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なの!

幼女の正体は……

転びそうになりながら急ぐ。 

煌夜に先に行って貰おうと思ったんだけど、 魔物がいつ出るか分からない所に一人置いていけないと言われた。 そりゃそうだ。 小さな女の子の声にビックリし過ぎて自分がどこにいるかっていう認識が飛んだらしい。

 焦る気持ちだけが膨らむ。


 『駄目なのーっ! 』


 『それは私なの! 食べたら…… いやぁっ!! 』


 間断なく聞こえる声が恐怖を伝えた。 今や女の子の声は涙声だ。 それから、 ゴッゴッという何かを抉るような音が聞こえる…… 


 「いたぞ」


 煌夜が、 私の耳元に囁いた。

魔物が、 木の根の辺りを鼻を使ってほじくり返そうとしている…… イノシシ? 

口元の牙が反り返って顔まで届いている。 毛皮は毒々しいほどに赤い。 大きさは動物園でみた虎ぐらいありそうだ。 

 ごふごふ言いながら木の根元にある穴に鼻を突っ込でいるみたい。


 『ひんっ。 とと様に会えないまま死ぬのは嫌なのーっ』


 「フレイボアか…… ライトニング! 」


 煌夜がそう唱えると、 空間を割くような音がしてイノシシ…… フレイボアに雷が落ちた。

思わず、 目をぎゅっとつぶってしまう。 


 「ま、 流石にコレ一発じゃあ無理だよな? 」


 煌夜の言葉に恐る恐る目を開けると、 怒れるフレイボアさんが片足で大地を何度も引っ掻いて鼻息荒くこちらを睨みつけている。 もしかして突進してくる気?!


 「ましろ、 左に避けろ」


 「ひぎゃーーーーっ」


 煌夜に引っ張られた瞬間、 私がいた所を赤い影がマッハで通り過ぎた。

産まれたての子鹿のように私の足がふるふる震える。


 「落ち着け。 あれは直線にしか走れないから避けられる」


 「無理無理。 だって、 早かったよばびゅんって! ばびゅんっていったー!! 」


 「怖いから、 そう感じるだけだ。 ライトニングで少しは痺れてるからな。 通常よりは遅いぞ。 あ、 ましろ後ろに下がれ」


 言われて何とか後ろに下がったら…… 赤い炎球が落ちて足元の草が焼けて消えました。


 「ぎゃーっ」


 誰だよ。 物欲センサー全開で魔物ちゃん出ておいでっとか思ってたのは。 私ですねっ!

バカバカ。 私のバカー!!! こんなのどうしろと?


 「大丈夫だ。 俺がいる」


 煌夜がそう言うと、 空中に無数の氷を出現させる。 短いけれど先が尖って鋭いものだ。

こちらに突進してくるフレイボアにそのまま左手をあげて投げるような仕草をした。

すると、 空中に制止していた氷が鋭い風切り音を響かせてフレイボアへ突き刺さる!

 フレイボアが突進してきた所だったので、 それは、 深く深く突き刺さったようだった。


 『プギィ』


 そう低い悲鳴をあげてフレイボアがよろめく。


 「フレイボアの弱点は水だけどな、 氷もそれなりに効くんだ。 この攻撃なら属性補正が入る」


 「属性補正? 」


 「まぁ、 弱点を突くと攻撃力が上乗せされるって事」


 あぁ、 氷も溶ければ水だから? 火系の魔物らしいフレイボアには氷の攻撃が良く効いたって事か。

ヨロヨロと崩れ落ちそうになる足を踏みしめて、 フレイボアが立ちあがった。 息も絶え絶えなのに、 まだやる気のようだ。 動くたびに傷口から血が吹き出てるのが怖い。


 「こいつ等には逃げるって選択肢はないのか。 経験値稼げるのはありがたいけどな」


 けど、 苦しませるのは好きじゃない。 そう煌夜が呟いた。

フレイボアの真上に大き目の氷柱が現れた。 そのまま下に落ちてフレイボアの身体に刺さる。

今度こそ、 フレイボアは動かなくなった。 ずるりと身体から力が抜けて重たい音と共に大地に倒れ伏す。

私は暫くその場から動けなかった。 腰が抜けなかった自分を褒めてやりたい。 

ごくりと唾を飲み込みその場に立ち尽くす。 だってまた動き出しそうな感じがして怖いんだもの。

 消し炭になった大きな鼠の時とは違い、 フレイボアは形が丸ごと残ってる。 


 『なんなの? どうなったの?? 』


 ひんひんと泣く声が聞こえて我に返った。 私はフレイボアの死体を視界に入れたまま横歩きで木の根元に向かって行く。 へっぴり腰なのは許して貰いたい。 だって本当に怖かったんだよう(泣)


 『……こあいのは嫌なのよ…… 』


 木の根元、 小さなウロの奥に手の平サイズの女の子がいた。

くるっくるな前髪に足元まで波立つ髪は雪のような白。 肌の色はエメラルドグリーン。 

両手を目に当ててボロボロ泣いている。


 「あの…… 大丈夫? 」


 『ぴぁ! 』


 女の子がガバっと顔をあげて後ろに後じさる。

あ、 目の色は黄金きん色でした。 顔は目が大きくてとても可愛い。 うーん、 従姉妹のまぁちゃんの所の子と同じ位? 見た目は三歳児ってとこかな。 大きなカボチャパンツ型のワンピースを来ていて、 上の方は白、 スカート部分は黄緑色って感じにグラデーションになってる。

何だろう? この色合わせ何処かで聞いた事が、 いや見た事もあるような? 


