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必要なのはアイテムのようです。

チナちゃんの生き残り作戦が開始されます。

 何とか名前も決まったので、 私は泉でハンカチを濡らしてチナちゃんの目に当てた。

最初はびっくりしてたけど、 これ以上目が腫れないようにって言ったらチナちゃんはハンカチを大人しく目にあててくれている。 

 

 『さてと、 愛称も決まった事だし…… 問題を解決しないとね。 チナ。 君はシロガネと繋がれないと言ったね。 それなのに、 君は発芽してる。 その理由は分かるかい? 』


 私の手の中、 白い双葉を出した種を指さしてイーロウさんが言う。 

チナちゃんはイーロウさんの言葉に懸命に考えているようだったけれど、 諦めたように嘆息した。


 『…… 分からないの。 気付けば発芽してて意識を持っていたの。 あの条件下でチナが発芽できるとはどうしても思えないのよ。 ましてや、 精霊化なんて前代未聞なの』


 シュンとした様子でチナちゃんが言うと、 煌夜が疑問を口にした。


 「どういう事だ? 」


 『チナがいた場所は木のウロの奥だったでしょ? あんな所、 日も届かなければ水も無いの。 成長するのに適して無いの』


 説明されれば、 確かにと思う。 動物に運ばれたのか、 何かに蹴飛ばされたのか…… なんであんな所にいたのかは分からないけれど、 チナちゃんは確かに木のウロの奥にいた。 あそこが芽を出して生きていくのに良い場所だとはとても思えない。 

 チナちゃんが言うにはそんな状態の場合は、 発芽せずに種のまま留まるのが普通なのだと言う。


 『ふむ。 確かに発芽に足る環境ではないね。 ましてや君等は種のままならいつまででも生きていられる。 そこで発芽するメリットなんて何もない。 なのに…… 』


 発芽してしまえば後は生き残れるか生き残れないかの話になるそうで、 チナちゃんの場合は親樹の支援が得られなければ枯れるしか無かった訳だ。 だから死んじゃうと言ったんだね。


 『そうなの。 でもチナは発芽しちゃった。 とと様みたいな精霊の宿るマナの樹の実は種からだと成長が難しいの…… だから普通は枝分けするのよ。 その枝が精霊化する事も稀だけど、 種なのに精霊化なんてそれこそ前例がないの』 


 チナちゃんが言うには精霊化した場合、 水と太陽の光だけじゃなくて親樹から送られてくる魔力こそが成長に必要なんだって。 だから普通に考えれば、 親樹に繋がれない時点で精霊化はありえないと言うのだ。 発芽だけでも異常なのにましてや…… 精霊化。

 精霊化する事がないはずなのにしている…… チナちゃんが混乱するのも当然だ。

前例がないと言う位だ。 それはどんなに奇跡的な事なんだろうか。 

こんな異常事態そんなに重なるものだろうか。 これってチナちゃんのとと様であるシロガネさんと繋がれないって事にも関係があるのかな?


 「ふ…… ん」


 それを聞いて暫く黙っていた煌夜が声をあげた。 目を眇めて何かを思い出すように首をかしげる。


 「どうしたのコーヤ」


 その様子が気になって私は煌夜に声をかけた。 


 「あぁ…… さっき、 森の上を飛んだ時に気になるものを見たんだ。 イーロウ、 ここからもっと北にある山側の…… 湖に囲まれた森に微かに巨大な樹が見えた」


 少しためらうようにして煌夜がイーロウさんに話す。 イーロウさんがいる所を探すのに木の上に飛んだ時の話かな。 あの時は特に何も言っていなかったけど。 何か気になるものがあったみたい。


 『…… 微かに? おかしいな。 確かに遠くではあるけど、 朝霧でもかかってない限りハッキリと見えるはずだ』


 イーロウさんが、 そう言って眉をしかめた。 本来なら見晴らしが良い場所みたい。 イーロウさんのその答えに渋い顔をして煌夜が話を続ける。


 「霧ならかかってた。 ただし、 普通の霧じゃない。 あそこにあるのは夜の気配だった」


 「夜? 」


 思わず煌夜に問い返す。 夜の気配…… それって何だろう。 普通の霧じゃないって…… それは何かおかしな事がその森に起こっているという事かな。 私は疑問を込めて煌夜を見た。


