ふぁーすと……
予定外の進行になりました(汗)
「チナちゃん、 どう? 」
『時の小箱』 に入ったチナちゃんにそう声をかけて聞いてみる。
うーんと、 ちょっと考えた後にチナちゃんは小首を傾げた。
『ん。 良く分からないの』
チナちゃんは笑顔でそう言うと、 髪の毛の先を弄ってる。
「まぁ…… 箱の中に入っただけだからなぁ…… 」
煌夜がそう言って苦笑した。 どうやら、 入った本人には変化らしきものは感じられないようだ。
私としては目に見られる変化が無いと少し不安になるんだけど。
『でも、 これで大丈夫だと思うよ』
イーロウさんがにこにこしながらそう言った。
まぁ入った瞬間に痛いとか、 痺れるとか変な感じがしても困るから、 これで良かったのかな。
チナちゃんは、 当分の住処である小箱の中をふんふんと匂いを嗅いだり、 ぺしぺしと叩いたりしている。 その仕草が可愛い。
「まぁ、 とにかく良かったよ。 あ、 チナちゃんて何か食べるの? 」
ふと、 気になってそう聞いたら、 煌夜が呆れ顔で言って来た。
「小箱の中だから必要ないだろ? 」
あぁ、 確かに……。 食事あげなくても生きてたって言ってた気がする。 トカゲ。
でも、 一緒に暮らしてて私達だけ食事をするっていうのも気にかかる。
『まぁ、 必要はないけど、 あっても良いんじゃないかな』
イーロウさんがそんな事を言った。 そうだよね。 意識があるなら嗜好品? みたいなのがあった方が楽しい気がするですよ。 そう思って頷いてたら、 チナちゃんが片手をあげて私達を見る。
『じゃあチナは、 美味しいお水と時々日光浴させて欲しいの! 』
はいはーいって感じで満面の笑顔で言われちゃうと、 お姉さん頑張りたくなります。
と言っても、 ささやかな主張なので頑張らなくても大丈夫そうだけれど……。
「まかせて! ていうか、 アレだね…… 直接入れてるからコロコロ中で転がっちゃうねぇ」
『時の小箱』 の中はガラスの表面みたくまっ平ら。 人の手足ならまだしも…… チナちゃんの本体は硬めの種なんで、 ちょっと動くたびにコロコロ動く。
『確かに…… ナギが動くと目が回りそうなのよ…… 』
実際には目が回る事は無いみたいなんだけど、 気持ち的に落ち着かないようだ。 いくら、 状態が保たれる状況であるとはいえ、 あっちにコロコロ、 こっちにコロコロでは落ち着かないし、 転がるたびに箱にガツンゴツンするのは気持ちが良い物ではないだろう。
「草でも入れとけば良いんじゃないか? 」
その辺のを引っこ抜いてさ、 と言ったのは煌夜。 もう。 またそんな事言って。
イーロウさんが、 苦笑しながら煌夜を見た。 チナちゃんは…… しょうがないって感じの諦め顔だ。
『コーヤ…… それは流石にどうかと…… チクチクするんじゃないかな』
イーロウさんがそう言うと、 煌夜は少し不貞腐れたような顔をする。
…… 私と二人でいる時はチナちゃんの事、 心配してる風なんだけどなぁ。 どうして、 チナちゃんがいる時は少し意地悪になるんだろう……。 何度目かの疑問が再び起きる。
『苔のお布団があれば嬉しいの』
煌夜の事はまったく気にしてない様子で、 チナちゃんがそう言った。 ふむふむ。 苔のお布団ね。 この辺に苔とかあったかな。 私がそうしてキョロキョロしてると、 イーロウさんが身体を起こして泉に向かった。
『それなら…… 泉の中の石に良いのがあるよ』
そう言って、 泉の中から平べったい石を取りだした。 上には確かに苔が生えてる。 花を付ける種類だったらしくて、 小さな小さな青い花が咲いていた。
イーロウさんは爪でそれをこそぎ取ると、 『時の小箱』 に近付けてチナちゃんに見せる。
『とっても素敵なの! 』
チナちゃんは小箱の中でぴょんぴょん跳ねて大喜びだ。
イーロウさんに促されて私は小箱を開けると、 チナちゃんをいったん取り出して苔を敷き詰めた。
その上にもう一度チナちゃんを乗せる。 フワフワした苔が、 チナちゃんを包んで固定してくれたようだ。 この分なら普通に歩いたりしてる時は転がらなくても済みそう。
「可愛い部屋になったね」
私の言葉にチナちゃんはニコニコ嬉しそうだ。
『イーロウ、 ありがとうなの』
チナちゃんに、 お礼を言われたイーロウさんも嬉しそうだ。
それから、 ふとイーロウさんは薄暗くなってきた空を見上げた。
『今日はもう疲れたろう? そろそろ、日も沈むからお帰り』
イーロウさんがそうして微笑むと、 私達も頷いて家に帰る事にする。
言われてみれば、 歩きまわったり、戦闘があったりで足が重たい。
『また明日なの~』
チナちゃんと一緒にイーロウさんに手を振りながらゲートをくぐる。
明日から、 レベル上げしてる間はイーロウさんに保父さん役をして貰う事になったからね。
一応『時の小箱』 には、 紐とか鎖が付けられる丸カンの頑丈そうなのが付いてるんだけど…… 結構激しく動いたりとかがあると、 小箱の中のチナちゃんが大変な事になるからね!
