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夢と現実の狭間に。1夜

少し短めです。

 ―― どこ。 ここ?


 星も無い真っ黒な漆黒の闇の中…… その中で白く浮き上がる回廊に私はいた。

ギリシャ神殿の柱みたいなものが何本も立っている。

夢? ううん。 五感がそれを否定する。

 歩けば、 リアルな足音。 少しだけ埃っぽいにおい。

右手にある壁画に触れればザラリとした砂が指先につく。 

 一瞬私だけまた別のどこかに召喚されたのかと思った。 けれど、 それは違うと強く感じる。

おかしなことに恐怖は感じなかった。


 ―― 神話、 かな。


 右手にある壁画を見ながら先に進む。

一人の少女と竜の物語……。 字は何も書いてないのに不思議と内容が理解できる。

 

 長い黒髪の少女が一匹の黒い仔竜と出会う。

  仔竜とその少女は成長して恋に落ちた。

 角の生えた灰色の髪の青年と、 黒髪の少女が抱きあう。

   幸福な時間――。 愛し合いついに少女は子を宿した。

  愛しげに見つめ合う二人。 

 

 明るく、 楽しい色合いで描かれたその絵は突如趣を変えた。

赤と黒。 滅びの気配だ。


 飛び散る鮮血。 子を宿したまま死ぬ少女。

  人でないものと結ばれた咎で少女は同胞である人間に殺される。

 伴侶を殺された、 その竜は血の涙を流し慟哭した。

   こんな世界滅びればいい!

 そう叫んで…… 彼は夜闇の竜から滅びの竜となった。 司るのは『虚無』


   少女の亡骸を胸に抱え、 人を世界を滅ぼして。


 彼はそこにたったひとり立ちつくす。 真っ黒な闇の中。 ひっそりとした虚無の中。 


 ―― なんて哀しい物語。


 涙が零れたのは、 少し自分に重ねたからだ。

これは私の物語じゃあない。 けど、 私の傍にいる煌夜は闇の力を持った黒い竜だ。

少しだけ、 感情移入したって許される気がする。

 私が、 煌夜と恋に落ちる事がなかったとしてもだ。

昨日、 予想外のファーストキスなんてしたから、 こんな所に来たのかな。

 無意識が、 私に警告してくれてるとか。


 ―― 好きになってはいけないよって。


 種族的にまったく違うし、 煌夜はまだ幼い子供だ。

絆を上げる為のキスごときで恥ずかしがってるようじゃ、 煌夜のパートナーとして失格な気がする。

 そんな事を考えていたら、 すぐ横に大きな扉があるのに気がついた。

円形の少し広くなっているその真ん中に。 ただ、 扉が立っている。


 ―― こんな所に扉?


 漆黒の扉……。 そこには黒い竜が浮き彫りにされている。

 もちろん、 こんな所に扉がある意味なんてない。

裏から見ても、 表から見てもただの扉。 その先が何処かに繋がっているなんてありはしない。

 そう、 そのはずなのに……。


 『…… しろ…… 』


 声が聞こえた。 私に呼びかける声だ。


 『…… あぁ…… やっと  繋がった』


 ほっとしたような何処かで聞いた事のある声。


 『彼女・・が、 力を貸してくれて  助かったよ  君にやっと…… 声が  届く』


 まるで、 ラジオかなんかみたいに声が良く聞こえたり、 雑音が入ったように遠ざかったりする。

なんて言うかとても不安定だ。


 『初めまして―― 『神をぐ者』 君を…… 待ってた』


 何を言っているのだろう。 この人は…… 神を薙ぐ? 神薙、 私の苗字の事……??


