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あっぷでーと2。

取り敢えずカタログを使って見ようと思う。

 眠りから意識が浮上する。 起きてみたら目に異和感を感じた。 重くて腫れぼったい。 まるで、 泣いた後みたいな――。

 嫌だなぁ、 夢を見て泣いたんだろうか? 子供じゃあるまいし…… 

寝ぼけながらそんな事を考えていたら私は自分の腕の中に煌夜を見つけた。 どうやら、 寝ながら抱きしめちゃってたらしい。

 起きる前にそっと、 手を外す。 緊張の一瞬だ。 

ここで起きられたら、 確実にお説教コースだもの。 慎重に、 慎重に……


 「よっと…… 」


 そっと腕をどかす事ができた。 どうやら無事起こさずに済んだらしい。 ほっと息を吐く。 

そして私は寝転がったまま昨日の事を思い出した――


 「たっだいまぁ」


元気良く我が家に入ってそう言ってみる。 我が家。 良い響きだよね!


 「…… 」


 「煌夜、 おかえり」


 ぱたぱた羽を動かして入ってきた煌夜を両手を広げて歓迎してみた。

呆れ顔の煌夜が私の横をスルーして通り抜けて行く。 冷たいなぁもう。


 「意味が分からん。 一緒に帰ってきてるんだから、 ただいまもお帰りもないだろ」


 「だってさぁ。 ココは私達の家みたいなものでしょ。 帰ってきたらただいまだと思うの」


 スルーされた事へ不満を示しつつ私は煌夜にそう言ってみた。


 「分かった…… それは理解しよう。 じゃあなんで俺にお帰りなんだ? 」


 腰に手を当てた煌夜が私の顔の前まで飛んできてそう聞いて来る。

だってさ、 ただいまだけって寂しい気がしたんだよ。 

 私の両親は共働きで帰りは遅いし年の離れたお兄ちゃんはとっくに就職して家を出てたから、 ただいまって言っても誰も答えてくれなかったんだよね……。 だからなんかそういうやり取りに憧れがある。 


 「んー。 煌夜の方が後から入って来たから、 なんか言いたくなって。 ねぇ、 煌夜。 ただいまは? 」


 「強制なのかよ」


 にひっと笑って煌夜に上目使いでお願いしてみる。 

苦虫潰したような顔をしてはいるけど、 煌夜が何だかんだで私のお願いを聞いてくれるってもう知ってるもんね。

 自分でもちょっとズルイなぁって思うんだけど。 煌夜がしっかりしてるからついつい甘えてしまう。


 「うん。 言って欲しいなぁ」


 「…… ただいま」


 少し照れたようにそっぽを向いていう煌夜は可愛い。 

私は嬉しい気持ちを隠さずに、 煌夜に言葉を伝える。


 「おかえり、 煌夜」


 「くそ。 なんだこのやり取り」


 赤くなった顔を両手で覆う煌夜になんだか私の心がくすぐったいものを感じる。


 「まぁまぁ。 いいじゃん。 その方が家族っぽい? ってかんじ」

 

 私の憧れる家族って物を押しつけた感はあるけれど、 このやり取りに満足して私は照れ笑いを煌夜に向けた。


 「…… まぁいいさ。 それよりましろ、 カタログはいいのか? 」


 煌夜が、 明らかに話を変えようとしてるのは分かったけれど、 カタログへの誘惑には逆らえなかった。 トイレは重要です。

 魔物のいる外でとか怖いし、 て言うか普通に恥ずかしいし、 乙女の沽券にかかわると思う。


 「そうだった。 超重要案件! 見せて見せて」


 私がそう言うと煌夜が空中に両手を伸ばし一言いった。


 「ブック」


 きらん☆ と音がして(本当にこう聞こえた)煙と共に私の両手より大きいモスグリーンの重厚感溢れる本が現れる。 本の表紙には金色の蔦の装飾が描かれており、 そこには見た事のないグネグネした文字で、 カタログって書いてあった。 文字が読めたのは加護のお陰だろう。 