さてそんな感じで帰宅です。
「ただいまー」
『ただいまなのー』
「はいはい。 お帰り」
チナちゃんと一緒にゲートをくぐってそう言うと、 煌夜がやる気のなさそうなお帰りをくれた。
まぁ、 言ってくれるだけましだよね。
「コーヤもおかえり! 」
私は元気よく、 煌夜にもそう返す。
「…… ただいま」
少しだけ照れたように煌夜が返事をくれた。 後ろ向きで。 少し機嫌が良くなったのか、 尻尾がゆらゆら揺れている。
『可愛いお家なのね』
チナちゃんがそう言いながら周囲を見回す。
どうやら、 『幻の家』 はチナちゃんのお気に召したようだ。
「だよね! 私も大好き。 このお家」
なんていうか、 居心地が良いんだよねこのお家。 安心できるって言うか……。
ポイント貯めたら、 色々増やすんだ。 そうしたらもっと可愛いお家になるはず。
『ふふふ。 ナギにそう言って貰えてお家が喜んでるのよ? 』
チナちゃんがそう嬉しそうに話してくれる。 家が? 家って喜ぶの?
思わずその気持ちがそのまま、 口から出ちゃった。
「えっ! 家が? 」
『そうなの! ほとんど木で出来てるから、 なんとなくだけどチナにはわかるの』
この木も生きてるの。 そう言われて改めて周りを見る。
そうかぁ……。 チナちゃんみたいな精霊的な意識は無いかもしれないけど、 嬉しいとかそういう気持ちはあるんだね。 じゃあ、 余計大事に住ませて貰わないと。
「そうなんだ。 えへへ。 喜んで貰えて嬉しいよ。 『幻の家』 さん。 いつもありがとう」
ついでって訳じゃないけど、 お礼も言ってみた。 チナちゃんはそんな私を見て満面の笑顔だ。
「そうだ。 チナちゃんの寝る所…… どうしよう。 私達と一緒に上で寝るんでいいかな? 」
ベットは大きいし。 枕元にでも、 スペースを作れば一緒に寝られるよね?
そう思って話したら、 途端にその場の空気が凍った。
チナちゃんは青褪めている。
煌夜は…… ものすっごい不機嫌そうだ。 ―― えーっと。 私何かマズイ事言った?
『ひぁっ! ナギは本当にとんでもない事いうの…… イーロウが教えてくれてて良かったのよ』
ぷるぷると震えながらチナちゃんがそんな事を言う。
イーロウさん? 何の話をしたんだろう。
「? 」
疑問に思って、 考えてると慌てたようなチナちゃんが涙目で訴えて来る。
…… なんだろう。 ウチの中の空気が段々冷たくなってる気がする。 思わず私もぶるりと震えた。
『上のお部屋はナギとコーヤ専用なのよ! チナはコーヤに殺されたくないの! 』
何故だかチナちゃんが急に物騒な言葉を出したよ? 煌夜に殺される、 だなんて……
けど、 煌夜のいる方向からは何やら不穏な気配がするのは何故でしょう。
「チナちゃん? 何言ってるの。 コーヤがそんな事する訳ないでしょ」
そうそう。 煌夜がそんな酷い事するはずナイナイ。
だけど、 煌夜の方を見れないのは、 何か気配に殺気のようなものが混ざってきてる気がするってからって訳じゃナイデスヨ。
『…… むちって怖いの…… チナ…… 流石にコーヤが可哀想になってきたの』
チナちゃんがまたおかしなこ事を言った。 鞭? ムチなんて物ここにはないよ?
煌夜の気配がまた濃くなる。 ちょっと、 煌夜ぁ…… なんなの。 一体どうしたの?!
