イーロウさんの異世界講義
やっと世界の形が定まってきました。
マナの実最高に美味しかったです。 齧った感じは堅めのモモ。 甘さもモモに近いけど、 味と酸味は林檎に近い。 果汁が溢れて飢えた身体の隅々に沁み渡りました。
あの後、 生理現象に関するマナーの概念について徹底的に講義しました。 男性特有なんだか種族特有なんだか分からないけど、 お腹が鳴るたびに煌夜に大きな声で指摘されるのは嫌だもの。
煌夜はそう言う意味で理不尽って言ったんじゃとかなんとか言い訳してたけど。
『まさかこの年で女の子に怒られるとは思わなかったよ』
「……… 済まないイーロウ」
疲れた様子で二人が話す。
『構わないさ、 妻が亡くなってから、 誰かと関わるのを辞めてたんだ。 刺激的な体験だったよ』
「そうか」
おーいそこ、 聞こえてるぞ? まぁ、 ちょっとテンションあがり過ぎて怒り過ぎた気もするから見逃してあげるけど。
あらためてこの場所を観察してみる。 私の後ろには多くの実を生らせたマナの樹。 私だけじゃとても腕を回せない位に幹は太い。 幹の色は言ったよね? 葉っぱの色は何と白でした。
その横には一抱えはありそうなセレナイトっていう石に似た物がポツンと置かれていた。 その周りだけに色とりどりの花が咲いててとても綺麗だ。 他は短めの雑草が空に向かって元気にピンピン生えている。
なんだか、 誰かのお墓みたい?
そこから歩いて泉を覗きこめば、 滾々と地下から水が湧き出していのが見えた。 深さは私の腰のあたりまでだろうか。 泉の底では細かく白い砂がキラキラと太陽を反射している。 水草がゆらゆらと揺れていて、 小さな黄色い花の間を小魚達が元気に泳いでいた。
『当面の、 問題はナギの加護かな……… この森、 精神系スキル持ちが以外と居るんだよね。 僕が二人を乗せて飛べればいいんだけど、 ごめんね、 妻以外乗せたくないんだ』
とても、 申し訳そうな顔をしてイーロウが言う。 奥さんって、 小柄な竜だったのかな?
「……… それについては問題ない。 夢にあのバカが出て来た。『近日中に、 あっぷでーと』 だそうだ」
私の夢には神様は出て来なかったけど、 煌夜の所には言伝があったらしい。 その言葉に私自身ホッとした。 私は覚えてないけど、 煌夜があんなに取り乱す状態だったんだもの――― 何やらかしたのか怖くて聞けてないけど―――、 早々に解決するならそれに越した事ないもんね。
『コーヤは神様が嫌いなんだね』
「お前は違うのか? 」
『うん。 神様とは千年以上の付き合いだし。 昔はもっと良い子だったよ』
「……… 信じられん。 俺にとってアイツは最悪なやつだ」
イーロウさんの神様 = 良い子発言にも驚いたけど……… 竜って長生きなんだね……… 千年以上って。
煌夜、 やっぱり神様が嫌いだったか……… 最悪ってまで言うなんて何があったのかな?
『まぁ、 しょうがないよ。 それに僕も神様の肩を持ちたい訳じゃないしね』
「今の神様の肩は持てないって事ですか? 」
『今のやり方にはひと言……… 物申したい事はあるってことかな。 でも、 神様は僕の所には来てくれないから言えないんだよねぇ』
苦笑しながら、 イーロウさんは溜息を吐いた。 まぁ、 連絡手段が無ければ、 物申しようもないものね。
『さて、 落ち着いた所でちょっとこの世界の話しをしようか? 』
「この、 世界ですか? 」
『君等、 別世界の人でしょう? 僕等もそうだったんだ……… 僕と亡くなった妻、 レーン』
その言葉に、 私は驚いた。 確かに、 そこであの部屋の事を思い出す。 幼いコ達が沢山いた神様の部屋。 イーロウさんもそこに居たのかな? でも、 奥さんは? まぁ、 たまたま私が人間なだけで、召喚されたイーロウさんの奥さんは竜だったのかな。
『最初はどうしたらいいか分からなかったよ。 確かに加護はあったけど、 右も左も分からなくてね。 レーンはココみたいな自然いっぱいの所で育ってなかったから、 多分もっと大変だったと思う』
「イーロウさんは奥さんのレーンさんと一緒にこの世界にきたんですね」
『――― そうだよ。 昔は神様はマメでね。 良く様子を見に来てくれたものだ。 困った事はないかとか、 早くこの世界に慣れるようにってさ』
「おい、 その神は俺の知ってる神とは別人じゃないのか? 」
煌夜が不信感を隠さずに聞く。
『そう思うのも無理はないと思うけど……… 同一人物だよ。 彼自身、 まだ産まれてそんなに時間が経ってないって言ってたかな。 だから、 上手く星が育てられないって良く泣いてた』
確かにそんな神様は想像できない。
私の中の神様は、 世間話と同じテンションで、 世界消えちゃったぁ(てへぺろ) と言える人物だ。
