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-玲-  作者: 山城ノ守
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第九話 尼子勝久

「ほぅ、見えてきた、あれが東福寺か」


 随分と大きな寺だな。この前は宝蔵院での試合に気を取られて景色を楽しむ余裕もなかったからな。改めて見るとやはり都の寺社は規模が違う。こればかりは、さすがに故郷では見られないからな。眼福だ。


「へぃ、お客さん。この辺に居て東福寺を知らないと笑われますぜ。しかしお客さん、この前の宝蔵院と違って、あの寺で道場破りの真似事は出来ませんよ?」


「船頭は黙ってこいでいればいい。これでも私は武士だ。口答えはしないほうが身のためだ」


「へぇへい。わかりましたよ~」


「……こいつ」


 全く、この船頭、何度か使ってやれば調子に乗りおって。女子の剣士だから、どうせお遊び程度だろうと内心で馬鹿にしているのだろう。こいつが刀を持っていたら、斬りかかって喉元に刀を突きつけ、嚇かしてくれるというのに。


 まぁいい。船着場に付けばこちらのものだ。さっさと銭を払っておさらばだ。そして東福寺の門を叩いて……ん? 武家の一団か?


「ん? 船頭、あの二十人ほどの一団はなんだろうか?」


「あぁ~、口を真一文字に結んではー、お武家さまにゃ上がらぬ頭が悲しくて~」


「そんな即席のつまらない歌はどうでもいい! 問われたらさっさと答えろ!」


「そんなぁ、御無体なー」


 コイツ、なめ腐りおってからに!


「ふざけてないで、早く!」


「えぇ……あぁ、ありゃ尼子家のお殿様ですなぁ。元々東福寺の御坊さんで、真面目な良い人ですよ。私もあったことがあるんですがねぇ、なんとまぁ武家出身とは思えない、柔和なお人です」


「そうか、あれが……。まてよ、僧だとなると、何故殿と呼ばれている」


「そりゃぁ、尼子様のお家が滅亡して、悪臣たちが私利私欲にかられてお人よしなあの人をお殿様にたてて戦おうとしているんでしょうよ。酷い話だ。戦と無縁で、きっと時がたてばおえらいお坊さんになれるだろうに」


「山中殿は悪臣ではない! 阿呆が!」


 まるで、山中殿が無理強いして戦の旗頭にしているようではないか。まさか、そんなことはありえまい。それに、少なくともあの方に私欲などあろうものか。あればさっさと毛利なりに鞍替えしているはずだろう。


「えぇ~……なんなんですか……あぁ、ほら。付きましたよ。そんなに気になるなら、さっさと行ってお声掛けしてくればいいじゃないですか」


「言われずとも!」


「……金払いのいいお客さんではあるんだけどなぁ……」


◆◆◆


 さて、勇み足で飛び出てきたは良いものの、面識もない人間が飛び出たところで不審者扱いは必然だろう。つい道角に張り付いて隠れてしまった。ところで、山中殿の姿が見当たらないが、別件で行列にはいないのだろうか。もう少し様子を見るか? いや、しかしここでこっそり見ていてもそれこそ刺客か何かと間違われるだけだ。


 はてさて、どうしたものか……。


 痛っ!


「あ、お姉さん、ごめんなさい!」


「あ、いや、良い」


 子供?


「すみません。うちの子は前をちゃんと見ない子で……こら! 源太! お姉さんにしっかり謝りなさい!」


「ぇー今謝ったよ。それより早く帰ろうよ~」


「全く、あんたは。弟のことも考えなさい」


 母子か。多少礼がなっていないが、無邪気なものだ。仕方があるまい。ここ最近は、試合だなんだと少々殺伐としていたかもしれないな。


 ……ん? そっちは!


「これ、小僧! 殿の御前で礼を逸して横切るだけならず、泥を撥ねさせて御裾を汚されるとは何事か!」


 不味い、行列に無礼を働いたとなるとただでは済まなそうだ。助けに入るか? しかし、ここで問題を起こしたくはないし、今助けに入っても私一人ではどうしようもない。っく、どうすべきか……。


「す、すみません! うちの子達が! どんなお叱りも私が受けますので、どうかこの子達だけは!」


 ちぃ! かくなる上は、刀だけ叩き落として逃げる!


「戯け! 問答無用ぞ!」

「待ってくれ!」


 なんだ、何が起こった?


「……殿」


 ……なんだ? え、殿? あの随分と幼い男が、か?


「すまぬ、元通。この母子を許してやってはくれまいか」


「殿の仰せとあらば致し方がありませんが……勝久様は女子供を斬るにも躊躇する頼りないお方であると風聞が立てば、事を起こした時に靡く者も靡かなくなるとも限りませぬぞ」


 殿、間違いない。となると、あの男が尼子家の当主か。若いな……我が主よりは辛うじて年上だろうか? 旗頭とするには少々頼りなさそうだが……。


「そのことはよくわかっておる。いや、武士として長年生きたお主等には解ってないと思われるのもやむを得ないことだ。しかし、仮にも私とて僧として一度は出家した身だ。叶う事なら無用な殺生は避け、最低限の犠牲で事を成したいのだ」


「……殿の恩情に感謝するのだな。さっさと消えてしまえ!」


「は、はい! 失礼いたしました!」


 とりあえず、親子は助かったか。よかった。


「すまないな元通。それと、ありがとう」


「そ、そのように礼を言われる事ではございませぬ。さ、足を止めて申し訳ござりませぬ。はやく寺へ戻りましょう」


 これで一安心……ではなく、目の前のこの集団にいったいどのようにして声を掛けようか。


 ……ん? 目の前?




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