プロローグ
荒んだ風景の中を、一行は歩いていた。その数は十といくつかといったところか。
粗末な身なりながらもしっかりとした足取りで、やや荒れた様子の街道から遠ざかりゆく。
「今日はなかなかの収穫だったな、アニキ!」
「ああ、当分は食うのに困らなさそうだ。武器も新調できるしな。」
「やっぱり王都行きの奴らはモノが違うぜ・・・」
「その分護衛が付くがな。今回はうまく奇襲が成功してよかったぜ。」
各々に満足げな笑い声をあげながら、意気揚々と拠点へと歩を進めていた。
「ん・・・?誰だァあいつ。」
一行の一人がそう言って見やった先には人影がひとつ。フードを深くかぶって顔は見えないが背丈は男の並程度。その体つきはやや華奢にも見える。
「おい、てめェそこで何してやがる。」
そう言って一行の一人が手をかけようとした刹那。
「ぅぐッ!?」
その者は瞬間身をかがめ男の腹に一撃。一行が怯む間もなく倒した数は三。慌てて身構えた男たちを更に三蹴り倒す。
「ン何しやがるてめェ!!」
ようやく武器を構えて対峙するも、フードの者に慌てた様子はない。
数瞬の後、切り込んだ男の剣を躱して拳、さらに蹴り飛ばした反動で次の男へ接敵する。闇雲に切りかかる男たちを鮮やかに沈めること十二、三。
と、突然薙いだ風が彼の者の動きを止めた。
「おめェ・・・『盗賊狩り』だな?」
問いには応じない。問うた一角体格の良い男は槍を構えて威圧感を放つ。
「なるほど・・・こりゃぁ妙な噂にも納得の強さだ。」
微かに笑みを浮かべ独り言ちる。
「だが・・・俺の槍はそこらの兵よりも数段強いぞ。」
風をも穿つ鋭槍はさしもの彼もしのぐので手一杯のようだった。
槍と素手ではリーチが違う。彼に劣らぬ速さをもつ槍手の懐に潜り込むのは至難の業だった。
やがて一撃が首元を掠め、その拍子に彼の被っていたフードが落ちる。
「あ?お前・・・その眼は・・・・・ッ!」
言いかけた男に対し、飛来した一矢。男は咄嗟に反応して弾くが、彼はその一瞬の隙を見逃さなかった。
「ッ!!!」
懐に潜り込んだ彼の拳を辛うじて槍の柄で防ぐも、吹き飛んだ男を追う蹴りがその槍を弾き飛ばした。
稲妻のごとき早業に圧倒されながら、しかしすぐに体勢を立て直して対峙した男と彼の緊迫した空気に、凛とした声が通る。
「兄様、そこまでです。」
直後、男は崩れ落ちた。その陰から現れたのは彼と同じようなフードを被った者。
「王都の兵がこっちに来てる。すぐに撤収しましょ。」
「・・・あいよ。」
盗賊団の荷と共に、二人はその場を消えたのだった。