 私は今何を考えていたんだっけ?

私は―― ましろ。 マホロじゃ―― ない。

 恐怖が私の身体を這い上る。 今考えていたのは私? もしかしてマホロじゃなかった?? 

ここにマホロの魂はない。 それなのに器に残る残滓が、 じわじわと私の心を蝕む。

 

 それ程に、 強い想い――


 「貴方は…… 」


 この前の夢に出て来た人だと理解している。 けれど、 思わず声に出していた。

もしこの人の声が聞こえなかったら私―― マホロになってた? 哀しみが、 喪失感からの慟哭が―― 心の中から出て行かない。 

 私の顔は涙でグチャグチャだ。


 『この前 話し た…… よね? 』


 また、 途切れ途切れのラジオみたいにその人は言った。


 『ごめんね。 これは まだ 君には―― 早いんだ。 怖れて…… 貰うのは―― 困る』


 唐突に気配を感じた。 私の真横に―― けれど、 その姿は見えない。


 「何――? 」


 ただ、 無性に怖かった。 この人は何をしようとしているの? 

私は、 ズリズリとマホロの眠る水晶へと下がる。 そんな私を憐れむ視線を感じながら……。


 『君は君だよ。 真白。 君は真秀じゃあない。 それを忘れないようにしてくれ。 君の名前の意味を魂に刻み込んで欲しい―― 君に…… マホロになって貰っては困るんだ。 ―― あまりしたくは無いんだけど、 君の記憶を封じるよ。 しかるべき時に思い出すようにするからさ』


 まるで、 チューナーがピッタリと合ったかのようにその人の声が突然ハッキリと聞こえた。

記憶を封じる? また、 私はいじられるの・・・・・・

 怖いよ―― 煌夜。


 「や! やだっ」


 ボロボロと涙を零しながら後じさる。 怖い怖い怖い怖い。 忘れるのは嫌。

けど、 覚えているのも怖かった。 私はどうしたいのか分からずにただ混乱していた。

 私の中のマホロが悲鳴を上げる。 イヤイヤ会いたいの。 私の洸夜―― 私の赤ちゃん!


 『ごめんね。 助けを求めた癖に…… でも、 いまの感情を覚えていて今もし君が急に煌夜を怖れれば…… あいつに僕が関わってると気付かれてしまう。 それだけは絶対に避けないといけないんだ…… 今回の件で、 君との間には意志を通わす道が出来た。 次に会う時はこの事を忘れてるだろうけど…… この前の続きは話せるから』


 パチン


 ユルシテ―― その音と一緒に私は闇の中に落ちた――。

 話の後半でキーパーソンたりえるのは赤ちゃんです。 それが誰なのかハッキリするのは大分先ですが。

 次回は、 街に向かって旅立ちます。 


 『廃棄世界に祝福を。』 もこの後更新しますので、 宜しくお願いします。


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