 「俺と同じ闇の力だ。 だからこそ遠目でも俺には分かったんだけどな…… あの時、 そこから誰かに見られた気がしたんだ。 イーロウ、 あそこにある樹がシロガネじゃないのか」


 霧に闇の力…… それはスキル的な霧なんだろうか……。

それよりも、 その森から誰かに見られるって…… 思わずゾクリと私の背を悪寒が走った。


 『その通りだよコーヤ。 その大樹こそが、 この大陸最古のマナ…… シロガネだ。 どうやらチナがシロガネと繋がる事が出来ないのは、 シロガネの方に問題があるようだね』


 イーロウさんの言葉が残酷な現実を告げる。 チナちゃんがシロガネさんと繋がろうとすると邪魔されるって言ってたのはその霧が原因なのか、 それとも煌夜を見てた何かが原因のかな。

 その現実に、 途端に不安そうになるチナちゃん。


 『そんな…… とと様は…… とと様は大丈夫なの? 』


 また泣きそうになって、 チナちゃんは塗れたハンカチを抱き締める。 ぽたぽたとハンカチから雫が零れ落ちて来た。 チナちゃんが、 よりいっそうハンカチを抱き締めたので私の手のひらは小さな池みたいになってしまった。


 「正直分からない。 霧に隠されて俺にも見えなかった・・・・・・。 けど、 立派に立ってる影は見えたから、 大丈夫だと思うぞ」


 根拠のない話ではあるけれど、 煌夜は一応チナちゃんを励まそうとしたようだ。

その言葉にチナちゃんの瞳に揺らめいていた不安が少しだけ緩む。


 『コーヤに見えない…… それは…… 』


 深く考え込む様に唸るイーロウさん。 その言葉に答えるようにして、 煌夜が言葉を続ける。


 「俺が見てるのに気がついて、 誰かが俺を見て来た。 俺には見れないのにあっちは俺が見えるらしい。 俺より遥かに強い何かがあそこにいる」


 腹立たしさを隠しもしないで煌夜は、 おそらくシロガネさんがいる森の方を睨んだ。

元々、 その森に行くにはレベルが足りないって言われてた私たちではあるけれど、 それ以上に煌夜が敢えて『俺より遥かに強い何か』 と言った事にえもいわれぬ不安を感じる。


 『…… 不気味な話だけれど、 今はどうしようもないね。 僕はココを動けないし、 君等はレベルが足りないからあそこの森には行けない…… シロガネの援助が望めない事がハッキリした以上、 チナを生かすにはアイテムの力が必要だ。 ナギ達のカタログにありそうなアイテムは二つかな』


 その言葉に、 私は期待を込めてイーロウさんを見つめた。 こうして出会えたチナちゃんを死なせるなんてとんでもない! 

 シロガネさんのいる森に行く事は無理でも、 他にできる事があるのなら何でもするよ。 

だって、 チナちゃんが死ぬのなんて見たくないもの。


 「何のアイテムがあればいいんですか」


 イーロウさんにそう問いかける。 カタログで手に入るのなら願ったりだ。


 『使えるアイテムは『眠りの宝珠』 と『時の小箱』 かな。 『眠りの宝珠』 は使いきりのアイテムでチナを宝珠の中に封じて眠らせるものだね。 主に瀕死の重傷を負った人に使う事が多い。ただし、『眠りの宝珠』 を使ったら『目覚めの宝珠』 でしか目覚めさせる事はできない。 つまり、 ポイントがとても必要って事』


 使い捨ての割にはポイントが高いからね、 とイーロウさん。 

ポイント…… 今の残りポイントは二万と二千五百。 足りれば良いけど、 無理なのかな。


 「すると有効そうなのは『時の小箱』 か?」


 『そうなるね。 こちらは、 中に入っているものの時を止める効果がある。 繰り返し使えるアイテムだ。 例えば、 五年に一度の満月にしか咲かない花…… 青の貴婦人レガリナ。 その花の蜜は良質の万能薬を作るのに欠かせないんだけど、 採蜜するとすぐに劣化してしまう。 だから、 プランツハンター達は蜜を採取した小瓶を『時の小箱』に入れて劣化させないようにするのさ』