「ムチ? だからそんなのここにないってば」
若干、 泣きそうな気持になりながら、 私はチナちゃんにそう言った。 後ろは怖くて見れない。
チナちゃんが、 小箱の中で後じさる。
『竜を相手にこの天然っぷり…… チナ、 ナギの事ナメてたの…… いっそ言っちゃいたい…… あぁでも駄目なのよチナ。 落ち着くの。 ナギはこっちの常識を知らないだけなのよ…… あうぅ…… 』
ぶつぶつと、 焦点の定まらない目でチナちゃんが言い始めた。 ちょっと、 チナちゃんまで?!
この空気の中で、 精神状態を一人で保つのはキツイんですけど!
『ナギ、 チナはナギが大好きよ! けど、 駄目なの。 約束は破れないのよ。 …… ナギ…… 許してほしいの』
そっと、 諦めるようにチナちゃんがそう言った。 ちょっと待ってチナちゃん。 今…… 何を諦めたの。 私の人生詰んだ感が半端ない。
何だか嫌な予感もするんだけど! 最終的に今、 確認しといたほうがイイヨって直感が訴えかけてくるんですが!!
問い詰めようと口を開きかけた時だった……。
「…… 取り敢えず、 チナがこう言ってるんだ。 チナは一階な! 」
空気がぱっと変わった。 先程の気配が嘘のように、 にこやかな声の煌夜がそう言って私の肩に手を置く。 振り向くのに勇気がいるなんて…… 軋みながら振り返ると、 そこには満面の笑みの煌夜……
だけどさぁ! 目が笑ってないヨ。
『はっ! そ、 それがいいの! 絶対、 断然、 誰が何と言ってもチナは一階がいいのっ! 』
チナちゃんが両手をあげて猛烈にアピールする。 最後には、 苔を叩いての絶叫だ。
『それでいいっていうの! 』 無言のアイコンタクトにそんなチナちゃんの声が聞こえた。
「そ、 そうなの? じゃあ…… 」
おずおずと、 了承する私に、 チナちゃんがほうっと息を吐く。
『これで、 平和は保たれたの。 チナの事は取り敢えず、 テーブルの上に置いといてくれればいいのよ。 それよりレベル確認するんでしょ? チナ、 ここに居るから上で確認してくればいいの』
さっさと行けと言われたように感じたのは気の所為だろうか。 チナちゃんに限ってそれは無いと思いたい。 煌夜の方をみたら、 不機嫌そうではあるけど、 いつもの煌夜に戻ったように見える。
その様子に、 私も思わず息をついた。
チナちゃんに見送られて、 二階に向かって歩いて行く。
煌夜はむっつりと黙ったままだ。 無言が痛い。
「煌夜…… 何を怒ってるの? 」
怖かったけど、 頑張ってそう聞く。 だってまったく怒る理由なかったと思うんだよ。
だから、 話して貰わないと流石に分からない。 いつもの怒り方じゃなかったもの。
「別に怒ってない。 疲れてるだけだ」
不機嫌じゃん。 いまも。 疲れてるだけじゃないじゃんさ。 絶対に。
「―― さっき、 変だったじゃん…… 」
不服そうに小声で呟いたら、 聞こえてたらしい。
「変じゃない。 レベル見るんだろ? 」
天蓋の布をかき分けてた煌夜が振り返ってそう言い放った。 もう! 変だったじゃんかっ!
ベットの上に二人して座り込む。 ピコピコしてた紋章を煌夜が起動する。
私も同じようにしてステータス画面を出した。
『名前 : 煌夜
属性 : 闇 雷 氷 重力
体力 : ☆☆☆(青) → ☆(緑)
魔力 : ☆☆☆☆☆(白) → ☆☆☆(黒)
戦闘力 : ☆☆☆(緑) → ☆(白)
絆 : ??? ※任意設定によりブロックされています※
加護 : ???
称号 : ??? ※任意設定によりブロックされています※』
『☆こうや’Sスキル☆
ブラインド(弱) : 短時間目くらましができるよ。
↓
ブラインド(中) : ちょっと長めに目くらましができるよ。
ブレス(強) : 闇色の炎を吐けるよ。 弱い敵なら丸焦げだ!
↓
ブレス(特弱) : 闇色の炎を吐けるよ。 そこそこ強い敵も丸焦げだ!
火力か調整できるようになったよ。 やったね☆
ライトニング(中) : 雷で攻撃できるよ。
↓
ライトニング(強) : 雷で攻撃できるよ。 威力が微調整できるかも♪
スタン(弱) : 相手を痺れさせる。でも弱いから強い魔物には効かないかな?
↓
スタン(中) : 相手を痺れさせる。 そこそこ強い魔物も短時間なら……?