 「…… あの、 何ですかその、 訳の分からない呼ばれ方」


 思わず、 口調に不信感が出てしまったように思う。 

だっていきなり訳分からない事を言うのだもの。


 『この…… 状況で気にするのは  そこ? 面白い子だねぇ。 名は、 重要な…… 因子ファクターだ  君の 世界にあったろう? 『言霊コトダマ』 だよ』


 コトダマ―― 私の世界で『言霊士げんれいし』 と呼ばれてる人達が操る魔法じみた力だ。

祝いも呪いもお手の物。 だから彼等は尊ばれ、 忌まわれる。

 白の祝言士しゅくごんし、 黒の呪言士じゅごんし…… 特別な家系の特別な人。


 『神薙は、 神を殺せる者  真白の名の……  真は、 生まれたまま…… まじりけがなく真実を映す鏡となる…… 白は何にでも染まる色  けど  真白であるなら、 何物にも染まらぬ色になるだろう』


 真白と言う名は父が付けた。 

初めて私の顔を見た時、 浮かんだのが真っ白なキャンパスだったって。 

この先、 可能性という名の色で素敵な絵を描けるようにと。

 だから、 そんな意味の分からない定義をされるような名前なんかじゃない。 


 「…… 意味が分からないです」


 『まぁ―― そうだよね。 君の名が…… そう・・だとしても、 それをして  欲しいって  訳じゃない…… けど、 止めて  欲しい』


 口調が、 真剣さを帯びた。

 そもそも神様殺せとか言われても、 私に出来るはずもない。 私は言霊士でもなければ、 攻撃特化の魔法使いでもない。 現状で使えるスキルなんて回復少々と攻撃力があるんだか無いんだか分からないような代物だ。


 「止める? 」


 訝しげに聞き返す。 何度も言うけど私に力なんてない。 この人が何を勘違いしてるか知らないけれど、 役には立てないと言おうとして私は口を閉ざした。 声が再び話を始めたからだ。


  『そう…… もう一人の僕…… 憐れで  哀しい…… もう一人…… あぁ、 僕はこうだから  彼を怒らせた…… 』


 唐突に哀しそうにそう呟いて涙をこぼす。 見えないけれど、 不思議とそれが理解できた。

はらはらと涙をこぼして、 この人は泣いている。


 『一つの 世界が滅んだ…… それが はじまり…… それを見た僕が・・  もっと大きな世界を壊した』


 「…… 」


 突然の話に混乱する。 僕が―― 壊した?


 『今度は そちらだ  今、 君がいる世界が…… 危ない』


 何を言ってるんだろう。 この人は自分を止めて欲しいと言ってるの? そんなの自分で止められるんじゃ……。 なのになんで私なんかに止めて欲しいと言っているのか。

 

 ―― ううん。 そんな事より……。


 私がいる世界が危ない……?


 「どう言う事っ」


 思わず叫び声を上げる。 それは、 今…… 私がいる場所の事か。


 『種が 蒔かれた。  災厄の…… 種  君が鍵を…… 』


 災厄の種…… それが何をするって言うんだろう……。 とにかく話を聞こうと耳を澄ませる。


  澄ませる……。

 ―― 澄ませる……。

 ―― 澄ませて…… るんだけど……。


 「…… 」


 ジリジリとした気持ちで続きを待つ。 けど、 その声が再び聞こえる事は無かった。


 「もしもし? もしもーし…… 切れた? ちょっと…… 肝心な事が聞けてないでしょ?! 」


 災厄の種って何?! 植物なの? それとも何かに対する比喩??

意味深な事だけ言って、 それで終わりとか…… なにそのポンコツアドバイス。


 ―― それくらい…… 教えていけっつーの!!!


 私の心の叫びもよそに、 辺りは静けさしか残ってなかった。 

外は相変わらず真っ暗。 この神殿みたいな回廊に一人きりで残されて。 意味が分かんない。 


 『ましろ? 』


 そんな時―― 訝しげに呼ぶ煌夜の声が聞こえて……。

意味深な壁画と、 声の人……。 

次回は普通のお話です。 


『廃棄世界に祝福を。』 もこの後更新します。


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