 「おー、 コレがカタログですか。 なんだろねデッカイ洋書の本みたいな」


 空中に浮かぶそれを指でつつきながらそう言って、 私は煌夜を見た。

煌夜は落ち着いた様子で、 本に着いていた付属の羽ペンを取る。 すると、 本がパラパラと開いて目次のページで止まった。


 「わっ凄い。 なんか色々種類があるねぇ。 あれ、 キッチンもあるよ。 ガスコンロに電気コンロ……ガスと電気て! どっから来るの」


 家の中の物、 家具とかに混じって家電製品が目に止まる。 異世界ファンタジーなこの状況に家電って言うのが異和感がハンパない。 


 「さぁな。 それを言ったらココの照明はなんでついてるのかって事も考えなきゃいけなくなるぞ? 」


 「確かに。 コレは考えたらいけないってやつだね」


 「どっちかっていうと考えるだけ無駄ってやつだ。 で、 どれが良いんだ? 」


 冷静な煌夜の言葉に納得する。 もう神様カタログは万能って認識でいいや。 

トイレが色々載ってるページを開いて、 どうしようかなと見て行く。 見本の絵はリアルで雰囲気が掴みやすいものだった。 落ち着いた雰囲気の物や、 金ぴかのもの…… これ絶対落ち着けないよね、 って感じのトイレは除外していく。


 「うーん。 可愛いのがいいかなぁ…… じゃあこれ! 」


 私は好みの物を見つけて思わず指で差した。 

 照明はお星様。 広めの室内に、 壁の下の方と床はレンガ調。 備え付けの木製の棚があって小物が置けそうだ。 壁の多くは漆喰みたいな感じで、 天井は丸い。 その天井には無数の星の絵が描かれている。

 入ってすぐ左側に分厚い木の板の洗面台があった。 その洗面台の壁の左右には嵌めこみ式の木製棚があって、 真ん中には鳥籠みたいな装飾の施された鏡が一枚。 これなら、 室内の装飾とずれる事が無くて異和感が無い気がする。 


 「分かった」


 そういうと煌夜は、 私が示したトイレの絵を羽ペンでつつく。

そうすると立体で映像が浮かび上がった。 『星空のトイレ』 『二千五百ポイント』

右下にそう表示が出る。 煌夜の視線を追って左上を見ると、 現在のポイント『五千ポイント(期間限定初回ポイント三千ポイント:一年間有効)』 と表示されてた。 危なかった…… 期間限定ポイントがなかったら足りなかったようだ。


 「うん大丈夫だな。 じゃあこれで」


 煌夜はそう言うと、 トイレの絵を大きい丸で囲った。 

―― 我が家の玄関ゲートの横に光と共に扉が出現する。


 「おぉーっ」


 私は走り寄ると、 木製に鉄の鋲が打たれた扉を開けてみる。 絵で見たそのままの可愛いトイレが出現していた。 鏡を見ながら、 これならちょっと身だしなみを整えるのにも使えるなぁと安心する。

 そんな感じで、 初カタログ注文は無事に完了しました。


 「カタログって本当便利。 次はポイント溜めてお風呂をゲットだね」


 可愛いお風呂があったんですよ。 猫足ってやつ。 それにするか、 もっと広めでゆったり出来る物にするか思案中。 前者は一万ポイント位で手に入るけど、 後者は五万ポイントだそうな。 広さの差かな。 どちらも洋風で可愛いお風呂です。

 そんな事を思い出していたら煌夜が寝返りをうって、 もぞもぞ動き始めた。 


 「む…… う? 」


 くぁあと欠伸をしながら煌夜が目を覚ます。


 「おはよう、 煌夜」


 「あぁ…… おはよ う? 」


 まだちょっと寝ぼけてるみたい。

くしくしと顔を擦るさまが可愛い。 マジ天使。 癒されながらホワホワ見てたら、 気持ち悪い顔するなだって。 酷いなもう。

 下に降りて、 イーロウさんの所から貰って来てたマナの実で朝ごはん。

もぐもぐ食べてたら、 煌夜が私の左手をじっと見てる。 何かと思って左手を見ると、 契約紋がピコピコしてた。


 「ふぐ。 なんだろこれ? 」


 マナの実を飲みこんで、 しげしげと契約紋を見る。


 「ましろ、 すてーたす画面を出せ」


 そう言われて、 私はステータス画面を表示した。


 『名前 : 神薙 真白

   属性 : 癒 光 地

   体力 : ☆☆

   魔力 : ☆☆☆☆☆

   戦闘力 :☆

   絆 : 駆け出しパートナー

   加護 : 幻の家使用権 自動治癒 成長促進(パートナー含む) 