 煌夜とイーロウさんが話を進める。 世の中には色々な品物があるものだ。

とにかく、 『時の小箱』 を手に入れれば良い訳だ。 もしもポイントが足りなかったら煌夜と一緒に魔物を倒しに行かなくちゃ。 なんとしても、 チナちゃんを守りたい。


 『チナ、 そこで眠れば大丈夫なのね? ちょっと寂しいけど頑張るの』


 チナちゃんが、 両手を握り合わせて震える声を出す。 シロガネさんと繋がれるか、 他の解決策がみつかるまで眠ったままそこから出られないのだ。 不安にならないはずがない。


 『多分…… 眠りにつく事はないと思うよ。 箱の中の時がそれ以上進まないだけのハズだから』


 その意外な言葉に、 チナちゃんと目を丸くしてイーロウさんを見上げる。

そんな私達を見てイーロウさんが苦笑した。


 『それってどういう事なの? 』


 チナちゃんの問いかけに答えるイーロウさん。 優しい笑みを浮かべながら、 チナちゃんにどういう事か説明を始めた。


 『実験好きの友人が昔、 小さなトカゲをその中に入れたんだよね。 僕も見せて貰ったけど元気に動き回ってた。 食事をあげなくてもいいから楽だって言ってたけど、 切れてた尻尾は箱の中にいる間は治らなかったようだね。 だから、 時を止めるっていっても『状態を維持』 するのに力が働くのであって、 チナの身体や意識を止める訳じゃないって事だ』


 それなら、 その方がいいんじゃないだろうか。 いつ覚めるともしれない眠りにつくよりずっと良い気がする。 イーロウさんのその話にチナちゃんの顔も明るくなった。

煌夜も口には出さないけどほっとしたみたい。 割りとチナちゃんをからかう事の多い煌夜だけど、 なんだかんだで心配してたらしい。

  

 「じゃあ話をする事はできるんだね」


 私も嬉しくなってチナちゃんと顔を見合わせて笑い合う。

それなら寂しくないの、 とチナちゃんも嬉しそうだ。


 『そうなるね。 チナが小さくて良かったよ。 じゃなかったら箱の中に入れないから。 まぁそれよりも良い事は『幻の家』 にもチナが入れるようになるって事かな』


 ウィンクしながらイーロウさんが言った。 あれ。 前そんな話をした時には制約に引っかかって意志のある精霊は、 『幻の家』 に入る事が出来ないって言ってたと思うんだけど。


 「え? 前聞いた時は精霊の宿った樹は中に入れないって言わなかった? 」


 どういう事かと説明を求めたら、 イーロウさんが笑いながら答えてくれる。


 『本当は正確に言うなら入れる方法はあるんだよ。 ただ…… 今のナギとコーヤには無理だけどね。 『時の小箱』 に入ったチナが入れるのは『幻の家』 が小箱をアイテムとして認識するからだ。 箱の中に入っている限り、 チナもアイテムと認識されるから、 小箱から出さない限りは出入りできるよ』


 まさかの物扱い。 『幻の家』 にそんな抜け道があったとは。 他に入れるようにする事が出来る方法があるって言うのも気になったけれど、 煌夜がイーロウさんを睨んでるのを見て諦めた。

 なんとなく分かる。 その目は私に余計な事を言うなっていう目だ。 思考を読める訳でもないのに不思議とそんな確信があった。 煌夜のステータス画面が見れない所がある事もそうだけど、 私に何か隠したい事があるんじゃないかな。 ―― 何故だか今はそれが気になった。

 何やら、 不穏な気配が…… 煌夜を遠くから見つめたのは誰だったのか。

明かされるのは当分先になりそうです。 なにはともあれ、 こう言う形でチナちゃんの無事が確定しました。 次回はもちろん『時の小箱』 の話になります。


同時刻に『廃棄世界に祝福を。』 もUP予定です。 15R指定入っているので抵触しない方は宜しければお読み下さい。

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