 『またなの? 何なの?? 食べられちゃうの!! 』


 もっと奥に逃げられるはずなのに、 その子は何を守るようにしゃがみこんでそこから動こうとしない。

ぷるぷると震えながら泣いている。


 「…… 精霊だな」


 「え? この子が? 」


 煌夜が私の肩からひょいっと顔を出して木のウロを覗き込むと女の子が真っ青になって叫び出した。


 『ぎゃーっまた増えたの! もう終わりなのよ。 とと様。 とと様ぁ! うああん』


 「あぁあ、 落ち着いて。 大丈夫だから、 私達は食べたりしないよ。 さっきの声を聞いて助けに来たの」


 まさかの大号泣。 まぁでも、 魔物に襲われてたら、 静かになって新たな脅威である私達が現われたら怖くもなるかな。 この子からしてみたら、 私も煌夜も大きいし。 

それに良く考えてみたら逆光で私達が何なのかすら分からないと思う。


 「ほらほら、 怖い魔物はこのお兄ちゃんがやっつけてくれたよ。 あなたをいじめたりしないから」


 手を伸ばして潰さないようにそっと撫でてあげる。 その私の言葉にやっと女の子が顔をあげた。


 『ひぃっうっ。 ふっ、 うえっ ぼんどに? 食べないの?? 』


 「うんうん。 本当。 大丈夫だよ。 良く頑張ったねぇ。 いいこいいこ」


 最初は大きな手に吃驚して怯えさせちゃったみたいだけど、 撫でてあげたらちょっとは落ち着いて来たみたい。 涙で顔がぐっちゃぐちゃだけど、 何とか食べたりしないって信じて貰えたようだ。

 

 「後ろに隠してるのが本体だ。 そこじゃ話し辛いだろ。 外に出したらどうだ? 」


 煌夜が嘆息しながらそう言った。 取り敢えず、 女の子が泣きやんだ事にほっとしたみたい。


 「そうなんだ。 ねぇ、 そこだと話し辛いから貴女を私の手に乗せて外に出してもいい? 」


 『…… お姉さん、 助けてくれたの。 いいこいいこしてくれたし、 いいの』


 ちょっと考えてる風だったけど、 意を決したらしく、 後ろに隠してた物からちょっと離れてくれた。そっと手を伸ばして掬いあげる。


 「あれ、 これって…… 」


 光の当たる外に出せば、 見た事があるそのカタチ。


 「あぁ」


 「マナの種だよね? 」


 イーロウの所で食べたマナの実の種よりも一回りは大きいけれど、 私の手の平の上には小さな白い双葉を出した真っ黒で艶々光る柿の種みたいなものがコロンと一つ。 一緒に女の子も私の手の平の上に乗っている。 種が本体と言うだけあって、 この子は種から離れられないようだ。


 『ふふん! そうなの!! 私のとと様はレーヴェで一番古いマナの樹なのよ! 』


 エッヘンと胸をはる姿が可愛い。 とと様の事が大好きなんだね。


 「そんな古いマナの樹の子供がなんでこんな所に居るんだ? 」


 そう煌夜が聞くと、 途端にもじもじする女の子。


 『鳥さんが私を食べたの…… 』


 「あぁ、 鳥のフン…… 」


 煌夜がそう言いかけた時だった。


 『黙れなのー! 』


 涙目で思いっきり叫ぶ女の子。 煌夜ってば、 ハッキリ言っちゃうんだもの…… そこは理解しても黙っててあげないと……。

 

 「コーヤ、 そう言うデリケートな事は言っちゃダメ」


 ちょっと怒って言ってあげれば、 煌夜がまた嘆息して呟いた。


 「…… これも駄目なのか。 分かった。 悪かったよ」


 諦め顔で謝罪すれば、 怒った猫みたいに威嚇してた女の子も落ち着きを取り戻す。


 『分かればいいのよ。 その…… 助けてくれてありがとうなの』


 「そういえば、 親は何してるんだ? お前達マナのトレントは例え遠くで産まれても親樹おやぎの加護を得られるだろ? 同期してれば幻惑の魔法で食べられる危険はなかったはずだ」


 煌夜が言うには精霊の宿るマナの種は栄養価が高いらしく、 魔物に狙われやすいらしい。

本来なら同期した親が力を使い自分の身が守れるようになるまでは守ってくれるのだと言う。 


 『…… とと様と繋がれないのよ。 どうしてなのか分からないの。 繋がろうとすると邪魔されるの。 ここだと、 とと様に何かあったのかそれとも私が変なのか分からないの』


 女の子の大きな目からボタボタと涙が落ちる。 同期出来るのが当然のはずなのに繋がれないというのはとても怖かったんじゃないかと思う。 ましてや、 魔物に襲われて食べられる所だったのだし。


 『とと様と繋がれないから、 私…… どっちにしたって死んじゃうの』


 そんな、 と思わず言葉が出た。

ボタボタと涙をこぼす女の子の顔色は悪い。 

だからそれが冗談でも何でもなく本当なんだって理解できた。


 

マナの樹の精霊さんでした。 

次回は助けた精霊さんのために出来る事は? という回になるかと。

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