アイシクル(中) : 氷柱を飛ばして攻撃できるよ。
飛ばさずに魔物の足元に発生させれば足止めできるかも?
↓
アイシクル(強) : 氷柱を飛ばして攻撃ができるよ。
飛ばさずに魔物の足元に発生させれば足止めできるね!
グラビティ(弱) : 相手に重力をかけられる………。 でも弱いから一瞬かなぁ。
↓
グラビティ(中) : 相手に重力をかけられる………。 弱い敵なら圧死するかも』
『名前 : 神薙 真白
属性 : 癒 光 地
体力 : ☆☆(青) → ☆☆☆☆☆(青)
魔力 : ☆☆☆☆☆(白) → ☆☆☆(黒)
戦闘力 :☆(赤) → ☆☆☆☆(赤)
絆 : 駆け出しパートナー → パートナー
加護 : 幻の家使用権 自動治癒 成長促進(パートナー含む)
言語、 文字自動変換 死亡回避
ランダム幸運 魔力回路増設 魔力付与
異常無効(毒、 精神異常) 精神プロテクト
称号 : 黒竜の?? 異世界転移者
※黒竜の?? が解放されていないため、 称号による効果を得る事ができません※』
『☆ましろ’Sスキル☆
ヒール(弱) : かすり傷程度の傷を治すよ!
↓
ヒール(中) : 骨折位までならイケルイケル☆
ライト(弱) : 明りにはなるかな?
↓
ライト(中) : 明りはもちろん、 アンデット系にちょっとだけダメージが入るよ!
アースバインド(弱) : 弱いモンスターなら拘束できるよ。
罠として使えば転ばせられるかも?
↓
アースバインド(中) : そこそこ強いモンスターは一瞬足止めできるよ。
弱いモンスターは締めコロ……
罠にすれば転ばせられるね♪ 』
ふむふむ。 変更前と変更後が矢印で示してあるらしい。
煌夜のスキルは威力調整できるようになったりしてる。 攻撃系が強いなぁ……
私のヒールは骨折位まで治せるようになったらしい。 ライトも、 アンデットに攻撃できるようになってるし。 アースバインドの締めコロが気になるけど…… これは殺れるって事ですか?
「レベルは3つくらい上がってるみたいだね。 それから考えると、 スキルの方は上がりにくいのかな? 」
基本的な体力とかの方の上がり方から考えると、 スキルの方はそんなに上がりが早くない。
成長補正が入っててこれなら、 なかったら、 レベル上げはどんだけ大変だったんだろう。
「そうだな…… とりあえず、 明日からまたレベルを上げよう。 ましろに体力をつけて貰わないと、 森から出られないからな」
そう言いながらも、 煌夜は私と目を合わせようとしない。
いい加減、 私も少しイライラしてきた。
「ねぇ煌夜! 言いたい事があるなら言ってよ。 ヤダよ私。 こんなの。 何でさっき怒ったりしたの? 」
正直に言おう。 私はさっきの煌夜が怖かった。 本能的な所の部分で。
煌夜の事は大好きだけど、 理由が分からないままだと、 またあんな事になるかもって思っちゃう。 煌夜の顔色を伺うように生活しなくちゃならないのは嫌だし、 そんな態度を取られたら煌夜だって嫌じゃないかと思う。
「…… ココは、 俺達の家だ。 竜は自分のテリトリーに煩い。 ましろ以外の誰かが、 この家に入るのに抵抗があるだけだ」
ちょっと傷ついた顔をして煌夜はそう話した。 相変わらず、 目を合わせてくれない事に寂しい気持ちになる。
「そうなの? でも、 私と煌夜だって、 ちょっと前までは見知らぬ他人だったんだしさ。 きっと」
大丈夫になるよ、 とそう言いかけた瞬間ガバッと顔をあげた煌夜に鋭い目で射抜かれた。
怒ったような、 悲しんでるかのような真剣な眼差し。 そのまま、 パタパタと私の顔の前まで飛んでくると、 苦しそうな顔をして私の頬に手を寄せる。
「こ、 煌夜……? 」
顔が近いとか、 言ってる暇はなかった。 ちうっと音を立てて、 煌夜の唇が、 私のそれに重なる。
頭が真っ白になるって言うのはこの事か。
「他人じゃない。 お前が俺に名を付けた時から」
―― ……
煌夜の真剣な言葉に我に返った。 落ち着け私。 今何があったんだっけ? 煌夜が?