        言語、 文字自動変換 死亡回避 

        ランダム幸運  魔力回路増設 魔力付与  

        NEW!異常無効(毒、 精神異常) 精神プロテクト 

   称号 : 黒竜の?? 異世界転移者  

        ※黒竜の?? が解放されていないため、 称号による効果を得る事ができません※』


 ほぼ変化の無い中で異常無効の前にNEW!の文字が。 これがピコピコ点滅している。


 「ふん。 どうやら、 忘れずにあっぷでーとしたらしいな」


 「あぁ、 そう言う事。 アップデートしたから点滅して教えてくれたのか」


 『神様よりお詫びのお知らせです―― 『やぁ元気かな? ごめんねぇ、 異常無効ちゃんと直しといたからさ。 許してよ。 お詫びと言ったらなんだけど、 カタログ用のポイント、 二万足すんで。 後で確認してねー』 ―― このメッセージを再生した時点でカタログポイント二万が加算されました』


 機械音声が話はじめた後、 神様の声が再生された。

カタログポイントだって?! あれ、 コレってお風呂いけるんじゃ…… いや、 早まるな。 頑張って溜めて大きなお風呂も夢じゃない。

 大興奮の私に対して、 煌夜は怒ってるみたい。

 

 「それぐらいで許せるわけねーだろが」


 「え? そうなの?? 私はオッケーだよ! だってお風呂への道が開かれたもの」


 「そうか。 良かったなましろ。 ケド、 お前のその気持ちと俺の気持ちはまた別って事だ」


 こうして無事だったんだから別にいいと思うんだけど。 煌夜に迷惑と心配をかけたんだろうって自覚はあるから、 それ以上何も言わないでおく。 煌夜は神様が嫌いなんだし、 私に神様の肩を持つような事を言われるのは嫌だと思って。


 「よし、 ましろ。 加護も直った事だし、 食事が終わったらレベル上げいくぞ」


 軽く頭を振って、 気持ちを入れ替えるようにして煌夜が言った。


 「私はもうご飯いいよ。 いつでも行ける」


 魔物は怖いけど、 今の私にはお風呂という目標がある! 行く気まんまんで立ち上がって、 煌夜と一緒に外に向かった――


 相変わらずの森の中、 魔物を探してウロウロ。 朝から出たのにもうお昼になりそう。

なのに今日はまったく魔物の気配がない。 私が折角やる気を出しているのに何と言う事だろう。

これはあれか? ソシャゲのガチャとかで『レア来い』 と念じると物欲センサーに反応して逆に当たらないというヤツと一緒だろうか……。 宝くじも物欲センサー全開で買った時より、 意識してなくて買った方が当たると言う……。 無心にならないと駄目ですか、 神様。 

 

 「うーん、 探すと中々遭遇しないねぇ。 無心になってお風呂から思考をはがさないと駄目かな」


 「そうだな。 ココの森も広いし…… そんな事もあるさ。 てか何故そこで風呂が出てくる」


 「うーん。 物欲センサーが全開だと魔物が寄って来ないと思って」


 「なんじゃそら」


 そう言うジンクスみたいなのがあるんだよ、 煌夜クン。 ちなみに今の私は物欲の権化だ。


 『やめてなのーーーーーーっ』


 「ん? 」


 唐突に可愛らしい女の子の声がした。 ―― まっさかぁ。 ないない。 

こんな森の中でそんな事はあるはずが無いよね。 そう思って歩き出そうとした時だった。


 『誰か助けてなのーーーーーーー!! 』


 間違いなく聞こえた。 完全に女の子の助けを求める声だ。


 「あれ? 気の所為じゃない?? 」


 「そうだな」


 思わず、 そんな言葉が出た。 煌夜も耳を澄まして大きく頷く。

うん? 助けを求めてるんなら、 こんな所で悠長にしてる場合じゃないんじゃないかい??

 

『なのーーーーっ!』 といきなり脳裏に降ってきたので急きょ登場。

本当はもっと後の予定な上に、 『なの』 口調ではなかったハズなのに。 何故か幼女に。

次回、 声だけでなく本体が登場します。

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