イーロウの言う神様だったら、 消えちゃった世界を前に大泣きしてる事だろう。
「……… 」
だから煌夜の渋面も理解できた。
「なんでそんな純粋なコがあんな風になっちゃったんですかね? 」
『まぁ、 そこは色々あったからとしか言えないかな? あぁ、 ごめんね。 この世界の話をするって言ったのに、 話が横にそれちゃった。 この世界の説明が先だよね! 』
そう言ってイーロウさんは、 木の枝を拾って地面に絵を書き始めた。
『この世界にある大きな大陸は五つ。 そのうちの一つがここ大地の民が多く住むレーヴェ……… 森が多く、 穏やかな気質の者が住む。 次に火の民が多く住む火山と砂漠の大陸ジェガン……… 戦闘的な気質の者が多い。 後は風の民が多く住む渓谷の大陸ウィンロウ……… 自由に重きを置く者が多い。 そして水の民が多く住む移動大陸メイア……… コレは特殊な大陸でね、 万年生きる亀の甲羅が大陸なんだよ……… 義理がたい気質の者が多いな』
そう言いきった後、 イーロウさんはそっと囁くように言葉を続けた。
『最後に、 幽霊大陸レイス……… 光と闇の民が住んでいたけれど戦争でどちらも滅んだって言うか……。 今は誰も住んでいない。 それに大陸自体見えたり見えなかったりの状態だ。 だから、今はどうなっているのかまったく分からない』
「じゃあ、 光の民と闇の民は滅んじゃったの? 」
『いや、数は少ないけれど生き残りはいるよ。 ただ、 故郷を持たない――― 何処の民にも帰順する事のない、 まつろわぬ民という認識だね。 ちなみに光と闇の民は同席させない方が良い。 故郷を失ってなお、 いや失ったからこそ彼等の仲は最悪だ。 闇の民は犯罪者……… 呪術士や暗殺者の類が多い。 対して光の民は癒し手という巫女や神官の類が多いな』
あー。 それは見事に正反対だね。 そりゃ、 同席させれば喧嘩になりそうだ。
『火の民に会ったなら、 喧嘩を売るのはやめておけ……… 喧嘩になりそうになったら酒と食事を奢るのがいい。 風の民に会ったなら、 自由を尊重する事だ……… 例えば自分の意見を押しつけないようにする事だね。 水の民に会ったなら、 不義理はせず……… 嘘を吐くな。 光の民に会ったなら、 軽んじる事はやめなさい……… 彼等はとても誇り高い。 闇の民に会ったなら、 できれば逃げる事を勧めるね……… でも、 関わってしまったのなら、 蔑むのはいけないよ……… 彼等はそういった感情に敏感だ。 そして森の民だけど、 彼等は基本的には温厚だからよっぽどの事がなかったら大丈夫』
メモ帳がないので、 頭の中で繰り返し復唱する。 これ、 覚えられるかな。
『森から外に出て街に行けたら、 冒険者として登録する事を勧めるよ。 登録が出来れば、 身分証になるからね。 それがあれば自由にどの大陸でも行き来が出来るようになるから、 君達が住みやすい場所を探すのには便利だろう。 ちなみに、 異世界からの来訪者と言うのは、 一応全大陸共通で保護する事になってるよ。 冒険者登録をする時には異世界から来たって言うと目立つから、 外界渡航者ですと言うと良いよ』
「幻の家に住んじゃあ駄目? 」
だって幻の家をちゃんと住めるようにしたら良いと思うんだ。 ベットとか可愛いし。 家具入れて、 お風呂とかトイレ的な物を整えたら私むしろあそこに住みたい!
『もし、 どうしても幻の家に住んでどこかに定住したいなら、 ダミーの家を作ったほうが良い。 保護の規約はあるけど、 僕達みたいなのって色々加護とか持ってるせいで悪い人に狙われたりするから、 異世界人である事は大っぴらにしない方が良いんだ。 村の住人になったのに、 村に家がなかったら変でしょ? だから、 ダミーの家を買ってそこに住んでるように見せる。 そのダミーの家の中でマナの樹を育ててれば、 自由に行き来できるからね。 そもそも、 幻の家は友達を呼んだりできないよ』
友達程度じゃ入れないし。 そう言われて、 そういえば使用制限みたいなものがあったのを思い出した。 その言葉にフムフムと頷く。
「パートナーじゃなきゃ入れないんですね」
そう言ったら、 煌夜が何とも言えない顔をする。 そんな、 私達二人をイーロウさんが生温かい目で見ている事に気付いた--- パートナー……… でいいんだよね?
『……… うん。 取りあえずその認識でいいよ? ね。 コーヤ』
煌夜を憐れむような声でイーロウさんが言った。
実は思いつきで書き始めたこのお話。 この後の流れの候補は色々あったのですが、 やっと私の中でも世界が形を取りました。 加護のアップデートが終了したら、 またレベル上げさせたいです。
廃棄世界に祝福を。 も更新しました。 こちらも宜しくお願いします。