―― 煌夜が私にキスした。
私、 ファーストキスなんだけど。 ファーストキスはレモンだっけ? イチゴ味だっけ?? 今、 味したかな。 いやいやでも…… コレはカウント外? いやいや、 そうじゃなくって…… あれぇ? 心臓がどくどく言ってる。 顔は自分でも分かる位に熱い。
「ふえっ…… あぁ、 まぁそうなのかもしれないけど…… 今のは吃驚するかなぁ…… 私のいた所では、 まぁ海外でだけど…… 挨拶とかでそうすることも、 あったりなかったり? 」
混乱してるよ。 私。 精神異常無効的な加護はこの場合は効かないのか? ていうか効いて欲しい。
自分でも何を言ってるのか良く分からないし! なんだこれ…… 恥ずかしい。
煌夜の目は真っ直ぐに私を見つめて来る。 対して私のほうが煌夜の目が見れなくなった。
子供相手に、 きゅんとするとか私…… 変なんじゃないの?!
落ち着くのよましろ、 コレは家族的な親愛をしめす的なちゅー。 ファーストキスとはいえ私がドキドキしてどうするの! 平常心だよましろ。 頑張れましろ!
「挨拶じゃないぞ…… そうだな、 絆に必要な事かな…… 今は」
泣きそうになりながら思い切って顔をあげたら、 機嫌の良くなったらしい煌夜にそう言われた。
今はって言われた言葉は気になったけど、 とにかく絆の為だったらしい。
慌てた私が馬鹿みたいだ。
「えっ! そおなの…… えっとでも…… なんで今? 」
精神的にはクタクタだったんだけど、 気になったので聞いてみた。 うぅ。 種明かしをされても、 煌夜を見るのが恥ずかしい。 私、 免疫無さ過ぎ。
「最初からしたら引かれるかと思って」
確かに、 初日からされてたら警戒して仲良く出来なかったかも……。
「そ、 そうなんだ? …… それって頻繁にした方がいいの……? 」
言った瞬間、 墓穴を掘った気がしたんだけど。 …… 絆を上げるのには、 レベルを上げるのとは別のアプローチが必要って事だよね。
そうなると、 今の一回だけで済むとは到底思えない。
「あぁ」
煌夜が嬉しそうに笑って言う。 でも、 なんだろう…… 捕食者に捕まったような。
狼の前のウサギ的な気分になるのはなんでだろう。 良く見れば、 煌夜の目の奥になにかチラチラとした炎のようなものが見えるせいか……。 だめだ。 考えるのはやめておこう。
「その、 あの、 ちょっとね? なんだかだいぶ恥ずかしいんだけどっ?! 」
私は正直に、 そう言っておく。 キスとかキスとかハードル高い。
子供のくせに、 しれっと出来る煌夜が絶対おかしいと思う。
「そうなのか? 」
煌夜は、 何でこんなに余裕そうなんだろう。
「ソウデス」
まともに目を見てられなくなって視線を逸らしながらそう私は言った。
「じゃあ、 チナ達の前では止めておくか」
はぁ! 何言ってるの煌夜クン?! 思わず真正面から煌夜を見つめた。
「ひぁ?! する気だったの?? ムリムリムリムリ」
両手を振って、 断固拒否する。 人前でとかなんの羞恥プレイなの!
煌夜は私の言葉に意地悪そうな顔をしてニヤリと笑った。
「だからしない。 そのかわりココでする」
今度はゆっくり押しつけるように、 煌夜の唇が私に触れた。 思ったよりも柔らかい、 けど…… ひんやりとした感触に落ち着いてきてた心臓が暴れ出す。
「…… っ ここで? 」
私から顔を離した後にぺろりと口を舐める煌夜の仕草が色っぽい。
―― 私、 馬鹿なの? 小さな子供が色っぽいとか…… どんなフィルターかけてるの!!
「ここで」
人前が嫌なら諦めろよ。 そう言って煌夜が笑う。
「絶対に? 」
「そうだな…… 朝夕最低一回は。 絶対に」
嫌ならもっとする。 と脅迫されて私は諦めて頷いた。 人前でされるよりはまだマシだ。
イーロウさんやチナちゃんの前でなんて恥ずかしさで爆発できる。
「…… 分かった… 」
半泣きでいたら、 煌夜に目元を舐められた。
…… どうしよう。 私の心臓もつかしら……。
チナちゃんに対する嫉妬が激しい煌夜ですが…… キスの予定はなかったのになあ……。
途中から大暴走ぎみだったものの、 天然ましろの煌夜に対する行いが結構不遇だったので、 思わずそのままにして書いていったらコンナコトニ。
ましろの意識改革には丁度良かったかも……?
次回は、 夢のような、 現実のような狭間のお話です。
『廃棄世界に祝福を。』 も更新しました!




